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■2009/07/14 (Tue)
全巻までのあらすじ(第3集より)
c78e0c15.jpg「犯人はこの中にいます」
蟷螂夫人のその声に目を覚ますと望は古い洋館のロビーにいた。右手には血の付いたペーパーナイフ、左手には中高年フリーターナイトを書かれたチケットを握りしめて。証拠過多。このままでは自分が犯人。犯人確実につき真犯人の手掛かりを求めチケットに書かれた会場に行くも、そこは新宿ロストプラスワン。有無を言わさず舞台に上げられ、メトロセクシャル論についてインタビュー形式で答えを求められるも、耳の肥えた玄人筋の客たちから帰れ帰れの大合唱。

持つ女
原作154話 昭和83年9月24日掲載
c3d32167.jpg望は街頭テレビの野球中継を見ながら、ぼんやりと呟いた。
「別の人生もあったと思うんですよ」
「ああ、凄いですよね。超一流投手で、ルックスはモデル級」
一緒に下校していた木津千里が答える。
3de3ca49.jpg「だから思うんです。もしかしたら、野球の才能があったが故に、モデルとしての輝かしい人生を棒に振ってしまったのではないかと。モデルではもっと輝いていたかもしれないじゃないですか。野球さえやっていなければ、我々はもっと輝いたダルビッシュを見ることができたかもしれない!」
天は二物を与えず。しかし、実際には二物も三物も与えている。世の中には、ひとつではない多くの才能を持つ者がいる。
ところが、日本は二つ目の才能を決して許さない。日本人はその道一筋を好む。だからどんなに突出していても、もう一つの才能は認められないのだ。
7f989083.jpgそんなもう一つの才能をみる機会がやってくるかもしれない。糸色望達の前に、謎のツインタワーが現れる。そこは、埋もれていた才能が自由に発現される場所。
150キロ相当のピッチャーをやるイチロー。
プロゲーマーとして子供たちに大人気の鈴木アナウンサー。
漫画家としてヒットを飛ばす某声優(原作にはありません)。
本当に才能を持っていても、世間は決して認めない二つ目の才能を持つ人々。
その塔の最上階には、意外な人物が待ち構えていた。

絵コンテ・演出:飯村正之 作画監督:田中穣 色指定:渡辺康子
ba52436b.jpgb6f43148.jpg3901d421.jpg





おそろしや国タイム譚
原作79話(原作では129話) 昭和83年3月5日掲載
eacf8cd3.jpg宿直室で、糸色交がうろうろとしていた。その顔に、不安と困惑が同時に浮かび上っている。側で小森霧が倒れてしまっていた。いつも白い顔を赤くして、ぜいぜいと喘ぐように息をしている。
何の病気だろう。交はどうしていいかわからず、うろうろとするばかりだった。
3d2e33f5.jpg障子が開いて、糸色望が入ってきた。交はその姿を見ると、わあと飛びついてしまった。不安から解放されて、その頬に涙が落ちる。
「風邪ですか。お薬飲んだほうがいいですよ」
望は霧の様子を見て状況を察し、落ち着いて声をかけた。
棚から薬を引っ張り出し、グラスに水を入れて霧に差し出す。霧は、薬を口に含んで、水をこくりと飲んだ。
そうして、いつものように毛布を羽織って、大人しくうずくまった。
「薬、効かないのか!」
しかし霧の様子は変わらず、交が不安な声をあげた。
「すぐには効きませんよ」
糸色望は落ち着き払って、宿直室でくつろいだ。
それからしばらくたって、霧の腫れ上がったような頬が白い色に戻った。
「薬、効いてみたみたい。少し楽になったよ」
声に憔悴が残っていたけど、いくらか平静を取り戻したみたいだった。
薬に限らず、物事には効果が現れるまでタイムラグがあるもの。
地方で放送されるアニメ。
デジカメの押してからシャッターが降りるまでの時間。
f10d3a62.jpg食べてから満腹感を抱くまでの時間。
そんなフツーのタイムラグもあるが、他にも、
立ち読みした漫画がじわじわ効いてくるまでのタイムラグ。
前の夜にはなんでもなかったのに、翌朝になってから急にムカムカやってくる怒りのタイムラグ。
ef1bacbe.jpg友達の家でエッチな本を読んで、家に帰宅してからやってくるムラムラ・タイムラグ。
あらゆるものにタイムラグが存在する。例えばそう、7年前に某漫画家が放棄したオチが、タイムラグでやってくるかもしれない。

絵コンテ・演出:飯村正之 作画監督:村山洋貴 守岡英行 高野晃久 潮月一也
色指定:渡辺康子
8add25d0.jpgf13ed59f.jpg7a8164f3.jpg





晒しが丘 パート2
原作103話 昭和82年7月25日掲載
a294fffe.jpgバスが開き、誰かが乗車するようだ。乗車したのは木村カエレだった。露出度の高いタンクトップに、カウボーイハットを被っていた。
「木村さんも自分探しの旅ですか?」
「そんな非合理的な旅はしません。私はただのバカンスです」
カエレは望に挨拶をすると、開いている席を探した。
af184ea6.jpg「カエレちゃん助けて! 英語で話しかけられて困っているの」
すると奥の座席で、日塔奈美が悲鳴を上げていた。いかにもな金髪で白人の外国人に話しかけられている様子だった。
「英語もできないの?」
カエレはあきれたように言いつつ、日塔の代わりに外国人の前に3b7c12e6.jpg立った。
カエレは外国人と、ペラペラペーラと対話を交わす。
しかし、
「この人の英語、なに言ってるかわからないよ」
外国人は急に表情を変えて、木村カエレを指さした。
「訴えてやる!」
カエレが逆上した声をあげた。
英会話堪能と思わしき人が海外旅行先でまったく通じず、英語力を晒してしまう。そう、この旅は自分の本性を晒す、恐るべき旅なのだ。
b0b52923.jpg乗車する旅人たちは、次々と自身の本性を晒していく。不穏な影が漂い始めるバスの中だったが、天使のように少女が現れる。風浦可符香だ。
可符香はこう断言する。
「自分を晒すことは、決して悪いことではありません。勇気あるカミングアウトです」
可符香の発言を切っ掛けに、乗客は次々と自身の秘密をカミングアウトする。
229ca8f4.jpgddbd76e2.jpgさらしものは何ですか?
私は自分を棚に上げて他人の欠点ばかり探す、本当に卑しい最低以下の屑人間でした!
さらしものは何ですか?
ちょっとアニメに出たからと言って、自分が人気者だと思っていた、勘違いキモハゲ・エロエロ男です!
自分をカミングアウトしていく人たちから、可符香は急速な支持を集めていく。危険を感じた糸色望は、バスを脱出。自分晒しに絶望し、ならばこそ決して晒さない立場になろうと決意する。
「でしたら、よい考えがあります」
そこに声を掛ける執事の時田。時田が用意したのは、糸色望の影武者であった。

絵コンテ:龍輪直征 演出:宮本幸裕 作画監督:山村洋貴 色指定:佐藤加奈子
d7bea343.jpg31c344b7.jpgbb89cb2f.jpg





『懺・さよなら絶望先生』第1回の記事へ

『懺・さよなら絶望先生』第3回の記事へ

さよなら絶望先生 シリーズ記事一覧へ

作品データ
監督:新房昭之 原作:久米田康治
副監督:龍輪直征 キャラクターデザイン・総作画監督:守岡英行
シリーズ構成:東富那子 チーフ演出:宮本幸裕 総作画監督:山村洋貴
色彩設計:滝沢いづみ 美術監督:飯島寿治 撮影監督:内村祥平
編集:関一彦 音響監督:亀山俊樹 音楽:長谷川智樹
アニメーション制作:シャフト
出演:神谷浩史 野中藍 井上麻里奈 谷井あすか
   真田アサミ 小林ゆう 沢城みゆき 後藤邑子
   新谷良子 松来未祐 上田耀司 水島大宙
   矢島晶子 杉田智和 後藤沙緒里 寺島拓篤
   斎藤千和 阿澄佳奈 MAEDAXR



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■2009/07/11 (Sat)
第1話 狼とふとした亀裂

6bf02577.jpgそこに文明の気配はなく、森が深い影を落としている。粉のような雪が、ゆるやかな風に流されて踊っていた。
空を覆う雲は、いよいよ散りかけて、月の光を大地に注いでいる。雪が厚く層を作る大地は、月の光を宿して青く浮かび始めていた。
a417278c.jpgそんな雪の上に、獣の耳と尻尾を持った少女が、裸で眠っていた。
少女は近付く何者かの気配に気付いて、顔を上げた。
現れたのは3匹の狼だった。いずれも王と呼ばれる狼たちで、肩の高さだけでも少女より遥かに上だった。
928e0ae2.jpg少女は立ち上がって、狼と向きあった。
ふと狼は、少女の背後に警戒を向けた。少女も気配に気付いて振り返った。
振り向いたそこに、真っ黒な森の影がたたずんでいた。その手前に、陽炎のように男のシルエットが浮かぶのが見えた。
fd77ad9a.jpg少女は胸を躍らせて、雪のうえを走った。
だが近付くと、影は陽炎そのもののように姿を消してしまった。影があったそこには、バラバラになった人の骨だけがあった。

ホロは目を覚ました。目を覚ますと、暖かな陽射しが体にそそぐのを感じた。辺りを赤く色づいた風景が包んでいた。
ようやく馬車の上だとわかった。側で、フランツが手綱を握っている。33484c84.jpgホロはフランツの体に身を預けて、眠っていたのだ。
ホロは体を起こして、周囲の風景に目を向けた。
轍の跡が残る道の横に、幅の広い川が流れている。対岸は紅葉に色づく森になっていた。さらに遠くに目を向けると、雪山のシルエットが淡く霞んで浮かぶのが見えた。
4f4aec84.jpgホロは、ひどく胸が切なくなるのを感じて、雪山を見詰めた。
「うまそうな肉を食べようとしたとろで、目が覚めたのか」
フランツは冗談めかしていたけど、ホロの耳には気を遣う色が感じられた。
「ヨイツの夢じゃ。ふるさとのな」
ホロは冗談で返すつもりはなかった。夢の世界から持ち帰った孤独が、まだ胸に残って消えそうになかった。
しばし無言の間が漂った。馬車がゆったりと揺れて、車輪が土を削る音だけが流れ去っていった。
b6f3b52e.jpgフランツは、ホロの小さな頭に掌を置くと、自分の側に引き寄せた。
ホロはフランツの気遣いに、思わず笑顔をもらした。
「素直な気持ちを言っていいかや」
ホロは、フランツの体のぬくもりに身を預ける。
「……ああ」
e8bde694.jpg9888c09f.jpgフランツの声が、わずかに緊張で上擦った。
「腹が減った」
ホロは悪戯っ子の目で、フランツを見上げた。



ace2c4b9.jpgb8530e84.jpg狼の化身であるホロの設定には、フレイザー著の『金枝篇』が置かれている。難読書だが、読み通すとなかなか面白い本だ。もしファンタジー作家を志願するなら、絶対に目を通すべき本なので、お勧めしたい。
麦束の化身であった神ホロは、故郷のヨイツに向かっていた。
商人であるフランツは、その旅に同行するかりそめの相棒に過ぎない。
ホロとフランツの乗る馬車は、クメルスンと呼ばれる街に向かっていた。
クロアニアの貴族が所有する街で、異教徒が多いために、布教などの宗教的活動が禁止されている。
クメルスンの街では祭が近く、すでに宿も一杯だった。フランツはたまたま出合った商人のアマーティの紹介で、宿のひと部屋を都合してもらう。
ホロとフランツは旅の疲れを癒しつつ、今後の旅程を決める話し合いを始める。だが、フランツのさりげない一言が、二人の絆に小さな亀裂を作ってしまう。
41c08198.jpgc500a9ca.jpg中世世界の日常、暮らし、文化といったところに焦点が与えられた作品だ。設定や考証は緻密に設計され、架空世界だが、それと意識させない現実感ある風景を描き出している。

ファンタジー・アニメに必要なのは、恐ろしい怪物を描き出す描写力でも、複雑奇怪な設定を背景に置いた政治状況を描き出す無駄知性でもない。
はっきりいえば、「学問」こそが必要なのだ。
学問の力を軽視して、独創の力だけでファンタジーを作ろうとしても、決して新鮮味のある作品は生まれない。できあがるのは過去作品のコピーであるか、「ファンタジー的な雰囲気」だけを偽装した胡散臭い駄作だけだ。
『狼と香辛料』がそうしたファンタジー・アニメにおいて際立った個性を放つのは、ファンタジーの過去作品とも「ファンタジー的雰囲気」の作品とも決別しているからだ。
『狼と香辛料』には、いかにもな陰謀にたくらむ悪の大臣もいなければ、世界征服に邁進する魔王もいない。ファンタジーとしての飛躍は、あくまでも狼の化身ホロのみである。
『狼と香辛料』は、正しくファンタジーと呼ぶべき条件を満たす、数少ない作品だ。
25e87112.jpge6a13955.jpgただ描写力の弱い作品である。自然の風景は印象だけで描かれ、空気感が感じられない。背景のパースは厳密にキャラクターと接していない。キャラクターもどこかのっぺりとしていて、アニメの約束事から介抱されないもどかしさが漂う。
『狼と香辛料』の物語には、静かで穏やかな空気が流れていく。ファンタジー・アニメにありがちな闘争や喧騒はどこにもない。『狼と香辛料』はファンタジー・アニメのご都合主義が作り出した奇跡の力が割り引かれている。
だからなのか、物語の中心は人々の静かな暮らしと日常、その生活の背後の運営者となる商人達の活動に焦点が向けられている。そうすることで、中世世界がどのような構造を持っているか、現実的な目線で明らかにしていく。
『狼と香辛料』には、いかにもファンタジーという怪物もいなければ仰々しいアクションはない。
物語の波はあえて浅く抑えられ、人物の対話を中心に、人間の感情の動きを丹念に描いている。ファンタジー・アニメがこれまで見過ごしていた風景の美しさをしっかりとした観察で描き出している。
『狼と香辛料』は独自の個性を獲得した、ファンタジー・アニメの傑作である。

『狼と香辛料Ⅱ』公式ホームページ

作品データ
監督:高橋丈夫 原作:支倉凍砂
キャラクター原案:文倉十 キャラクターデザイン・総作画監督:小林利充
色彩設計:佐野ひとみ 美術監督:小濱俊裕 美術設定:塩澤良憲
撮影監督:館信一郎 音楽:吉野裕司 音響監督:高桑一
アニメーション制作:ブレインズ・ベース
出演:福山潤 小清水亜美 千葉紗子 小山力也
   笹島かほる 石井隆夫 名村幸太郎



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■2009/07/11 (Sat)
第1話 男子がすなるという、あれ

これは大正14年(1925)、東京市麻布区に住む少女達の物語だ。

efe75c06.jpgその朝、鈴川小梅が学校へ行き、下駄箱を開けると、上履きの上に手紙が一つ置かれていた。手紙には、几帳面な楷書で「小梅さんへ」と書かれている。
はて?
鈴川は首を傾げた。ここは女子高だし、手紙を託されるような殿方に覚えもない。誰だろう、と鈴川は手紙を手に取った。字を見て、やっと小笠原晶子の文字だと気付いた。
aeab7668.jpgこんな回りくどいやり方をして、何の用事だろう。
鈴川は廊下を歩きながら、さっそく封を開けて中の便箋を引っ張り出した。
「お昼休みに、是非相談したいことが有るの
いつもの場所でお待ちしてゐます  晶子」
小笠原らしい、丁寧な文字がきちんと並んでいた。
相談……。なんの相談だろう。

約束どおり、鈴川は昼休みに入ると、小笠原と一緒に中庭の外に出た。
いつもの桜の木の下に腰を下ろす。ちょうど桜は満開を迎えた頃で、花びらがひらひらと風に踊っていた。
ふと、近くをセーラー服の少女たちが駆けていった。鈴川はぼんやりとセーラー服姿ではね踊る少女たちに目を向けた。
「あ~あ、いいな、セーラー服」
鈴川は羨望の目でセーラー服の少女たちを見詰めた。少女たちは、やがて向うの校舎へと駆けて行ってしまった。
49f11486.jpg「不思議なお父さんね。お家はハイカラな洋食屋なのに」
小笠原は鈴川を慰めるように声を掛けた。その小笠原も、セーラー服だった。
「表面は大正でも、中身はまだ明治なのよ。それで、晶子さん。改まって相談って、何なのかしら?」
鈴川は小笠原を振り向いて、話を引き出そうとした。
すると晶子は、真剣な顔で身を乗り出してきた。
ad895e00.jpg「小梅さん」
「あ、はい」
決意に燃える小笠原の目。鈴川は、思わず身を引いてしまった。
「実は、お願いが有るのだけれど、「うん」と言ってくださらないかしら」
「まず、内容を話すものではなくて?」
鈴川は小笠原の勢いに気圧されつつも、返事を保留にした。
「話す前に「うん」と言ってくださらないといけないわ」
小笠原は強引に鈴川から返事を求めた。
鈴川はしばらく小笠原の瞳を見つめた。まるで、思いつめるかのような強い眼差し。
鈴川は、諦めるようにため息をついた。
aa2f3e96.jpg「わかったわ。で、何をすればいいの」
すると小笠原は、ふっと緊張を解いて、微笑を浮かべた。
「一緒に野球をしていただきたいの」
まるで、一緒にお料理でもして欲しい、とでも言うようなそんな気軽な調子だった。
「野球? 男の子がやっている?」
鈴川は聞き違いかと思って、訊ね返した。
「そう。男子がすなる、というあれ」
小笠原は、なんでもない思い付きみたいに、朗らかに微笑んだ。
鈴川は、ぽかんと言葉を失ってしまった。

2176c540.jpg一日の授業が終って、教師が教室を去っていった。教壇の前の席に座っていた宗谷雪が、みんなを振り返った。
「はい、おじゃんです」
教室の生徒たちから拍手が漏れた。
小笠原が宗谷の前に進み出た。
「あの、皆さんにお願いがあるのですが、少々よろしいかしら」
小笠原が宗谷に許可を求めるように話しかけた。9d8d1632.jpg宗谷は教室に残っている少女たちを振り返った。教室中の生徒が、すでに小笠原と宗谷のやり取りを見ていた。
「どうぞ」
宗谷は微笑みと共に、小笠原に許可を与えた。
小笠原は宗谷に軽い感謝を込めて頭を下げると、教室に残る生徒たちを振り返った。
「実は私たち、このほど野球をしようと思っているのですが、どなたか、協力してくださらないかしら」
小笠原は、教室に残っている少女たちを見回しながら声を掛けた。
だが、少女たちはぽかんと小笠原を見詰めるだけだった。だれも、返事を返す者はいなかった。
「あの、私たちって、他にどなたかいらっしゃるの?」
宗谷がみんなを代表するように尋ねた。
「今は、私と鈴川さんの二人だけですわ」
de3880db.jpgと小笠原が鈴川を振り返った。すると、教室中が小笠原を注目する。
「鈴川さん、本当なの?」
「鈴川さんって、野球に詳しいの?」
教室中のみんなが鈴川の前に集って、質問を浴びせかける。鈴川は困惑するように、答えを曖昧にしたり、首を振ったりした。
「それでは、参加希望者の方は、校門の前でお待ちしております」
小笠原が頭を下げて締めくくった。

7d39149c.jpg校門前へ行くと、三人の同級生が待っていた。
「こんなに集っていただいて、嬉しいわ」
まずまずの成果に、小笠原が満足げに頷いた。
「でも野球って、9人必要なのではなくて?」
同級生の一人が尋ねた。
「あら、そうなの?」
小笠原の顔に、はじめて戸惑いが浮かんだ。
「え、ひょっとして、晶子さん、野球のこと知らないの?」
鈴川は驚いて小笠原を振り返った。
「ええ。でも大丈夫よ。これからちゃんと勉強しますわ」
小笠原はごまかすような微笑を浮かべた。
鈴川は、はじめて不安を感じて小笠原の顔を見つめた。
「それでしたら、今日のところは見学、ということでどうかしら。ここの近くですと、慶応ですかしらね」
同級生の一人が提案した。小笠原が同意して頷こうとした。しかしそこに、宗谷がやってきた。
a4bdf994.jpg「あそこは今、遠征中よ」
「あら、宗谷さん。詳しいのね」
宗谷が声を掛けるのに、鈴川達みんなが振り返った。
「今でしたら、早稲田がよろしいかと思いますわ」
宗谷は穏やかに視線を返して、別の提案をした。
「あの、宗谷さんも、ご一緒にいかが?」
小笠原が、不安な顔を浮かべて宗谷を誘った。しかし宗谷は、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「それが、これから用事があって……。ごめんなさい」
と小笠原は少女たちに頭を下げると、校門を出て行った。

仕方なく鈴川と小笠原は、三人の同級生と一緒に早稲田に向かうことにした。学校を後にして、路面電車に乗り込む。
「ねえ、三里くらいあるんじゃない?」
鈴川は不安げに隣に座る小笠原に尋ねた。
すると、小笠原は厳しい顔で鈴川を振り返った。
a1ae4af0.jpg「小梅さん。私たち、野球をするのですから、多少の苦労は覚悟しないといけませんよ。ねえ」
小笠原が同意を求めるように、ベンチの前に立っている同級生たちに声を掛けた。同級生たちが頼もしげに、「ええ、そうよね!」と返事を返した。
鈴川は所在なげに視線を落とした。憂鬱なものがこみ上げてくるのを感じた。
「ねえ、試合はいつ頃なのかしら」
同級生の女の楽しげな顔で小笠原に訊ねる。
「時期は未定ですけど、相手は決まってますわ」
「あら、どちらの女学?」
そこまで訊ねられると、小笠原は気まずそうに目線を落とした。
「その……朝霞中学ですわ」
小笠原の声が不安げに沈んだ。
「朝霞って、男子と?」
同級生たちが驚きに声を合わせた。
小笠原は視線を落としたまま、こくりと頷いた。
鈴川は顔を上げて、小笠原の横顔を見詰めた。暗い表情だったけど、あの時の思いつめたような目をしていた。

8811bc70.jpg30a522c2.jpg早稲田に到着して、野球部のグランドに向かった。野球部のグランドは、高い客席に取り込まれている。中に入る前から、賑やかな練習の音が聞こえてきた。
入っていくと、強烈な歓声がいっぱいにこだました。物凄い速度でボールが掛けていく。金属バットの甲高い音があちこちで0437c172.jpg響いていた。
野手の一人が、ボールを正面から受けて倒れた。だが、誰ひとり介抱しない。倒れた選手の頭の上に、水をぶっ掛けるだけだった。
「野球って、こんなことをしないといけないの?」
鈴川は胸の底から恐怖を感じた。
はっと振り向く。一緒に来ていたはずの三人の同級生がいない。
鈴川は慌てて野球部のグランドを飛び出した。同級生たちが駆けていく後ろ姿が見えた。
「ああ、ちょっと皆!」
鈴川が同級生たちを呼びかけた。
ae6934f2.jpg「男子と野球なんてやったら、殺されてしまいます!」
同級生たちは振り返りもせず、叫びながら去っていった。
鈴川は茫然と取り残されて立ち尽くしてしまった。小笠原がそばにやってくる気配を感じて、振り向いた。
「小梅さん。皆さんの気持ちはわかるわ。私だって、あれを見てしまうと……」
小笠原が声を詰まらせて視線を落とした。瞳に、キラキラと輝くものが現れる。
ec340ca1.jpgaade8877.jpg「晶子さん」
鈴川は心配になって、小笠原の顔を覗き込もうとした。
すると、小笠原が側に擦り寄って、鈴川の肩を引き寄せた。
「残ってくれてありがとう。一緒に頑張りましょうね」
小笠原は涙に擦れかけた声で、鈴川に感謝を告げた。
でも鈴川の顔が引き攣っていた。逃げ遅れたことに、今さら後悔の念を感じていた。

c1d80202.jpg翌朝、鈴川は憂鬱な気持ちで登校した。ぼんやり落ち込んだ気分で、下駄箱へと入っていく。
「ごきげんよう」
すると小笠原が、鈴川の背後に現れて挨拶をした。
「ご、ごきげんよう!」
鈴川は思わず小笠原から飛びのいてしまった。
「どうしたの? 顔色が悪いわよ」
小笠原が心配そうに鈴川の顔を覗き込んできた。鈴川はごまかすように首を振った。
「なんでもない。なんでもないの」
「そう。小梅さん。今日から頑張って仲間を探しましょうね」
「……うん」
a220b72a.jpg小梅は頷き、そのままうつむいてしまった。しかし小笠原には、昨日の不安は綺麗に消えてしまっていた。
それから小笠原は、自分の包みの中から手紙を一つ差し出した。
「これ、恥ずかしいからお家に帰ってから読んでね」
小笠原が、恥ずかしそうに頬を赤くした。鈴川は、どんな表情していいかわからないぼんやりした気持ちのまま、手紙を受け取った。

教室に入ると、急にみんな沈黙して、鈴川と小笠原を注目した。嫌な感じに教室が張り詰めていた。
8d20b113.jpgすぐに、昨日の同級生が鈴川と小笠原の前にやってきた。
「あの、昨日はごめんなさい」
三人の同級生が頭を下げた。でも、小笠原が首を振った。
「あれを見たらびっくりするのは当然よ。いいのよ、気にしなくて」
小笠原が気さくに微笑むと、三人の同級生はホッと安心した表情を浮かべた。
「一緒に野球はできないけど、応援はするわ」
「うん、ありがとう」
と言葉のやり取りがあった後、同級生たちが鈴川を振り返った。
「鈴川さんも、頑張ってね」
鈴川は急に声をかけられたみたいになって、ちょっとびっくりしつつも、周囲の空気に飲まれるように頷いてしまった。

e773c223.jpg学校を終えて帰宅すると、鈴川は自分の部屋に閉じこもった。机に向かって、小笠原から託された手紙を開いた。
「昨日は本当にありがとう。正直、私もやめてしまおうかと思ったくらい。でも、小梅さんが残ってくれたおかげで、くじけずに続けていく勇気がもてたのよ。仲間を集めるのは大変だけど、二人で力を合わせて、頑張りましょうね」
手紙を読み終えて、鈴川は重く重くため息をついた。
7e19abc2.jpg鈴川はすぐに新しい便箋を取り出し、筆を手に取った。
お断りの手紙を書こう。野球なんて、無理だ。
でもそこに、厨房から声がした。
「お嬢さん、お客さんがいらしてますよ」
三郎の声だ。
鈴川は手紙を中断して、部屋を出た。待っていたのは宗谷だった。こんな時間なのにまだセーラー服姿で、包み紙を持っていた。
鈴川は、とりあえず宗谷を自分の部屋まで案内して、ソーダーを差し出した。
「ねえ、お話ってなあに?」
宗谷は、大事な話があるらしく、こんな時間に訊ねてきたらしい。
しかし宗谷は、話の本題に入らず、気になるように扉のほうに目を向けた。
「さっきの殿方は、どなた?」
「三郎さん? 家で働いている料理人よ。まだ修行中だけど、お父さんが言うには、筋が言いみたい」
鈴川は宗谷の問いに簡単に説明した。
「それだけ?」
宗谷は拍子抜けだったらしく、首を傾げた。
「うん」
「そう」
鈴川が頷くと、宗谷はなぜか残念そうにした。
「あの、お話……」
いつまでも話が本題に入らないのに、鈴川は引き戻そうとした。
7ba6e25f.jpg「あら、そうだったわね」
宗谷は持ってきた紙袋から、グローブを引っ張り出した。古びたグローブで濃い茶色をしていた。それを、鈴川に差し出す。
「あ、それ……」
鈴川はグローブを受け取った。宗谷が頷いた。
「そう。野球の道具。きのう、早稲田のグランドで見たわよね。野球をするには、色々道具を買い揃えなければいけないのよ」
44c6e25d.jpg「いくらくらい、かかるものかしら」
鈴川はグローブを膝の上において、不安になって宗谷を上目遣いにした。
「お小遣い程度では、すまないでしょうね」
「ええ!」
さらりと言う宗谷だったが、鈴川は驚きの声を上げてしまった。
「それに、お金の都合がついたとしても、問題があるの。それは男性用の道具で、私たちの手に合うようにはできていないのよ」
宗谷は説明を続けて、グローブを指でさした。
鈴川はグローブを手にはめてみた。ちょっと大きいなんてものではない。明らかに大きすぎだった。それに、グローブは片手で支えるのは重すぎる道具だった。
「野球に慣ていない私たちには、体に合わない道具を使っては、勝負にならないわ。それに、ちゃんと学校やお家の許可もとらないと」
いつも穏やかな宗谷が、はじめて厳しい調子になって話を続けた。
鈴川は、憂鬱に目線を落とした。
頑固者の父を思い浮かべていた。きっと許可なんてくれそうにない。
やっぱり、小笠原には野球するのをお断りしよう、と決心した。

翌日。昼休みに入ると、鈴川は、小笠原をいつもの中庭に呼び出した。
「それで、いったいなんなの? 朝から変よ、小梅さん」
小笠原はいつもの穏やかさで尋ねた。
「えっとね、実は……」
鈴川は言い出しにくそうにしながら、懐にしまいこんだ手紙を引っ張り出そうとした。
しかしそこに、誰かが側にやってきた。鈴川は出しかけた手紙を慌てて引っ込めた。
b3a518ca.jpg「ちょっといいかしら。野球のことで話があるんだけど」
やってきたのは川島だった。度のきつい眼鏡に三つ編み。学校一の秀才と知られる生徒だった。
「あら、どうぞ」
招かれざる人に、小笠原は微笑みながら少し警戒した。
「お仲間は集って?」
川島は遠慮なくズバリと訊ねた。
b4cead40.jpg小笠原は答えようと口を開くが、言葉が見付からないらしく首を振った。
「でしょうね」
川島はため息を吐くように言うと、許可も得ずに小笠原の側に座った。
「いったい、何を仰りたいのですか」
小笠原は少し不機嫌そうに川島を振り返った。
f5f524e9.jpg「思いつきでそういうことをなされても、学業に触るだけで、いいことがあるとは思えないのよ」
川島には躊躇いも遠慮もなく、問題点をずばずばと指摘する。
「思いつきで野球をやろうなんて思っていません。それに私たちが、勉強をおろそかにすると思って?」
小笠原はいつもより厳しい言葉でやり返した。
「では、男子と対決して、惨敗したらどうするおつもりなの。わざわざ恥をかくために、野球をするのは賛成できません」
川島が草の上に手を置いて、小笠原に顔を近づけた。
小笠原が川島から目線から逃れるようにうつむいた。口を開くが、何も答えられないみたいだった。
鈴川は、おろおろと二人のやり取りを見ているだけだった。
川島が、身を引っ込めて、腕組をした。
「それで、勝算はあるのかしら?」
川島が厳しく小笠原に問いかける。
「絶対に勝てないというものではないでしょう」
小笠原にもう勢いはなく、弱々しく言葉を返した。
「確かにその通りね。で、その方法は?」
川島はペースを変えずに追求した。
473fcde2.jpg「それは……。これから、小梅さんと考えますわ。ねえ」
小笠原はしどろもどろに言うと、鈴川を振り返った。鈴川は急に話しに引きこまれて、胸をおさえてのけぞった。頷くのも首を振るのもできなかった。
「そう。まだ決まっていないのね。ところで。なぜ男子と野球しようなんて思いついたのかしら。聞かせて頂戴」
川島は大きく頷きつつ、それでも話のペースを落とそうとはしなかった。
6e6de811.jpg小笠原は川島の尋問を逃れようと鈴川を振り返った。小笠原は困惑で張り詰めて、今にも泣き出しそうな顔をしていた。しかし鈴川は、何もできずただ見詰め返すだけだった。
小笠原はうなだれるように視線を落として、自白するように言葉を綴り始めた。
「実は先日……。お父様主催のパーティーに参加したのです。そこで、ある男性の方に、女性の4e39656f.jpg社会進出について訊ねられたのです。その男性は、「女性は家庭に入るべきです。女性に学歴なんて、関係ない」って仰ったです。それで私、許せなくて……」
小笠原の言葉が途切れて、肩が小さく震えはじめた。
「ひどい! なにその人。……晶子さん」
鈴川は同情の声を上げて、小笠原の顔を覗き込んだ。小笠原の頬に、涙が一筋こぼれるのが見えた。
「でも、なぜ野球なの?」
川島は、それでも自分の調子を変えずに話を進行させた。
「その方は、自分は野球の聖者だと……」
小笠原は涙をぬぐいながら、やっとわずかに顔を上げた。
川島は、また大きく頷いた。
430a4894.jpg「だから野球というわけね。わかりました。その話、乗りましょう。そのかわり、男の子に勝つ方法は考えさせて」
川島は最後まで変わらない調子で、申し出をした。
「ありがとう、川島さん。これであと、6人集めればいいのね」
小笠原は頬を赤くして川島の手を握った。川島は、相変わらずの調子で頷いた。その表情が、なんだかひどく頼もしげだった。
そこに、宗谷がバッグを抱えてやってきた。鈴川達が宗谷を振り返った。
244c8f43.jpg「あら、川島さんも仲間に入ったの? あのね、知り合いからお古をもらってきたの」
宗谷はバッグを鈴川達の前に置くと、蓋を開けた。中には一杯の野球グローブと、ボールが入っていた。
「ちょっと面倒ですけど、手を加えれば、私たちにも使えるようになるわ。これで、あと5人集めれば野球ができるわね」
宗谷は鈴川達を見て微笑みかけた。
「あの、宗谷さんも参加してくれるの?」
鈴川が、唐突な展開についていけずに訊ねた。
9cdf1219.jpg「あら、昨日言わなかったかしら。“私たち”って」
宗谷が鈴川を見詰めて、首を傾げて見せた。
小笠原と川島が、確かめるように鈴川を振り返った。鈴川は二人の目線を受けて、慌てて思い出そうとした。
宗谷が口元を隠して、上品な微笑を浮かべた。
「鈴川さんって、意外と鈍いのね。それでは改めて、私も仲間に入れてくださらない?」
宗谷は言葉を改めためさせて、鈴川達に微笑みかけた。
「もちろん、歓迎しますわ」
小笠原が感激に顔を輝かせて立ち上がった。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
宗谷が深く頭を下げるのに、小笠原も頭を下げた。
de4e55e9.jpgb10604eb.jpgb1e256f7.jpg






スポーツ漫画・アニメが末期状態だ。
野球やサッカーといったメジャースポーツ系は、もはややりつくした感がある。熱血青春もの。考証に基づいたリアリティ有るプロスポーツもの。実録もの。ユニークなキャラクターや超絶的な魔球と打法が対立するアクション性の強いスポーツもの。
f4434f60.jpgそれでも、漫画家や編集者、アニメプロデューサーはスポーツ漫画を描こうと模索する。近年は、オリンピックで一過性的な人気の出たスポーツや、マイノリティスポーツに目を向け、そこに活路を見出そうとする動きはある。だが社会現象を起こし、実際にそのスポーツが流行ったという話はまったく聞かない。
スポーツ漫画・アニメはやりつくした。いつの間にやらスポーツは、漫画やアニメの中心的なテーマではなくなり、スポーツ漫画・アニメというジャンル自体がマイノリティになりつつある。
0e25cb8d.jpgこの時代、セーラー服は運動着扱いだった。このままユニフォームも作らないのだろうか。ところで見ての通り、キャラクターの現代の感性で描かれる。当時のファッションを厳密に再現するのではなく、現代人の洗練された視点、感性が加えられた作品だ。あくまでも、『現代の作品』としてみるべきだ。



そこで『大正野球娘。』だ。『大正野球娘。』はもはや入り込む余地のない、と思われていた野球ものだ。ただしその舞台は大正時代。現代とは明らかに異なる時代を背景としている。しかも、野球に挑戦しようとするのは、美しき乙女たちである。
男尊女卑の気風激しい時代に、少女たちが野球に挑戦する。それだけで、現代を舞台にするとははっきりと違う困難や、それを乗り越えるためのドラマが展開されると想像されるだろう。
なるほど『大正野球娘。』は時代を移すことで、スポーツ漫画・アニメに新しい風を吹き込もうとする作品だ。
e75214ca.jpgただ気になるのは、空間の扱い方だった。クローズアップになるほど、パースをおざなりに扱われ、位置関係がおかしくなる。同じ放送枠の前作が(制作所はまったくの別)空間を丁寧に扱い描く作品だっただけに気になる部分だ。微妙に顔の似たキャラクターは登場するのだが(気のせいだと思おう)。



f5e8d5c6.jpgしかも、いかにも熱血した押し付けがましい汗臭さはない。少女たちは品性あるお嬢様たちである。
作品の色調は温かみのあるパステルカラーに統一され、線の感触も柔らかい。
かつてうんざりするほど作られた男根的な要素は『大正野球娘。』にはない。格調高く、それでいて親しみのあるアイドル性こそが、作品を支える柱となっている。
時代考証はもちろん徹底されている。直線的な古典様式と、当時流行していた曲線の多いアール・デコ様式の装飾が加わる当時の美意識をしっかりと描き出せている。
時代考証がしっかりしているからこそ、少女達の挑戦、困難が生き生きとした力を持ち始める。
現代とまったく違う価値観の上でメジャースポーツを再生させる。これはなかなか注目すべき作品だ。

『大正野球娘。』公式ホームページへ

作品データ
監督・シリーズ構成:池端隆史 原作:神楽坂淳
キャラクター原案:こうたろ キャラクター原案協力:小池定路
キャラクターデザイン:神本兼利 プロップデザイン:辻野芳輝 兵渡勝
色彩設計:店橋真弓 美術監督:小林七郎 撮影監督:福世晋吾
音響監督:本山哲 音楽:服部隆之
アニメーション制作:J.C.STAFF
出演:伊藤かな恵 中原麻衣 植田佳奈 能登麻美子
   甲斐田裕子 喜多村英梨 牧野由依 後藤沙緒里
   新井里美 日野聡 加藤将之 高岡瓶々
   久川綾 吉沢希梨 升望 山川琴美
   高本めぐみ 宮川美保 宮崎寛務



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■2009/07/09 (Thu)
第1話 馬車と姫君

895fe64c.jpg小林哲平の両親は死んだ。
一人取り残され、途方に暮れる哲平の前に、祖父だと名乗る老人が現れる。
経済界屈指のカリスマ、有馬一心である。有馬一心は、哲平に自分の養子になるように勧める。
迷う哲平だったが、両親の死が実は事故ではないと聞かされる。何者かに殺されたというのだ。
小林哲平の母は、有馬一心の娘だった。だから、有馬の死後、その莫大な資産を相続するはずだった。それを快く思わない何者かの手によって、哲平の両親は殺されたのだ。
そこまで知った哲平は、有馬一心の養子となり、事件の真相を解き明かすために社交界入りをする決心をする。
bedc88a7.jpg両親の事故と死は、冒頭数分であっさり片付けられている。物語の中心が、哲平の敵討ちではなく、少女たちとの交流であることがよくわかる。



そんな哲平の前に、美少女たちが次々と現れる。
二頭立て馬車で道路上を疾走し、ならず者を乗せたオープンカーに追われるシャルロット=ヘイゼルリンク。
剣の達人であり、哲平の許婚であるシルヴィア=ファン・ホッセン。
メイドとして哲平に尽くす藤倉優。
社交界を舞台に、恋愛のドラマが始まる。
4baca5eb.jpg0d8e6660.jpg6374dbe6.jpg




『プリンセスラバー』は、社交界を舞台としているが、実地的な取材に基づく作品ではない。
何もかもがイメージで描かれた作品であり、社交界という舞台は、ここではない異界的雰囲気を演出する場所として描かれている。
『プリンセスラバー』で描かれる世界は、非日常的な空気が濃厚に漂っている。主人公哲平は、両親の事故死を切っ掛けに、現実世界から乖離した異界に迷い込んだのだ。
そんな場所に踏み込んでしまっているからこそ、我々は不自然に登場する美少女たちを受け入れられるのだ。
7a812c2a.jpgヒロインであるシャルロット=ヘイゼルリンクと運命的な出会いを果たす哲平。その状況は、不自然の極み。すでにそこは、現実的な日常空間ではない。



日本のアニメーションの特徴の一つに、モラトリアムの回収がある。
b46b39ff.jpgそれはアニメーションの受け手がほとんどが10代という以上に、作り手のほとんどが10代を喪失しているからである。
作家たちは作品の中で、失った10代を願望というオブラートに包んで取り戻そうとする。アニメーションの物語とキャラクターは、常に作り手の強烈なコンプレクスがそこに刻印される場合が多い。
そうして描かれたものを、受け手の欲望の代替行為として、意識が共有される。
いわゆる“ハーレム・アニメ”と呼ばれる形式は、どこに魅力があるのか皆目わからない少年のもとに、およそ不釣合いとしかいえない美少女たちが集まり、少年を得ようと愛を注ぎ、同じく側に寄り集まってくるライバルをけり落とそうとする。
『プリンセスラバー』はそんなアニメーションの典型のスタイルを、なんの躊躇もなく、むしろ力いっぱい描き出した作品だ。
f2c4cb6a.jpg次々に現われる美少女たち。作家の力量は別にして、少女達の造形は記号の集積で構成されている。むしろ、願望(特にアダルトの世界において)を描こうとする作品は、オリジナルなものを提供できない。そもそも、それを目的としない。


『プリンセス・ラバー』で描かれる美少女たちは作家の独創で描かれたものというより、むし6ba95d6d.jpgろアニメーション特有の記号の主席で描かれる。
作画は流麗な線画と、のっぺり塗り分けられた色彩のみだ。そんな平面的に構成された線画に、作家は美意識とフェテッシズムを見出そうとする。
美少女たちはこれでもかと強調的に身体的特性を主張する。大きな瞳や、スタイルのいいバスト。
だがその表情の動きにはエモーショナルはない。自由自在なのは眉毛のみで、あとは目パチと口パクだけである。
なぜならば、彼女は非日常的異空間に静止し続けているからである。少女たちは、今まさに動きだす寸前のまま静止し続けている。
美少女たちは現実世界と違う時間の中を生きる幻想の存在であり、現実的にはいびつに歪んで静止し続ける畸形なのである。
物語舞台がすでに現実から乖離した異界だからこそ、そんな存在が我々の前に現れ、かりそめながら時間の共有が許されるのだ。
38c65b31.jpg7420fcdb.jpgアダルトゲームの分野において、「お嬢様・お姫様」は普遍的地位を持ったジャンルである。とはいえ、どういった需要がそこにあるのかよく知らない。

美少女は、ここではない幻想の世界を永遠に戯れ続けている。
哲平は異世界に踏み込むことで、彼女らと時間を共有し、戯れの瞬間を過ごす。
異性とは、彼岸の彼方の存在である。現実世界に足を置いたままでは、我々はその断片しか知ることはできない。
だから哲平はすべてを知るために、性と死が不条理に交差する異世界へと足を踏み込む。

『プリンセスラバー』公式サイト

作品データ
監督:金沢洪充 原作:Ricotta
シリーズ構成:中村誠 キャラクターデザイン:鈴木真吾
プロップデザイン:菊池幸一 仁保知行 美術監督:佐藤勝
色彩設計田中直人 撮影監督:佐藤陽一郎 音楽:菊池知樹 南良樹
アニメーション制作:GoHands
出演:寺島拓篤 柚木涼香 豊口めぐみ 松岡由貴
   子安武人 若本規夫 秋本洋介 三宅華也
   金光宣明 百々麻子 佐藤広太 古宮吾一



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■2009/07/09 (Thu)
第1話 洪色魔都

851a0877.jpg遥かな空を目指して林立する摩天楼の隙間を、色鮮やかな風船の群がふわりと浮かんでいた。
眼下の下町では、いよいよ始まろうとしている祭に、気分を浮き上がらせているようだった。人の数は増え、日が沈む前から、街は祭の熱気に飲まれつつある。
4a5558ed.jpgカナンはしばし仕事を忘れて、スコープを下町に向けた。
狭い裏通りでは、すでに屋台でひしめいて、早くも賑わいを見せている。活気のいい声が、カナンのいる場所まで聞こえてきた。
カナンは、屋台のひとつを狙い定めた。射的屋の屋台で、売り子の少女が元気に銅鑼を叩いて客引きをやっている。
0284e170.jpg71e2c0dd.jpgカナンはその景品の一つに目をつけた。白くて全体に丸みを持ったぬいぐるみだった。カナンは正確にぬいぐるみを標準に定めて、引き金を引いた。
軽い金属音がして、薬莢が飛び上がっ1053693b.jpgた。
銅鑼を叩いている少女は、カナンの射撃に気付かなかった。だが、景品のぬいぐるみを手にとって、その背中に深くえぐれた穴があるのに不思議そうな顔をしていた。
カナンは仕事をに戻った。スコープを裏町の脇へ移す。そこに、迷路57820d13.jpgのように入り組んだ路地裏があった。
ちょうどよく、標的が現れた。
カナンは標的をスコープに収めて、タイミングを見計らった。標的は右手にハンドガンを持ち、背後を警戒しながら路地裏を疾走していた。その影が、細かく入り組んだ路地裏にちらちらと隠れる。
1e3ba7a3.jpgカナンは標的を逃さないように、慎重にその姿をスコープで追った。
標的が、路地裏の影に飛び込んだ。壁を背に動きを止めて、周囲を見回す。
今だ。カナンは引き金を引いた。
標的が再び走り出そうとした。だが、膝が崩れた。壁に、べったりとf1b38934.jpg残る血の痕が男の背中の形をなぞっていた。男は死の間際に、自分が撃たれたのに気付いて、顔を驚愕に凍りつかせていた。
カナンは、仕事の緊張を解いて、顔を上げた。スナイパーライフルを脇に置く。そうして、さっき自分が撃った射的の屋台に目を向けた。
「後でもらいに行こ」
カナンは感情のない声で呟いた。
f6b26ae7.jpg原案はチュンソフトの『428~封鎖された渋谷で~』。というわけで背景にこれ見よがしに、チュンソフトの『風来のシレン』のキャラクターが登場する。キャラクターのルックスは子供っぽく描かれている。硬すぎず、柔らかすぎずの色彩感覚を保っている。


物語の舞台は、祭を前にした中国。そこに、淡々と暗殺の仕事を遂行する女戦士がいた。
14bc0173.jpg祭の熱狂が街全体を包みこみ、人々に異様な狂騒が宿り始める。現実世界の意識は後退し、祭の虚構が交差し始める。
そんな最中、女戦士は宿命的な再会を果たす。それは戦いの始まり。運命的な決戦が始まろうとしている。
a330937e.jpgだが、現実世界は虚構に飲み込まれようとしている。人々は世界の異変に気付かず、世界が大きく動き始めようとする兆候にすら気付いていない。路地裏で人が倒れ、息絶えようとも、現実の事件を虚構と置き換えて、何一つ気付かず通り過ぎてしまう。
世界の異変に気付くのは、異界に飲み込まれていない外部からの来訪者。洞窟に映ったイデアの影の実体を見ようとする者たちだけである。
4513e7c0.jpg「群集は映画の華」なのだが、アニメで群集を描く方法論はいまだ確立されていない。結局は、丁寧に細かく以外にない。祭の狂騒に、死体に気付かない人々。虚構が現実を越えて覆う我々の社会への皮肉か?もうちょっと気付いても良さそうだが。


『CANNAN』は二人の女戦士の戦いを中心に描く、バイオレンス・アクションである。
作品世界は、二人を包む風景をハイレベルな密度で描き出している。しっかりしたパースティクティブを持ったレイアウト。空気感すら感じさせる濃密な背景美術。それらが奇跡のような高精細なカットを描き出し、見る者を問答無用に作品世界に引きずり込んでいく。
その一方で、キャラクターの線は柔らかく、淡い色彩感覚で描かれる。強烈なバイオレンス・アニメだが、キャラクターにはユーモアがあり、親しみを持って接することができる。
作品の背景に置かれた道徳観念とその矛盾というテーマは、子供にでも理解できる視点で描かれ、鑑賞者を決して突き放そうとはしない。
68a3d70c.jpg派手なバイオレンス作品だが、感性はどことなく子供っぽい。二人の登場シーンにおける男達の反応は、大人としてはやや子供過ぎる。作品全体のトーンも淡く描きすぎで、アクション以外の重い場面を軽くしてしまっているのが欠点だ。


4d99187f.jpg注目はアクション・シークエンスだ。正確なレイアウト上に描かれた動画は、どの瞬間にも一切の妥協はなく、カメラがあらゆる瞬間を逃さず追いかけていく。
激しく動き出すキャラクター。デジタル上に描かれた背景が、自由自在に動き始める。
キャラクターのアクションは、カットやレイアウトに縛279a73cc.jpgられることはなく、職人の手書きであることをふと忘れさせるような強烈な跳躍を繰り返す。キャラクターたちは堅牢なパースティクティブ上に描かれているが、それでも決して地上の重力には捉われず、実写の撮影では絶対不可能なアクションを描き出している。
アクションの重要なキー・アイテムになる銃器などは、非常に細かく設定されている。拳銃のディティール、扱い方、弾着の瞬間にはじける光。どこまでも詳細に描いたディティールが、アクションに重量感を与えている。
9b1be7f4.jpg最も注目のガンアクション。武器の描き方は扱い方は非常に細かい。それでいて、『マトリックス』でもやらないような豪快なアクションを見せる。作り手の尖がった感性が迸る瞬間だ。



第1回放送から『CANAAN』は異様なテンションでアクションが展開する。
思わせぶりな過去を持ったキャラクターたちが、一つの舞台に集まり、物語が始まろうとする予感を描き出している。その戦いがどんな結末を迎えるのか。
期待充分の注目作品だ。

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作品データ
監督:安藤真裕 原作:チュンソフト
原案:奈須きのこ キャラクター原案:武内祟 シリーズ構成:岡田磨里
キャラクターデザイン:関口可奈味 美術監督:脇威志 色彩設計:井上佳津枝
撮影監督:並木智 音響監督:明田川仁 音楽:七瀬光
アニメーション制作:ピーエーワークス
出演:沢城みゆき 坂本真綾 南條愛乃 浜田賢二
   田中理恵 戸松遥 能登麻美子 平田広明
   皆川純子 大川遥 大塚明夫



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