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■2016/08/15 (Mon)
第8章 帰還

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 しばらくすると、写真に満足したのか、コルリがベンチに戻ってきた。ツグミとコルリは会話もせず、風と波の音に耳を澄ませた。
「それにしても、残り2枚の絵は、どこに行ったんやろうな。宮川はフェルメールの『合奏』と、レンブラントの2枚の絵を「予約」してたんやろ。『ガリラヤの海の嵐』と『黒装束の婦人と紳士』の2枚。あれは、どこに消えたんやろ」
 コルリが独り言を呟くみたいに、疑問を投げかけた。
 ツグミはコルリを振り返った。ツグミは自分の小さな声が、風や波に攫われないように、コルリに顔を寄せた。
「フェルメールの『合奏』やけどな。上の絵と下の絵の間に、膠と明礬を混ぜた皮膜が塗られてたんや。この皮膜を塗ってあったら、下の絵を傷つけず、上に絵を描けるんや。それに、この皮膜は50年が過ぎると、自然にひびが入って、上に描かれた絵具ごと剥がれ落ちる仕掛けになってるんや(※)」
「じゃあ、あと30年くらい経つと、どこかの屋敷に飾られた絵が、突然ばりばりっと剥がれて、レンブラントの絵が発見されるってわけ?」
 コルリは感心するような顔をして、話を続けた。
「うん。川村さんは周到な人だから、信頼できる人に絵を預けてるんだと思う。みんな、きっと驚くだろうな。あと30年も経てば、いきなりレンブラントの幻の絵画が、同時に現れるんやで。持ち主はきっとびっくりするやろうな」
 ツグミは自分で仮説を語っていて、面白くなってしまった。川村はとてつもなく大きな仕掛けを施して、姿を消したのだ。
 また少し、沈黙が訪れた。ツグミは川村の話題が出てから、ずっと川村の顔が頭の中をぐるぐると巡るのを感じた。
「……川村さん、どこに行ったんやろうな」
 コルリが、ツグミの気を遣うように話題にした。コルリは、ツグミの考えくらいお見通しだった。
「さあ、どうなったんやろう。どこかで、絵描きをやっているんだと思うけど」
 ツグミは、自分の言葉に現実的なものがないのを感じていた。
 川村は今も行方不明で、警察は失踪者として捜索することにした。しかしあの廃墟を何度調べても、ツグミと宮川と、その一味たちの痕跡しかなく、そこに別の第3者が紛れた証拠は出てこなかった。木野が仕込んだ発信器を精査しても、やはり川村の音声は出てこなかった。
 川村は、どこに行ったかわからなくなってしまった。考えてみれば、どこからやって来たのかも皆目わからない。光太と出会う以前はどこにいて、何をやっていたのか。いや、そもそも何者だったのか。今さら考えても、正解が出るとは思えなかった。
 ツグミは杖に寄りかかって、立ち上がった。ポケットに手を入れて、写真ケースに入れられた、川村の写真を引っ張り出した。
 川村の存在を証明する、唯一の手掛かりだった。ツグミは写真ケースから写真を取り出して、しばらく川村の顔を眺めた。
 不思議な気持ちだった。あれだけ会いたいと焦がれていたのに、今は何も感じなかった。もう過去の人……そういう感じだった。
 コルリもベンチから立ち上がった。コルリは声を掛けず、ツグミの後ろに立った。
 ツグミは川村の写真を、高く掲げた。強い風が吹いた。ツグミは風を感じた瞬間に、写真を手放した。写真は風に攫われるように、高く舞い上がった。
「もう、いいん?」
 コルリは、少しびっくりした感じだった。それでも、ツグミを慰めるような口調だった。
「うん。もうええんや」
 ツグミは風の中でひらひらと踊る写真を眺めた。コルリがツグミの横から、抱きしめるように肩に手を置いた。
 川村の写真は、すぐに空の色に飲み込まれそうになった。ツグミは写真を見失わないように、じっと眺めた。
 何となくその光景が、古い思い出の一場面に見えた。だから、もう手放せると思った。



※ 50年過ぎると皮膜が剥がれ落ちて… この方法は実際に贋作師トム・キーティングが使用した。トム・キーティングは1976年に贋作の仕事が発覚するまでに、25年にわたり様々な贋作を手がけていた。トムの贋作は画商や学芸員らを欺き、現在も真贋不明なまま美術館に飾られているという。ただし、皮膜が剥がれる細工を施しているので、50年後には明らかになると証言している。
トム・キーティング 1917~1984年。


参考文献
バルビゾン派 井出洋一郎
消えた名画を探して 糸井恵
芸術とスキャンダルの間 戦後美術事件史 大島一洋
スキャンダル戦後美術史 大宮知信
迷宮の美術史 名画贋作 岡部昌幸
レンブラント工房 絵画史上を翔けた画家 尾崎彰宏
絵が殺した 黒川博行
蒼煌 黒川博行
文福茶釜 黒川博行
乳房美術館 銀四郎
盗まれたフェルメール 朽木ゆり子
フリードリヒ 崇高のアリア 新保祐司
フェルメールの闇 田中純
贋作工房 夏季真矢
修復家だけが知る名画の真実 吉村絵美留
フェイクビジネス ―贋作者・承認・専門家― ゼップ・シェラー著/関楠生訳

目次

※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

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