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■2013/02/10 (Sun)
82e8c7af.jpeg『じょしらく』の第5巻は通常版と限定版の2種が発売され、限定版はオリジナルアニメーションDVDが付属する。また通常版の表紙絵はいつもの和装姿だが、限定版では同じポーズで水着姿に変えられている。いつもの5人のメンバーで中心に立つのはキグ。ただ一人カメラ目線で、元気にVサインを突き出している。前巻までの表紙絵はキャラクターの顔が小さな窓からちらと見えているだけなのに対して、第5巻の表紙絵は全員の動きが見えるくらい窓が大きいのが特徴である。
この限定版DVDがシリーズアニメ第2期への布石だと思いたい。……何もかも売り上げ次第だが。
前巻の途上で、フキダシ係原作を担当する久米田康治の連載『さよなら絶望先生』が終了した。この連載終了は『じょしらく』の内容にも確実な変化を与えた。それまで避けていたように思われる羅列ネタが加わり、以前から多かった風刺ネタはより痛烈な勢いを持つようになった。『さよなら絶望先生』の終了に合わせて、久米田康治の個性が『じょしらく』へとオーバーラップしてきたといえよう。『絶望先生』を終了させて『じょしらく』を連載の本丸に掲げたようだ。
また第5巻では下ネタも非常に多い。これまでもマリーによる露出、尻見せは多かったが、それよりさらに一歩踏み込んで性的なものを連想させるネタが取りあげられるようになった。これは『絶望先生』以前の久米田康治のスタイルである。しかし可愛らしい少女達が繰り広げる下ネタの連続はそれなりに評判がいいらしく、下ネタが露骨で卑猥で下劣であればあるほどアンケートによる人気が上昇する不思議現象を起こしている。
キャラクターの描き方は映像化を通してより明快になった。顔や表情だけではなく、身体的なプロポーションもキャラクター毎にくっきりとした個性を持って描かれている。
その一方、画にやや消耗が現れてきている。キャラクターは崩れがちだし、反転すると左右のバランスが大きく歪んで見えてしまう画もある。おまけページもイラストや漫画ではなく、テキストだけでごまかされている部分が大きく、長期連載の疲労がやや現れてきたようだ。
そうそう、第5巻は注目の新キャラが登場である。これは本編を見てからのお楽しみ。

三十三日目 キャラつぶし
6cab99ad.jpeg春。それは出会いの季節。出会いの一つ一つは大切にしなければいけない。
「一期一会の心得ですね」
静かな声で答えたのはククルだった。
「いちごいちえって……なんだいそれは?」
頭に疑問符をつけて尋ねるマリー。
どこからか呆れた、という溜め息がこぼれた。
「これっきりの出会いになるかもしれないから、その時々の出会いを大切にしましょうと……。利休が言ったとか言わないとか」
「ふーん」
説明する丸京。しかしマリーは、興味なさそうに聞き流して耳に指を突っ込んでいた。
とそこに、
「失礼します!」
勢いよく襖が開いて、
「おはよーございまぅす~~!」
飛び込んできたのは、イチゴ柄の着物袴姿に、赤く染めた髪には星を一杯に散らした大きなリボンを添えて――何とも言えない痛々しい姿の少女だった。イチゴ柄の少女は片目をぱちっと閉じて、目元でVサインを作る。にぱっと星が楽屋を飛び散った気がした。
「誰?」
キグが茫然と眼を白くさせていた。
「本日師匠に一日入楽を許されました~。センパイ方々! ひとつよろしくお願いします!」
暑苦しい勢いそのままに、イチゴ柄の少女は楽屋の5人それぞれの周囲を素早く回って順番に肩をもんで回る。
896d5268.jpeg勢いに乗れず、マリーたち5人が迷惑そうな顔を浮かべていた。ちなみに「入楽」はこの漫画の造語だ。
「まあお綺麗な!」
イチゴ柄の少女がククルの前で止まった。雑誌をくるっと丸めて、ククルの口の前に突き出し、
「カレシはいるんですくわぁ~?」
不愉快なほど声の線を揺らしてエアインタビューを始めた。
うざい。
誰もが第一印象にそう感じた。

ac7da1da.jpeg三十四日目 音姫かたり
ククルが戻ってくると、にわかに不審そうな顔を浮かべて楽屋全体を見回した。楽屋の一同がなんだろうと視線をククルに返す。
「なんか、楽屋狭くなった?」
ククルが疑問を口にする。
「気のせいだろ?」
マリーがククルをなだめるように、楽天的な声で返した。
ククルは釈然としない顔のまま、一同が囲むちゃぶ台の前までやってきて座る。
「なんか今、どっかから声がしなかった? なんかおばさんのような」
今度はテトラが不審そうな顔を浮かべて回りを見回す。しかし誰も同意せず、不審な気分にのせられるかのように首を振った。
「声と言えば私たちも喋る仕事だし、基本に返って発生練習しましょう! お客様を美声で魅了するんです!」
唐突にキグが提案した。
「声で釣るっての? 深夜アニメじゃあるまいし」
丸京はいまいち気乗りしないようだ。
とはいえ、それなりに美声の持ち主の5人組。よりいい声になるにはどうすればいいのだろう。
そこにマイクが用意される。マイクは外のスピーカーに繋がっている。美声の持ち主がこれで呼びかければ、お客さんがどんどん入ってきてくれるはず……!

三十五日目 担当ほしい
b6bc3cb7.jpegテトラが楽屋に戻ってくると、はっと不審な顔を浮かべて天井を見上げた。
「なんか、天井低くなってない?」
と疑問を漏らし、それから楽屋全体を見て
「なにこの荒廃っぷり!」
驚きの声を上げた。
ボロボロになった壁、床の畳はすっかり古くなっていぐさがめくれかけている。空気が低く淀んでタンブル・ウィード……西部劇によく出てくる転がっていく草が楽屋を横切っていった。
「ヒャーハー!」
「キョキョキョキョ!」
奇声! 振り向くと、着物をボロボロに裂いたマリーとキグが立っていた。マリーの目は正気をなくしたようにかっと見開かれ、目元にどぎつい赤の星マークが描かれている。その手にはバッド。
マリーが叫びながらテトラに飛びかかった。バットを振り回す。が、バットは空を切り、マリーの手から離れて天井に突き刺さった。
「何すんのよ! なんなのこの部屋とキャラの荒廃っぷりは。これじゃ無法地帯じゃないの!」
テトラが顔を真っ青にして慌てふためく。
するとククルがすっと立ち上がり、容赦のない厳しい目をテトラに向けた。
「無法地帯? 無法地帯なんてまだマシ。今この漫画は……無担当連載なの!」
その宣言は、テトラを凍り付かせるのに充分な力を持っていた。

三十六日目 芝居プロ
224212c4.jpeg楽屋に子供用の小さなゴムプールが置かれ、水が張られていた。その水の中に、水着姿のマリーとキグと丸京が、お風呂に浸かっているような心地を浮かべてくつろいでいる。
「待てなかったの。プール開き」
さすがにキグが恥ずかしらしい表情を浮かべて釈明を始める。
「市民プールならもう開いているだろう」
プールに収まっている一人、丸京が淡泊に言った。
「市民プールってチープすぎないかい?」
マリーが低いテンションでやり返す。
「でもお金がないから市民プールくらいしか行けないよ」
意見を重ねていくククル。
「何かこう、1ランク上の市民プールがあるといいんですけど」
キグが子供っぽく口元に指を当てて、首をかしげた。
と聞いてマリーが顎に手を当てて考え込み始める。
「1ランク上の市民プール? 1ランク上の市民ってプロ市民? プロ市民プールっていうことか?」
プロ市民が使用するプール……とりあえず反対しかしないプロ市民が使用するプールっって何だか想像できない。
いやいや、そうじゃなくて――、
「プロ市民が利用するんじゃなくて、プロ市民が監視しているプールなら知ってる」
プロ市民が監視するプールは何やらおっかないようだ。

三十七日目 イ田祭
0a42e857.jpegテレビに映されているのはマリーたち5人組。しかも色付きの動画である。元気に勢いよく、合唱している場面だ。メーキャップのお陰か、いつもより数段艶やかに映っているように見えてしまう。
その映像を、5人が取り囲んでじっと覗き込んでいた。
「わーよかったね!」
映像が終了して、大喜びのキグが一番に声を上げた。
「ん……」
素っ気ないマリー。
「ま、まーまーかな」
丸京は素っ気なさを装っているが、声にかすかな高揚が滲み出ている。
とこの時、一同の頭にあったのは……有名になってしまう!
ついにアニメ化されてしまった『じょしらく』。深夜とはいえ、全国放送。漫画なんかよりよほどお客さんは多い。漫画を買わないお客はいても、テレビを見るお客は一杯いる。
さて、どうしよう?
b13fdf05.jpegキグははっと思いついて、鞄の中からなにやら引っ張り出す。がさごそと変装をして振り返ったその姿は、帽子にサングラスに大きめのマスク。変装していますっていうサインのような格好だった。
「なんのつもり?」
テトラがびっくりして思わず吹き出してしまった。
「変装に決まってるでしょ。街でファンに見つかったら、大変なことになるじゃないですか。普段露出していない漫画家ですら、ビックカメラで気付かれてしまう時代なのよ!」
キグが異様な迫力で言い放った。
「やべえな。滅多なことできないな。電車もおちおち乗れないね」
0ae319b8.jpegマリーが不安そうに汗を浮かべていた。
これからは生活を無理にでも変えなければ行けない。まず移動は全部タクシー。人の目があるから、マクドナルドはビックマック以上は注文禁止。
しかしそれ以上に大切なのは――
「スキャンダルは整理しとくように」
深夜アニメ、エセ美少女アニメとはいえ、視聴者的にはアイドルと等価。もしもどこかにスキャンダルの火種があれば、即廃業。
スター生活が始まってしまう前に、5人立たちはあれこれ話し合いを始める。

三十八日目 夢金メダル
398e83f0.jpegふわぁ……眠い眠い。目蓋を半分落としたキグが楽屋にやってくると、一同は厳しい顔でちゃぶ台の上を睨み付けていた。そこに置かれていたのは――金メダル。
「なぜ楽屋に金メダルが?」
驚いたキグが金メダルの前にすがりつく。
「困った……。政治的な発言ができなくなるじゃないか!」
声を上げたのは丸京だった。
「なんで?」
マリーがきょとんとした声を上げた。
「オリンピック憲章と言ってだな。オリンピック競技において、いかなる政治的なメッセージも発信することも禁じているんだ」
丸京は厳しい調子のまま淡々と説明した。
しかし不思議そうな顔を浮かべたのはテトラだった。
「なんでわざわざ禁止するのかしら。わざわざスポーツで政治的メッセージを発信するなんて、そんな程度の低い国あるわけないじゃない」
テトラはみんなの緊張をほぐすように明るい声を上げた。
みんながわっと笑った。「だよなぁ」「ないない」といった声が上がる。
cef85511.jpeg「それにメダルがあるだけで関係なくないですか。そもそもそんな政治的な話、一度もしたことないです」
と笑うキグ。
「だよね」
テトラが同意して声を上げた。
この漫画は女の子の可愛さをお楽しみ頂くために、差し障りのない会話をお楽しみ頂く漫画です。

三十九日目 高原清水
5d2593d1.jpeg秋。
秋刀魚。
松茸。
芋。
「だから何?」
ククルいつになく暗く影を落とした顔に目を鋭く輝かせて、声は静けさの中に敵意を一杯に込めていた。
「何って、食いもんが何でも美味しい季節じゃないか」
マリーが焼き芋を頬張りながら言った。
「食欲の秋って嘘よ。秋になったからといって、特に食べ物が美味しくなったとは感じられないもの」
ククルの反論。
「重症だぞ。秋に食欲が増えないなんて」
マリーは焼き芋を口に入れる手を止めず、呆れた表情を浮かべた。
「私もみんなと同じように何でも美味しく感じるようになりたい」
「んーじゃあ、あれだ。高原味覚!」
明るい声で提案したのはテトラだった。
高原味覚。
高原だとやたらアイスクリームが美味しかったりする。でもあれは、高原などの酸素の薄いところでは舌の感覚が鈍ってしまうため。つまり、不味いものでもごまかせてしまうのだという。
ということは、楽屋を高原のような環境にすれば、秋の食材が美味しく食べられるかも知れない。ククルはさっそく楽屋の空気の流れを止めて、低酸素状態を作り始める。

四十日目 貧乏仮装
b03b71fc.jpeg11月1日。
ククルが黒のとんがり帽子、同じく黒のマントを羽織って楽屋に現れた。とんがり帽子には顔の形にくりぬいた小さなかぼちゃが2個飾り付けられている。典型的なハロウィンファッションだ。
しかし、
「ハロウィンは終わったぞ」
丸京が不思議そうな顔をして尋ねた。
「知ってる」
ククルは帽子のせいなのかいつもより顔に落とす影を深くして、感情の乗らない冷たい声で返した。
11月1日。ハロウィンは昨日。すでに終わったのだ。
ククルは事情を語り始める……。
ここに来るまでの途中にある繁華街。そこを通り抜けようとすると、いつもは見かけない落とし物が町中のあちこちに。とんがり帽子、マント、ブーツ、パンプキンお化けのかぶり物、スティック……。それを拾い集めて歩いていたら、
「こんな風に」
ククルはやや言葉を高揚させて、マントの端をバッと広げた。
「確かにハロウィン明けとか色々落ちてるけど。一応落とし物だから拾得物横領になるんじゃないか」
丸京が忠告する。
ククルが頷いた。
「うん、だから交番行って落とし物ですって言ったよ。そしたらおまわりさん満面の笑みで……「清掃活動お疲れ様です」……だって」
その台詞の裏に「捨てといて」という心の声が聞こえたように思えた……とククルは語る。
とそこにやってきたキグ。耳には飾り一杯ついた実用的でなさそうなヘッドフォン。肩にはトゲをつけた金属ふうの肩当て。腰には同じく金属質感のスカートを巻いていた。
「どーしてこーゆう格好なのかと言うとですねー。繁華街に」
「もうだいたい聞いた」

特別編 壱 権利衛狸
4311587d.jpeg「単刀直入に言います。アニメが始まるので、これがどーいった漫画なのか初見の方に説明する必要があります」
司会進行を務めるのは珍しくククルだ。
状況はかなり遡るがアニメが始まる直前。週刊少年マガジン出張してこの漫画がどんな趣旨をもっているか、説明しなければならなくなった。
「それ編集の仕事だろ。記事作ったりして」
やる気なさそうなマリーが反論。
「誰かと誰かのせいで、今の時代それをやると、原稿落とした時の穴埋めに思われてしまうんだって」
説明で返すテトラ。確かに特集記事が作られてしまうと、無条件に今週休みか、と思ってしまう。
「てゆーか、みんな説明する気ないでしょ」
ククルが厳しい目で一同を睨み付ける。
「なんで!」
マリーと丸京がハモる。
「こんなに気合い入れてきたのに!」
キグも反論の声を上げた。
しかし――。

a41ad967.jpeg特別編 弐 ヨッシャ怪談
「節電の夏ということで、冷え冷えする怪談の寄席ということで、百物語をすることになりました」
と切り出すテトラは、「怪談」と言いつつ表情は明るい。
すでに楽屋の中は100本の蝋燭に取り囲まれている。広くもない部屋だから、100本も蝋燭を並べると意外と明るい。
しかしマリーたちが直面している問題とは――、
「6ページで百物語かよ!」
というかすでに1ページ消費しているから、あと5ページ。計算すると1ページ20物語。さて、どうやれば100本の話を消費できるのやら……。

作品データ
原作:久米田康治
漫画:ヤス
編集・出版:講談社
連載:別冊少年マガジン(2012年5月号~12月号)
    週刊少年マガジン(2012年第31号、第32号)




 

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■2012/08/28 (Tue)
ed9477ec.jpeg人生には絶望しかなかった。世界には絶望しかなかった。男は、絶望しかない運命に気付いてしまった。
望みも、願いもなかった。男は、絶望から逃れようとした。絶望から遠ざかろうと、あがき、うめき、もがき続けた。しかし絶望は男を掴み、殺し、喰った。
だから男は、世界のすべてを呪った。人生のすべてを呪い、恨み、妬み、世界のすべてを汚し、殺し、喰った。
気付けば、男はどん底にいた。何もかもが真っ暗闇の絶望だった。
そんな時、男は気付いた。自身を捉えていた絶望は、いつの間にか尽きて灰に変わり、空に散っていた。どん底の真っ暗闇に見えたのは――希望だった。

絶望を積み重ねて301回。ついに絶望は終わる。
最終巻の表紙を飾ったのは糸色望。一巡りして第1集のデザインに合わせた格好である。
あれ? 加賀愛はどこへいった??
連載が始まって実に7年。ギャグ漫画としては極めて長期にわたる連載であった。その間に目立った息切れもなく、どのネタもその時々の時代感覚を巧に取り入れ、決してペースを乱すことなく、読者を置き去りすることもなく(いやかなり置き去りにされたか)、作者自身のペースで走りきった感じである。
結論を先に持ってくるが、『さよなら絶望先生』はユニークな作品だった。というのもギャグ漫画の終わりというのはほとんどの場合、時代に追い抜かれて打ち切りだからである。あるいは作品の方向性が突然変わり、最初はギャグ漫画だったけど、後半はバトル漫画だった、というパターンである。
『さよなら絶望先生』は最後までギャグ漫画であった。しかし、無計画に時流を追いかけるわけでもなく、締め切りに追い立てられて見苦しく消化するわけでもなく、一見奔放に見えるギャグの積み重ねは実際には計画的な一貫性を持ち、意識的にコントロールされていたのである。
最後となった30集は、全ての秘密を開示する大きな一篇である。それでいて、これまで通りの1話完結のギャグ漫画の形式だけは決して失っていない。最後になって突然フォーマットが変わるというわけではなく、これまで通りの形式あえて絶対視しながら、それ以上の世界を、クライマックスを描き上げた。
画業20年、ギャグ漫画家20年の重さが、この30集で総決算された。ベテラン作家の旨味を存分に味わいたい1冊である。


第292話 入れ替えばや物語
affc3a37.jpeg「こ、これは……すごいことを知ってしまった」
その紙を手にした日塔奈美は、大儀そうに呟いて、その重大さに耐えきれないといった様子で頭をふらつかせていた。
「どうかされましたか?」
と声を掛けるのは糸色望。
「先生、これは大発見です。見てください!」
日塔奈美はバッと紙を突き出す。その紙には――、
  かとうあい
  あと●かい
「字を入れ替えるとこんなことに!」
奈美は重大そうに声を張り上げた。
が、糸色望は茫然と言葉を探りながら、
「…………。えーっと、国民のだいたい八割が知っているアナグラムですね」
何ともいえない白けた感じが漂っていた。
アナグラム。文字の配列をシャッフルして別の意味にする、言葉遊びのようなもの、である。(推理小説で露骨に発音しづらい変な名前を見かけたら十中八九アナグラムで、その登場人物が事件の最重要人物である)
例えば、
くめたこうじ→うめたじこく
ぬりえがすあなに→あぬすにえなりが
ルイ13世→声優さんいじる
等々。


第293話 ゲンソー先生
f42d5c97.jpeg街に偽札が出回っている。さっそく糸色望は問題の偽札を手に入れ、太陽に透かしてみる。
「これはまた、あからさまな偽札ですね」
透かしがない――という以前に、お札に掘られた人物画が、髪留めをした若い少女である。
こども銀行のお札みたいなもの。問題ないでしょう、と糸色望は判断する。
が、加賀愛は切り出しにくいみたいに目を伏せて続ける。
「問題は、このお札が本当に使えてしまっていることなんです」
「え?」
そう、この髪留めの少女のお札は本当に使える。なぜ?
そもそも1万円札になぜ1万円相当の価値があるのか。それはみんなが1万円の価値があると信じているからである。もちろん、それなりの権威があるからこそ、1万円は1万円であるわけだが、実際には曖昧で危うい共同幻想の積み重ねのうえに辛うじて成立しているだけの話である。
価値があると思っている。それは幻想なのである。
絵画の価値も、
株券も、
宗教も、
宝石の価値も、
美人の概念も、
原発の安全神話も、
AKB48の握手券も、
何もかも幻、みんなで夢を見ているだけなのである。


第294話 卒業と入学のあいだ
7d53d4ca.jpeg昭和86年度卒業式。
ついに卒業式の日がやってきた。みんな格好を整えて、しおらしく卒業式を進行させている。
が、
「皆さん、教室に戻ってください!」
制作スタッフの指示を受けて、糸色望が慌ててみんなに声を掛ける。みんなは不満の声を上げながら、教室へ戻る。
と、
3、1のへ
「えーっと……登校はグローバルな人材を育てるべくむにゃむにゃ……。次年度から9月入学となり、それに伴い6月卒業となりました」
時代の潮流である。慶応も早稲田も9月入学になる。しかし、だからといってずっと3年生というのも変なので、「3、1のへ」に変更となったのである。
「決して来週から始まる新連載が急遽ポシャって、引き延ばしを要求されているわけではありません」
教室の入り口で、必死にカンペ出して指示を出しているスタッフを横目で見ながら、糸色望は言う。
「とにかくここからは、心機一転新たな気持ちで、10週打ち切りの新連載のつもりで頑張りましょう!」
「8週です」
淡々と突っ込むのはあびる。
「8週打ち切りの新連載のつもりで頑張りましょう!」
慌てて糸色望は訂正する。
というわけで、あと8週。その間をいかに埋めるか。クラス一同による議論が始まる。


第295話 イン・ザ・クール
bdb906fc.jpeg4月2日。エイプリル・フールが終わった。
しかし――、
「安心するのはまだ早いです。奴がやってくる! エイプリルフールが去った後に! エイプリル・クールがやってくる!」
エイプリル・クール。直訳すると「4月カッコイイ」。
4月カッコイイは上京したての若者に多い。新しい環境に移行する4月、若者は格好つけたがるのである。
例えば、
「あ、芸能人!」
その声で、皆が振り向き、集まり、携帯のカメラを向ける。
が、その中で無関心に通り過ぎていく若者が一人。
芸能人を「興味ない」とスルーする。クール!
例えば、
電車の中。地下鉄路線図を避けるように目をそらす若者。
地下鉄路線図を絶対に見ない。クール!
他にも、
ティッシュをもらわない、当分スカイツリーには登らない、あえてスクランブル交差点を避けて地下から渡る。
上京して浮かれたい気分を敢えて抑える。浮かれない俺、カッコイイ。それがエイプリルクールである。
しかしそんな彼らに難題が一つ。
「AKB48前田敦子 卒業」


第296話 新・陳・人
7295de07.jpeg4月。それは始まりの季節。なので、
「心機一転。生まれ変わったつもりで頑張るぞ!」
目をキラキラさせて宣言するのは日塔奈美である。
「もう、終わりますけどね」
さらっと返すのは糸色望。
「せっかく決意表明しているのに!」
日塔奈美が不満げにやりかえす。
そんな日塔奈美をなだめるように小節あびるが振り返り、
「大丈夫。そんなこと言わなくても奈美ちゃん生まれ変わっているから」
諸説あるものの、人間の細胞はだいたい1年で全て入れ替わっている。だから理屈の上では、現在の日塔奈美と1年前の日塔奈美は別人のはずである。
ということは、
「つまり、毎年1人ずつ、日塔さんは死んでいるです」
生まれ変わった、ということは生まれ変わる前のその人は死んでいるはず。
死んでいるならば、
「ちゃんと、供養はしたの?」
背後から木津千里が重々しく声を掛ける。
「供養って?」
怯えながら奈美はゆっくり振り向く。
「もちろん昨年の奈美ちゃん。まさかしてないの? ご先祖、ご先自分の供養はきちんとしないといけない。」
というわけで、日塔奈美(去年)の告別式が始まる。


第297話 (あと)五回の憂鬱
1e2f47a0.jpeg「大変ですお兄様! 縁お兄様がとんだご商売を!」
顔に汗を浮かべながら飛び込んできたのは糸色倫。糸色望は倫が持っていたビラを受け取る。
【訳あり結婚相談承ります。糸色縁 結婚相談所】
「縁兄さん離婚弁護士だろ! 結婚相談所ってどういうことですか!」
ビラには住所も書いてある。糸色望は、さっそく問題の場所へ向かった。
そこは随分な山奥である。叢林を掻き分けた長い石の階段を上りきったところに、由緒のありそうな古刹が建っている。
糸色望は倫を連れて門をくぐっていく。誰も居ないのか。いや、声が聞こえる。声に導かれるように廊下を進んでいく。すると【結婚式会場】と書かれた立て札が置かれていた。その中へ入ってくと、
葬式? 白い布に覆われた祭壇の上に、喪服の男女の写真が置かれている。写真は故人であることを示す黒い帯が被せられていた。
「これのどこが結婚式なのですか!」
驚きの声を上げる糸色望。
それに応える声が一つ。
「冥婚。つまり、死後結婚の式場だ。めでたい席だ」
異様な重さを持った太い声。振り向くと、男が一人。注連縄を手にして、鋭い目線をこちらに投げかけていた。糸色縁。糸色家から絶縁されている長男である。
これは『死後結婚』だ。結婚もできず若くして亡くなった男女を不憫だろうと、死後結びつける儀式。その風習は日本のみならず世界各地に見られる。
しかしなぜ死後結婚なのか。縁は離婚弁護士のはず。
「死後婚は離縁なのだよ。浮かばれぬ魂がこの世との縁を絶つ、離縁なんだよ」
ところが、近年は生前の本人の嗜好を尊重する傾向がある。それで、二次元美少女との死後婚を希望するケースも増えているようだ。


第298話 ようこそ絶望先生
e57eee0c.jpeg「席替えだって」
クラスの一同が朝からばたばたと机の配置を入れ替えている。
しかし今日は卒業式。そんな日に席替えをしても意味がないのでは?
「先生の指示が、黒板に書いてあるよ。」
木津千里が疑問に答える。
「漢字間違っているし。」
千里が黒板を振り向く。
――籍替え
籍替え。席替えではなく、学籍が変わるということなのだろうか?
「じゃあ、もしかして机動かし損?」
日塔奈美が軽く憤慨した声を上げる。
それでも千里は、どことなくすっきりした顔を浮かべていた。
「んー。まあでも、綺麗に整列されたからいいよ。」
振り向くと、教室の机はぴしっと整えられ、気のせいなのか清々しい空気すら漂うようだった。
そこに、少女が一人教室に入ってくる。
「みんな。もう行かないと」
入ってきたのはセーラー服姿の小森霧である。霧もどことなく晴れ晴れとした明るい表情を浮かべていた。
クラスの一同が体育館へ向かう。体育館はステージに向かって椅子がきちんと整列している。今度こそ本当に、卒業式である。
壇上に、糸色望が上がる。
「それではこれより、卒業式授与を行います。呼ばれた者は壇上へ」
言いながら、糸色望は壇上に置かれた証書の束を整えつつ、教え子たちの一同に目を向ける。
まず最初の一人目――。
「千陀新院柚里真線童女」
「はい」
立ち上がったのは木津千里だ。木津千里は壇上に上がり、卒業証書を受け取る。
「離無院巣徒乙家童女」
「はい」
次は常月まとい。
「活腐離院美異絵路童女」
「はい」
藤吉晴美だ。
「申訳無院愛夢想梨童女」
「はい」
加賀愛。
「釈貴院達流真式童女」
「はい」
大草麻菜実。
「双寿志院十機芽空童女」
返事はないが音無芽留だ。
「彩万院蘇卯酉楓童女」
「はい」
木村カエレ。
「炉供院霧番月都童女」
「はい」
小森霧だ。
小森霧が壇上まで進み、卒業証書を受け取る。その通路を、うろペンがずらりと並ぶ。その横顔が陰陽の太極図になっていた。


第299話 絶望の組と幸福な少女たち
ce7d6ff0.jpeg卒業式が終わった。7年間一緒だった少女たちとも別れて、糸色望は1人静かに学校を去って行く。すでに次の赴任先が決まっていた。その場所は本土から離れた小さな島である。
その糸色望を追いかけていく糸色交。
小さな島だ。すぐに糸色望を見つける。しかし、
「全部で3人?」
「ヒロシはまだ生きているから3、1人だよ」
「そうですか。卒業、させてあげないとね」
そんなやりとりを目にする。望は、いないはずの誰かの肩に手を置くように、手を空中に浮かべていた。
「ヒロシなんていないじゃん! 何だよ3、1人って!」
交は怯えた声で叫んだ。
「現世からの卒業。未練があり漂っているヒロシくんの魂を、この世から成仏させてあげるのです」
そう、これこそが糸色望の本当の仕事だった。学生のうちに死んでしまった霊に授業を受けさせ、卒業させること。一つの除霊。糸色家の本当の姿でもあった。




第300話 私たちの知っている可符香ちゃんは天使みたいないい子でした
9809cc5f.jpeg糸色医院。
鞄を持って玄関をくぐろうとする糸色命を、男が引き留めていた。男はハンチングを被り、上着を手に掛けた、涼しそうなシャツ姿だった。
男は身分を名乗りつつ、警察手帳を糸色命に見せる。
「話を聞かせてくれませんか」
通報したのは誰なのかわからない。ただ警察の不信は明白な一点である。
いつの間にか姿を消していたあの少女――風浦可符香はどこへ行ったのか。いや、そもそも風浦可符香とは何者だったのか。
出身不明、住所不明、年齢不明、本名不明……。そしていつの間にか、教室から姿を消していた。
最後の謎。風浦可符香。糸色望のクラスの中心人物であり、確かな実在感を持ちながら何もかも不明、そんな人物がどうして姿を消してしまったのか。
舞台は取調室へ移り、調査が始まる。連れてこられたのは、事件の最重要人物であると目される2人。糸色命と、新井知恵だ。
2人は淡々と、事実を解説していく。
2のへというクラスは何だったのか。2のへの全員が過去に受けていたある手術……。それが、風浦可符香という少女の秘密を明らかにしていく。

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漫画・著作:久米田康治
出版・編集:講談社
連載・掲載:週刊少年マガジン





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■2012/05/22 (Tue)
絶望先生29集 (2)その美しき夫人の夫は、一つの箱を持っていた。黄金に輝く箱だった。しかしその箱は、決して開けてはならない、と言い渡されているものだった。だから夫人がどんなに懇願しても、夫は頑なに箱を開けることを拒んだ。
夫人は、きっとこの箱の中には素晴らしい宝物が秘められているに違いない、と考えた。だからある時、夫人は夫の知らない隙を狙い、箱を開けた。
そうして箱から飛び出した物は――絶望だった。

いよいよ30集で完結することが明かされた『絶望先生』。表紙を彩るのは、これまでの法則性を打ち破り、風浦可符香だ。袴姿で、髪に羽の付いた花の飾りが添えられている。風浦可符香は地面に落ちた何かを見るように、身をかがめている。背後からゆるやかな風がながれているらしく、腰の帯が吹き上がり、余白に散らされた羽が風の流れを示している。風浦可符香の足下では、うろペンが駆け出そうと足を上げている。
表紙カバーの裏面を見ると、三珠真夜。風浦可符香と同じように、少し身をかがめるようにしている。足下にいるのは、1匹の子犬である。
表紙カバーをめくると和装姿の丸内翔子、根津美子の二人が狛犬のように立ってこちらに目を向けている。『さよなら絶望先生』のタイトルは中心に置かれている。裏面を見ると、大浦可奈子襟元を着崩し、ぼんやりとした目線を空へ向けている。
あと何人か掲載されていない絶望少女がいるが、最終刊を飾るのは間違いなく加賀愛になるだろう。連載の終わりに向けて、一気に調整してきた29集だ。
恒例の“前巻までのあらすじ”は、三珠真夜のものである。

前巻までのあらすじ
私、子供の頃UFOにさらわれたの。仲間と間違われて迎えに来たんだって。その時、おわびにと宇宙人から不思議な棒をもらったの。なんでもさした生物が絶対服従するという、ナイスなスティック。これで今まで言うことを聞かなかった生物はいないわ。いつか、先生にもさしてやるんだから。ちなみに一緒にもらった金属バットは、地球上にはない金属でできてるんだって。

第282話 山なみのあちらにも同じ人がゐる
絶望先生29集 (3)朝のバスでの通学。日塔奈美は眠たげな欠伸をしつつ、何気なく窓の外に目を向けた。窓の外の溝川、そこに架かる橋の上に、木津千里が立っていた。千里は橋の下を見ているようである。
奈美は橋の千里を気にしつつも、そのまま学校へ向かった。教室に入ると、
「おはようございます。」
さわやかな笑顔で振り返ったのは、木津千里だった。
「あれ?さっき橋のところにいたよね?」
奈美は不思議な心地に捕らわれながら尋ねた。
「ううん? ずっと教室にいたわよ。」
千里も不思議そうな顔をして答える。
「「バイロケーション」てやつですね」(Wikipedia:バイロケーション
ちょうどHRの時間だった。糸色望が教室に現れ、奈美の疑問に答えるように言った。
「バイ……バイロリ剣士? 何ですかそれ?」
奈美は相変わらずの聞き違いである。
「同じ人が同時に別の場所に存在することです。けっこう報告例が多いんですよ。怪現象と捉えられがちですが、中には不思議でも何でもない……「悲しいバイロケーション」もあるのです」
と望は間を置いて、
「悲しいバイロケーションて、80年代のアイドル曲みたいですね」
恥ずかしいみたいに出席簿で頬を隠した。
「いいから話進めろよ。」
千里が突っ込む。

第283話 宇治拾位物語
絶望先生29集 (6)登校途中。奈美は何気なく街頭テレビに目を向ける。「今年の10大ニュース」と書かれた大きなパネルを中心に、女性アナウンサーが明るい顔で話をしているようだ。
「もうそんな時期かあ」
緩く感心の声を上げる。
そこに、糸色望が通りかかった。
「おはようございます」
「先生個人の10大ニュースって何ですか?」
奈美は望を追いかけて、さっき仕入れたばかりの話題を振ってみた。
望はしばし考えるようにうつむいた。
「そうですね……第10位――。10コもあるわけじゃないですか」といきなり素に戻る。「日本全体のことならまだしも、私個人で10コあるわけないじゃないですか」
「でも何かあるでしょう」
でも奈美は明るい顔をして、望の顔を見上げている。
しかし、個人で10コもニュースをあげるとしたら……足の爪がはがれた。福引きでお米が当たった。そばマクラが破れた。そんなものである。
世の中には多くのベスト10がある。しかし問題なのは、ベスト10を作ること自体以上に10コも見つけることである。ランキングの企画の1位から10位までを探すライターのほうが、よほど大変であるに違いない。
ところが世の中広いもので、それを専門に研究している大学の学部があるという。しがらみ大学の十位学部――そこでは世の中の第10位だけを探し、収集しているという。

第284話 すべてがカプになる
絶望先生29集 (10)教壇に立つ糸色望。しかし望は教科書も広げず、いきなり生徒たちに向かって指を突きつけた。
「えいっ! 皆さんに魔法をかけました」
「はあ……どんな魔法?」
教室中が寒々とした空気に包まれる。
「「クリスマスにカップルを見たら死ぬ」魔法です。というわけで皆さん、クリスマスにカップルを目撃したら死にます。全力でカップルを見ないように努めてください」
糸色望は得意げに声を弾ませていた。
しかし、教室はさらに寒々とした白けた空気が渦を巻きはじめていた。誰も魔法を信じていない……という以前に、そんな魔法をかける理由がわからない。
「クリスマスに幸せそうなカップルに背を向ける理由が欲しい、ということですか」
小節あびるが落ち着いた調子で尋ねる。
「まあ、そんな所です」
望は教壇に両手を突き、生徒を見下ろすようにして答えた。
糸色望はクリスマスを嫌悪している。両親が望自身を着床した記念日だからだ。だから、クリスマス自体に背を向ける理由を求めたのである。
そんなわけで12月24日――糸色望個人がどんなに願い、希望を抱こうとも、世間はクリスマス一色に染まる。魔法なんて、あるわけがない。
「藤吉さんもそう思うよね」
日塔奈美が藤吉晴美に尋ねる。
「バカバカしい」
藤吉も無関心そうだった。
とそこに、美しい少年が二人、側を通り過ぎて、
「でも少し怖いから、オレ達はカップル見ないよう、家で男同士で過ごします」
微笑みとともに挨拶を交わして去って行く。
それを目撃した藤吉晴美は突然に――胸を掴み、呼吸を荒く絶えさせ崩れ落ちるのである。藤吉死す――萌え死にである。魔法は本物であった。

第285話 グダグダースの犬
絶望先生29集 (11)初詣の日。神社に和装姿の参拝客がやってくる。そんな人々の中に、やはり絶望少女たちの姿もあった。
「あら」
おみくじ屋の前で、見覚えのある姿を見つける。赤い袴の巫女装束に千早を羽織る加賀愛である。
「ここでアルバイトさせて頂いています。私のような者がすいません」
加賀愛はやってきた風浦可符香と木津千里に微笑みかけ、謙虚な態度で頭を下げた。
木津千里は加賀愛の姿を見て、機嫌良く笑いかける。
「やっぱ、神社は巫女さんよね。ん? さっき鐘あったよね。鐘って、寺だよね。ここは神社なの? 寺なの?」
千里は、急に厳しい顔になって、加賀愛に尋ねる。
神社に鐘。これはご都合主義ではなく、神仏習合の名残である、という。昔、仏教が日本に伝来する時、何か凄いのが来る、と神道は危機感を持って迎えた。(Wikipedia:神仏習合
宗教は対立するもの――しかしそこは日本人。対立せず、いいところは取り入れ、一つのものとして飲み込んでしまう。
「グダグダになったっってことぉ?」
千里は不満そうに眉を釣り上げている。
とそこに、
「グダグダの何が悪いのです! グダグダにして勝つ!! これは一つの戦法なのです」
いきなり現れて声を上げるのは糸色望である。
勝つためには勝負自体をグダグダにする。ボクシングの試合でグリンチ多用してグダグダの試合して、何となく勝ってしまったり。押しかけ女房的に同棲して、グダグダにしていつの間にか結婚にこぎつけたり。公務員給料引き下げ案マイナス0、23%だ7、8%だのでグダグダになり、結局減給0の大勝利になったり……。
グダグダにすることは、必勝法の一つなのである。

第286話 在庫の人は
絶望先生29集 (24)藤吉晴美の机の上に、どーんと本の束が積み上がっていた。すべて同じ表紙の同じ内容。晴海が本の山を前に、どんよりうなだれていた。
「コミケで売れ残ってたくさん在庫抱えちゃったんだって」
事情を聞いた小節あびるが藤吉に代わって説明する。
「なんで、ここに持ってくるのよ。」
責める木津千里。
「だって家に置いておけないでしょ。こんなに大量なのに、家のどこに隠せばいいのよ!」
藤吉が涙を浮かべて、不満を爆発させた。だからといって、学校に置いていいわけがない。
が、同情を見せる男がここに1人――。
「痛いほどお気持ちを察します。一生懸命お描きになったろうに」
慰めの言葉を漏らす、糸色望。
というのも、望自身書いた同人誌がまったく売れず、ロッカーの中に大量にしまい込んでいるのである。つまり、在庫を抱えている者同士の慰め合いである。
「先生、在庫に込められた作者の気持ちがわかるなんて。イコメトラーですね」
風浦可符香が尊敬を込めて言った。
そうして糸色望が連れて行かれた場所は、お見合いパーティー。ずらりと並ぶのは、売れずに残った“在庫”の女性達である。

第287話 悲式玩具
絶望先生29集 (16)体育館は赤と白の垂れ幕で包まれていた。胸にコサージュを付けた三のへの生徒達がしおらしく椅子に座っている。
「卒業生答辞」
この呼びかけで席を立ったのは、学級委員長的な立場に居続けた木津千里である。
「楽しかった運動会。嬉しかったアニメ化。スルーされた3分の映画化……」
「はい一旦止めて」
糸色望が答辞を止めて千里の前へ行く。
「少々私情を挟みすぎかと」
「そんなことありません。」
千里が事務的に言葉を返す。望は、あっさり諦めて千里の前を離れた。
「こんなんじゃ、本番が思いやられます」
考え込むように顎をなでる。これは卒業式の予行演習である。まだ本番ではない。
それはそれとして、
「いつ教えてくれるんだい? 卒業式」
そう好奇心一杯に尋ねるのは木村カエレである。どうやら、「卒業式」という「方程式」があるのだと思っている様子である。
「卒業式っていう方程式を解かないと、卒業できないんだろ?」
それを解かないと卒業できないという式。そんな式は……あるようである。例えば、
(アイドル×写メ流出)×!=卒業
それを解いてしまうと、ただちに卒業しなければならない。この国には、そんな恐ろしい方程式は実はたくさんあるのだ。

第288話 横倒れちまつた悲しみに
絶望先生29集 (17)節分のステキなおまじないを教えてあげる。「豆」っていう字を横に倒すと「KOI」ってなるでしょ? だからね、好きな人に豆をぶつけて横倒しにすると、恋が実るの。

ゴッ!
衝撃だった。糸色望の後頭部に、巨大な塊がぶつけられる。望は前のめりに崩れかけ、メガネが吹っ飛んだ。
それは世界最大の豆、モダマ。豆の直径5~10センチ、さやは1メートルに達する巨大な豆である。それを、望の後頭部めがけて木津千里が投げたのだ。
巨大豆の投擲に恐れた糸色望は、走って逃げる。
が、そこに再び豆。大量の豆がザーッと地面を横に流れていく。望は豆に足を捕らわれ、転びそうに……いや、耐えた。
「なぜみんな私を転ばそうとするのですか!」
逃げる望。
そこに、小さな柴犬。望は、思わず足を止める。柴犬の前に身をかがめ、柴犬を抱き上げる。柴犬は人懐っこく望の頬をペロペロ舐める。望も嬉しそうに柴犬を撫でた。
「豆……柴? まさか!」
常月まといが気付いた。とっさに倒れようとする糸色望を支える。
しかし、望を豆で倒そうとする絶望少女たちは、まだいるらしく……。

第289話 第二第二ハッピー
絶望先生29集 (18)授業中。糸色望が黒板に教科書を書き写している。それを途中で止めて、生徒達を振り返る。
「あのう。授業中、内職するのやめてもらえませんか」
「内職」というのは、授業中に別の科目の勉強をすること。テスト前にはしばしば見られる学校の風物詩である。
と、いうのではなく――、
教室の一角に工業用の機械を持ち込み、大量の箱を並べて、文字通りの内職をはじめている生徒が一人。大草麻菜美である。作っているのは、制服の第二ボタンである。
卒業を前に控えたこの時期、第二ボタンの需要がピークに達するのである。モテる男子は大量に第二ボタンを取られるから、そのぶん補充のための第二ボタンが必要になるのである。
「第二ボタン? 第二ボタンなの? 第一ボタンかもしれないし、第三ボタンかもしれないし。」
木津千里がボタンを一つ取り、しばらく眺めた末、納得いかない声を上げた。
「完全に第二ボタンです。第二ボタンというのは、乙女の記念品ですから」
答えを引き受けたのは、風浦可符香である。
「ぬー。いや、待って。騙されない。たとえ第二ボタンとして作られたとしても、ここに付けられて、はじめて第二ボタンでしょう。」
やっぱり納得いかないらしい千里である。
確かに、世の中そこにあってはじめてそれとわかるものがある。東京タワーは東京にあるから初めて東京タワーとわかるのであって、もしも山奥にあったら送電線の鉄塔にしか見えないだろう。
六甲の名水だって、六甲とラベルが貼ってあるから六甲の水であるとわかる。コップに入っていると、どこの水なのかわからない。

第290話 出席番号二十三の瞳
絶望先生29集 (20)夜の内に降った大雪はあっという間に街を真っ白に染め上げてしまった。
「うーさぶい!」
日塔奈美が自分を抱くようにして身を震わせた。
「息も白くなるねぇ」
白い息を吐きながら、一緒に登校する友人達に声をかけた。
「       」
答えたのは風浦可符香だった。
「           」
日塔奈美は、納得いかないみたいに言葉を返す。しかし、風浦可符香は笑顔のまま、
「     」
「       」
奈美がやり返そうと、ちょっと厳しく言った。
ようやく気付いた木津千里。
「フキダシまで白くなることないでしょう!」
ストーブを持ち込んで火を付けて、フキダシのなかに文字を浮かび上がらせる。
「これだけ寒いとフキダシの中も白くなるよ」
「仕事しろ、フキダシ係!」
寒さにマフラーに顔を埋める奈美に、千里はいつもの厳しさで怒鳴る。
それはそれとして、
「前のページの奈美ちゃんの話だけど、少し言い過ぎだと思うよ」
小節あびるが問題のコマを指さしつつ言った。
しかしフキダシは真っ白。それでも、小節あびるは「見える」と主張する。
これは共感覚(シナスタジア)の一種である。共感覚とは、ある刺激に対して、通常の感覚とは別に特殊な感覚も得られるという知覚現象をいう。共感覚を持っている人は、文字や音に色を、形に味を感じたりするという。(Wikipedia:共感覚
「なんかこの子の能力が妬ましい。私にだって共感覚があるはず!」
嫉妬の声を上げたのは常月まといである。
常月まといは目をカッと開いて、そこに提示された文字を見詰めた。
「私にも文字に色が付いて見える! この文字は赤い色に見えるわ!」
共産党

第291話 畳の国のアリス
絶望先生29集 (21)教室の机と椅子は片付けられたようである。その代わりに、大きな風呂敷が一枚、皺も作らず、綺麗に広げられている。
「さて、広げた風呂敷を、畳まないと」
望は大儀そうに言って身をかがめ、風呂敷の端をつまむ。が、何かが引っかかっているらしく、畳めない。見ると、全身武者鎧姿の影武者が一方の布の端を踏むように立っていた。
「影武者! オマエのせいで、風呂敷が畳めないじゃないか。仕方ない。まず反対側から畳もう。って、この期に及んで広げてるし……」
別の端を見ると、小節あびるが風呂敷の上に膝を突いて、丸められた風呂敷を広げようとしている。
糸色望に指摘されて、小節あびるが振り返った。
「私、広げました?」
もの凄く意外だったらしく、ぼんやりした表情を浮かべていた。
「広げた風呂敷を畳む」これは物語の伏線を回収したり、発言に責任をとったりすることの喩えなのである。しかし、世の中には大風呂敷を広げたっきり畳めない人の多いこと多いこと!
メガソーラー構想とか。明日から本気出すとか。9坪の土地に一家5人、快適に暮らせるリフォームとか。
「うまく地面に着地できず、空間を漂い、回収できないスペースデブリとして問題になっているのです。このスペースデブリ問題は、ファイブスター物語の年表にも記されています」
「その年表自体、回収できるのでしょうか?」
これ以上デブリを増やさないために、なんとしても回収し、風呂敷を畳まねばならない。――が、そんな状況にあっても風呂敷は広がってしまうのである。

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■2012/02/21 (Tue)
絶望先生28集 (1)人生という箱の中には絶望が一杯に詰まっている。世界は絶望に覆い尽くされ、今にも潰されようとしている。しかし知恵ある者はこう言う。絶望のすべてが過ぎ去った後に、希望の欠片が残される、と。最も暗いのは夜明け前の闇だ。人はどん底の闇に沈んだときにこそ、もっとも輝ける希望を見出す。絶望と希望は、ふらふら揺れる天秤のように、同等の重さと普遍性を持っているのだ。
『さよなら絶望先生』も28冊目を数える。絶望を28冊、281話の絶望を積み重ねてきた。堆く積み上げられ腐敗が始まった絶望の地層の底で、我々はもうすぐ希望を見出すだろう。
28集の表紙は出席番号15番大草麻菜実。端切れを当てた白い昔風のエプロンを身にまとい、左手には野菜を一杯入れた買い物籠を持ち、いかにも苦労人らしい姿が描かれている。もっとも、エプロンの下の着物はなかなか高価そうだが。
裏表紙はこれまで男性登場人物が描かれてきたが、今集は加賀愛が描かれている。いつも「絶望文学集」が書き込まれている“そで”の部分には忍者設定の加賀の裏エピソードが“新連載”として書かれている。次回以降も続くのだろうか。

前巻までのあらすじ
私は主婦。50円お得な大根を買うため、200円のバス代を惜しまない心意気。月収8万の内職のため、内職キットを30万で揃えたの。ところがこの内職キットがくせもので、地球を守る武器セットだったの。内職で地球の平和を守るなんて、割に合わないよ。しかも敵ったら、いつもタイムセールの時間帯をついて攻めてくるからサイアク。戦闘員1ダース倒して800円は低賃金過ぎて、赤旗にコラムが載るレベル。

絶望先生28集 (2)第272話 あいまいな日本の形
市民プールで楽しい一時を過ごした後のことである。加賀愛が怯えるような悲鳴を上げた。
「着替えが見当たりません!」
ロッカーの中には着替えどころか何も入っていなかった。
「どこぞの変態に盗まれたんじゃない?」
日塔奈美がからっぽのロッカーを覗き込んで憤慨した声を上げた。
「そ、そんな。私の着衣など無価値ですから」
加賀は暗く視線を落としながら、それでも自分を卑下する。
そんな愛の背中を、風浦可符香が決意の眼差しで見詰めていた。風浦は自分の着替えを手早く済ませると、走って更衣室を飛び出し、通路を歩いている木野国也を呼び止めた。
「木野くん大変!」
と風浦は女子更衣室で起きた事態を、端的に説明した。
「何ィ! 加賀さんがピンチだと!」
木野が憤慨した声を上げ、「俺に任せろ」と頼もしげな声を置いて一度市民プールを後にすると、間もなく紙袋を持って戻ってきた。それを風浦が受け取り、いまだ更衣室で水着姿のまま困惑している加賀に預けた。紙袋の中には木野がたったいま買ってきたばかりの新しい衣装がきちんと折りたたまれて入っている。加賀はその衣装に着替えるのだが……。
「……これはまた、アグレッシブな。」
木津千里が呆れるような感想を漏らした。
あまりにも吹っ飛んだ未来的なデザイン。今の人類には早すぎる、斬新な衣装だった。
「む、無理です! 私のような者にこんな上級者ファッションは着こなせません!」
加賀愛が拒絶の声を上げた。
しかし、風浦は優しく微笑みを浮かべた。
「大丈夫。形から入るのも手だよ。中身は後からついてくる。勇気を出して一歩踏み出してみよう!」
風浦は押し出すように加賀の背中を叩いた。
水は方円の器に従う》。まず形から入ることにより、自覚が生まれ、中身が整うこともある(故事ことわざ辞典:水は方円の器に随う)。日本人は何かを始めるとき、まず形から入ろうとする。ナースはナースキャップを被るところから入り、その後慈愛の精神が生まれる。警察官は制服を着るところから入り、その後市民を守る意識が芽生える。
しかし世の中にはダメな結果をもたらす事例もあるようである。

絶望先生28集 (3)第273話 唯ぼんやりとしてるから不安
夏休みが明けて新学期。教室に入ってきた糸色望は、すぐに生徒の中に変化があることに気付いた。小節あびるの髪の長さである。いつもの通りの両耳を隠すような三つ編みをしているのだが、今日はその三つ編みが肩にすら届いていない。髪のねじり団子をひと巻き作ったところで終わっていた。
「あー! あびるちゃん髪切ったの! 何で何で? 理由は?」
日塔奈美が驚きの声を上げて食いついた。妙に生き生きした顔で「もしかして失恋とか?」とあびるの表情から何かを探ろうと覗き込む。
「いや、別に何も?」
しかしあびるは、特に気にする様子もなく、いつもの冷淡な調子で答えた。
「ええー! 何かあるでしょ理由!」
奈美は納得がいかず食い下がった。
すると唐突に、
「何にでも理由があると思うな!」
怒鳴ったのは糸色望だった。
そう。何でも理由があるわけではない。理由もなく火災報知機のボタンを押しちゃったり、理由もなくティッシュペーパーを全部出しちゃったり、理由もなくお菓子の箱をビデオデッキに入れようとしちゃったり、理由もなく缶ペンケースをノリで蓋しちゃったり。
……理由なんてないのである。あるとしたらそれは後で作られたこじつけであり、その時にあるのはただの衝動。人間の行動のひとつひとつにいちいち動機を求めても無意味なのである。
と、いうわけでやってきたのは「理由なし不動産」。そこには特に理由なく物件を求める人が、そして店には特に理由もなく安く、特に理由もなく高い物件がずらりと並んでいた……。

第274話 善いサマリア人ね。善いサマリア人は善いね。
絶望先生28集 (6)いに禁断の3年生へ進級した糸色望の生徒たち。というわけで――、
「皆さんの担任を辞することをお許し下さい」
望が教壇に手をついて、深く頭を下げた。
「急に何を言っているんですか!」
唐突な辞表宣言に、3のへ一同にざわざわと動揺が広がる。
「だって3年生なんて大切な時期を受け持つなんて、とてもとても責任を負うことはできませんから! 受験のストレス等で、珍妙な事件でも起こされたらたまりません!」
望は清々しい勢いで自己弁護する。
「何て無責任な。見損ないました!」
木津千里が憤慨した声を上げた。
続くように日塔奈美が机を叩いて立ち上がる。
「もういいです! 他の人に担任になってもらうよう頼みます!」
3のへ一同は教室を出て行くと、「3のへ 担任募集」のたすきを手早く作り、全員で職員室へとなだれ込んだ。
「どなたか! 私たちのクラス担任になって下さーい。」
と呼びかけるものの、職員室の教師たちは返事するところか目線すら合わせず、こそこそとその場から去って行こうとする。3のへを担任しようという教師は職員室にはいなかった。
「そらそうですよ」
と抜けぬけと顔を出したのは望。
「今の日本は、困っている人を助けようとすると、ただの善意でしたことでも責任を問われる可能性があるのです」
迷子の子供を家まで送り届けようと連れて歩いていたら、誘拐の容疑で逮捕されたり。
道で倒れている女性を助け起こしたら、「痴漢!」と叫ばれたり。
直してあげようと壊してしまい、弁償させられたり。
今はそんな時代である。誰も彼もエゴを押し通そうとするから、良心も善行も、リスクに変換されて増大している。積極的に関わろうという奇特な人など、そう現れるはずもない。

絶望先生28集 (9)第275話 一割の苦労
宿直室の座敷。小森霧が低い円テーブルにパソコンを置き、難しそうな顔をしてモニターを睨みつけていた。
「何をやっているんですか?」
糸色望が霧の背中越しにモニターを覗きこむ。
霧は手を休めて振り向き、望を振り返る。長身の望の顔を見ようと、霧の顔が少し無理な感じに大きくそらされていた。
「仕事」
霧が一言で答えた。
「え? ひきこもりなのに仕事しているんですか?」
望が少し意外そうな声を上げた。
「だからニートと引きこもりは違うと何度も……」
霧は体を少し望のほうに向けて、反論の声を上げた。といっても、声の熱気は低く沈んでいる。
「どれくらい、できているんですか?」
「90%ってとこかな」
霧は再びモニターのほうに体を向けて仕事を再開する体制に入った。
「じゃあ、もう少しでできますね」
望が緊張を解くような声を上げる。
が、霧が再び望を振り返った。
「ところが、この世界では、90対90の法則というのがあってね」
「なんですか、それ?」
望は霧の右隣に座った。
「9割方終わっているようでも、残り1割に結局、9割と同じ位の時間がかかるって皮肉だよ」
霧はモニターに顔を向けたまま、目線だけ望に向けて説明する。両手の指はキーボードの上をゆらゆら漂っていた。(Wikipedia:90対90の法則
望は納得するようにうなずいた。確かにそれは、どの業界でも同じように言える事象である。例えば道路。9割方できあがっていても、残りの1割が一番時間がかかる。理髪店でも、だいたい整ってからが長い。菅直人元首相も、辞めるといってから実際に辞めるまで随分かかった。
終わりが見えてからが長い。終わりが見えてから時間がかかる。終わりが見えてからが一番大変。
そこで、風浦可符香がこう提案する。
「だったら、もう90%でいいじゃない」

絶望先生28集 (11)第276話 悲しき絶対
廊下に出ると、鮮やかなヴァイオリンの音色が一杯に満たされていた。どこからだろう? 糸色望は、ハーメルンの笛に導かれる子供のように、ヴァイオリンの音色を求めて歩いた。
音楽準備室。そこで少女が一人、斜めに傾いた午後の深い光を浴びながらヴァイオリンを弾いていた。自分が奏でている音楽が気持ちいいように、ゆるやかに体を揺らしながら、弦に当てる弓から優雅な音が絶え間なくあふれ出している。
その音楽も、やがて終わるときがやってきた。ヴァイオリンの少女が満足げな恍惚を込めたため息をひそかに吐いた。それから振り向き、望がじっと見詰めているのに気付いて「あ!」と身を小さくした。
「うるさかったですか? すいません」
加賀愛の表情から満足が消えて、申し訳なさそうに視線を落とした。
「いえいえ。素晴らしい演奏でしたよ。確か、その曲はJ・S・バッハの……」
望は明るい敬意を込めて返す。
「「ヴァイオリンパルティータ第2番ニ短調」です」(→無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ
加賀は視線を落としたまま答えた。
望は納得したように頷く。
「ああ、そうでした。いわゆる絶対音楽ですね」
絶対音楽》。それは音楽のための音楽である。テーマもモチーフもない。何かを表現したいのではなく、純粋に音楽のために作られた音楽である。(Wikipedia:絶対音楽
ベートベンの「運命」も、実は絶対音楽でテーマはなく、「運命」というタイトルは後の人がつけたタイトルである。逆に、ビバルディの「四季」はテーマのある表題音楽なので、「四季」を思い浮かべながら聞くのが正しい鑑賞法である。
そう、芸術の世界にはモチーフを持たない《絶対芸術》という分野がある。というわけで今年の文化祭のテーマは《絶対芸術文化祭》。そこでは芸術そのものをテーマにした、少々飛躍しすぎた作品が展示されていた。

絶望先生28集 (14)第277話 バレときどきぶた
図書室で藤吉晴美が本を読んでいた。木津千里がスクラップブックを持ったまま、その側で足を止める。
「なに読んでるの?」
「古事記」(Wikipedia:古事記
晴美は目線を本に集中させたまま答える。
「いまどこ?」
千里がスクラップブックを背中側に回し、晴美の背中越しに本を覗きこむようにした。
「イザナギが左目を洗ったとこ」
晴美は文章を追いながら、意識のほとんどを本に向けながら言った。
千里が少し明るい声を上げた。
「ああ。それで天照大御神が産まれるのよね。」(おや?漫画本編に「。」が抜けている)
すると、晴美が千里を振り返った。
「ネタバレしないでよ!」
その顔は、愕然としたショックと怒りが混じって険しかった。
「ええ! だって古事記だよ! 千年以上前の本をネタバレって……」
「ネタバレする奴は死んでいいよ!」
困惑を浮かべる千里。しかし晴美はヒステリーを抑えられないみたいに声を上げた。
『ネタバレ』。確かにまだ見ていない映画の結末を言うのはマナー違反である。とはいえ、『猿の惑星』の結末や、初代『13日の金曜日』のラストシーンはあまりにも有名な古典なのでそろそろ時効という気がする。(ヒッチコックの『サイコ』はまだNGという気がする)
では『ネタバレの時効』というのはいつなのだろう?
そんな話題をしているときに、サッカーの代表戦が今夜だという話が入ってくる。しかし今日は研究会なのでリアルタイムで見ることはできない。さて、どうやって結果を知らずに帰宅できるだろうか?

絶望先生28集 (17)第278話 似勢物語
もうすぐハロウィンである。どんなコスプレで参加しようか? アニメファンの女の子たちが、そんな話題で盛り上がっていた。それで「今年はマゴマギ」でいこうと決まった。気合の入った自作の衣装で、ばっちり決めてやる、とそんな意気込みを語っていた。
が、現実は……。
「思っていたと違う!!」
少女は絶望した声を上げた。
「仮装して現実を思い知らされるというやつです。私もしばしばあります」
藤吉晴美が冷酷な声で状況を解説した。その晴美だが、すでに現実を嫌ってくらい思い知っているので、テンションだだ下がり、今年はただの学校の制服でハロウィンに臨んだ。学校の制服も、コスプレといえばコスプレである。……もっとも無難なコスプレである。
しかし糸色望が肯定的な意見を告げる。
「かわいらしいじゃないですか。皆さん、そこまでのギャップはないですよ。じゅうぶん“装丁内”です」
“装丁内”。つまり、そこまで衣装と中身が乖離しているわけではないから、装丁の範囲内というのだ。アニメ好きがアニメキャラを演じているのだから、むしろ友好的な一致である。困った事例は、そのアニメキャラの情報をまったく知らず、愛着もなく、ただのモデルの仕事で衣装を着ている場合だ。
“装丁の範囲内”はみっともなくても許せるのである。問題なのは“想定の範囲外”の事例である。世間に出てみると、そういう“装丁の範囲外”の事例は実は非常に多く……。

絶望先生28集 (18)第279話 釣れ釣れ草
堤防の端で、糸色望が係船柱に腰掛、ゆるく角を立ててたゆたう波に釣り糸を垂らしている。じっと見詰めている浮が、ぴくりと沈んだ。
来た……。
と思った瞬間、隣に立っていた木津千里が勢いよく竿を振り上げた。糸の先には、まるまる太った魚がしっかり食いついている。
なかなかの釣果に、まわりにいた女の子たちが千里に賞賛の声を上げる。
そんな様子を、寂しげな目線で見ている望。望は自分が垂らしている糸の先で浮かんでいる浮に目を向けた。何かに引っかかったように思えた浮は、今は何事もなくゆるやかな波に合わせて自然に浮かんでいる。
「釣りは残された数少ない男のスポーツなのに……」
望が愕然と沈んだ声で呟く。
そんな望の側に、小節あびるがやってくる。
「先生、全然かからないね。エサが悪いんじゃないですか? 使います?」
とあびるが手に持っていた小箱の蓋を開けて望に差し出した。望が顔を上げて小箱を覗きこむ。その顔が、一瞬にして青く引き攣る。小箱の中で、ウォームの群れがうねうねと絡みあっていた。
「いやぅっ!」
望が悲鳴を上げ、自分の身を守るように腕を振り上げつつ縮こまった。虫が怖いのである。
さて、立派な魚を釣り上げた千里だが、厳しい顔をして釣果を見詰めていた。
「リリース」
千里は魚を針から外し、ためらいなく海に放り捨てた。
「ええー! 何で!」
もったいない! みたいな感じに日塔奈美が声を上げた。
しかし千里は冷静に言い返す。
「狙っていた魚と違うから」
千里が用意している仕掛けは真鯛用。だからきっちり真鯛を釣らねばならない。それ以外の魚は全て外道。たとえ高級魚であっても。千里は真鯛以外の魚は認めないつもりなのである。
そう“外道”である。魚釣りに関わらず、現実世界のあらゆる事象において、望まないものが食いついてくるのである。
例えば、子供向けの料理番組に大人(ロリコン)が食いついてしまったり、
ババシャツに女子高生が食いついたり、
在インドの日本人のための柿ピーにインド人が食いついたり、
少年向け漫画誌に腐女子が食いついたり。
……でも本当のところ、思っていた客層と違っていてもいいから食いついてほしいものである。

絶望先生28集 (19)第280話 時をかけるニート
閑静な住宅街でもハズレというくらい端っこに、小さな家が一つ立っている。白い壁で固められた崖を右へ左へとうねうねと這い登っていく階段の行き着く先に立っている、そこにいるときっといい眺めが見られそうな家である。その家の、特等席とも言える窓に、男が一人佇んで外の風景を眺めていた。
小節あびるは階段下の小さな広場で足を止め、しばらく窓の男を見詰めた。遠くて表情はわからない。男は何かを探しているようにじっと窓の外の風景を眺めている。あびるの視線には気付く気配すらない。
あの男は“未来人”を自称するニートである。“未来ニート”とご近所で呼ばれ、小学生から嘘つきとバカにされるダメ人間だ。
でもあびるは少し信じていた。彼が本当に未来人である、と。
理由?
「だって未来からやってくるような人は、みんなダメ人間だと思うから」
なぜそう思うのか?
例えば次の日塔奈美のような考え方である。
「書類選考受かったんだけど、結局、当日行かなかったんだよね……。本当だったら私が読モになっていたのに」
本当だったら、自分が○○だったのに。未来人の立場から過去を悔やみ、失われた過去を悲観する。未来思考ならぬ、《未来人思考》の人。
“本当なら自分があの娘とつきあっていたはずなのに”
“本当なら自分が勝っていたはずなのに”
未来思考が前のめりに事象と接するのに対し、未来“”思考は過去を悔やむ。
だからこう思うのである。
「もしも過去へタイムスリップしたいと願う人といたら、その人はきっとダメ人間だ」

絶望先生28集 (21)第281話 曽根崎心中未遂
「本当は死んでいたのに。あなたが助けるから」
糸色望の静かな声には、呪いの意志がありありと浮かんでいた。
公園の並木通りだった。秋の終わり頃で、あの頃は桜満開だった幹には枯葉一枚も残していない。
望はそんな幹の一つに縄をくくりつけ、もう一方の端にわっかを作る。手馴れた作業を淡々とやりこなしつつ、いちいち後ろで見ている風浦可符香を振り返る。風浦可符香は鞄を後ろ手に持ちながら、静かに糸色望の作業を見ていた。
糸色望は用意していた台の上に足を置き、宙にぶら下がっているわっかを手に取った。そうして、ちらっと可符香を振り返る。
「やはり、死にます」
確認するように、呟く。
わっかに首を近づける。ちらっと可符香を振り返る。可符香は何も言わずじっと見詰めている。首に巻いたマフラーが冷たい風にふわりと持ち上がった。
望は首にわっかを回し、そうしながらちらっと可符香を振り返った。その体制で動きが止まってしまう。何もない沈黙に、冷たい風だけが流れていった。
「はい、終了です」
やっと可符香が声を上げた。
「何が?」
望がとぼけたような声を上げた。
「目的は完遂されました」
「まだ死んでませんが?」
望がわっかに通したままの首を可符香に向けて、憤慨した声を上げた。
望の背中に隠れていた常月まといがひょいっと顔を出す。
「だから、最初から未遂で終わらせるつもりの行為だったわけで。“未遂が最終目的”ってことでしょう。あんまり未遂目的繰り返してると、いつか未遂失敗して本当に死んじゃいますよ」
まといは呆れたものを含ませながら、望をたしなめた。
望はまだ幸運なほうである。自殺とされる人たちの中には、一定の割合で自殺未遂失敗が含まれているに違いないのである。未遂目的行為が、いつか未遂以上の結果をもたらすかもしれないのだ。
実行する気のない犯罪予告で逮捕されたり、
使う気のない偽札で逮捕されたり、
載せるつもりのないギャグが載ってしまったり。
未遂目的がいつも未遂で終われると思うなよ!

さよなら絶望先生《本家》目次ページへ

漫画・著作:久米田康治
出版・編集:講談社
連載・掲載:週刊少年マガジン





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■2011/11/14 (Mon)
絶望先生27集 (1)映画化“済”作品!!
いや、初耳だぞそれは。どうやら『劇場版魔法先生ネギま!』と『劇場版ハヤテのごとく!』の同時上映の合間に上映されたらしい。およそ3分の出オチ……短編映画だったようだ。この劇場版は原作者も知らないうちに……と添え書きがあるが? もしかしたら、これが最後の絶望先生映像化作品になるかもしれない。いつかビデオになったら、ぜひ見てみたい作品だ。
表紙絵に選ばれたのは糸色倫。いつものお尻見せポーズ、かと思いきや、堂々と正面を向いた立ち姿で、右手にチェロのネックを掴み、左手には弓が握られ、弓は添えられるようにチェロの玄に当てられている。表情は淡く頬を染めて微笑み、衣装は糸色倫にしては装飾の少ない標準的な和装袴姿で、髪に華をモチーフにした飾りが与えられている。
わずかに右側にそらされた糸色倫のポーズに、左側から足元へ直線的に描かれたチェロとの組み合わせが、糸色倫とチェロというモチーフを重奏的に補強している。
表紙を飾る順番がコミックス前半の背表紙の通りであるとすれば、次巻は大草麻菜実になるはずだ。「そろそろ完結するのでは?」と囁かれるこの作品であるが、全キャラクターが表紙を飾るまでもう少し続いてほしいところである(予定では29集は加賀愛が表紙を飾るはずなのだから)

前巻までのあらすじ
わたくし糸色流華道師範、糸色倫と申します。お花について皆さま、誤解があるようなので、一つ申し上げたい。「花言葉」あれ全部ウソ! だって花が言葉を喋るわけないじゃない。おほほほ・・・・。でもね・・一度だけ聞いた事があるの。深夜に桔梗と撫子が話しているのを聞いた感じからだと、古代ワングル語に似ていて、とてもここでは言えないような悪巧みをしていたの。もう、怖いので花占いをしちゃいます。好き、嫌い、好き、嫌い・・好き・・嫌い・・好き・・殺す・・・・

第261話 春は曙。やうやう難くなりゆくやめ際。
絶望先生27集 (2)「先生、この漫画いつやめるんですかね?」
マガジンを読んでいる藤吉晴美が、とある漫画を糸色望に向けて尋ねる。その作品は不人気を通り越して、なぜ連載しているのか誰が読んでいるのか不明なのに関わらず、なぜかマガジン誌上で長期連載を続ける不思議作品であった。
糸色望は表情を暗く沈ませて、うつむく。
「読者も作者も編集者も、そろそろかなとは思ってはいるんですが……やめるにも物凄くパワーがいるのです」
伏線回収して着地点を決めて広げた風呂敷たたんでうんたらかんたら……。しかもその漫画家は過去作品で、最終回で突然ギャグ漫画ではなくなり、読者を激しく困惑させボロクソに批判された前科を持っている。
「これから熱くなり、体力的に厳しくなるので、涼しくなるまで待って頂きたいかな、と」
望は弱々しい調子でいつもの言い訳を並べはじめた。
「やめるのが難しい」そういうものは漫画だけではなく、様々な分野にその事例が見出せる。
例えば部活の退部。退部理由を原稿用紙100枚書かされた挙句、やっぱり受理されず続けることになったり。
結婚もするよりやめるほうがよっぽど大変。ハンコ押させたり、法廷で有利な証拠集めたり(ていうか、大草さん離婚考えているんだ)
原発もいざ止めようと思っても、何年も冷やし続けなくてはならなくて、やっぱり大変。
やめるにやめられない……だから仕方なく続けている。そういう人や事業、性癖の事例は世の中にはたくさんあるのだ。

第262話 夜の霧
絶望先生27集 (8)日塔奈美は朝から興奮状態だった。
「本当に見たんだって! 小森ちゃんが外出しているの」
そう言っている本人も、にわかに信じられないといった様子だった。
いまいち説明にまとまりのない奈美の話を整理すると、昨日の夜、何かの気配に気付いて目を覚まして窓の外を覗くと、そこに毛布を体に巻いた髪の長い少女が歩いていたという。それはまさしく小森霧……。
しかしそんな話、狼少年のホラ吹きのように誰も信じない。なにせ小森霧は学校引きこもり。しかも全座蓮が認定した公認座敷童子で、もしも小森霧が学校から離れると、老朽化著しい学校が瞬く間に崩れ去ると言われている。だから小森霧が外に出るわけがなく、また出られるはずもないのだ。
が、奈美の話に同意する少女がここに。
「実は私も」
と証拠写真を提示するのは小節あびる。写真に写っているのはまさしく小森霧。猫会議に同席しているらしく、深夜の猫に囲まれ、街灯のスポットライトを浴びている小森霧が映し出されていた。
しかも――写真の中の小森霧は寝ているのだ。
寝ている間は座敷童子としての業務から外され、学校も崩壊しないらしい。
「これで小森ちゃんも、一緒に遠足行けるね!」
というわけで急遽、真夜中の遠足へ向かうことになった。

第263話 どーせ書生気質
絶望先生27集 (9)風浦可符香が大きく体をそらして、東京タワーのてっぺんに目を凝らした。
「先っぽ曲がったままだよね」
東京タワーの一番上、網状に組み込まれた鉄骨の先に備え付けられたシャーペンの芯のような鉄の棒。これが、わずかに折れていた。
「少しは元に戻したらしいですけど。機能的に支障がないのと、あの日の出来事を記憶に留めようとそのままにしてあるのでしょう」
糸色望も東京タワーを見上げて答える。あの日……それはつい先日発生したあの超巨大地震のことである。
余震が来たらまた曲がっちゃうかもしれないから、落ち着くまでそのままにしている。それでそのまま、いつ元に戻していいのかタイミングが掴めない。
「ああわかる。あの日、ウチの家具とかもだいぶ倒れたりしたんですけど……」
日塔奈美が同意の声を上げて頷く。また大きな余震が来るかもしれないから、家中のものを床置きにしたままにしている。で、そのままいつ元に戻すべきかタイミングがわからない。
しかし、そんな状況に憤る少女がここに1人。
「なんですぐ元に戻さないの! そーゆうの一番イライラするの。」
不満の声を上げるのは木津千里であった。
そんなところにやってくる一旧さん。ドア半ばがわずかにへこんでいる。
「いつも同じ場所をぶつけるんで、どーせまたぶつけるから直さないでいるんです」
「すぐに直しなさいよ!」
木津千里が運転席を覗き込んで怒りの声を上げる。
そんな場所をふらりと横切るのは木津多祢。千里は油断なくその髪をひと房、さらっと指先で触れる。
「髪がじっとりしている。昨夜、髪洗った?」
「……昨夜どころか。いや昨夜は洗ってないなぁ……」
多祢は冷や汗を掻きながら、何かごまかすように千里から目を逸らしている。
「きったねー! 毎日洗いなさいよ」
「パサパサになるだろ。毎日洗ったら」
口論が始まる。
どーせまた○○だから今やらなくてもいい……。それはどこか人の怠慢さの真理を突いている。

第264話 あひあひゞき
絶望先生27集 (24)「やっぱり降ってきた。こんな日に傘持ってないなんて」
加賀愛が空を見上げる。どんより曇った雲が、ぱらぱらと緩やかな雨を降らせようとしている。
帰宅の足を早めようとする加賀愛だったが、ふと通り過ぎようとした古道具屋に、雅やかな和傘が置かれているのに気付いた。
欲しいかも……。加賀愛は雨で必要という事情を差し置いて、その和傘に何ともいえない魅力を感じた。加賀愛は思い切って古道具屋ののれんをくぐり、和傘を手に入れた。
で、その翌日の教室。
教室の中なのに関わらず、和傘を広げて手に持っている加賀愛がいた。
「んー」
糸色望はしばらく考えるような顔をしたが、そのうち諦めたように背を向けた。
「何で、突っ込まないんですか?」
木津千里が冷静に尋ねる。
「いや、まあ……。いろいろ事情があるんでしょう」
望は他人事を決め込んだようだ。
どうやらその和傘が加賀愛の手から離れなくなったようだ。しかももし畳もうとすると、ガラスが割れたり誰かが失神してしまったり。
「間違いない。その傘。呪われている。」
千里がビシッと指をさして断定する。
呪われた傘を供養するためには、相思相愛の人と相合傘をしなくてはならないらしい。しかし加賀愛の想い人っていったい……誰?

第265話 あめれおん日記
絶望先生27集 (11)雨が降っていた。屋敷の窓は雨滴をいくつも浮かべ、外の風景は白く溶け始めていた。
糸色望は深刻そうな顔をして、そこに並ぶ少女たちを振り返る。
「この中に雨女がいます!」
まるで推理小説のクライマックスよろしく指をさしながら叫ぶ。
「はい、私雨……」
日塔奈美がここぞと手を挙げてアピールしようとするが、
「梅雨だからでしょ。」
木津千里が当り前のように言う。
「はいはい私が……」
日塔奈美がそれでも手を挙げようと割り込もうとするが、
「梅雨だからでしょ」
小節あびるがしれっと遮る。
「そうですね。梅雨だからですね」
糸色望が窓の外を顔を戻す。その顔に灰色の光が差し込んだ。
「私が雨女です!」
奈美が自分を指差し、声を上げる。
ようやく一同が奈美を注目する。しかしその顔はどれも無表情で信頼はどこにもない。
「証明、できます?」
雨が降っているのは梅雨だから。たとえ奈美が雨女であってそう主張していたとしても、梅雨ではその性質が埋没してしまう。
どんな物事も、時と場合によって埋没してしまうことがしばしばある。梅雨の梅雨女のごとく。
不登校も、夏休みには埋没してしまう。
露出狂も、脱衣場では埋没してしまう。
ロリコンも、平安時代では埋没してしまう。
どうやらこれを機会に、奈美は「雨女キャラ」として売り出そうと目論んでいたようだ。しかしこの梅雨の時期……。
「見て、新聞の折り込みチラシにこんなものが」
風浦可符香が一枚のチラシを奈美に差し出す。チラシには「雨女募集」の文字が大きく書かれていた。

第266話 笹の上のメモ
絶望先生27集 (13)七夕の夜。糸色望と風浦可符香が願い事を一杯吊るした笹を見上げていた。
「ここの笹って願い事が叶うって評判なんですよ」
可符香が穏やかな口調で望に伝える。
「節電でいつもより星がたくさん見えるから、願いが届きやすいのかもしれませんね」
望は笹の向うに見える星空に目を向けた。夜空は星が明るく瞬いている。天の川らしき星屑の筋が夜空を横切っているのが見えた。
「やばいやばい!」
夜の静けさを打ち破るように、少年がばたばたと駆けてきた。
「覚えなきゃ覚えなきゃ。こんなことでは有名中学に受からない!」
少年は単語帳を見つめながら、大急ぎでその場所を駆け抜けようとした。
が、
どーん!
糸色望とぶつかってしまう。単語帳と短冊がばらばらに交じり合って周辺に散ってしまった。少年は「早く覚えなきゃ!」と地面に散った色んなものを集め始める。糸色望も、地面に落ちてしまった短冊を元に戻そうとひろい集めようとする。しかし、少年も望もどうやら酷く近眼な性質らしく……。
ふと、街頭テレビの声が耳に入ってくる。
「ここで臨時ニュースをお伝えします。フランスで革命が発生しました」
まさか……! 糸色望はさっき自分が集めた短冊を確かめた。するとそこに、「フランス革命」と書かれた単語帳が。単語帳はそれだけではなく、笹に一杯吊るされていた。
願い事が叶いやすいと評判の笹。早く回収しないと……。でも異様に成長の早い笹で、早くも望の手の届かないところへ育ってしまった。

第267話 節電中の日本より
絶望先生27集 (16)暑い……。ぎらぎらと突き刺すような熱線は、校舎の内部の温度も容赦なく引き上げさせる。糸色望は暑さにぐったり顔を落としながら廊下を歩いていた。
と、
「節笑中」
そう書かれた紙が掲示板に貼り付けられていた。
「理由があります。笑いは、節電によくないんです」
説明するのは木津千里。
笑いは節電に良くない。それは科学的に認められた事実である。よく、怪談で背筋が寒くなるという。あれは血管が収縮して血行が悪くなるから冷えるのである。それと逆で、笑うと血行がよくなり、体が温まり、結果クーラーを多く使用してしまう。
「つまりギャグ漫画は、節電に不向き」
小節あびるが千里の台詞を引き継ぐように言った。
とにかく笑いは節電の精神を矛盾するので、
「絶対に笑わせてはいけない 絶望先生」
しかし、それを見た風浦可符香は、
「ん。通常通り」

第268話 ペイの拡充(欠番)
盗作が指摘されたため、単行本には収録されず。

第269話 浦田未更新曲
絶望先生27集 (17)糸色望はパナマハットを被り、古い趣を残す蔵井沢の町を歩いていた。
「地元の町は久し振りですね。ああ、佐々木のおばさん」
望が懐かしそうに辺りを見回していると、ふと幼い頃の知り合いであるおばさんがいるのに気付いて挨拶をした。
「おや久し振り。のんちゃん」
望はしばらくおばさんとあれこれ話をして、その場を去った。
それからまた歩いていると、昔の友人がベンチに座っているのに気付いた。
「あ、久し振りだなぁ、ゾムゾム」
望はしばらく友人とあれこれ話して、その場を去った。
「「ゾムゾム」って?」
望の後ろを歩いていた常月まといが尋ねる。
「昔のあだ名です。しかもほんの一時期。小五の一学期だけとかそんな。みんなお互いをそんな感じの呼び方するのが流行ったんです」
ちなみにさっきの友人はひろし君といって、「ピロピロ」と呼ばれていた。
地元に戻ると、人の会話で気付かされる。自分に対する情報の古さに! 夏休みの帰郷。それは未更新の自分に会える時である。

第270話 代理の子
絶望先生27集 (19)糸色望が実家の屋敷の中で、のんびりと本を読んでいた。あたりは人の気配もなく、静寂そのもの。
そこに、旧式の黒電話が騒がしく音を鳴らす。
「はい」
望は受話器を手に取った。
「寄付しろ。金持ちは寄付しろ」
電話はそれだけで切れてしまった。後にはツーと無味乾燥な音が続く。
この頃、糸色家にその手の匿名電話が頻繁にかかっていた。「寄付しろ」や「節電しろ」「消費しろ」といった要求である。
無権代理。“スラックティビスム”である。自分では何も社会活動しないけど、他人に進言し活動させることで、自分も社会に対して何か活動した、あるいは参加したつもりになることである。無権代理は、本人でもないのに勝手に当事者のように振舞うことである。(Wikipedia→スラックティビズム)(Wikipedia→無権代理
例えば、わざわざ遠い県からやってきて、その土地の者のように反対運動に参加したり。
公園なのに、花見をするのに自分のものであるかのように場所代を請求したり。
勝手に網を捕獲して、魚を逃がしたり。

第271話 能動とは何か
絶望先生27集 (21)糸色家のとある一室に、いかめしく装飾が散りばめられた椅子が置かれ、その椅子に時田が堂々と座っていた。その時田の前で、糸色望と倫が正装で畏まって立っている。
「何なりと申し付けください」
望と倫はうやうやしく頭を下げた。
緊張した沈黙が、両者の間を流れた。
「ちょっとお止め下さい。何なのですか、コレは?」
時田がわずかに腰を上げて、望を止めるように手を伸ばした。
前回までのあらすじ……。実は糸色家の正式な後継者は時田であった。現在の糸色家こそ、影武者であったのだ。その事実がいつの間にか忘れられていたが、前回初めて明らかになったため、本来の上下関係に戻したのだ。
「そうか……。そこまで言うのなら仕方ない。長きにわたる隠密生活にピリオドを打ち、時田家が主として復権しようではないか!」
時田は椅子にふんぞり返って尊大な笑い声をもらした。
「では申し付ける! 今までのままで!!」
というわけで、いつもの立場に戻った望たちであった。
「なぜ復権を嫌がる?」
望が尋ねる。
「私は今の立場が好きなんですよ。人に命令するより、命令される立場が好きなのです。では」
時田はいつもの淡々と調子で説明すると、頭を下げながら廊下に引っ込んだ。
そこに、風浦可符香が待ち構えていた。
「わかります時田さん。命令されるほうが主導権持っていることありますしね」
例えばメイド喫茶でご主人が命令した気になっているけど、実際は命令させられている。
自分は動かず、敵が動くように仕向ける。
――以逸待労。兵法三十六計の第四計である。(Wikipedia→以逸待労
先制攻撃を仕掛けたつもりが、わざと攻撃させられたり。
ボールを支配しているつもりが、ボールを持たされていたり。
SがMに命令しているつもりが、実はMがSに命令させていたり。
時として受身の側が主導権を持って状況を動かしている場合があるのだ。


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漫画・著作:久米田康治
出版・編集:講談社
連載・掲載:週刊少年マガジン
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