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■2009/07/09 (Thu)
第1話 馬車と姫君

895fe64c.jpg小林哲平の両親は死んだ。
一人取り残され、途方に暮れる哲平の前に、祖父だと名乗る老人が現れる。
経済界屈指のカリスマ、有馬一心である。有馬一心は、哲平に自分の養子になるように勧める。
迷う哲平だったが、両親の死が実は事故ではないと聞かされる。何者かに殺されたというのだ。
小林哲平の母は、有馬一心の娘だった。だから、有馬の死後、その莫大な資産を相続するはずだった。それを快く思わない何者かの手によって、哲平の両親は殺されたのだ。
そこまで知った哲平は、有馬一心の養子となり、事件の真相を解き明かすために社交界入りをする決心をする。
bedc88a7.jpg両親の事故と死は、冒頭数分であっさり片付けられている。物語の中心が、哲平の敵討ちではなく、少女たちとの交流であることがよくわかる。



そんな哲平の前に、美少女たちが次々と現れる。
二頭立て馬車で道路上を疾走し、ならず者を乗せたオープンカーに追われるシャルロット=ヘイゼルリンク。
剣の達人であり、哲平の許婚であるシルヴィア=ファン・ホッセン。
メイドとして哲平に尽くす藤倉優。
社交界を舞台に、恋愛のドラマが始まる。
4baca5eb.jpg0d8e6660.jpg6374dbe6.jpg




『プリンセスラバー』は、社交界を舞台としているが、実地的な取材に基づく作品ではない。
何もかもがイメージで描かれた作品であり、社交界という舞台は、ここではない異界的雰囲気を演出する場所として描かれている。
『プリンセスラバー』で描かれる世界は、非日常的な空気が濃厚に漂っている。主人公哲平は、両親の事故死を切っ掛けに、現実世界から乖離した異界に迷い込んだのだ。
そんな場所に踏み込んでしまっているからこそ、我々は不自然に登場する美少女たちを受け入れられるのだ。
7a812c2a.jpgヒロインであるシャルロット=ヘイゼルリンクと運命的な出会いを果たす哲平。その状況は、不自然の極み。すでにそこは、現実的な日常空間ではない。



日本のアニメーションの特徴の一つに、モラトリアムの回収がある。
b46b39ff.jpgそれはアニメーションの受け手がほとんどが10代という以上に、作り手のほとんどが10代を喪失しているからである。
作家たちは作品の中で、失った10代を願望というオブラートに包んで取り戻そうとする。アニメーションの物語とキャラクターは、常に作り手の強烈なコンプレクスがそこに刻印される場合が多い。
そうして描かれたものを、受け手の欲望の代替行為として、意識が共有される。
いわゆる“ハーレム・アニメ”と呼ばれる形式は、どこに魅力があるのか皆目わからない少年のもとに、およそ不釣合いとしかいえない美少女たちが集まり、少年を得ようと愛を注ぎ、同じく側に寄り集まってくるライバルをけり落とそうとする。
『プリンセスラバー』はそんなアニメーションの典型のスタイルを、なんの躊躇もなく、むしろ力いっぱい描き出した作品だ。
f2c4cb6a.jpg次々に現われる美少女たち。作家の力量は別にして、少女達の造形は記号の集積で構成されている。むしろ、願望(特にアダルトの世界において)を描こうとする作品は、オリジナルなものを提供できない。そもそも、それを目的としない。


『プリンセス・ラバー』で描かれる美少女たちは作家の独創で描かれたものというより、むし6ba95d6d.jpgろアニメーション特有の記号の主席で描かれる。
作画は流麗な線画と、のっぺり塗り分けられた色彩のみだ。そんな平面的に構成された線画に、作家は美意識とフェテッシズムを見出そうとする。
美少女たちはこれでもかと強調的に身体的特性を主張する。大きな瞳や、スタイルのいいバスト。
だがその表情の動きにはエモーショナルはない。自由自在なのは眉毛のみで、あとは目パチと口パクだけである。
なぜならば、彼女は非日常的異空間に静止し続けているからである。少女たちは、今まさに動きだす寸前のまま静止し続けている。
美少女たちは現実世界と違う時間の中を生きる幻想の存在であり、現実的にはいびつに歪んで静止し続ける畸形なのである。
物語舞台がすでに現実から乖離した異界だからこそ、そんな存在が我々の前に現れ、かりそめながら時間の共有が許されるのだ。
38c65b31.jpg7420fcdb.jpgアダルトゲームの分野において、「お嬢様・お姫様」は普遍的地位を持ったジャンルである。とはいえ、どういった需要がそこにあるのかよく知らない。

美少女は、ここではない幻想の世界を永遠に戯れ続けている。
哲平は異世界に踏み込むことで、彼女らと時間を共有し、戯れの瞬間を過ごす。
異性とは、彼岸の彼方の存在である。現実世界に足を置いたままでは、我々はその断片しか知ることはできない。
だから哲平はすべてを知るために、性と死が不条理に交差する異世界へと足を踏み込む。

『プリンセスラバー』公式サイト

作品データ
監督:金沢洪充 原作:Ricotta
シリーズ構成:中村誠 キャラクターデザイン:鈴木真吾
プロップデザイン:菊池幸一 仁保知行 美術監督:佐藤勝
色彩設計田中直人 撮影監督:佐藤陽一郎 音楽:菊池知樹 南良樹
アニメーション制作:GoHands
出演:寺島拓篤 柚木涼香 豊口めぐみ 松岡由貴
   子安武人 若本規夫 秋本洋介 三宅華也
   金光宣明 百々麻子 佐藤広太 古宮吾一



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