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■2009/07/09 (Thu)
シリーズアニメ■
第1話 洪色魔都
遥かな空を目指して林立する摩天楼の隙間を、色鮮やかな風船の群がふわりと浮かんでいた。
眼下の下町では、いよいよ始まろうとしている祭に、気分を浮き上がらせているようだった。人の数は増え、日が沈む前から、街は祭の熱気に飲まれつつある。
カナンはしばし仕事を忘れて、スコープを下町に向けた。
狭い裏通りでは、すでに屋台でひしめいて、早くも賑わいを見せている。活気のいい声が、カナンのいる場所まで聞こえてきた。
カナンは、屋台のひとつを狙い定めた。射的屋の屋台で、売り子の少女が元気に銅鑼を叩いて客引きをやっている。
カナンはその景品の一つに目をつけた。白くて全体に丸みを持ったぬいぐるみだった。カナンは正確にぬいぐるみを標準に定めて、引き金を引いた。
軽い金属音がして、薬莢が飛び上がった。
銅鑼を叩いている少女は、カナンの射撃に気付かなかった。だが、景品のぬいぐるみを手にとって、その背中に深くえぐれた穴があるのに不思議そうな顔をしていた。
カナンは仕事をに戻った。スコープを裏町の脇へ移す。そこに、迷路のように入り組んだ路地裏があった。
ちょうどよく、標的が現れた。
カナンは標的をスコープに収めて、タイミングを見計らった。標的は右手にハンドガンを持ち、背後を警戒しながら路地裏を疾走していた。その影が、細かく入り組んだ路地裏にちらちらと隠れる。
カナンは標的を逃さないように、慎重にその姿をスコープで追った。
標的が、路地裏の影に飛び込んだ。壁を背に動きを止めて、周囲を見回す。
今だ。カナンは引き金を引いた。
標的が再び走り出そうとした。だが、膝が崩れた。壁に、べったりと残る血の痕が男の背中の形をなぞっていた。男は死の間際に、自分が撃たれたのに気付いて、顔を驚愕に凍りつかせていた。
カナンは、仕事の緊張を解いて、顔を上げた。スナイパーライフルを脇に置く。そうして、さっき自分が撃った射的の屋台に目を向けた。
「後でもらいに行こ」
カナンは感情のない声で呟いた。
原案はチュンソフトの『428~封鎖された渋谷で~』。というわけで背景にこれ見よがしに、チュンソフトの『風来のシレン』のキャラクターが登場する。キャラクターのルックスは子供っぽく描かれている。硬すぎず、柔らかすぎずの色彩感覚を保っている。
物語の舞台は、祭を前にした中国。そこに、淡々と暗殺の仕事を遂行する女戦士がいた。
祭の熱狂が街全体を包みこみ、人々に異様な狂騒が宿り始める。現実世界の意識は後退し、祭の虚構が交差し始める。
そんな最中、女戦士は宿命的な再会を果たす。それは戦いの始まり。運命的な決戦が始まろうとしている。
だが、現実世界は虚構に飲み込まれようとしている。人々は世界の異変に気付かず、世界が大きく動き始めようとする兆候にすら気付いていない。路地裏で人が倒れ、息絶えようとも、現実の事件を虚構と置き換えて、何一つ気付かず通り過ぎてしまう。
世界の異変に気付くのは、異界に飲み込まれていない外部からの来訪者。洞窟に映ったイデアの影の実体を見ようとする者たちだけである。
「群集は映画の華」なのだが、アニメで群集を描く方法論はいまだ確立されていない。結局は、丁寧に細かく以外にない。祭の狂騒に、死体に気付かない人々。虚構が現実を越えて覆う我々の社会への皮肉か?もうちょっと気付いても良さそうだが。
『CANNAN』は二人の女戦士の戦いを中心に描く、バイオレンス・アクションである。
作品世界は、二人を包む風景をハイレベルな密度で描き出している。しっかりしたパースティクティブを持ったレイアウト。空気感すら感じさせる濃密な背景美術。それらが奇跡のような高精細なカットを描き出し、見る者を問答無用に作品世界に引きずり込んでいく。
その一方で、キャラクターの線は柔らかく、淡い色彩感覚で描かれる。強烈なバイオレンス・アニメだが、キャラクターにはユーモアがあり、親しみを持って接することができる。
作品の背景に置かれた道徳観念とその矛盾というテーマは、子供にでも理解できる視点で描かれ、鑑賞者を決して突き放そうとはしない。
派手なバイオレンス作品だが、感性はどことなく子供っぽい。二人の登場シーンにおける男達の反応は、大人としてはやや子供過ぎる。作品全体のトーンも淡く描きすぎで、アクション以外の重い場面を軽くしてしまっているのが欠点だ。
注目はアクション・シークエンスだ。正確なレイアウト上に描かれた動画は、どの瞬間にも一切の妥協はなく、カメラがあらゆる瞬間を逃さず追いかけていく。
激しく動き出すキャラクター。デジタル上に描かれた背景が、自由自在に動き始める。
キャラクターのアクションは、カットやレイアウトに縛られることはなく、職人の手書きであることをふと忘れさせるような強烈な跳躍を繰り返す。キャラクターたちは堅牢なパースティクティブ上に描かれているが、それでも決して地上の重力には捉われず、実写の撮影では絶対不可能なアクションを描き出している。
アクションの重要なキー・アイテムになる銃器などは、非常に細かく設定されている。拳銃のディティール、扱い方、弾着の瞬間にはじける光。どこまでも詳細に描いたディティールが、アクションに重量感を与えている。
最も注目のガンアクション。武器の描き方は扱い方は非常に細かい。それでいて、『マトリックス』でもやらないような豪快なアクションを見せる。作り手の尖がった感性が迸る瞬間だ。
第1回放送から『CANAAN』は異様なテンションでアクションが展開する。
思わせぶりな過去を持ったキャラクターたちが、一つの舞台に集まり、物語が始まろうとする予感を描き出している。その戦いがどんな結末を迎えるのか。
期待充分の注目作品だ。
『CANAAN』公式サイトへ
『CANAAN』公式ブログへ
作品データ
監督:安藤真裕 原作:チュンソフト
原案:奈須きのこ キャラクター原案:武内祟 シリーズ構成:岡田磨里
キャラクターデザイン:関口可奈味 美術監督:脇威志 色彩設計:井上佳津枝
撮影監督:並木智 音響監督:明田川仁 音楽:七瀬光
アニメーション制作:ピーエーワークス
出演:沢城みゆき 坂本真綾 南條愛乃 浜田賢二
田中理恵 戸松遥 能登麻美子 平田広明
皆川純子 大川遥 大塚明夫
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