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■2010/04/06 (Tue)
シリーズアニメ■
EPISODE.01 Departure
でもその直後、俺は茫然と空を見ていた。背中に硬いアスファルトのごつごつした感触が触れていた。空は暗く沈んで、雲だけが淡く浮かんでいる。星がちらちらと輝き始めていた。
「……ここは、どこだ?」
妙な気分だった。ここはどこだろう? どうして俺はここでこうして倒れているのだろう?
左を見る。広々とした遊歩道に明かりを点けない街灯がきちんと並んでいる。右を見る。何かの施設――校舎のようなものが見えた。
「目が覚めた?」
凛とした女の子の声が俺に話しかけた。
俺はえっとなって体を起こした。正面の植え込みを前に、女の子がかがみ込んでいた。茂みに隠れるように身を潜め、体に合わない大きさのスナイパーライフルを身構えている。
「ようこそ。『死んで堪るか戦線』へ」
女の子が俺を振り返って微笑んだ。
それだけで、女の子は再びスナイパーライフルの銃底を肩に合わせてスコープを覗き込んだ。名乗りもしない。
「唐突だけど、あなた、入隊してくれないかしら」
「え? 入隊?」
本当に唐突だ。訳がわからない。
「ここにいるってことは、あなた、死んだのよ」
俺は夢を見ているのか、それともからかわれているのか。
「ここは死んだ後の世界。何もしなければ消されるわよ」
「消されるって誰に?」
「そりゃ、神様にでしょうね」
「じゃあ、入隊って何?」
「『死んでたまるか戦線』によ。まあ部隊名はよくかわるわ。『最初は死んだ世界戦線』。でも、『死んだ世界戦線』って死んだことを認めているんじゃね? ということにより破棄。以降、変遷を続けているわ。
次から次へと言葉が出てくる。俺は呆れる気分で女の子の話が終わるのを待った。夢だとしても、よっぽどの電波さんらしい。
「えーっと、それって、本物の銃?」
「……はあ。ここに来た奴は皆そんな反応するのよね。順応性を高めなさい。あるがままを受け止めるの」
『マトリックス』の見すぎか?
「受け止めて、どうすればいいんだよ?」
「戦うのよ」
「何と?」
「あれよ。あれが『死んでたまるか戦線』の敵――天使よ」
俺は尻の埃を払って立ち上がると、女の子が指さした方向を覗き込んだ。植え込みの向うは長い階段になっていて、その下にグランドがあった。トラック一つ分が余裕で納まるかなり大きなグランドだ。そこに、女の子が1人立っていた。女の子は何かを探すように辺りをきょろきょろと見回していた。
「やっぱ『死んで堪るか戦線』はとっとと変えたいわ。あなた、考えておいて」
女の子はスコープで狙いながら言った。
おいおい、どう見たってあれは普通の女の子じゃないか。この銃が偽物で銀玉はじくだけだとしても、痛いだろうな。警告したっていいはずだ。
「あのさ、向う行っていいかな?」
俺はグランドの女の子を指さした。
女の子が逆上して俺を振り返り、飛びついてきた。
「何で! 訳わかんないわ! どうしたらそんな思考に至るの? あんたバッカじゃないの? 一遍死んだら! ……これは死ねないこの世界でよく使われるジョークなんだけど、どう? 笑えるかしら?」
女の子は凄い勢いで捲くし立ててきて、怒った調子で訊ねてきた。まったく笑えない。
「ジョ、ジョークの感想はいいとして、少なくとも銃を女の子に向けているような奴よりかはまともな話ができそうだからさ」
「私はあなたの味方よ。銃を向けるなと言うなら向けないわ。私を信用しなさい!」
女の子の感情はなお治まらないらしく、立ち上がって俺を怒鳴った。不愉快なまでの上から目線だった。
「おい、ゆりっぺ。新人勧誘の手筈はどうなってんだ? 人手が足りない今、どんな汚い手を使ってでも……」
少年が女の子の前に走り寄ってきて、勢
「俺、向こう行くわ」
「うわああぁぁぁ! 勧誘に失敗した!」
女の子の叫びを無視して、俺は階段を降りていった。
訳がわからない。何なんだ、あいつら。
階段を降りて行きグランドへ入っていくと、女の子の側に近付いた。
普通に話しかける。女の子が俺を振り返った。月の明かりのせいか、女の子の髪が白く透き通るように思えた。肌はそれよりもっと白く、暗闇に淡く浮かび上って見えた。
「ああ、こんばんわ。銃で狙われてたぞ。あんたが天使だ、とか何と
意外な美人にドギマギしつつも、俺は後ろを親指で示した。
「私は天使なんかじゃないわ」
女の子は大きな瞳で俺をじっと見て答えた。
「だよなぁ、じゃあ……」
「生徒会長」
「……はあ。アホだ俺は。あの女にからかわれて
俺は女の子に軽く手を振って背を向けた。
「病院なんてないわよ」
俺は振り返り、訊ねた。
「誰も病まないから」
「病まないって?」
「みんな死んでるから」
俺はいきなり沸点に達した。
俺は女の子を指さし、遠慮なしに詰った。
「記憶喪失はよくあることよ。ここに来た時は。事故死とかだったら、頭もやられてるから」
女の子は感情のない声で、淡々と話を進めた。
俺はとどまらなかった。
「じゃあ、証明してくれよ! 俺は死んでるから、もう死なない……」
女の子がすっと近付いた。小さな声で何かを呟く。右袖に光を宿し、月明かりに輝く刃を出現さ
俺は動揺して声を上げた。
女の子が飛びついた。長い髪が月明かりの中を踊った。女の子の右腕の刃が真直ぐ俺の胸に飛びつき――。
◇
『Angel Beats!』は最近では珍しい、原作のないアニメーション・オリジナル作品である。原作・脚本は『AIR』『CLANNAD』などで著名な麻枝准が手がける。麻枝准はアニメーションの脚本を手がけるのは初めてで、アニメオリジナル作品ということを併せて見ても、『Angel Beats!』はなかなか挑戦的な作品であると言える。
学校という場所は誰もが知っている場所だから改めて解説する必要
音無やゆりはそんな場所に所属しつつも、独自の制度を作り出し、既
『Angel Beats!』は思春期の少年少女の物語だ。学校という少年
学校という少年たちにとって絶対的社会に対して、ただの集団の中の1人ではなくいかに自身としての意思と意識を維持していくのか。『Angel Beats!』はその闘争を激烈な形で描き出してく。
重火器が次々に登場するが、戦闘シーンはエフェクトが美しく飛び交うだけで重量感はまったくない。物語の中心はむしろ言葉のユーモアの中にあり、独特の言い回しが絶え間なく飛び出して見る者を映像世界へと引きこんでくれる。そのリズムと工夫の凝らし方は、さすがに人気作家らしい熟練したものを感じさせてくれる。物語の導入から、世界設定の説明まで見る側にストレスを与えない。続けてみようという意欲を挫かないように物語を展開させている。
近年のアニメは、ほとんどが前提となる原作がすでに存在し、視聴者はすでに知っている物語を再確認するためにアニメを見る。原作のあのシーンをどのように再現しているか、批評家の基準はそれがすべてであり、アニメ制作者の独創を軽視する傾向にある(一方で、「テレビでやってるから原作なんて買わなくていい」という考え方も確実に広まっているのだが)。
『Angel Beats!』はそんな最中に完全なオリジナルとして制作された作品である。だから我々は『Angel Beats!』の物語がどのように発展し、どのような終わりを目指していくかまったくわからない状態にある。この挑戦がどんな結末を目指し、どれだけの人を取り込んでいくのか。批評や経済的な面でどんな前例を残すのか。挑戦は今、始まったばかりである。
作品データ
監督:岸誠二 原作・脚本:麻枝准(Key/ビジュアルアーツ)
キャラクター原案:Na-Ga キャラクターデザイン・総作画監督:平田雄三
チーフアニメーター:宮下雄次 川面恒介 美術監督:東地和生
色彩設計:井上佳津枝 撮影監督:佐藤勝史 3D監督:山崎嘉雅 編集:高橋歩
特殊効果:村上正博 ラインプロデューサー:辻充仁
音楽監督:飯田里樹 音楽:ANANT-GARDE EYE 麻枝准
アニメーション制作:P.A.WORKS
出演:神谷浩史 櫻井浩美 花澤香菜 木村良平
〇 高木俊 増田裕生 徳本英一郎 小林由美子
〇 斉藤楓子 水島大宙 Michael Rivas 牧野由依
〇 沢城みゆき 島崎信長 松浦チエ
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■2010/04/02 (Fri)
シリーズアニメ■
第01話 ビギニング
学校までやってくると、リナが声を掛けた。金髪に青い瞳の容姿端麗の少女だった。チアリーダーをやっているから体がしっかりしていてスタイルもいい。ジョーイより身長は上だった。
リナはジョーイの側に並び、好意を持って話しかけてくる。
「うん」
「チアリーダーのダンスパーティーがあるんだけど、今度こそ一緒に来てね。約束よ」
リナは少し恥ずかしそうに頬を染めながら、半ば強引な誘い方をした。
ジョーイはえっと顔をゆがめて、消極的にリナの誘いを断った。リナはむっと今度は怒りで頬を赤く染めた。
「お馬鹿! もう、いつ誘っても断ってばっかりなんだから」
リナはかっと声を上げると、不満そうに呟いた。ジョーイはリナを宥めようと愛想笑いを浮かべる。
「今すぐリナから離れろ、ジョーイ!」
ウィルはリナの腕を掴んで自分の側に引き寄せると、ジョーイを乱暴に掴みフェンスに押し付ける。
「俺は役立たずが大嫌いなんだ。そんな奴が妹の近くをうろちょとされるのは、迷惑なんだよ!」
ウィルは一方的にジョーイを罵倒して去っていった。
「なあニック、俺にもやらせろよ」「俺にも触らせろ!」
ニックの友人たちがロボットを奪い取ろうとした。するとロボットが暴走し、車道に飛び出していく。そこに、車が横切った。ロボットは車に轢かれ、ぼろぼろに崩れてしまう。
「まあ、いいさ。また新しいのをパパに買ってもらうから」
「もういらないって言ったよね。僕がもらってもいいんだよね」
ニックが捨てていったロボットをジョーイが手にする。すでにボロボロ。手足がちぎれ、内部の基盤を剥き出しにしていた。
もう壊れている、とサイは忠告したが、ジョーイは治すつもりだった。
それから数日後、ジョーイはロボットを修復させ、『ヒーローマン』の名前を与える。
修理が終わってすぐに、バイトの時間がやってきた。ジョーイはヒーローマンを椅子の上に乗せ
だが間もなく街に雨が降り注いだ。そういえば、ヒーローマンを乗せた椅子の上の天窓を開けたままにしていたかもしれない。ジョーイは慌てて店を飛び出し、家へ帰る。
家に帰り、自分の部屋に飛び込むと、やはりヒーローマンは椅子の上で雨に濡れていた。ジョーイは慌てて手に取ろうとするが、その時、落雷が落ちた。閃光
落雷のショックが去り、ジョーイは恐る恐るヒーローマンに近づく。ヒーローマンは少し姿勢を崩し、蒸気を吹き上げていた。壊れたようには見えない。指を近づけてみると、静電気がビリッと光を放った。帯電しているのだ。
ふとジョーイのポケットの中で音がした。何だろう、と引っ張り出してみると、ロボットの操作盤が青い光を放っていた。
突如、操作盤が強い輝きを放った。操作盤がばらばらに砕け、ジョーイの腕の周囲で回転した。やがて操作盤は形を変えて、ジョーイの左腕を包んでしまった。
「すごい! すごい、僕のヒーローマンだ!」
ジョーイが興奮して声を上げる。
ヒーローマンは沈黙してジョーイを見詰め、次に窓の外を振り
ジョーイの左腕のアイコンが変わった。押してみると、ヒーローマンが動き始めた。ヒーローマンはジョーイを背に乗せて家の壁を破壊しながら道路に飛び出した。凄まじい速度で疾走し、雨粒を切って進む。
やがてヒーローマンは高速道路へ到着した。ちょうど事故現場の側だった。ジョーイは倒れている車を見て、もしかして、と近付く。
「お願い、助けて! リナを助けて!」
ジョーイはヒーローマンに懇願した。するとジョーイの左腕のアイコンがまた違う記号に変わった。拳の記号だ。
ジョーイは力強くアイコンを叩いた。ヒーローマンがアクションを始めた。車のボンネットに腕を突っ込むと、そのまま引き剥がしてしまった。
ジョーが起き上がると辺りは真っ赤な炎で包まれていた。ジョーイは茫然と炎を見ていた。すると炎の中から、ヒーローマンが現れた。リナとリナの父親を肩に乗せていた。
その中でも主人公のジョーイは驚くほど没個性的に描かれているように思える。いや、アメリカが舞台だからこそジョーイはむしろ際立って
ジョーイは年齢不詳(バイトをしているくらいだから、高校生くらいだろうか?)だが、周囲の少年達に較べて極端に幼く描かれている。体の線はもろく崩れそうなくらい細く、柔らかな容姿で男性とは思えない高い声で会話している。ジョーイのルックスは幼形成体のアジア人
その幼く見える容姿は、アメリカが舞台だからこそ油のように浮かび上がり、主人公としての特異性を(多分)獲得している。
アメリカ人の作家には決して描けない感性だし、欧米圏のどこで放送しても子供たちは受け入れてくれないだろう。日本で放送するのに相
そんなジョーイの前に現れるのは力の象徴であるヒーローマンであ
第1話のクライマックスである、リナを事故から救い出す場面。かすかに記憶を戻したリナが見るのはヒーローマンであるが、奇怪な姿に変
その力の獲得が宇宙からやってきた悪の軍団との闘争という望まぬカオスを引き連れてくるが、いずれ望むすべてをジョーイに与えるだろう。『ヒーローマン』は創作に込められる願望を一切隠蔽せず、ストレートな形で描き出している。
地球を侵略しようとするエイリアンは、人間にゴキブリを足したような姿である。そのエイリアン・スクラッグが乗る円盤のデザインと動きは、通俗的なテレビでうんざりするほど見せられたUFO映像をそのまま再現している。あまりの捻りのない没個性的な発想に驚かされてし
特に際立っているのがアクションだ。『ヒーローマン』第1話には後半数分しかアクションはなかったが、その印象は圧倒的だ。線の少ない画から想像できないくらい立体的でダイナミックな破壊シーンが繰り出される。地味に思えた作品が別領域に一気に飛躍し、輝きだす瞬
『ヒーローマン』はストーリーにしてもキャラクターにしても潔いくらい作品の独自性を主張していない。あらゆるものが直線的に描かれている。今時は見られない(パロディ以外)、直球的な作品だ。アニメが少年の立場に戻って、改めて今の子供たちに問わんとしている。
しかしそれだけに物語の展開やアクションの力強さでどれだけ作品を魅力的に描けるかが勝負だ。制作側に突きつけられたプロットを、どの領域まで昇華させられるかが作家の腕の見せ所だ。
次回 第02話『エンカウンター』を読む
HEROMAN 目次
HEROMAN 公式ホームページ
作品データ
監督:難波日登志 原作:スタン・リー
シリーズ構成:大和屋暁 キャラクターデザイン:コヤマシゲト
チーフアニメーター:川元利浩、富岡隆司 デザイン協力:ねこまたや
クリーチャーデザイン:武半慎吾 タイトル・アイコンデザイン:草野剛
メカ・プロップデザイン:田中俊成 石本剛啓 ディスプレイデザイン:佐山善則
美術デザイン・美術監督:近藤由美子 色彩設計:岩沢れい子
撮影監督:木村俊也 3DCGIディレクター:カトウヤスヒロ 太田光希
編集:定松剛 音響監督:原口昇 音響効果:倉橋静男
音楽:METALCHICKS・MUSIC HEROES
音楽プロデューサー:山田勝哉 美登浩司 音楽制作:愛印
プロデューサー:奈良初男 山西太平
アニメーション制作:BONES
出演:小松未可子 木村良平 小幡真裕 チョー
〇 進藤尚美 保村真 陶山章央 石塚運昇
〇 長克巳 伊井篤史 石井康嗣 井上剛
■
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■2010/03/09 (Tue)
シリーズアニメ■
1品目 ワグナリアへようこそ♪ 小鳥遊、働く。
住宅街の通りは雪に埋もれかけていた。雪を掻き分け、道の左右に高く積み上げてようやく灰色のアスファルトがちらと姿を現す。なのに、雪はなおも振り続けていた。空は灰色に沈み、絶え間なく振り続ける雪で風景は白く凍りかけていた。
小鳥遊宗太(たかなしそうた)は寒さに背中を丸めて、住宅街の通りを歩いていた。灰色のアスファルトは再び雪に覆われはじめ、泥を吸った足跡をいくつも刻んでいた。
宗太は、えっと振り返った。背中にもたれかかっていたのは、長い髪をポニーテールにしている小さな女の子だった。
「バイト……バイトしませんか!」
女の子は頬を赤くして、必死な表情で宗太に訴えた。
「大丈夫、親御さんは?」
きっと迷子の子だ。そう思って宗太は、女の子を屈みこんで穏やかな声で訊ねた。
今度は女の子がきょとんと考えるふうにした。
「えっと、お父さんは公務員で、お母さんは専業主婦です」
女の子は宣言でもするように、元気に手を上げた。
「え、そうじゃ……。ええっと、じゃあまずすぐそこの交番でも行こうか」
……かわいい。思わず宗太はしまりのない微笑を浮かべてしまった。でもとりあえず一般市民の
「あの、違います。ファミレスのバイト勧誘です。一緒に働きませんか」
女の子は一生懸命に首を左右に振って訂正しようとした。
「ええ? ああ、どうしよう。ファミレスごっこ? さすがにちょっと……」
女の子も困ったように首をぶんぶん振って、考えるようにうつむいた。
「違います。種島ポプラ17歳。高校生です!」
女の子――ポプラはばっとコートをはだけて、学生手帳を突きつけ
「ああ、高校生?」
宗太は信じられない気分でポプラを改めて見詰めた。
「ああ、それで、あの……バイトを探してくれる人
ポプラは不安そうになって、また大きな瞳をうるうるとさせた。
ポプラは寒そうに震えて、白く凍りつく息を吐いた。毛糸の手袋で口元を押える。白い頬を、ほんのりと赤く染めていた。それでもポプラは、必死な目でじっと宗太を見詰めていた。
かわいい……! 宗太はさっきより強く思った。しかし12歳以上でこの異様な可愛らしさはありなのだろうか。それにこの生徒手帳に制服、うちの高校と同じで、しかも僕の先輩だ。
「やります、バイト」
宗太は下心を悟られないように、落ち着いた微笑みを見せた。
「ほ、本当!」
ポプラが感激で目をきらきらさせた。
「はい」
宗太はポプラに頷きかける。
ガラス戸を押して入っていくと、奥にもう一つ自動扉がある。ピンポーンと来客を内部に告げる音がする。自動扉を潜っていくと、ぱたぱたと小さな女の子が飛び出してきて、私にお辞儀をした。
「いらっしゃいませ」
女の子に招待されたのは虚構世界の誰かではなく、この物語に接しているあなたである。あの境界を潜り、我々はワグナリアと呼ばれる異空間へと入っていくのだ。
多くの人が単に客としてその一部と接するだけのファミリーレストランだが、その内部世界となると、一般の人にとっては一種の異空間である。カウンターの裏に
物語の中心にあるのはユーモラスなキャ
レストランといえばパースの怪物で、アニメにおいては地味に作画困難なセットだ。だが『WORKING!!』はそんな苦労を
キャラクターの線は少ないが、一本一本に無駄を感じさせない。見る者にキャラク
『WORKING!!』はファミリーレストランの内部世界を描いた作品だが、あくまでもファミリーレストランは舞台でしかない。その場所で従
ファミリーレストランの内幕。そこは一般の人にとっては異界であり、映像のモチーフとしては新しい何かを提供する場所である。
WORKING!! 公式ホームページ
作品データ
監督・シリーズ構成:平池芳正 原作:高津カリノ
キャラクターデザイン・総作画監督:足立慎吾 プロップデザイン:明珍宇作
色彩設計:坂本いづみ 美術監督:田尻健一 編集:坪根健太郎
撮影監督:廣岡岳 音響監督:鶴岡陽太 音響制作:楽音舎 音楽:MONACA
プロデューサー:清水博之 斎藤朋之 斎藤俊輔
製作:「WORKING!!」製作委員会
制作:A-1 Pictures
出演:福山潤 阿澄佳奈 藤田咲 喜多村英梨
〇 渡辺久美子 小野大輔 神谷浩史 白石涼子
〇 日笠陽子 伊藤静 斉藤桃子
■2010/01/15 (Fri)
シリーズアニメ■
2月27日~3月4日 真つ赤点
カチリッ。
ゆのはベッドの外に足を投げ出して、ふわわと背伸びした。窓から気持ちいいぬくもりが床に落ちている。今日もいい天気。いい朝だ。
ゆのは朝食を済ませて制服を着て学校へ行く準備をした。
でもその時、思わず食器棚をひっくり返してしまった。皿のいくつかが転げ落ちてガッチャーンと派手な音を立てた。
「うのっち、どうした~」
ドアをノックして宮子の声がした。
えっと、どうしよう。お皿、じゃなくて、宮子。
ゆのは玄関のドアをそうっと開けて顔を出した。
ゆのは申し訳なく、宮子を上目遣いにした。宮子がうのの肩越しに部屋の中を覗きこむ。
「ありゃー」
宮子がやっちゃったという顔をした。
沙英がヒロを連れて通路を歩いてきた。
「大丈夫」
ヒロは少し心配顔だった。
ゆのは申し訳なくなってしゅんと頭を下げた。
ヒロは部屋の中を覗きこんで、あっと声をあげた。
「これは派手にやったね」
沙英はヒロと並んで部屋を覗きこんでほおーと声を上げた。
すぐに作業も終わり、宮子と沙英がゴミ袋の口をがさがさと閉じた。
「こういうこと、急いでいるときに限ってやったちゃうんだよね」
沙英がゴム袋の口を閉じながらゆのに笑いかけた。
「いえ、冷蔵庫の下に黒いものが見えた気がして……」
「え!」
沙英の顔が白く強張った。
「見間違いだったんですけど、びっくりしちゃって」
「ああ、あるある」
沙英はほっとした顔で、うんうんと頷いた。
「これくらいでいいんじゃない?」
「すみません。ありがとうございます」
ゆのは改めて皆にありがとうとお辞儀した。
ふと開けたままになっていた窓から風が流れ込んできた。カーテンがふわりとめくれあがる。
――8時40分。
「あ! 時間だ うわあ~!」
ゆのはびっくりして悲鳴を上げた。
「まだ大丈夫」
「行ける!」
全員で部屋から飛び出した。通路を真直ぐに走るその先には、すぐ向うにあるように学校の校舎が見えた。
校舎の時計は8時45分を指している。でも間に合う。だって、学校は本当に目の前にあるんだから。
◇
動きの少ない平面的なカットが反復されるが、どのカットにもこだわりのあるデザイン的な装飾が施される。漫画トーンが使用されたり、実際的な演技空間を無視
時に画像の作りは象徴的なイメージにな
背景が描かれる場面には実写や実写をトレースした小物が置かれている。実写の配置や張り込みが作品のリアリティや密度を高めたりはしないし、作り手の目論みはそこにない。あくまでも背景にある様々な雑多なものの1つ、というノイズを取り込むのが目的だろう。それも作家が構想した、作品全体のカラーを決めるデザインの1つに過ぎない。
『ひだまりスケッチ×☆☆☆』は4人の少女の日常を、暖かな視線で描いた作品だ。「ひだまり荘」という場所を中心に、うつろいゆく毎日を丹念に捉えていく。第3期になる今回のシリーズにおいて、2人の新入生が加わる。新たな人物を加え、物語は新たな局面に入る――
ただ日常が進行していき、ゆのを取り囲む時間が一歩前へと進んでいくだけだ。2人の新入生はいわばその過程で起きたできごとの1つに過ぎない。
作品データ
監督:新房昭之 原作:蒼樹うめ
シリーズ構成:長谷川菜穂子 与口奈津江 キャラクターデザイン・総作画監督:伊藤良明
美術監督:飯島寿治 編集:関一彦
音響監督:亀山俊樹 音楽:菊谷知樹
アニメーション制作:シャフト
出演:阿澄佳奈 水橋かおり 後藤邑子 松来未祐
〇 釘宮理恵 福圓美里 沢城みゆき チョー
〇 蒼樹うめ 原田ひとみ 小早川千明
〇 後藤沙緒里 金光宣明 箭内仁 樋口智透
■2010/01/14 (Thu)
シリーズアニメ■
アストライアの天秤
そんな場所で、女子高生の少女が襲われた。
さっそく筆者は襲われたという女子高生に会い、話を聞いた。
女子高生は落ち着きなく肩にかかる髪を弄りながら、ひたすら話し続けた。今時の女子高生らしく言葉のノリは軽く、次から次へと言葉が流れ出てくる。むしろ、話したくて溜まらず、今の状況を楽しんでいるようですらあった。この少女は、当時の恐怖などもう克服してしまったのだろう。
取材する側としてはやりやすい。筆者は女子高生の調子よさに乗りかかるように、気軽にお願いをした。
少女の首には大袈裟なまでに大きなガーゼが当てられている。もし古風な奥ゆかしい淑女なら、説得に苦労させられただろう。しかしこの女子高生は何の躊躇いもなく――むしろ見せたいみたいにガーゼを外し、うなじを筆者に突き出してくれた。
ぞっとするような傷跡だった。細くすべらかで、思った以上に綺麗なうなじだっただけに、むしろ生々しい不気味さを感じてしまった。少女のうなじの中ほど、青く浮きだつ動脈が通る場所に、それにあわせたように穴が2つ刻まれていた。
その印象といい、形といい、映画や小説の世界に見られる吸血鬼の噛んだ痕そのものだった。筆者はその傷跡を見た瞬間、ふと現実世界が崩れ意識がフィクションの世界に引き摺られるような奇妙な居心地の悪さを感じてしまった。
吸血鬼――。果たしてそんなものがいるのか。現代は21世紀だ。文明の光が世界の隅々まで行きわたり、あらゆる迷信と呪術が駆逐され未知なる発見を失ってしまった世界。まるでフィクションに追いやられた古い呪術が現代社会に異議申し立てでもしているかのように思えた。
ひょっとすると我々は試されているのかもしれない。それまで信じていたリアリティが単に通念に過ぎないと新しい科学にバッサリ切り落とされ、我々の意識や思考は新しい段階に引き上げられる。今回の事件は、そんな意識の変化を突きつけられているような、そんな予感をどこかに漂わせているようだった。
◇
はて、タイマーに失敗したのだろうか?
昨今のアニメは、物語の中心へ主人公を強引でしかも速やか引きずり込もうとする。多くは少年や少女が謎めいた組織の闘争へと飲み
だが『ダンス・イン・ザ・ヴァンパイアバンド』はそれとは違う趣向をもって物語をスタートさせた。『ダンス・イン・ザ・ヴァンパイアバンド』の第1話はキャラクターの紹介をしていないし、物語の背景も解説していない。ある意味、第1話を投げ棄てたのであって、見る者の意欲と理解を煙に巻き翻弄したのだ。
多くのアニメ作品において、主人公達が属する小社会とそれ以外の大きな社会は奇妙に乖離したまま進行される。主人公の少年少女たちがいかに街を破壊し、水道電気を含むあらゆる公共機関を麻痺させても、警察やマスコミといったものは一切介入してこない。そもそも
最近のアニメではそこそこに周辺となる風景もしっかり描かれるが、
だが『ダンス・イン・ザ・ヴァンパイアバンド』では第1話をすべてあるテレビ番組の収録風景に割り当てられた。これはすでに、その物語世界が周辺社会と関連を持ち、影響を与え合う関係であることを示唆している。
もっとも、第2話に入ると急に社会規模が縮小され、物語と社会が分離した作品に変わってしまう可能性もあるが。
いずれにしても、どこであれ他国領土内に独自の国家を作るわけである。社会が関わってくるのはある意味、必然の展開であると言える。だからあえて、『ダンス・イン・ザ・ヴァンパイアバンド』は現代社会
『ダンス・イン・ザ・ヴァンパイアバンド』は最近のアニメに対してどんなアンチテーゼを主張するのか。作品の質も物語の性質も平均化し、異端的なものをなくしてしまった現代のアニメに対し、どこまで違いを示せるのか。それがアニメ全体の傾向にどんな影響を与えられるのか。あるいは『ダンス・イン・ザ・ヴァンパイアバンド』はそこまでの力を持ちえるのか。しばらく静観していく必要がありそうだ。
◇
#01 プロムナイト
#01 プロムナイト
取材班はスタジオを抜け出して、大慌てで怪物の後を追跡した。いや、怪物ではなく平井星一だ。生放送中の番組、アストライアの天秤に出演する俳優の1人のはずだった。だが今や台本上の計画は完全に崩壊した。取材班は現在進行形で起こってい事件に対して、カメラを片手にただただ追跡し、撮影し続けていた。
取材班が向った先はTBS社屋の屋上だった。照明の準備もなく、カメラの映像がナイトゴーグルのように暗い緑色に浮かび上がった。カメラの映像の中で陰影が淡く浮かび、夜空に浮かぶ月がひどく大きく主張して見えた。
そんな月を背にして、怪物へと変化した平井星一が立っていた。全身は爬虫類のような厚い皮に覆われ、背骨のラインに合わせて太い尻尾が伸び、頭はカメレオンのように歪に膨らんだものを乗せていた。
「先だっては部下が失礼をした。今宵は一部の隙もなく、貴様を滅ぼそう」
カメレオンの怪物と対峙するように長身の男が立ちはだかった。
だがそこに何者かが押し留めた。尊大そうな言い方に対して、その声は驚くほどあどけない。
取材班のカメラはただちに声がした方向を振り向いた。するとそこに、少女が立っていた。長い金髪を両側に振り分けている。端整な顔、
我々はただちに少女の正体について思い当たった。収録スタジオでしつこく専門家に食い下がったルーマニア出身の少女だ。
あの時は見た目相応の少女に思えたのだが――今の彼女は明らか
「ここはわらわが始末をつける。よいな」
少女は男達の側を横切った。男達は主君にするように恭しく頭を下げ、従った。
少女が軽く飛んだ。いや、僅か反動にかかわらず、少女は重力に逆
「フン。こんな茶番で炙り出せるなら儲けものと思っていたが、まさかこれほど近くに潜んでいたとはな。まっことこの世は面白い。そうは思わぬか? 下衆」
少女はカメレオンの怪物を前にして少しも怯えを見せず、挑発するように嘲った。
カメレオンの怪物は何も言い返さなかった。
少女は不敵に笑い、軽蔑するような視線をカメレオンの怪物に向けた。
「黙れ!」
しかし怪物は、少女の直前で静止した。怪物の爪先は少女を捕える直前で止まっていた。対する少女は、少しも驚いた様子を見せず、じっと怪物の爪と怪物自身を見ていた。
「お、お前は何だ……」
カメレオンの怪物が動揺した声を上げた。
カメレオンの全身がふるふると金縛りにあったように痙攣していた。
少女――ミナの声に少女とは思えない鬼気迫るものが宿った。同時に、その目が真っ赤に輝きだす。
「いや……だ……」
カメレオンの怪物はそのままふらふらと後ろに下がり、奈落へと落ちていった。
社屋の屋上に、少女が1人だけで残された。頭の両側に振り分けら
その声は美しく、闇の隅々まで突き通っていくようだった。
「あなたがヴァンパイアの王? 本当に?」
疑問の声を上げたのは、収録スタジオで吸血鬼の存在に懐疑的な
「疑うのか? ならばお前の血を吸ってやろうか? 我らは闇の血族。夜の帳に人の歴史の影に潜みし者。じゃが、それもこれまで」
ミナは脅しかけるように、頬に付いた血を指で拭き取り、ぺろりと舌で舐めた。そのちろりと見えた舌が、思いがけず官能的な匂いを放って
「な、なぜ……?」
その疑問に、少女はすっと手を上げて、左向うの海岸を指差した。
「見えるか? 東京05埋立地。あのはるかなる“バンド”が。わらわはあの地に我ら闇の血族の王国を、ヴァンパイアバンドを設立する。……さあ、われわと踊ろう」
作品データ
監督:新房昭之 原作:環望
シリーズ構成:吉野弘幸 キャラクターデザイン・総作画監督:紺野直幸
シリーズディレクター:園田雅裕 デザインワークス:MEIMU 小林徳光
美術監督:東厚治 色彩設計:西表美智代 編集:関一彦
撮影監督:藤田智史 音響監督:鶴岡陽太 音楽:土橋安騎夫
アニメーション制作:シャフト
出演:悠木碧 中村悠一 斉藤千和 甲斐田裕子
〇 伊藤静 小林ゆう 喜多村英梨 渡辺明乃
〇 谷井あすか 中井譲治 環望