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■2010/01/15 (Fri)
シリーズアニメ■
2月27日~3月4日 真つ赤点
ベッド脇の棚で目覚まし時計がリンリンと鳴った。寝ぼけた腕をふらふらと伸ばす。
カチリッ。
ゆのはベッドの外に足を投げ出して、ふわわと背伸びした。窓から気持ちいいぬくもりが床に落ちている。今日もいい天気。いい朝だ。
ゆのは朝食を済ませて制服を着て学校へ行く準備をした。
8時30分。そろそろ部屋を出なくちゃね。
でもその時、思わず食器棚をひっくり返してしまった。皿のいくつかが転げ落ちてガッチャーンと派手な音を立てた。
「うのっち、どうした~」
ドアをノックして宮子の声がした。
えっと、どうしよう。お皿、じゃなくて、宮子。
ゆのは玄関のドアをそうっと開けて顔を出した。
「宮ちゃん、ごめん。学校先に行って」
ゆのは申し訳なく、宮子を上目遣いにした。宮子がうのの肩越しに部屋の中を覗きこむ。
「ありゃー」
宮子がやっちゃったという顔をした。
「どうしたの? すごい音がしたけど」
沙英がヒロを連れて通路を歩いてきた。
「大丈夫」
ヒロは少し心配顔だった。
「沙英さん、ヒロさん、すみません」
ゆのは申し訳なくなってしゅんと頭を下げた。
ヒロは部屋の中を覗きこんで、あっと声をあげた。
「これは派手にやったね」
沙英はヒロと並んで部屋を覗きこんでほおーと声を上げた。
さっそく皆で割れたお皿の後始末をした。ガラスの破片を集めてゴミ袋に入れる。宮子がぺったんぺったんとガムテープで細かな破片を拾い集めていた。
すぐに作業も終わり、宮子と沙英がゴミ袋の口をがさがさと閉じた。
「こういうこと、急いでいるときに限ってやったちゃうんだよね」
沙英がゴム袋の口を閉じながらゆのに笑いかけた。
「いえ、冷蔵庫の下に黒いものが見えた気がして……」
「え!」
沙英の顔が白く強張った。
「見間違いだったんですけど、びっくりしちゃって」
「ああ、あるある」
沙英はほっとした顔で、うんうんと頷いた。
「これくらいでいいんじゃない?」
ヒロがゆのと沙英の対話にふっと入ってきて2人の顔を交互に見た。
「すみません。ありがとうございます」
ゆのは改めて皆にありがとうとお辞儀した。
ふと開けたままになっていた窓から風が流れ込んできた。カーテンがふわりとめくれあがる。
ゆのは窓が開けたままだ、と気付いて振り返った。とそこで、カーテンの脇に置かれた目覚まし時計に気付いた。
――8時40分。
「あ! 時間だ うわあ~!」
ゆのはびっくりして悲鳴を上げた。
「まだ大丈夫」
でも宮子は、得意げに微笑んでいた。
「行ける!」
全員で部屋から飛び出した。通路を真直ぐに走るその先には、すぐ向うにあるように学校の校舎が見えた。
校舎の時計は8時45分を指している。でも間に合う。だって、学校は本当に目の前にあるんだから。
◇
独特のぬくもりを持ったパステルカラー。線の感触はやわらかく、4人の少女を温かみのタッチで描き出している。
物語には一貫したテーマはなく、ギャグもそれほど際立った面白さがあるわけではない。ただただ少女の静かなぬくもりに溢れた日常の1コマ1コマをすくい上げるように描いている。
エピソードや場面設計などに一貫性はないものの、映像の流れはテンポよく、エピソードごとのブツ切れ感はない。モンタージュ的なイメージが続き、5分おきに展開を中断させるアイキャッチが挿入させるが、それが作品の流れ止めるわけではなくむしろリズム感を作り出している。
点描は特に記号的に描かれる。作品独自のパターンを作り出し、温かみのある淡いパステルカラーを重ねられている。デザイン的な感性を前面的に押し出す場面だ。
『ひだまりスケッチ×☆☆☆』の映像は立体的な演技空間の構築をあえて放棄されている。画面の作りは徹底して平面的で、背景のパースティクティブを削ぎ落とし、キャラクターを手前に引き寄せ、表情の動きをクローズアップしている。
動きの少ない平面的なカットが反復されるが、どのカットにもこだわりのあるデザイン的な装飾が施される。漫画トーンが使用されたり、実際的な演技空間を無視した人物の配置、3頭身に縮小される人物。しばしば人物の背景だけ抜き取られ、白く溶け込むドットトーンが配置されている。
時に画像の作りは象徴的なイメージになる。シンプルな色彩と記号的なモンタージュの羅列。いかにも可愛らしい空間にとどまらず、デザイナーの前衛的な感性があちこちに刻印されている。
背景が描かれる場面には実写や実写をトレースした小物が置かれている。実写の配置や張り込みが作品のリアリティや密度を高めたりはしないし、作り手の目論みはそこにない。あくまでも背景にある様々な雑多なものの1つ、というノイズを取り込むのが目的だろう。それも作家が構想した、作品全体のカラーを決めるデザインの1つに過ぎない。
止め絵が多い一方で、止め絵をトラックバック・アップする場面が多い。新房昭之監督のスタイルだ。今期も『ダンス・イン・ザ・ヴァンパイアバンド』と2作品同時監督だ。この頃オーバーワークが目立ち、感心しない。どちらか一方が、時に両方が処理しきれずクオリティを落としてしまっている。
『ひだまりスケッチ×☆☆☆』は4人の少女の日常を、暖かな視線で描いた作品だ。「ひだまり荘」という場所を中心に、うつろいゆく毎日を丹念に捉えていく。第3期になる今回のシリーズにおいて、2人の新入生が加わる。新たな人物を加え、物語は新たな局面に入る――というわけではない。
ただ日常が進行していき、ゆのを取り囲む時間が一歩前へと進んでいくだけだ。2人の新入生はいわばその過程で起きたできごとの1つに過ぎない。
まるで永遠に続くかと思われた静けさ、小波のように起こる事件の一つ一つも、いつかはひだまり荘を過ぎ去っていくのだ。この物語はその一幕を描いたに過ぎない。
作品データ
監督:新房昭之 原作:蒼樹うめ
シリーズ構成:長谷川菜穂子 与口奈津江 キャラクターデザイン・総作画監督:伊藤良明
美術監督:飯島寿治 編集:関一彦
音響監督:亀山俊樹 音楽:菊谷知樹
アニメーション制作:シャフト
出演:阿澄佳奈 水橋かおり 後藤邑子 松来未祐
〇 釘宮理恵 福圓美里 沢城みゆき チョー
〇 蒼樹うめ 原田ひとみ 小早川千明
〇 後藤沙緒里 金光宣明 箭内仁 樋口智透
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