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■2009/04/13 (Mon)
ゲール一族の村は、しんと静まり返っていた。森のざわめきが、際立って聞こえてきた。
リアンノンは、不安に心をかき乱されるのを感じて、窓から月を仰いだ。
43d356c4.jpg「赤星様……。私たちゲール族の守星様。私に、勇気を下さい。この危機を乗り切れる強い意志を。何が起ころうとも、恐れず成し遂げる勇気を与えてください」
リアンノンは深く瞑想して、心のざわめきを抑えつけた。
それから立ち上がり、窓を閉じる。部屋のなかに射して64de458c.jpgいた月の光が失われて、部屋は真っ暗闇に沈んだ。
間もなく、村に何かがやってきた。ざっざっと訓練された靴の音。森のざわめきが強くなり、集団の気配が迫った。
気配の数は、圧倒的に多い。村ぜんたいを包み込むほどの軍団だった。
「我は神聖帝国首席司祭ドルクウだ。蛮族どもよ、心して聞くが良い! この村はたった今から我ら帝国の支配下に入った。意義のある者は進み出るが良い! すべては互いの剣と力によって決定されよう!」
老人の声だが堂々としていて、どこかに風格を漂わせるものがあった。
7394e25c.jpg同時に、ドルクウ老人の手下たちが村を蹂躙した。家々の扉を蹴り破り、窓や陶器が割れる音が周囲を満たした。
リアンノンは充分な間を計らって、扉を開けた。
村は武装された兵士たちに取り囲まれていた。だがリアンノンは決して戸惑いを見せず、意思を強く持って、119e8167.jpgそれでいて静かに、ドルクウ老人の元へ進んだ。
ドルクウはすぐにリアンノンに気付いて、にやりと顔をゆがめた。
「エリンの巫女だな。今までよく隠れてきたものだな。伝説の古代王国、アルビオンの後継者。妖精王プィルの末裔よ!」
ドルクウは傲慢に持っている杖を、リアンノンに突きつけた。
リアンノンは静かに呼吸して、空を仰いだ。もう一度、月星様に勇気を乞うために。
786df6d3.jpg原作はアダルトゲームだ。そういうわけなのか、少女の描写にはこだわりがあるようだ(尤も、アダルトにオリジナルはありはしないが)。物語前半は、ほとんどがリアンノンの美しいクローズアップで占められてた。



d40a139f.jpg静かな村に、邪悪な意思を持った軍団が突然迫り、エリンの巫女と呼ばれる美少女が連れ去られてしまう。
アニメ『ティアーズ・トウ・ティアラ』は北欧神話から着想を得たファンタジー作品だ。
だがその構築方法は、いかにも日本のアニメらしいアレンジが加えられている。
26fd3d4d.jpg自然の風景は観察による努力が感じられないし、村の風景や遺跡の描写も、現実的な質感を感じさせない。
世界観に堅牢なパースティクティブはなく、ドラマの中心は極端にキャラクターたちに偏重している。
ただキャラクターたちはどれも美しく描かれている。端整な容姿に、強い眼差し。可憐なる衣装。
『ティアーズ・トウ・ティアラ』がキャラクターを中心にしたドラマであることがよくわかる。
d05d5ee7.jpgキャラクターは美しく描かれているが、やはりファンタジーは風景をしっかり描くべきだろう。キャラクターを中心だけに偏ると、ただのコスプレアニメにしかならない。ファンタジーに説得力を持たせる方法は、学問以外にない。


物語は直線的に、滑り落ちるように進行する。
邪な企みに、怪しげな儀式に捧げられる美少女。それを救い出そうと戦う青年も、やはり美しい顔立ちをしている。
物語の起伏は少ないし、25分のアニメの中で消化されたプロットは短い。
だが、全体を通して重厚さで満ち溢れ、キャラクターたちが立体的なドラマを作り出している。後半における活劇への変化を、うまく演出している。
だが物語は、何かが起きそうな気配だけを残して途切れ、結末を次回に持ち越す。
大きなドラマへの予感を残しながら……。

作品データ
監督:小林智樹 原作:AQUAPLUS
ストーリー原案・キャラクター原案:まるいたけし キャラクター原案:甘露樹
キャラクターデザイン:中田正彦 プロップデザイン:池上太郎
美術監督:保木いずみ 色彩設計:佐藤美由紀 特殊効果:谷口久美子
撮影監督:設楽希 音楽:服部隆之 脚本:町田堂子
アニメーション制作:WHITE FOX
出演:大川透 石井真 後藤邑子 橘見尚己 四宮豪
石上裕一 逢坂力 秋本羊介 小形満



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■2009/04/12 (Sun)
279c030f.jpg桜も満開の春。
明日、私立洛芦和高校の入学式だというのに、夏目智春は引越しの荷解きをしていた。
母親が再婚したのを切っ掛けに、実家を追い出されたのだ。そんなわけで、今日から鳴桜邸と呼ばれる屋敷で一人暮らしだった。
0a7fdfca.jpgでも荷物は一杯だし、手伝いに来たはずの友人の樋口琢磨はちっとも協力的じゃない。古ぼけた屋敷に夢中になって、「幽霊が出るかも!」と探検して回っていた。
「可愛い幽霊だったら、もうここにいるのにね」
ふと、頭上から少女が声を掛けた。
1c294cb7.jpg智春が見上げると、桜が散る空に、少女が一人浮かんでいた。体の色が薄く、向うの背景が透けている。
この少女は水無神操緒。智春に取り憑いている、一応、幽霊だった。
ふと、屋敷の中で気配がした。樋口が何かやらかしたのだろうか。
一階の応接間へいくと、暖炉の前に見覚えのなf4d4810a.jpgいトランクが一つ置かれていた。
「智、こんな高そうなの、持っていた?」
操緒がトランクを覗き込んで、首を傾げた。
「それはあなた達のものよ。君、直貴さんの弟君ね」
えっと振り向くと、応接間に設置されていたソファにくつ361e462e.jpgろいでる女がいた。
夏目直貴。智春の兄で、今、アフリカに留学中の兄だった。
「いえ。あの、兄貴の?」
知り合いだろうな。智春はおずおずと女に尋ねた。
女は黒い短く髪を切りそろえ、赤いフレームの眼鏡をかけている。年0078c93c.jpg齢不詳な感じだが、とにかく大人の女性に思えた。
「直貴さんから頼まれたの。確かに渡したわ。それ、間違いなく、あなた“たち”のものだから。絶対、手放しては駄目よ」
女はそれだけ言い残すと、颯爽と屋敷から出て行った。

結局、引越しの荷解きは終わらないまま、日が暮れてしまった。
智春は、昼間の女を気にしながら、ベッドに横たわる。目を開けると、すぐ側を操緒がふわふわと浮かんでいた。
操緒は薄い寝間着を一つ羽織っただけの姿で、ゆったりと寝息を立てていた。
ふと智春は顔が熱くなって、目を逸らした。
そんな時だ。沈黙を破るように、何かが破裂する音が聞こえた。
泥棒か。智春ははっとベッドから飛び起き、一階へと降りていった。客間に飛び込むと、窓が割れているのが見えた。だが、派手に打ち破られたのではなかった。窓はきれいな円の形に削り取られていた。
なんだろう、これ。
思わず見入っているところに、気配が迫った。智春は首をぐっと掴まれ、壁に押し付けられた。
8cea25ec.jpg「アスラ・マキーナはどこ?」
少女だった。巫女装束のような衣装を身にまとった少女だった。
「イクストラクタを渡してください。あれは、危険な存在です!」
少女は強いまなざしで、智春を睨みつけた。智春は首を絞められて答えられず、少女の顔を見詰めかえした。少女は右と左の目の色が違っていた。
そこに、操緒が天井から姿を現して、駆けつけてきた。
操緒の姿に、巫女服の少女ははっと振り向く。
「射影体!」
少女は操緒の姿の驚愕して、その場から逃げ去っていく。

夜も明け、いよいよ高校の入学式だ。
a240a1c0.jpg学校に行くと、なぜか幽霊の操緒は私立洛芦和高校を身にまとっていた。
「その制服どこからもって来たの?」
「内緒。可愛いよね。ここの制服。いつも同じ服より、オシャレな幽霊のほうがいいでしょ」
操緒は得意げに微笑んで、空中でくるっと回ってみせた。
まあ、それもそうか。智春は深く考えずに、納得することにした。
間もなく、女好きの樋口琢磨の情報網で、昨日の二人の女の正体が明らかになった。
黒い髪の女は、同じ高校の2年生。名前は黒崎朱浬。科学部部長代理を務めていてる。
もう一人の巫女服の少女は、なんと同じクラスの嵩月奏。
夏目智春の周囲に、不穏な影が漂い満ち始める。
非日常の物語は、すでに始まっていた。

□■□■□

fd971280.jpg『アスラクライン』の物語は、現実世界を舞台としているが、完全なファンタジーである。
主人公の夏目智春は、親やその周辺社会から隔絶された屋敷に暮らし、現実世界との接点を持っていない。
夏目智春にとっての日常は、高校での生活ということになる27b7da82.jpgが、この学園生活という空間自体が、完全なる異空間である。
特殊なデザインの制服に、すべての登場人物はこの高校の在校生徒だ。
つまり、物語がこの高校の周辺から飛躍する展開はなく、すべてが高校生活の内部に集約され、完結するように作られているのだ。
8fb53b49.jpg夏目智春の在籍は「1年7組」である。この少子化の時代に、どうして「7組」なんて設定にしてしまったのだろう。現代の時代の流れを読み違えたのだろうか。



bf5d96e2.jpgもっとも、閉鎖された高校ですべてが集約されるファンタジー・アニメは、日本のアニメにおいては定番のジャンルである。
キャラクターや設定は独創的に練りこまれているように見えるが、アニメのジャンルにおいては平凡だ。
人物の設定、配置方法、学園風景……何もかもが、既視感で満たされている。
『アスラクライン』独自による、飛躍やイマジナリィはどこにも発見できない。
前時代的というべき設定や作法を、インデックスにして列挙したような作品である。
「個性がない」とは言わず、古典に倣ったアニメと見るべきかもしれない。

作品データ
監督:草川啓造 原作:三雲岳斗 脚本:小出克彦
キャラクター原案:和狸ナオ キャラクターデザイン:小森篤
メカデザイン:福島秀機 メカ総作監:小田裕康
美術監督:海津利子 美術設定:青木薫 色彩設計:甲斐けいこ
撮影監督:北岡正 音楽:田尻光隆
アニメーション制作:セブン・アークス 
出演:入野自由 戸松遥 野中藍 田中理恵
   下野紘 豊崎愛生 森久保祥太郎 こやまきみこ
   高橋研二 日笠陽子



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■2009/04/11 (Sat)
adfd4817.jpg狭い独房の中は暗く、じめっとした雨の音で満ちていた。
少女は1107番と書かれた囚人服を脱ぎ捨てて、セーラー服に着替えた。2年ぶりに身につける女子高時代の制服は、今も体にぴったりだった。
「1107番、出ろ!」
1479590c.jpg看守の命令する声が聞こえた。
少女は両手に手錠をかけられて、独房を後にした。
すると、沈黙していた通路が一斉にざわめき始めた。ざわめきはすぐに「國子」と少女を呼ぶ合唱に変わった。
こうなるともう看守がいくらとどめようと合唱はおさまらない。國子は7eab3748.jpg合唱の花道を背中に受けながら、悠然と通路を歩いていった。
間もなく、目の前に出口に繋がる扉が見えた。
そこで、國子は一度足を止めた。
「みんな!」
國子が声を変えると、ざわめきは瞬時に止まった。
「北条國子は、本日出所します!」
國子が宣言すると、拍手喝采が監獄内をいっぱいに満たした。
cdc1afa8.jpg243f33b6.jpg67f0a3a2.jpg




1b489247.jpgアニメ『シャングリ・ラ』は少女更正センターから物語が始まるが、SF物語である。
舞台は、近未来の東京。
京都議定書で決定されたCO2削減目標達成のために、東京都市は機能が完全停止するまでに森林化。
高層ビル群はジャングルに飲み込まれ、繁華街は水没してしまった。
かつての東京の住人は、空中都市《アトラス》へと移ったが、ほとんどの人はジャングルとスラムに残され、独自に地域社会を構築していった。
d1c0bd81.jpgアニメーションは、パースを正確に引くだけでも見違えて説得力のある世界観を描き出すとことができる。あとはとにかく線を引くだけだ。天才的な美意識のない者は、努力で成功する以外にない。



32c14a74.jpg『シャングリ・ラ』の物語は少女更正センターから始まり、水路から見上げたジャングル化した東京都市を捉え、その向うのスラムの風景を見せる。
世界の変化を台詞に頼らず映像で語り、見る者を自然な感性のまま条理世界からSF的世界へと誘おうとしてる。
崩壊したSF的風景は、ありがちな退廃のビジョンだが、街の風景や住人に暗い影はない。
むしろ活気に満ちており、お祭り的非日常的空気が全体に溢れている。
7dc5e618.jpg経済原理が世界の姿そのものが変化させてしまう。新たな世紀末ビジョンは、科学文明ではなく、市場原理の結果として描かれる。スラム化した地域社会はディオニソス的異空間が描かれる。アニメでは、しばしばこの状態が人間主義の理想として描かれる


いかにもデザイナーが奔放にイメージを膨らませたように見えるが、底辺の部分では経済サスペンスの様式が採用されている。
炭素税取引をはじめとする経済ミステリーが世界観の底流に流れ、ビジュアルの背景を支えている。
もちろん、そこにもアニメーション的なケレンが張り巡らされている。
世界の頂点に立つ黒幕は、むっさい親父どもではなく、可憐な乙女達だ。
主人公の少女を含めると、『シャングリ・ラ』を動かしているのは、美しい女性たちだといえる。
8845f98e.jpgケレン味に満ちた世界観だが、ドラマの流れは弱い。アクションはどのカットも重量感不足。後半のクライマックスも、急激なドラマの流れを作り出せていない。デザインは素晴らしいが、ゴンゾーの美点と弱点が今回も現れてしまっている。


SF的虚構世界は、常に緊張が孕み、アクションの切っ掛けを作ろうとする。
少女國子の周囲には何かしら陰謀の影が暗躍し、時に実力行使を下そうと刺客が送り込まれる。
國子の姿は弱々しい少女の姿で描かれている。
39726801.jpgあまりにも細く、頼りなげな少女らしい身体。かわいらしい丸顔の容姿に、美しい白い肌。短いスカートから伸びる脚はスラリと長く、フェテッシュな感性をそそる。
だがアクションが始まると、少女は重力を無視して跳躍し、どこまでも自由に、奔放に駆け回る。
堅牢に構築された世界観と、跳躍したアクションが高次元に融合している。
日本アニメーションらしいケレンとフェテッシュが同居する作品だ。


作品データ
監督:別所誠人 原作:池上永一
キャラクターデザイン:村田蓮爾 デザインワークス:草薙琢仁 飯田馬之介
アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督:石井久美
メカニカルデザイン:佐山善則 片貝文洋 川原智弘 美術デザイン:佐藤肇
美術監督:池田繁美 色彩設計:三笠修
撮影監督:佐藤勝史 編集:重村建吾
音楽:黒石ひとみ 脚本:大野木寛 題字・オープニング絵コンテ:樋口真嗣
アニメーション制作:GONZO
出演:高橋美佳子 井口裕香 有賀由衣 石川真
   石塚理恵 京田尚子 堀内賢雄 五十嵐麗
   櫻井孝宏 平川大輔 中村悠一 福山潤
   鈴森勘司 柿原徹也



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■2009/04/10 (Fri)
#1 廃部 作品解説

廊下を歩いていると、後ろからどたどたと誰かが騒がしく走ってきた。
振り向かなくてもわかる。田井中律だな、と思って振り返った。
「澪! クラブ見学行こうぜ。軽音部だよ、軽音部!」
律は物凄いテンションで飛びついてきた。
1f2602ca.jpgこういう時のあしらい方は心得ている。私は、すっと持っていたプリントを律に差し出した。
「私、文芸部に入るつもりだから」
「え?」
入部届けだ。もう“秋山澪”のサインも入っている。悪いけど律、そろそろ違う道、行かせてもらうから。
律は茫然と沈黙して、私から入部届けを受け取った。
で、ビリッと破いてしまった。
「なにすんc72fcb7a.jpgだよ、律!」
律の突飛な行動はいつもだ。でも、これは酷い。でも律は私の非難など聞かず、強引に私の手を引っ張って走り始めた。
その軽音部が、まさに廃部寸前だと山中先生から聞かされたのは、その直後のことだった。
それでも律は諦めるつもりはなかった。
放課後、誰もいない音楽室へ向かい、律は篭城でもするみたいに黒板の前で仁王立ちした。
4b707128.jpg「で、どうするの?」
「入部希望者を待つ!」
律は腕組をして、勢いよく宣言した。どこからこんな気合が出てくるのか、わからない。
「待つの?」
「待つ!」
つまり、私を道連れに、ね。しょうがない。律の我儘だから、付き合うか。
fd458d8c.jpgやがて日が傾き始め、窓から差し込む黄昏の色も濃くなってきた。賑やかだった運動部の声も、遠ざかっていく。
「帰ろっか」
私は律に気遣うように声をかけた。律は始めの勢いをすっかり失って項垂れていた。
そんな時、奇跡のように音楽室の扉が開いた。
「あの、見学したい10e9c24a.jpgんですけど」
入った来たのは、長い金髪の、大人しいそうな女の子だった。
律はただちに女の子の前まで走って、その手を握った。というか、むんずと掴んだ。
「軽音部に!」
「いえ、合唱部に」
部屋を間違えたのね。
「今、部員が少なくなって。お願いします。後悔はさせません!」
律はそれでも物凄い勢いでまくし立てた。
「そんな強引な勧誘は迷惑だよ。私、一人で帰るから」
私は律の肩を掴んで、止めさせた。悪いけど、もう付き合ってられない。私は律に冷たく言って、帰る振りをした。
8d9f5c05.jpg「澪! あの時の、あの時の約束は嘘だったのか。私がドラムで、澪がベースで、絶対、絶対一緒にバンド組もうって、約束したじゃないか。二人でライブに行ったあの日は、嘘だったのか!」
律は目にいっぱい涙を溜めて、大袈裟な身振りを交えながら訴えた。
私はあきれ果ててしまって、すぐには声がでなかった。
「その回想が嘘だ」
0e6271d9.jpg「あれ? そうだっけ?」
律はよく思い出を捏造する。
ライブになんて、もちろん行っていない。律に付き合わされてライブのビデオを一緒に見ただけだ。それで感激した律が「これやろ、これ!」と一人で盛り上がっただけだ。
すると、金髪の女の子が、くっくっと笑い声を漏らし始めるた。振り向くと、何が面白かったのか、涙を浮かべるくらい女の子は笑っていた。
「なんだか楽しそうですね。キーボードくらいしかできませんけど、私でよければ、入部させてください。私、琴吹紬です」
信じられない人だ。今ので、入ろうって思ったのか。
「ありがとう。これであと一人はいったら、クラブ再開だね!」
律がまた感激の声をあげた。いや、ちょっと待て。
「私ももう人数にはいっているのね」
もう諦めた。

eeaed80a.jpg校舎の前に咲く桜も、すっかり葉桜になってしまった。冷たい空気が暖かい空気と混じり始めて、心地よい風が巡っている。
考えことをするには、ちょうどいい温もりだった。
私は平沢唯。高校1年生。窓際の席で、うんうんと唸っているところだった。机の上には“入部届け”。まだ何も書いてなくて、真っ白けだった。
「何を唸ってるの、唯?」
a80b093b.jpg赤い縁の眼鏡にショートヘアの女の子が近付いてきた。この子は、真鍋和。私とは中学生時代からの幼馴染み。
「のどかちゃん。実は、どの部に入ろうか迷ってて……」
「え! まだ決めてなかったの。もう学校始まってから2週間も経ってるよ!」
和ちゃんは、びっくりしたように声をあげた。
「でもでも、私、運動音痴だし、文科系クラブもよくわかんないし」
私はいい考えが浮かばず、声をすぼませた。
和ちゃんは、呆れたようにため息をついて項垂れた。
「こうやって、ニートが出来上がっていくのね」
「部活やってないだけで、ニート!」
私はびっくりしてのけぞった。ニート。あの世間から非難されて、社会への介入すら許されないニートに!
「振り返ってみると、唯って、今まで何の部活もやってこなかったもんね」
和ちゃんは思い出すように窓の外を見詰めた。桜はもう散りかけていたけど、空にはまだ桃色が混じっていた。
「……何かしなくちゃいけない気がするけど、いったい何をすればいいんだろう」
私は困り果てて入部届けに目を落とした。私には、そもそも何ができるんだろう?
33ac5ef0.jpg先生に呼び出されているのを思い出して、職員室へ行った。
「山中先生」
音楽の山中さわ子先生に声をかけた。その後で、山中先生が二人の女の子と話しこんでいるのに気付いた。
「はい、今行くわね。ごめんね。次、音楽の授業があるから。頑張ってね、軽音楽部」
山中先生は二人の女の子に断って、席を立っ762c4393.jpgた。
二人の女の子は、何か困惑したような目で山中先生を見ていた。私は二人の女の子を気にしつつ、教室を後にした。
長い廊下を横切り、音楽室への階段を登る。
「あの、さっき話していた“けいおんぶ”って?」
「軽音部?」
山中先生が、私の危うげな発音を正した。
「って、なんですか?」
「軽い音楽って書いて、軽音よ」
「軽い、音楽?」
「そう。軽い音楽」
軽い……。それって、もしかして簡単な音楽のこと。私でも、できるのかな?
5b029f49.jpg6c110ca9.jpgdf901624.jpg






83660b14.jpgという過程を経て、軽音部を中心とした青春物語が始まる。
音楽を題材にされたアニメ作品は数多いが『けいおん!』はもっと日常的な部分に接地している。
廃部寸前のゆるい文系部に、集ってくる珍メンバーたち。
そういった展開はアニメ・コミックにおいては定番であり、もっともありきたりな類型の一つだ。
『けいおん!』を魅力的にさせているのは、キャラクターであり、周辺を覆う背景である。
キャラクターは独特の柔らかさで描かれ、動きは細かく、声優の声が入ると、線画のキャラクターが呼吸しているようにすら感じる。
背景描写はつまびらかで、実景をよく観察され、作品の中に再現されている。
細かく描かれた背景美術が、キャラクター達の日常空間に現実味を与えている。
京都アニメーションらしいキャラクター、作品構造が現れた作品だ。
続きが楽しみな作品だ。



作品データ
監督:山田尚子 原作:かきふらい
キャラクターデザイン・総作画監督:堀口悠紀子 脚本:吉田玲子
音楽プロデューサー:小森茂生 音楽:百石元 音響監督:鶴岡陽太
楽器設定・楽器作監:高橋博行 編集:重村健吾
美術:田村せいき 色彩設計:竹田明代
アニメーション制作:京都アニメーション
出演:豊崎愛生 日笠陽子 佐藤聡美 寿美菜子
真田アサミ 藤東知夏 米澤円



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■2009/04/09 (Thu)
ようやく作戦会議が終わった。ダーケンさんは自警団の男たちに指示を与えて部屋を出て行った。
私は男達の仕事の後片付けをしなくちゃいけないから、スージー・エヴァンスと部屋に残った。
2341be51.jpg状況は思わしくない。
ベルリープの森で、帝国軍の姿が目撃されたのだ。もちろん正規軍への援助を申請したけど、24時間は軍隊を動かせない、というのが正規軍の回答だった。
つまり、命令実行を遅らせるのを口実に、この街を見捨てる。街を守れるのは、私たち自警団だけだった。
6e36f845.jpg「ねえ、アリシア。私たちも撃たれるの?」
仕事を始めようとするとスージーが私に声をかけた。
「大丈夫よ。撃たれる前に撃てばいいの」
「そんな、できないわ。人を撃つなんて!」
スージーは悲鳴のように声を奮わせた。スージーの目は、すでに涙が溢れかけている。
121e375c.jpgそんな表情をされると、私も恐い気持ちになった。撃てない、かもしれない。
仕事をしなくちゃいけない。私は気分を変えようと窓の外を振り返った。
すると、向いの倉庫の上を、何かがもぞもぞ動いているのに気付いた。
ff2fdc33.jpg私ははっとして、窓に飛びついた。
「に、逃げた!」
実はさっき、川辺でスパイを逮捕したのだ。ウェルキン・ギュンダーと名乗る男で、いろいろと立て込んでいるから、とりあえず倉庫に閉じ込めておいたのだ。
それが、今や倉庫を脱出して、屋根を伝って脱出しようとしていた。

私は銃を手に屋敷を飛び出すと、すぐにウェルキンの後を追って駆け出した。
屋敷を出たところで、ウェルキンが走っているのを見つけた。意外と早い。
「待ちなさい! 止まらないと撃つわよ。本当に撃つわよ」
私は大声で警告を発して、一度足を止めた。銃身を頬につけて標準にウェルキンの背中に収める。
でも、撃てなかった。頭の中に、スージーの言葉が浮かんだ。
私は舌打ちをして、ウェルキンを追って走ることにした。

00ed8cc7.jpgウェルキンはやがて街道を外れ、森の小道へと入っていった。
森に逃げ込むつもりか。と思ったけど、ウェルキンは速度を緩めた。私はようやく、ウェルキンの側まで駆けつけた。銃を向けて威嚇したかったけど、息がすっかり乱れてしまっていた。
405cb616.jpg「どうしたの?」
ウェルキンがまったく別の方向を見ているのに、私は友人みたいに問いかけてしまっていた。
ウェルキンは、無言で自分が見ている方向を指差す。
私は、ウェルキンに警戒しつつ、その方向を振り返った。森の茂みはちょっといったところで終わっていて、草が一杯に茂った斜面が見えた。
なんだろう、と思ったそのとき、斜面の向うから、大地を削り取るような激しい音が聞こえた。続いて見えたのは、帝国軍の旗だった。
もうすべて見なくてもわかる。帝国軍の戦車だ。
私は、体から力が抜け落ちるのを感じた。怯えている。戦争が接近しているのを察して、恐怖を感じていた。
「急ごう。待っている人がいるんだ」
ウェルキンは身を低くしつつ、言葉に深刻なものを込めた。
「待っている人って、いったい誰?」
私はいつの間にかウェルキンに従って、従いていこうとしていた。
「妹だ」
「妹? 誰の? あなたの妹?」
訳がわからない。スパイのくせに、この街の近辺に妹がいるなんて。でも、私は諦めのため息をついた。
e432a5ed.jpg「わかったわ。あなたと話していると訳がわからなくなる。私も一緒に行く。それが条件だからね」
「ありがとう。感謝するよ!」
突然にウェルキンが振り返って、声をあげた。
と、その時、私は直感して振り返った。
「伏せて!」
同時に銃弾が風を切った。私もウェルキンもその8f215234.jpg場に倒れこんだ。敵の銃弾は背後の森を掠めた。
私はすぐに身を起こして、射撃した。だが相手は自分より訓練された軍人だった。私の銃弾は幹を削り取っただけで留まった。
「走って!」
敵の反撃が始まった。容赦のない射撃で、茂みの影に追い詰められる。私とウェルキンは走った。

すぐに森を抜けて草原に出た。草原は穏やかに黄色い花を咲かせて風に揺れている。
背後から、帝国軍兵士が追ってくるのを感じた。
草原を走って抜けると、すぐに街道と合流して、向うに屋敷が立っているのが見えた。私たちは、屋敷に逃げ込もうと走った。
銃声が背後から飛びついた。銃弾は危うく背後を抜けて、屋敷の壁に銃痕を作っていく。私は振り向きざまに反撃した。だが狙いを定めない射撃は、偶然にも敵に命中することはなかった。
「こっちだ! 急いで」
ウェルキンが屋敷の納屋の陰に隠れた。私も納屋の影に飛び込んだ。間一髪、敵の銃撃が納屋の壁を削り取った。硝煙の臭いが強く立ち込め、乾いた空気が灰色に霞んでいった。
963b3583.jpgそっと覗くと、草むらの斜面の向うに、兵士たちが移動しているのがちらちらと見えた。
「入って」
ウェルキンは、勝手知った雰囲気で、納屋の勝手口を見つけ、中に入った。
スパイじゃないのか? 私は訝しみつつ、ウェルキンのb5e54bda.jpg後を追った。
中を入ると、そこは暗い空間だった。窓は少なく、奥に有象無象がいっぱい影を作っていた。
そんな場所に、少女が一人待ち構えていた。
「お兄様!」
少女は感激したふうに、ウェルキンの元へ走った。
「良かった。無事6a5b4195.jpgだったんだな。紹介するよ。妹のイサラだ」
とウェルキンは振り向こうとした。
私は油断なく銃を構えて、二人を威嚇した。
「やっぱり嘘だったのね。妹を迎えに行くなんて。何が妹よ! 彼女はダルクス人じゃない!」
騙されるところだった。やっぱりこの人はスパイだったんだ。面倒にならないうちに、ここで二人を撃たなくちゃ……。
でも、引き金にかかる指が震えた。恐い。撃てない。
突然に、納谷全体がずずずと揺れて、埃が吹き上がった。窓が破られ破片が飛び散る。
攻撃が始まったのだ。私は急な衝撃に、銃を落として尻を突いてしまった。
とっさに、イサラが銃に飛びつく。
しまった!
私もイサラを止めようと飛びついた。
だがイサラは、一瞬早く銃を掴んだ。その銃口が私を振り向く。
が、違った。
1cbde93c.jpgイサラが撃ったのは窓の外を走る帝国軍兵士だった。
緊張が過ぎ去って、私は全身から力が抜けそうだった。ただ茫然と立って、イサラの顔を見詰めていた。
「武器があります。戦いましょう」
一方のイサラの瞳は闘志に燃えて、私に銃を返した。

□■□■□

81ec1747.jpgこの種のファンタジーほど、過剰に書き込んだほうがいい。パースを正確に引き、徹底的にディティールを描きこむ。とにかくしっかり描かないと、ファンタジー世界の重量感は、ただちに空々しい嘘くささにまみれて、崩壊してしまう。


8c20d01b.jpg『戦場のヴァルキュリア』は架空の時代、架空の国家を舞台としたファンタジーだ。
背景には実際の西洋史が置かれ、架空に作られた世界観に一定の重量感を与えている。
だが、描写自体は柔らかい。
色彩は明るいパステル調だし、キャラクターには和紙のような質感が与えられている。
戦争を間近にしているが、登場人物達の顔に暗い影はなく、ひどく朗らかな様子で物語が進行する。
このアニメーションが何を志向し、どこへ向かっていくのか。それらが明らかになるのは、まだまだこれからだろう。

作品データ
監督:山本靖貴 原作:SEGA
脚本:横手美智子 演出:今井一暁 山本靖貴
シリーズ構成:横手美智子 キャラクターデザイン:渡辺敦子
総作画監督:米澤優 中路景子 渡辺敦子
美術監督:谷沢善王 美術設定:塩澤良憲 色彩設計:中島和子
アニメーション制作:A-1 Pictures
出演:千葉進歩 井上麻里奈 桑島法子 戸塚利絵
   石住昭彦 原田晃 進藤尚美 武虎
   日比愛子 池田千草 斉藤貴美子



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