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■2016/04/27 (Wed)
第11章 蛮族の王

前回を読む

 ソフィーは、隣に座っていた男ががくりと首を垂らすのに気付いた。だが、ソフィーは気付いていない振りをした。
 側を見張りの兵士が通り過ぎていく。ソフィーはフードを深く被り、うつむいてやり過ごした。
 兵士が向こうの角を曲がった。ソフィーは隣に座っている男を覗き込んだ。死んでいた。目が半開きになったまま、表情が固まっていた。ソフィーは死体の目を閉じさせて、裏手に運ぶと、横たえさせ、胸の上で手を組ませた。ソフィーは静かに死者を慰める言葉を呟いた。

村人
「ソフィー様、食事です」

 村人が食事を持ってソフィーのもとへやって来る。
 しかしソフィーは笑顔で頭を振った。

ソフィー
「ありがとう。でも、食べたばかりで満腹なんです。ほら、あちらの方に。あの人は食べていませんから」
村人
「……でも」
ソフィー
「私はいいですから。ほら……」

 村人は納得いかない様子だったが、仕方なくソフィーが勧めた人のところへ行った。食事が与えられた人は、ソフィーに深く頭を下げて、食事を口にする。
 そこはセルタの砦だった。
 あの戦いの後、兵士や戦いに関わった民間人、あるいはウァシオ政権に反抗的な態度を取った人達がセルタの砦に移された。堅牢なる砦は、即席の収容所になっていた。ただし、その数があまりにも多いので、多くが砦の中ではなく、砦を取り巻くようにしてうずくまっていた。ソフィーもその1人だった。
 囚人達の扱いは厳しいものだった。囚人達には一切の自由がなく、動くことも喋ることも禁じられ、違反者には鞭打ちが罰だった。食事は数日に一度だけ、家畜の餌のようなものが少し与えられるだけだった。囚人に許されるのは、一日中、何もせずぼんやりとうなだれるだけ。そのうち衰弱死する者が何人も現れる状態だった。
 遠くで悲鳴が上がった。連れて行かれるのだ。みんな声を上げず、自分が指されないように、と心の中で祈ってうずくまった。
 毎日、数人が異端審問に掛けられて処刑されていた。いつかここにいる全員が殺される……わかっていたが誰も反抗せず、反抗する気力もなく、日々を過ごしていた。

村人
「私たちは間違っていたんだ……。セシル王を信じていれば……」
兵士
「いま喋った奴誰だ! 前に出ろ!」

 すぐに兵士が飛びついてくる。

兵士
「お前だな、来い」
ソフィー
「お待ちください。……わ、私です。私が言いました。この人じゃありません。だから、どうかこの人は……」
兵士
「お前……ドルイドだな。おい、ドルイドがいるぞ! ドルイドだ!」

 兵士がソフィーの腕を掴み、仲間達を呼んだ。

村人
「……やめろ。ソフィー様に手を出すな」
村人
「ソフィー様を連れて行くな! ソフィー様を離せ!」

 周囲でうずくまっていた村人達が立ち上がった。その勢いは弱かったが、次第に熱気が伝播して兵士を取り囲む。

兵士
「何だ貴様ら!」

 兵士らが剣を抜いた。
 村人達が兵士に襲いかかった。兵士が村人らを斬る。兵士達が仲間を引き連れてやってきた。ただちに混乱を制圧させようと村人達と戦う。

兵士
「全員この場で処刑だ! 殺してやる!」
ソフィー
「待って! 待ってください! みんな落ち着いて! どうかご容赦を。私1人の命で、この人達を許してください」
村人
「ソフィー様、駄目です」
ソフィー
「私に預けてください。みんなは少しでも生きて。きっと救いがあります」

 村人達はソフィーに言われて、熱を冷ますように引っ込んでいく。

兵士
「ようし、今夜貴様を裁いてやる! こっちに来い!」

 ソフィーが連れて行かれる。村人達はうなだれてソフィーを見送った。
 ソフィーは砦の中へ連れて行かれる。ソフィーが通ると、囚人達がどよめきを浮かべて見送った。立ち上がる者もいたが、見張りの兵士に叩かれて引っ込んだ。
 ソフィーは砦の一番奥に作られた牢屋に入れられた。

ステラ
「ようこそ。ここは貴婦人のために用意された部屋だよ」

 隣の檻に入れられた少女がソフィーに声を掛ける。

ソフィー
「あなたは……」
ステラ
「あなたがソフィーだね。ドルイドの聖女。あなたの前では偽りはなく、一切が明かされる。私の素性も、もうお見通しなんだろう」
ソフィー
「隠里の長、ステラですね。どこかで……」
ステラ
「会うのは初めてだけど、私はあなたをずっと注目していた。隠里で情報収集ばかりやっていたからね。あなたに関する伝説めいた話はいくつも聞いていたし、尊敬していた。いつか話でも1つ……と思っていたけど、まさかこんなところで会おうなんてね」
ソフィー
「……私……恐いです」
ステラ
「はかないねぇ。果たされない願いをいくつも抱えて……先祖が守ってきた秘密が暴かれ、亡国の再興の望みも失われ……。仲間達が250年間も守ってきたのに。こんな惨めな気持ちで終わるなんて、想像もしなかったよ」

 ステラが静かに嗚咽を漏らす。

ソフィー
「ステラ……。涙を留めてください。望みは絶えたわけではありません。あなたの誇りを失わないで……」
ステラ
「ああ、あなたは思った通りだ。これから殺されるという時に、誰かを祝福するなんて。ソフィー、約束して。もしも私が望みに辿り着けなかったその時は、あなたが引き継いで」
兵士
「喋るな! 行くぞ。移動だ!」

 ステラが兵士に連れて行かれる。

ステラ
「ソフィー約束してくれ! 約束して、私に安らぎを与えてくれ!」
ソフィー
「約束します! あなたの望みは、私が受け継ぎます! 必ず!」

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■2016/04/26 (Tue)
第6章 フェイク

前回を読む

40
 残すは《AMS》のテストだけだった。《AMS》のテストだけ、まだ終わらないようだった。
 研究員の1人が奥のドアに入っていった。様子見だったのか、すぐに戻ってきた。そのままマイクの許まで進んだ。
「《AMS》テストですが、終了まで1時間ほどお待ちください」
 声はマイクロスコープ・テストの時に聞いた、おばさんだった。実験室を見ていると、みんな同じ格好なので誰が誰なのかわからなくなる。
 ツグミは報告を聞いても、気分が落ち着かなかった。さっきまで抱いていた強気が、もう不安に置き換えられていた。
 検査に使用したのは、どの部分だろう。いや、そもそもあのキャンバスは、本当に17世紀のものだろうか。
 ツグミは、確かにキャンバスが古いもの、と確認した。それもちょっと見ての判断だ。実際はどうだったのかわからない。
 贋作を作る場合、その画家が活躍した当時のキャンバスを手に入れなければならない。17世紀の贋作を作ろうと思ったら、17世紀のキャンバスだ。そんな時代のキャンバスなんて、画材屋に行ったところで手に入るわけがないから、贋作師は同じ時代の無名画家の絵を手に入れ、絵具を落とし、その上から絵を描く。
 贋作を作るために削ぎ落とした無名画家の絵が、しばらくして実は贋作として作ろうとしていた絵以上の幻の名作だった……なんてことがあるわけだけど。
 川村はいったいどのようにして、『ガリラヤの海の嵐』の贋作を作ったのだろう。17世紀のキャンバスに描いたのだろうか。
 実験室にも休憩室にも、時計はなかった。ツグミも時計を持っていない。無機質な真っ白な空間のせいか、時間の流れがわからなかった。とにかく時間の進みがゆっくりに思えた。
 いきなりな感じで、実験室奥のドアが開いた。ツグミは顔を上げた。
 実験室の研究員も、待ちかねたという様子で顔を上げた。
「検査結果を報告しろ」
 二ノ宮の声に苛立った感じがあった。
《AMS》担当の研究員がマイクの前まで進んだ。
「キャンバスの繊維から、年代が判明しました。1630年から誤差30年です。『ガリラヤの海の嵐』が制作された年代と、一致します。全ての検査結果から、『ガリラヤの海の嵐』は、真画と判定されました」
 若い、男性の声だった。太い声だったけど、覇気がなかった。
 ツグミは全身からどーっと力が抜けて、杖に寄りかかった。
 二ノ宮は研究員の報告を聞いて、ニヤリとしていた。二ノ宮の場合、10億円の宝物を得た喜びだろう。
「撤収準備を始めろ。今夜限りでここを廃棄する。指紋1つ残すな」
 二ノ宮がマイクから指示を出した。
 実験室の研究員が動き出した。研究員はそれぞれ箱を手に取り、薬品や道具を詰め込んだ。
 と同時に、廊下から休憩室に3人の男が入ってきた。黒のワゴン車に『ガリラヤの海の嵐』を運び込んだ、あの作業服の男たちだ。どこか近いところで待機していたらしい。
 作業服の男たちは実験室の扉を開けて、中に入った。すでに実験室を無菌状態に置く意味もなくなったようだ。
 ツグミは茫然と、慌ただしくなる一同を見ていた。自分だけその場から取り残された感じだった。
 ふと二ノ宮の視線に気付いて、振り返った。
「これでお別れだな。私はこれきり姿を消す。もう2度と会う機会もないだろう」
 二ノ宮はニヤついた顔だったが、少し改まった感じだった。二ノ宮の役目は、レンブラントを手に入れた時点で終わりなのだ。
 二ノ宮はもうどこにも姿を現さないだろう。『ガリラヤの海の嵐』と共に、永久に姿を消すのだ。
 ツグミは清々する思いで、二ノ宮に頷いた。しかし、すぐに「あっ」と声を上げた。
「待って! コルリは? ルリお姉ちゃんはどこにいるんや。ここにいるんちゃうんか」
 ツグミは慌てた声を上げた。うっかり本来の目的を忘れて、二ノ宮を逃すところだった。
「そうか。姉妹対面がまだだったな。出て来たまえ。妹がお呼びだ」
 二ノ宮がにやりと嗤った。マイクに向かい、実験室の誰かに呼びかけた。
 実験室の1人が反応して振り返った。実験室を指揮していた、あの女研究員だった。
 女研究員は箱に薬品を詰める手を止めて、作業台に箱を置いた。側の研究員に短く言付けをした。
 女研究員は少し早足で、休憩室のドアを開けた。歩きながらマスクを外し、白帽を取り払った。
 白帽を外すと、長い黒髪がさらりと波打った。女性なら誰もが羨むような、見事なキューティクルだった。髪だけではない。口元の柔らかな唇。芸術的なまでに均整の取れた輪郭のライン。
 ツグミは、女研究員が誰なのか、すぐにわかった。というより、初めから予感がしていた。
 女研究員が休憩所に入ってきた。白衣を脱ぎ捨てて、畳まずにカウンターに放り出した。
「……やっぱりヒナお姉ちゃんやったんや」
 ツグミはヒナの顔を見上げてぽつりと口にした。ヒナは、いつもはしないような厳しい顔で、ツグミに頷いた。

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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

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■2016/04/25 (Mon)
第11章 蛮族の王

前回を読む

 白銀の鎧に身を包んだ騎士に、ソフィーが囚われていた。

――ソフィー!

 オークは叫ぼうとした。しかし声が出なかった。辺りは十字架を掲げた人々が取り囲み、何かを喚いていたが、ただ風がごうごう鳴るばかりで何も聞こえなかった。
 ソフィーはゆっくりと台座を登っていく。台座に大きな十字が立っていた。十字は一度寝かされ、その上にソフィーが寝そべる。両手を大きく広げ、掌が杭で固定された。
 ソフィーが悲鳴を上げる。
 十字の処刑台が起こされた。ソフィーの足下で火が焚かれる。

――ソフィー、逃げるんだ!

 オークは再び叫んだ。だが周りの声に掻き消された。動こうとしても、そこに釘付けになって動けなかった。
 人々が顔に狂喜を浮かべて、焼かれるソフィーを見ていた。ソフィーの衣が焼けて、皮膚が焦げて溶け始める。人々はその様子を見ながら、手を叩き、指をさし、笑っていた。その顔に、ネフィリムが重なって見えた……。


オーク
「ソフィー!」

 叫びながら跳ね起きて、それから全身に痛みが走った。しばらく痛みにのたうち、全身に脂汗を噴き出させた後、やっと元通りベッドに横たわって、ぜいぜいと息をした。
 ――どこだ?
 オークは辺りを確かめようとした。知らない場所だった。小さな部屋で、窓から明るい光が射し込んでいた。オーク自身は全身に包帯が巻かれ、ベッドに横たえられていた。まだ夢の中の気分が抜けず、窓から降り注ぐ光もどこか非現実的な感覚が漂っていた。

僧侶
「目覚めましたか」

 ベッドの側に、ドルイド僧がいた。

オーク
「何日経ちました?」
僧侶
「10日です。傷は深かったし、体は消耗しておりました。良いドルイドが何人も訪ね、癒やしの術を施さねば、どうなっていたか……」
オーク
「そうですか……」

 オークは途方もない気持ちになって、ぼんやりと天井を眺めた。――あれから10日。あの後なにが起きたのか。城はどうなってしまったか。知るべきことも考えるべきこともいくらでもあるような気がした。しかし、今はただ茫然とするしかなかった。

 その村は王城からはるか南東の、周囲が森に囲まれた村だった。地図にも記されていない隠里である。戸数は10程度しかない。最低限の労働と収穫だけでやりくりしている、小さな村だった。そんな小さな村だからこそ、ウァシオにも発見されず、新しく興った宗教の影響にもさらされず、ケルトらしい風土と暮らしを残していた。
 オークは目を覚ましてからさらに4日、医師と僧侶に言われたとおり養成に努めた。その期間、誰もオークに外の世界の情報を与えなかったし、オークも情報を求めなかった。今は自身の身体の回復に努めた。

 20日目に入り、オークを訪ねる者があった。ゼインであった。

オーク
「無事でしたか」
ゼイン
「あなたこそ。我が国は希望を失わずに済んだ」
オーク
「何から訊ねればいいのでしょう。セシル王は無事でしょうか」
ゼイン
「ウァシオへ王権を譲らせるために、拷問を受けたと訊いておる」
オーク
「ウァシオが王に」
ゼイン
「左様。城からドルイドが追放され、クロースが国教として招き入れられた。重い増税が課せられ、人々が街を去って行き、その去った後にゼーラ一族が棲み着こうとしておる。国は毒され、荒廃する一方じゃ」
オーク
「…………。……ソフィーは? ソフィーは無事ですか」
ゼイン
「わからん。脚を負傷して村に残された……という話までは聞いたのだが、その後どうなったか。クロースによる魔女焚刑がはじまっておる。捕らえられたのなら、もうすでに……」
オーク
「そうですか……」

 オークが落胆の溜め息を吐く。

ゼイン
「愛しておられたのだな」
オーク
「はい。最愛の人でした。しかしついに愛を伝えられずに終わってしまいました。あの人には、つらい思いをさせてしまいました」
ゼイン
「…………」
オーク
「あっけなかったですね。あれだけ長い歴史を持つ城が、こうも簡単に破られるとは……。歴史を築くのには長い年月が必要ですが、崩れるのは早い。セシル王の生死は、確かめたのですか?」
ゼイン
「何とも言えぬ。……しかしオーク殿。これは確かな情報ではないのだが……セシル王は生きている、と」
オーク
「本当ですか?」
ゼイン
「確かな情報ではないんじゃが。つい先日、ある村に女が現れ、こう告げたそうじゃ。『セシルは生きている』と。ひどいボロを身にまとった哀れな姿だったが、女は村人の施しを受けず、予言めいた言葉を残して去って行ったそうだ。村人達は……バン・シーと呼んでおった」
オーク
「バン・シー? あなたはその女性とは……」
ゼイン
「会わなかった。しかしあのバン・シーとは別人でありましょう。キール・ブリシュトの戦いで、無事に逃げ帰れたとは思えん。古い風習が残る村での話だからのぉ、バン・シーとはもっと違う意味の言葉だろう。しかし、胡散臭かろうが、私はこの情報を信じていたと思う。いかがかね」
オーク
「もちろん信じます。あの人を救い出しましょう」

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■2016/04/24 (Sun)
第6章 フェイク

前回を読む

39
 実験室では手の空いた研究員が、パソコンのケーブル接続を変更していた。
 休憩室のモニターが一瞬ブラックアウトしたが、すぐに画像が浮かんだ。さっきまでと違う画像だ。モニターの中央に「読込中」の文字が表示された。
 分光測色計の分析はまだ掛かるらしい。モニターの「読込中」の下に、残り作業時間を示すゲージが表示されていた。まだ半分も進んでいない。
 ツグミは杖に寄りかかった。背を丸めて、モニターを覗き込んでいた。
 実験室内も緊張した様子だった。研究員の4人がモニターを覗き込んでいる。女研究員だけが、立ったまま遠巻きに研究員たちを見守っていた。
 休憩室のモニターに変化があった。「読込中」の文字が消えて、画面が一瞬暗転する。それからウインドウがいくつか開いた。
 ツグミは一歩前に進み出て、モニターをよく見ようとした。
 モニターにはいくつものウインドウが浮かんでいた。様々なデータが列挙されている。「拡散照明」とか「垂直受光」といった項目が並び、その下に細かな数字がずらりと並んでいた。
 ツグミはそこに書かれている数値を追いかけてみたが、よくよく考えたら意味がわからなかった。ツグミもそれなりに絵画について詳しいつもりだったけど、科学的な見地で色の数値とか知っているわけではなかった。
 ツグミは実験室を振り返った。実験室では女の研究員がモニターの前まで進み、覗き込んでいた。女の研究員はモニターを指し、何か指示しているようだった。研究員同士で討論が始まりかけていた。
 間もなくして、分光測色計を担当していた研究員が席を立った。
「分光測色計の結果が出ました。青、褐色の2色について測定を行った結果、その他のレンブラント作品の色と完全に一致しました」
 研究員がマイクで答えた。男性の声だが、いかにもひ弱そうな声だった。
 ツグミは目を閉じて、鼻から息を吐いた。と同時に、「当然だ」と強気に思った。
 川村の絵具の調合は完璧だ。川村なら使用した絵画が違っていても、寸分の狂いなくオリジナルと同じものが作れるはずだ、と思った。川村の色作りの正確さが、科学的に証明された瞬間だった。ツグミは自分の成果でもないのに、誇らしげな気分だった。
 研究員が比較対象に青と褐色の2色を選択した理由は、簡単にわかった。
 まず褐色だが、レンブラントはほとんど褐色だけで絵を描いていた。レンブラントはあまりたくさんの絵具を使用しなかった。ただし褐色だけは、ふんだんに使用した。レンブラントのパレットには、褐色だけで3種類以上もあったと言われている。
 一方青だが、こちらの理由はもっとシンプルだ。レンブラントは、全ての絵画について同じ青を使っている。
『ガリラヤの海の嵐』について言えば、青が使用されたのは、3箇所だけだ。イエス・キリストのマント。水夫の上着。それから雲の向こうに見える青い空。これだけだ。全部、同じ青だ。
 ちなみに、『ガリラヤの海の嵐』には褐色と青の他には、黒と白しか使われていない。だから検査対象は、青と褐色しかなかったわけだ。

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■2016/04/23 (Sat)
第11章 蛮族の王

前回を読む

 ジオーレは城の地下宝物庫へ入っていった。暗闇を杖で照らす。管理人に案内させて、回廊のずっと奥の、聖剣が置かれている広間へと向かった。
 広間の中の、3体の像はすでに倒され、英雄の顔が破壊されていた。厳粛さで満たされた広間は、今では荒廃した印象が漂っていた。
 ただし台座だけは手を付けずに残され、3つの剣もそこに置かれたままだった。
 ジオーレは台座の前まで進んだ。

ジオーレ
「あれが聖剣というやつか……」

 ゲーボルグ、ダーンウィン、エクスカリバー。
 神官達の中には、異国の宝刀に感嘆の声を漏らす者もいた。廃墟の中とはいえ、聖剣が放つ威風は、一片も失われていなかった。ジオーレですら、肌にひりひりするものを感じていた。
 ジオーレは伝説上の最強の剣、エクスカリバーを手にし、鞘から抜いた。

ジオーレ
「……何だこれは。こんなもののために、ブリデンと戦っていたのか」

 ジオーレはぼろぼろになったエクスカリバーの刃に拍子抜けな声を上げた。

ジオーレ
「下らん。――おい、ダーンウィンをよこせ」
神官
「はは」

 神官の1人がダーンウィンの鞘を手に取ろうとした。

ジオーレ
「待て。――柄を握って見ろ」
神官
「はい?」

 奇妙な命令に、神官が不思議そうな顔をする。
 神官達に静かにどよめきが走り、訳知りの者は黙って行く末を守った。命令された神官は、なんとなく張り詰めた空気になるのに戸惑いながら、恐る恐る剣の柄を握った。
 突然に、神官に火が放たれた。火はただちに神官の全身を巡る。神官は炎に捕らわれ、のたうち回った末に、絶命した。

ジオーレ
「なるほど。ダーンウィンが持ち主を選ぶというのは本当のようだな。よし、柄は絶対に触れるな。慎重に運び出せ」

 ダーウィン、エクスカリバーの2振りが奪われた。

神官
「ゲー・ボルグはどうします?」
ジオーレ
「要らん。その剣にはもう霊力を感じぬ。役目を終えたのだろう。……ティーノ、ダラス、お前達はダーンウィンとエクスカリバーを葬る方法を考えろ。その2つさえ失われれば、我らに恐れるものはない」
ティーノ&ダラス
「はっ!」
ジオーレ
「明日になれば出発するぞ。兵団を4つに分けて準備をしておれ」
神官
「あの、どちらへ……」
ジオーレ
「決まっておるだろう。我らの先代が遺した偉大なる城、キール・ブリシュトだ」

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