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■2016/04/25 (Mon)
第11章 蛮族の王

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 白銀の鎧に身を包んだ騎士に、ソフィーが囚われていた。

――ソフィー!

 オークは叫ぼうとした。しかし声が出なかった。辺りは十字架を掲げた人々が取り囲み、何かを喚いていたが、ただ風がごうごう鳴るばかりで何も聞こえなかった。
 ソフィーはゆっくりと台座を登っていく。台座に大きな十字が立っていた。十字は一度寝かされ、その上にソフィーが寝そべる。両手を大きく広げ、掌が杭で固定された。
 ソフィーが悲鳴を上げる。
 十字の処刑台が起こされた。ソフィーの足下で火が焚かれる。

――ソフィー、逃げるんだ!

 オークは再び叫んだ。だが周りの声に掻き消された。動こうとしても、そこに釘付けになって動けなかった。
 人々が顔に狂喜を浮かべて、焼かれるソフィーを見ていた。ソフィーの衣が焼けて、皮膚が焦げて溶け始める。人々はその様子を見ながら、手を叩き、指をさし、笑っていた。その顔に、ネフィリムが重なって見えた……。


オーク
「ソフィー!」

 叫びながら跳ね起きて、それから全身に痛みが走った。しばらく痛みにのたうち、全身に脂汗を噴き出させた後、やっと元通りベッドに横たわって、ぜいぜいと息をした。
 ――どこだ?
 オークは辺りを確かめようとした。知らない場所だった。小さな部屋で、窓から明るい光が射し込んでいた。オーク自身は全身に包帯が巻かれ、ベッドに横たえられていた。まだ夢の中の気分が抜けず、窓から降り注ぐ光もどこか非現実的な感覚が漂っていた。

僧侶
「目覚めましたか」

 ベッドの側に、ドルイド僧がいた。

オーク
「何日経ちました?」
僧侶
「10日です。傷は深かったし、体は消耗しておりました。良いドルイドが何人も訪ね、癒やしの術を施さねば、どうなっていたか……」
オーク
「そうですか……」

 オークは途方もない気持ちになって、ぼんやりと天井を眺めた。――あれから10日。あの後なにが起きたのか。城はどうなってしまったか。知るべきことも考えるべきこともいくらでもあるような気がした。しかし、今はただ茫然とするしかなかった。

 その村は王城からはるか南東の、周囲が森に囲まれた村だった。地図にも記されていない隠里である。戸数は10程度しかない。最低限の労働と収穫だけでやりくりしている、小さな村だった。そんな小さな村だからこそ、ウァシオにも発見されず、新しく興った宗教の影響にもさらされず、ケルトらしい風土と暮らしを残していた。
 オークは目を覚ましてからさらに4日、医師と僧侶に言われたとおり養成に努めた。その期間、誰もオークに外の世界の情報を与えなかったし、オークも情報を求めなかった。今は自身の身体の回復に努めた。

 20日目に入り、オークを訪ねる者があった。ゼインであった。

オーク
「無事でしたか」
ゼイン
「あなたこそ。我が国は希望を失わずに済んだ」
オーク
「何から訊ねればいいのでしょう。セシル王は無事でしょうか」
ゼイン
「ウァシオへ王権を譲らせるために、拷問を受けたと訊いておる」
オーク
「ウァシオが王に」
ゼイン
「左様。城からドルイドが追放され、クロースが国教として招き入れられた。重い増税が課せられ、人々が街を去って行き、その去った後にゼーラ一族が棲み着こうとしておる。国は毒され、荒廃する一方じゃ」
オーク
「…………。……ソフィーは? ソフィーは無事ですか」
ゼイン
「わからん。脚を負傷して村に残された……という話までは聞いたのだが、その後どうなったか。クロースによる魔女焚刑がはじまっておる。捕らえられたのなら、もうすでに……」
オーク
「そうですか……」

 オークが落胆の溜め息を吐く。

ゼイン
「愛しておられたのだな」
オーク
「はい。最愛の人でした。しかしついに愛を伝えられずに終わってしまいました。あの人には、つらい思いをさせてしまいました」
ゼイン
「…………」
オーク
「あっけなかったですね。あれだけ長い歴史を持つ城が、こうも簡単に破られるとは……。歴史を築くのには長い年月が必要ですが、崩れるのは早い。セシル王の生死は、確かめたのですか?」
ゼイン
「何とも言えぬ。……しかしオーク殿。これは確かな情報ではないのだが……セシル王は生きている、と」
オーク
「本当ですか?」
ゼイン
「確かな情報ではないんじゃが。つい先日、ある村に女が現れ、こう告げたそうじゃ。『セシルは生きている』と。ひどいボロを身にまとった哀れな姿だったが、女は村人の施しを受けず、予言めいた言葉を残して去って行ったそうだ。村人達は……バン・シーと呼んでおった」
オーク
「バン・シー? あなたはその女性とは……」
ゼイン
「会わなかった。しかしあのバン・シーとは別人でありましょう。キール・ブリシュトの戦いで、無事に逃げ帰れたとは思えん。古い風習が残る村での話だからのぉ、バン・シーとはもっと違う意味の言葉だろう。しかし、胡散臭かろうが、私はこの情報を信じていたと思う。いかがかね」
オーク
「もちろん信じます。あの人を救い出しましょう」

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