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■2016/04/20 (Wed)
創作小説■
第6章 フェイク
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37
研究員たちは手際よく準備を始めた。必要な機械に電源を入れ、道具を集めてくる。指揮しているのは、先ほどマイクに声を吹き込んだあの女性だった。女研究員は周りの研究員より背が高く、姿勢がいいせいか体格がしっかりしているように見えた。他の研究員たちとは違う存在感を放っているように思えた。
研究員たちは『ガリラヤの海の嵐』を持ち上げて、慎重に作業台へ運んだ。
作業台は全部で3つ。等間隔に並んでいる。『ガリラヤの海の嵐』が置かれたのは中央の作業台で、あとの2台は使われていなかった。
作業台頭上に、真っ白なライトが点灯した。手術台みたいだった。
研究員がそれぞれの道具を手に、『ガリラヤの海の嵐』に集まってきて、ナイフやピンセットでそれぞれの箇所から試料を採取した。女性研究員が指導役になって、採取する場所を指定していた。
まるで病院の手術中の様子みたいだった。実際に、今『ガリラヤの海の嵐』は解剖実験に掛けられているわけだから、ツグミは自分の連想に間違いないと思った。
やがて研究員たちが『ガリラヤの海の嵐』から離れていった。それぞれ別のテーブルに着いて、実験を始めた。
研究員の1人が試料を手に奥のドアへ入っていった。あの向こうに、《AMS》があるのだろう。
別の研究員が、女研究員に胃カメラのようなものを差し出した。カメラはコンピューターに繋げられていた。
コンピューターはツグミから見て、左の作業台に置かれている。モニターは遠くてよく見えない。
休憩所のカウンターにも、モニターが置かれていた。実験室のモニターと同じ映像が映されているようだ。
胃カメラに見えるものはマイクロスコープのCCDカメラだ。最初のマイクロスコープテストだ。
ツグミは内股に緊張を感じて、仁王立ちになった。
マイクロスコープは最大2万倍の拡大画像を、モニターに映す。もちろんカラーレーザー搭載で、鮮明なカラー画像を表示させる。
女研究員がCCDカメラを作業台の『ガリラヤの海の嵐』の表面に当てた。
休憩室のモニターにも、色鮮やかなパッチワークが写った。『ガリラヤの海の嵐』が拡大画像だ。
モニターには顔料の原型である、鉱物の形が映し出された。絵画は作られてから50年以上過ぎると、顔料が結晶化する。拡大して映されると、絵画というよりどこかの鉱山みたいな風景だった。
ツグミは体の奥から冷たいものを感じた。奥歯をぐっと噛み締める。
マイクロスコープ・テストは、ある程度の知識を持った者ならば、不自然なものが混じっているとすぐにわかってしまう。あの絵には現代の絵画と、上から細工した顔料との2種類が混じっている。この2日の間に作られた顔料ならば問題ないけど、もしも川村が使用した顔料が映し出されると、ただちに贋作がばれてしまう。CCDカメラを当てる位置によっては、嘘がばれてしまうのだ。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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