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■2016/04/16 (Sat)
創作小説■
第6章 フェイク
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35
間もなく、トヨタ・クラウンは、トンネルを抜け出した。トンネルを抜けると、夜になっていた。防音壁の周囲が暗く沈んで、照明が当たっている部分だけがオレンジで浮かんでいた。ツグミは、もう二ノ宮に話しかけなかった。訊くべき情報はもう訊いた。ツグミは二ノ宮を無視するつもりで、体を窓の外に向けた。
トヨタ・クラウンは、阪神高速から中国自動車道に移った。
とはいえ風景に変化はない。山間の道を進むようになって、防音壁がなくなっただけだった。トヨタ・クラウンを取り囲む車も、ぽつぽつと少なくなっていく。
トヨタ・クラウンが高速道路から外れた。初めて減速して、料金所に入った。
ツグミは「どこなのだろう」と標識を探した。料金所の入口に、「福知山市」とあった。
ツグミは神戸市以外の地域に疎かった。福知山市がどの辺りなのか、皆目わからなかった。もっとも、鑑定の依頼がなければこもりがちな性格だから、神戸市内の地理も少し怪しいところはあったが。
トヨタ・クラウンは一般道路に入った。ツグミは街の特徴を捉えようと、窓の外を見詰めた。
静かな通りだった。建っている家はぽつぽつとあるだけで、どれも廃屋だった。通りは街灯の明かりだけで、ひどく暗かった。道路から一歩外れると、真っ暗闇で、何も見通せなかった。
福知山市は田舎のようだった。ただそれだけで、何ら特徴を見出せなかった。
そんな通りで、トヨタ・クラウンが右折した。空き地みたいな場所だった。
ツグミは窓から全方位を見回した。空き地、以外の表現方法が見当たらなかった。雑草が高く茂っていて、投げ込まれたゴミが混じっている。街灯の明かりもなくなって、真っ黒な草むらのシルエットが、車の周囲を覆っていた。悪路らしく、車が大きく揺れた。ツグミは振り飛ばされないように、シートと窓に縋り付いた。
しばらくして、草むらの向こうに2階建ての大きな建物が現れた。明かりがないので、建物は外壁の色すらわからないくらいに真っ黒だった。暗闇の中に、平坦な立方体がさらに深い影を湛えて佇んでいた。廃墟というか、心霊スポットという風情だった。
トヨタ・クラウンは、フェンス手前の駐車スペースに駐まった。ヘッドライトが消えて、エンジンが停止する。
どうやら到着らしい。ツグミは右手のドアを開けて、車を飛び降りた。誰かに促されて出るのは、もう嫌だった。
降りてみると、トヨタ・クラウンの左手に黒のワゴン車が駐車しているのに気付いた。絵画を運んだワゴン車に違いなかった。
別の車も何台か駐められてあった。廃車みたいな車もあった。車の表面が錆びて、窓ガラスが打ち破られていた。
それとは別に、真新しい車も駐車していた。ツグミはちょっと気になって、そのうちの1台に注目した。
ダイハツ・ムーブだ。トヨタ・クラウンと並べると、小柄で曲線が多い。ごつい車ばかり見ていたから随分と可愛らしく思えた。
「何をしている。来たまえ」
二ノ宮が運転手を連れて、建物に向かっていた。
ツグミは杖を突いて、二ノ宮を追いかけた。
運転手の男が入口のドアを開けて、頭を下げて入った。2メートル近い身長では、普通のドアがやや小さいらしい。ツグミは二ノ宮に続いて、建物の中に入った。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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