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■2016/04/21 (Thu)
第11章 蛮族の王

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 城で宴が始まった。ゼーラ一族に美食が振る舞われ、音楽や曲芸、競技など様々な催し物が行われた。宴は夜になっても朝日が昇っても終わらず、そのあいだ曲芸師は踊り続け、競技に参加した兵士は戦い続け、間もなく過労のために倒れる者が現れた。
 作法を持たないゼーラ一族は、宴の最中に城の広間をこれでもかと汚し、破壊する。城に残された財宝があちこちにまかれ、ゼーラ一族が乞食のように拾って回った。壮麗だった城は、数日の間に汚物と異臭が漂う汚らしい場所に変えられてしまった。
 一方、街では税の徴収が始まった。兵士達が一軒一軒周り、目に付いた財産を奪って出て行く。住人が反抗しようものなら、殴り、脅して黙らせた。その様は、あたかも強盗のようだった。


 ウァシオがほろ酔い気分で城の廊下を歩いていた。宴の気分が体から抜けない。

ラスリン
「うまくいったな。一時はどうなるかと思ったぞ。あの若造が現れた時は、計画の失敗を案じたほどだ」
ウァシオ
「暗殺に失敗したのは貴様の不手際だろう。その責任も果たされたわけではないぞ」
ラスリン
「埋め合わせはするさ。だが義務は果たした。約束のものは渡してもらうぞ。隠居させてくれ」

 ウァシオは足を止めて、ラスリンを睨み付けた。
 ラスリンは震え上がって一歩下がる。

ウァシオ
「生意気な奴だ。乞食と変わらん。東端の海岸であったな。好きに使え」

 ウァシオは再び歩き始める。

ラスリン
「……一応訊いておくが、死体は確認したのだろうな」
ウァシオ
「何?」
ラスリン
「オークの死体だ。ちゃんと確認したのだろうな」
ウァシオ
「兵士に命令して、いま確認させておる。だがいまだに報告は入っておらん。クソッ。この国の兵士は盲か。たった1人の生き死にすらまともに調査できんとは。だがあれだけの戦いの後だ。生きてはおらんだろう――まさか生きているとでも?」
ラスリン
「あいつはそういう男だ。どんなに込み入った罠でも、潜り抜けてくる。危険な男だぞ」
ウァシオ
「過大評価だ。あいつもただの人間に過ぎん。敵に肩を持つのか」
ラスリン
「まさか」
ウァシオ
「心配するな。あいつは死んだ。もしも生きていたところで、何もできん」
ラスリン
「そう願いたいところだな」

 廊下に、十字架を掲げた一団が現れる。クロースの神官だ。

ジオーレ
「ほろ酔い気分のところも申し訳ないな。我々との約束がまだ果たされていないようだが」
ウァシオ
「ふん。異教徒めが。勝手に我が城に立ち入りおって」
ジオーレ
「おかしなことを言う。異教徒どもはお前達であろう。真の正教はクロースのみだ。本来ならば、この邪教の城など、焼いて滅ぼしていたところだ」
ウァシオ
「勝手な連中だ。すでに我々は貴様らのシンボルを掲げておるだろう。それとも貴様は、同胞を焼く趣味でもあるのか」
ジオーレ
「我々は世界で最も平和を愛する教団だ」
ウァシオ
「なあ訊かせてくれ。なぜ貴様達の僧侶の中には、女がおらんのだ?」
ジオーレ
「またおかしなことを言う。女こそ堕落と悪徳の象徴。女など奴隷か召使いで充分だ。女を引き立てれば社会が乱れるだけ。滅んだすべての文明がそうであるようにな。――そういえばドルイドには女がいるらしいな。戦場で姿を見たが、あんな売春婦じみた者がいるから、貴様らの政治はこうも腐りきっているのではないか」
ウァシオ
「あくまでも、自分達だけが正しい……そう言い張るつもりか」
ジオーレ
「当然だ」

 ウァシオとジオーレはしばし向き合い、睨み合った。
 ウァシオが口の端を吊り上げて笑う。

ウァシオ
「私はもともと無宗教だ。霊も神もまじないも信じない。ドルイドだのクロースだの、どちらでも構わんわ」
ジオーレ
「我らの神さえ信じていればいい」
ウァシオ
「望むものは持って行くがよい。どうせガラクタだ。お望みなら、土地のひとつふたつ与えてやっても構わんぞ」
ジオーレ
「必要ない。我々の住まいは、いつも人々の清き心の中だ」

 ジオーレはウァシオ達に礼をすると、僧侶達を引き連れてそこを去って行った。

ラスリン
「気に喰わん男だ。……殺すか」
ウァシオ
「よせ。あいつの後ろにはローマがついている。従順な振りをして、機会を待て」

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