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■2016/05/06 (Fri)
創作小説■
第6章 イコノロギア
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5
しばらく時間を置いて、ヒナは気分を落ち着かせたようだった。キーを回して、エンジンを点火させる。ゆっくりダイハツ・ムーブをスタートさせて、車道に入った。「じゃあ続きを話すな。――今回の計画を考えたのはコルリや。私はコルリが誘拐されたのを訊いて、すぐに面会を求めた。その時に、コルリから今回の計画を聞かされたんや。コルリは本当に凄い子やね。あれだけのことをされていて、その間に計画を考えてたんやから」
ヒナの言葉に、コルリへの敬意が浮かんでいた。
ツグミもコルリを尊敬していた。カメラの才能だけではなく、根本的に頭が良い。どんな危機に陥っても、コルリは冷静に状況を対処して、脱出する方法を考える。そういう資質の一部が、写真の才能となって現れているのだ。
「宮川が所望していたのは、フェルメールの『合奏』や。あの時、一緒に盗み出されたレンブラントの絵があるって聞いて、放っとけなかったんやろ」
ツグミが宮川の動機を推測する。
「そうやね。でも、ちょっと事情が違うんや。宮川は、そもそもフェルメールの『合奏』と、レンブラントの2作品を『予約』しとったんや。レンブラントの『ガリラヤの海の嵐』と『黒装束の貴婦人と紳士』の2作品。お父さん、この2作品も宮川から隠したんや。宮川は『ガリラヤの海の嵐』が再発見されるのを諦めかけていたからな。だから、今回の取引を喜んで応じたんや」
ヒナは運転しながら、順序よく整理して話した。ヒナ本来の優しさが、少しずつ戻っているように思えた。
「でも、宮川にもリスクはあったやろ。私と接触を持つためには、どうしても自分の存在を警察にちらつかせることになる。だから宮川は身代わりを作り、自分は姿を消したんやな」
ツグミには、宮川の計画の全容が見え始めていた。コルリが行動を起こしてくれたお陰で、ツグミとヒナは、宮川より一歩先に出たのだ。
ヒナは重々しく頷いた。
「宮川は『ガリラヤの海の嵐』を手に入れるのと引き替えに、自分の姿も消したんや。痕跡も含めてやね。あのタイミングで私を研究所から追い出したのも、完全に手がかりを消すためや。もう、これまでのどの手がかりを追いかけても、宮川は見つからんやろ」
宮川は姿を消した。代わりに二ノ宮が現れた。二ノ宮ももう2度と姿を現さないだろう。
ツグミとヒナは、宮川より一歩前に進んでいたが、宮川も同時に進もうとしている。あとは追いつかれるか、進むしかなかった。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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