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■2016/05/04 (Wed)
第6章 イコノロギア

前回を読む

 ツグミは全身から力が抜けて、シートに体を預けた。
 ヒナに申し訳なかった。自分が気楽に過ごしていた陰で、ヒナがどれだけ苦しんでいたか、まるで気付かなかった。ヒナが可哀相だと思ったし、何も考えなかった自分を責めたい気分だった。
「ルリお姉ちゃんは、知ってたん? ヒナお姉ちゃんが宮川と接触を持っていたって」
 ツグミは質問をしておきながら、あまり答えを知りたくなかった。
「それはわからない。でも気付いとったんちゃうかな。勘のいい子やし、宮川の居場所を1人で突き止めたんやからな」
 ヒナの言葉に明快な答えはなかった。ツグミは何となくほっとするような気がした。
 実際、コルリは飛び抜けた行動力と、勘の良さを備えていた女の子だった。おそらくコルリの友人たちも協力したと思うけど、ほとんど1人で宮川が潜伏するクワンショウ・ラボラトリーを発見したのだから。
「どんな感じやった? ルリお姉ちゃん、大丈夫やった?」
 ツグミは言葉に不安を浮かべた。ツグミはヒナの表情を読み取ろうと、振り返る。
 ヒナは顔を横に振った。思い出したらしく、眉間に皺を寄せて、暗いものを浮かべた。
「酷かった。思い出したくない」
 ヒナの声が尻すぼみになった。暗い車内でも、はっきり顔色が悪いのがわかった。
 コルリの状態は、よっぽど悪かったのだろう。
 ヒナの顔が苦痛に歪んでいた。拳を握り、眉間に押し当てた。ツグミにはその仕草が、許しを求める姿に見えた。
「ヒナお姉ちゃんは、悪くないよ。私たちのために、1人で色んなものを背負ってきてくれたんやろ。ルリお姉ちゃんを助けてくれたの、ヒナお姉ちゃんやん。私、ヒナお姉ちゃんに感謝しているで」
 慰めるつもりだったけど、ツグミの言葉に嘘はなかった。心からの感謝だった。
「ありがとう、ツグミ」
 眉間に拳を当てたヒナの横顔が、暗く影を落としていた。でも泣き声だったので、また泣き出したのだとわかった。ヒナは目元を拭った。溜め息を1つ漏らした。
 ツグミはバッグからハンカチを引っ張り出して、ヒナの涙を拭った。

次回を読む

目次

※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

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