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■2016/04/09 (Sat)
創作小説■
第10章 クロースの軍団
前回を読む
22
クロース軍の軍勢も、平原に現れた。セシルが集めた軍勢を前にして、改めて態勢を整える。だがクロース軍は1万にまで削られていた。セルタの砦で数を削がれ、村を前に2分し、さらに街道を走る途中で道に迷い、ようやく辿り着いたのが、この1万人の軍勢だった。今やセシル王の軍勢が数の上では圧倒している。4日に及ぶ戦闘と、長旅の疲れで消耗しているクロース軍に負けるとは思えなかった。形勢逆転の瞬間だった。誰もがガラティア軍の勝利を確信していた。
だがその時、不穏な風が平原を一杯に満たした。森がざわざわと不吉な声を漏らし始めた。
クロース騎士
「ジオーレ様。例のものが到着しました」
ジオーレ
「よくやった」
ジオーレが満足げに微笑んだ。
森から、真っ黒な集団が現れた。それはこの世ならざるおぞましき軍団だった。ネフィリムの軍団だった。その周囲に、先端の光る杖を持った神官達が取り囲んでいた。ネフィリムたちはキィキィと敵意剥き出しの声を上げていたが、光る杖を向けられて反抗できず、光る杖に誘導されるままに進んでいた。
ジオーレ
「あの杖は、この杖の霊力を少しずつ分け与えたものだ。少し時間がかかったが、ネフィリムの巣穴を突き、集めてきた。蛮族の城は蛮族の手によって滅ぶ。……相応しかろう」
ネフィリム達がクロース軍の前に集結した。クロースの兵士達がネフィリム達の前に、武器を放り投げる。ネフィリム達は平原の向こうに並ぶガラティア軍を見て、標的を定めたようにキィキィと叫び始めた。
セシル
「何だあれは。魔の眷属を使役するとは、不吉な連中だ。構わん! 王国に逆らう者どもは全て殲滅せよ! ――出撃だ!」
セシルは顔に憤怒を浮かべて、剣を振り上げた。
出撃を伝える旗が揚がった。
しかし両翼の兵達は反応を示さず、しんと静まり返った。いったい何が起きたかわからず、王も兵も顔に困惑の色を浮かべた。
セシル
「どうした! 出撃だぞ! 進め!」
セシルは両翼を指揮する貴族らに向かって怒鳴りつけた。
貴族
「断る! 我々は集まれと言われたから集まった。戦えと言われた憶えはない!」
セシル
「何を馬鹿な……! 敵の前だぞ! 戦え!」
貴族
「知るか! 殺し合いがやりたければ、王1人でやれ!」
貴族達が自分の軍団に合図を出す。すると軍団はその場を引き揚げた。まるで敵に陣地を明け渡すように、軍団は西へ東へと分かれて去って行った。
残された軍勢は、もはや軍団と呼べないほどに僅かなものだった。
ジオーレ
「つまり、そういうことなのだよ」
対岸で、ジオーレが不敵に微笑んでいた。
ジオーレが杖を掲げた。杖の先でカッと光が輝く。同時に、ネフィリムを囲んでいた光が消えた。
ネフィリム達が光から逃げるように駆け出した。目の前に置かれた武器を手に取る。そのまま走り、その向こうにいるセシル達の軍勢に狙いを定めた。
その様子を、セシルは茫然自失とした様で見ていた。
オーク
「セシル様、命令を。兵を門の向こうに退避させてください」
セシル
「…………」
オーク
「セシル様!」
しかしセシルはただ首を振った。
セシル
「もうおしまいだ。この城はもう……」
オーク
「奇跡は起きます! 望みましょう!」
セシル
「……駄目だ。ブリタニアの救いはない。バン・シーの助言も。聖剣の力も……。もう何も……」
オーク
「それでも望みを持ちましょう!」
目の前にネフィリムの軍団が走り迫ってきた。圧倒的な数だった。ネフィリム達は猛然と駆けてくる。
その様に、王は戦意喪失状態に陥った。兵士達は恐慌状態に陥って命令されてもいないのに遁走を始める。
オーク
「門の向こうに退避だ! 態勢を立て直すぞ! 一時退避だ!」
オークの号令が兵士達にかすかな勇気を与えた。
オーク
「王も早く!」
セシル
「…………」
しかしセシルは完全な放心状態で、返事もしなかった。
次回を読む
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