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■2016/04/04 (Mon)
創作小説■
第6章 フェイク
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29
ツグミは岡田と一緒に、駐車場に入った。駐車場はそこそこに広さがあったが、ぽつぽつと車が駐まっているだけだった。駐車場の左右が深い森になっている。向こうの方が開けていて、六甲山が見下ろせるようになっていた。ツグミは駐車場の右奥に、白いワゴン車が駐車しているのに気付いた。岡田がよく使用している、あの小汚いワゴン車だ。あれから一切手入れしていないらしく、白の塗装がくすんでいたし、タイヤやその周囲が泥をかぶって汚れていた。
ワゴン車のすぐ後ろは斜面になっていた。眼下に深い森があった。
崖のような斜面から視線を上げると、六甲山のなだらかな稜線が見えた。深い森がゆっくりと続いて、その向こうに神戸の街がちらと見えていた。
ツグミはワゴン車の助手席側までやって来て、何気なく神戸の街に目を向けた。何となく神戸の街の風景に、心が囚われる気がした。
神戸の街はガスっぽい灰色に霞んでいた。少しも美しくはなかった。まだ夕暮れには早かったが、ぽつぽつと光を瞬かせていた。街の向こうに見える海が暗く沈んで、空の灰色と混じり合っていた。
岡田がワゴン車の鍵を開けて、運転席に乗り込んだ。岡田が助手席のロックを解除した。
ツグミはロックが解除されたのにしばらく気付かなくて、岡田が窓をトントンと叩くのにようやく気付いた。ツグミは返事するつもりで、ちょっと車の中に目を向けるが、どうしても気持ちは神戸の街から離れられなかった。
突然に、強い風が吹いた。周囲の木々が、ざわざわと騒ぎ始めた。
ツグミのコートが翻り、セミロングの髪が逆立った。山の風は強い上に冷たかった。ツグミは吹き飛ばされそうな気がして、体をくの字に曲げてしまった。
風の強さから逃れようと、ツグミは急いでワゴン車の助手席に乗り込んだ。
ワゴン車の中に入ると、風の音が遠のいた。ヒーターが入っていたけど、ろくに洗車していなかったから、カビの臭いが車両内全体を満たしていた。ツグミはあまりの臭いに飛び出したくなってしまったけど、窓の外は風が収まらないらしく、木々が枝を大きく揺らしているのが見えた。心の天秤は、すぐに暖かい車の中を選択した。
ツグミはワゴン車の後方を確認した。岡田のワゴン車は、美術品を積み込む都合で後部座席がない。今は座席の後ろに大きなコンテナが一つあるだけだった。コンテナが左右に揺れないように、しっかりとロープで固定されてあった。
コンテナは正方形に近い箱形だ。あまりにも大きく、コンテナ1つで後ろの空間を完全に独占していた。
このコンテナの中に、絵が立てた状態で入れられている。完全な密閉状態だから、中は確認できない。
「大丈夫や。その中に、ちゃんとレンブラントが入っとぉで」
岡田がコンテナを振り返って説明した。
ツグミは納得して頷いた。姿勢を元に戻し、助手席のシートに体を預けた。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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