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■2016/05/27 (Fri)
第13章 王の末裔

前回を読む

 夜が明けようとしていた。ひどく冷たい空気が垂れ込んできて、疲れ切った顔をする騎士達を包みこもうとしている。
 列の先頭に立つイーヴォールも、疲労を重く浮かべていた。イーヴォールは真の名前を明かされて以来、だいぶ疲れやすくなった。体力は並の人間か、それ以下というところまで落ちていた。名前を隠すことで得ていた加護を失ったからだろう。
 朝日が昇る時間になり、東の空が淡く霞みかけている。だがむしろ、夜の闇は色を深くしている。朝と夜の端境にある沈黙が辺りを包んでいる。
 間もなく夜明けだ……しかしいくら待っても、闇は払われず、むしろ深さを増していくように思えた。
 イーヴォールはようやくはっと気付いて辺りを見回した。列を作っていたはずの仲間達が姿を消していた。自分の居場所もわからない。見知らぬ森に迷い込んでいた。
 辺りの闇は尋常ではない深さを持ち、風は凍り付くくらいに冷たかった。
 イーヴォールはようやく現世ではない別の場所に迷い込んだと気付いた。
 馬を止めて、辺りに警戒を向ける。真っ黒に塗りつぶされた周囲の茂みから、怪しげな気配がちらちらと見え隠れしている。髑髏の目を赤く光らせた、死者――死神たちであった。
 イーヴォールは意識を強く際立たせた。すでに死神たちが周囲を取り囲んでいた。だがいくら見ても、全部で何人いるか数えられなかった。

イーヴォール
「なるほど……。今度は仲間を集めてきたというわけか。――死にたい奴から来い! このエクスカリバー、刃はこの有様だが、神秘の力は失われておらんぞ!」

 イーヴォールはエクスカリバーを抜いた。魔力が込められた切っ先を周囲に向ける。
 啖呵を切るイーヴォールだったが、内面は動揺していた。声が引き攣り、体が恐怖で凍り付きかけている。
 しかし死神達は、イーヴォールを取り囲んだまま、それ以上に向かって来ようとはしなかった。
 何事か――そう思った時、イーヴォールははっと頭上に気配があるのに気付いた。

僧侶
「待て待て。争う気はない。武器を収めろ」

 木の枝先に、東洋の僧侶のような衣をまとった男が立っていた。着物をはだけで上半身を見せ、その肩には6本の腕が付けられている。それぞれの手が木の枝を巧みに掴み、危うい場所でありながら平衡を保っていた。

僧侶
「お前がイーヴォールか。よくぞ1000年もの間、我々を欺いてくれたものだな。お前みたいな奴は、人が物を言うようになって以後、初めてだ。お陰でこっちはいろいろ仕事が立て込んで大変だったぜ」
イーヴォール
「インドで厄介な神に憑かれたか……。何用だ!」

 恐らくは死を司る神だ。イーヴォールは底知れぬ恐怖を感じていたけど、感情を押し込んで叫んだ。

僧侶
「せっかちな奴だ。お前も年寄りなら、もう少し余裕を持ったらどうだ? 人の生き死には、うんざりするくらい見てきたんだろう」
イーヴォール
「今は時間がない。死神どもに道を塞がれているからな。何があっても、ここは通してもらうぞ。この魂、奪いに来たというのなら力尽くで突破させてもらう」
僧侶
「――これのことかね」

 坊主はにたりと笑って、手の1つをイーヴォールの前で開いて見せた。そこに、青く輝く珠が1つ浮かんでいた。
 イーヴォールは顔を驚愕で凍り付かせ、自分の胸を押さえた。そこから鼓動が失われているのに気付いて、はっきりと青ざめる。

僧侶
「ヒッヒッヒッ……。人間のくせに生意気をするからだ。だがな、こっちは神だ。もうお前の魂はわれらの手の中。握りつぶそうと思ったら、いつでもできるぞ」
イーヴォール
「それを返せ!」
僧侶
「うほほ! いいのか。潰すぞ。この魂潰すぞ!」
イーヴォール
「…………」

 イーヴォールはこれまでにない形相で、悪神を睨み付けた。

僧侶
「しかしだな、ほんの少しなら猶予を与えてやらんでもない。どうだ。取引しないか」
イーヴォール
「そういうのを脅迫と言うのだ。言え。どうせ私には選択肢がない」
僧侶
「利口な奴だ。実はな、話っていうのは、あの悪魔の王のことだ。あのクロースどもが作り出した忌々しい化け物さ。あの野郎、こっちの世界でも好き勝手暴れ回っている。誰にも手を付けられんのだよ」
イーヴォール
「知ったことか。神の問題は神がなんとかしろ」
僧侶
「おうおう、言ってくれるじゃないか。潰すぞ。この魂潰すぞ」
イーヴォール
「この私にクロースの悪魔を倒せ。そういう話なのだな」
僧侶
「そうだ。もし本当に倒せるというのなら、お前を寿命が果てるまで取らんでやる。もし逃げるなら、今すぐにこの魂を握りつぶす」
イーヴォール
「お前達でもなんとかならんのか」
僧侶
「駄目だ。あいつは俺達にでも倒せない。あいつを倒す方法は、どうやらお前が見付け出した方法しかないようだ。なあ、悪い取引じゃないだろう。俺だけじゃない、多くの神々が望んでいるんだ」
イーヴォール
「もとよりそのつもりだ。1000年間、そのためだけに生きてきた。もし役目を終えられたら、その時点でこの魂をお前にくれてやる」

 そう言いつつ、イーヴォールは僧侶から目を逸らした。

僧侶
「言ってくれるじゃないか。いい女だぜ。しかしお前はこうも思っている。聖剣を扱える人間がいない」
イーヴォール
「…………」

 イーヴォールは図星を突かれて、はっと顔を上げた。
 坊主がにたにたと不気味な笑みを浮かべている。

僧侶
「あんたでも知らんことがあるようだな。だがよく聞け。真に正しき道は、常に険しい脇道の中にこそ用意されている」
イーヴォール
「……どういうことだ」
僧侶
「いずれわかることさ。見付けられなかったら、お前はおしまい。それだけさ。――それじゃ、担保は頂いていくぜ。この魂の半分……」

 僧侶の掌が、すっと鈍くなった。
 イーヴォールはすぐに自分の胸を押さえた。心臓が弱々しく脈打つ感触があった。

僧侶
「お前の魂はこの掌の中……俺はいつでもこいつを握りつぶせる。わかっているな」
イーヴォール
「貴様は口数が多いな。これは約束ではない。使命だ」
僧侶
「ほっほっほっ。使命か? いいや、約束だ。約束だったはずだ。忘れたわけではあるまい。いや、忘れていないからこそ、お前は使命だと言い聞かせている。ケール・イズが悪魔の王に滅ぼされる時、お前は約束した。姫君とな」

 イーヴォールに動揺が浮かんだ。1000年前、自身を追放した姫を思い出していた。そして哀れな姿になって、自分を訪ねてきた“真理”を持つ者を。

イーヴォール
「いらんことを知っておる……」
僧侶
「ヒッヒッヒッ。お前のことなら何でも知っているさ。俺は1000年間、お前が歩いた後を追いかけてきた。もう他人という気がしないのさ。じゃあ、あばよ。イーヴォール。いい女だぜ。愛しているよ!」




兵士
「ール様……イーヴォール様……イーヴォール様……」

 イーヴォールはようやく我を取り戻して、顔を上げた。いつの間にか気を失い、騎士達の列から外れてしまっていたようだ。兵士の1人が心配して駆け寄ってきたところだったようだ。
 イーヴォールはエクスカリバーを確かめた。ちゃんと我が掌にある。すでに太陽は昇っていて、辺りは明るく浮かんでいた。

兵士
「どうなされました? 具合でも……」
イーヴォール
「……いや」

 イーヴォールは平静を装い、列の先頭に戻った。
 丘を抜けると、草原が広がった。東の空が白く浮かんでいる。しかし北へ目を向けると、そこは異様に暗く、不気味な気配がくっきりと形を漂っていた。
 イーヴォールは周りに気取られないように、そっと胸を押さえた。心臓が弱く鼓動を打っていた。

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■2016/05/26 (Thu)
第6章 イコノロギア

前回を読む

15
 光太の話が終わって、アトリエに沈黙が漂った。
 ツグミは光太がさらなる情報をもたらしてくれると思い、待った。ヒナも身を乗り出し気味で、光太の次の話を待った。
「ん? 俺の話は終わりやで」
 光太は一息つこうと、コーヒーカップに手を伸ばしかけていた。
「他に、何か思い出せる事件とか、ありませんでしたか。小さなことでもいいんです。街で川村さんらしき人を見たとか、噂を聞いたとか……」
 ヒナは慌てて早口になっていた。何も手掛かりが出てこなかったのに、焦った感じだった。
「いや、ないよ。川村は姿を消した。これで、俺の話は終わりや」
 光太は首を振って、あっさりと否定した。
 場の空気がいきなり変わってしまった。何か出てくるかも知れない、という緊張感や期待が、さらさらと溶けてしまった。
 アトリエに何となくちぐはぐとした空気が包んだ。ひどく白けた感じで、もどかしい感じだった。
 ヒナは全身から力が抜けたように、ソファにもたれかかった。両掌を顔に当てて拭うみたいにしていた。
 ツグミはうつむきながら、ヒナの様子を観察した。ヒナはすぐ横で見ていると、辛そうだった。色んな疲労がどっと出たに違いなかった。
 ツグミも拍子抜けみたいな気分になって、鼻から溜め息のような息を吐いた。そうやって、何気なくトレンチコートのポケットに手を突っ込む。
 すると、右のポケットに何かが触れる感じがあった。ツグミはハッとなった。引っ張り出してみる。ノートの切れ端が1枚出てきた。
 ノートの切れ端を開いてみる。描かれているのは、ツグミの稚拙というしかない絵だった。しかし、今この場における、唯一の手掛かりだった。手掛かりだったけど、ツグミは絵を公開するのを躊躇ってしまった。
 アトリエは興醒めした空気が支配的になっていた。光太は静かにコーヒーを啜っている。ヒナは無気力な目で天井を仰いでいる。
 それでもツグミは躊躇ってしまった。ここにいる2人は、絵のプロだ。そのプロの厳しい論評に耐えられるほど、ツグミは自分が打たれ強くないのを理解していた。だから躊躇ってしまった。
 しかし、今の停滞した空気もいたたまれなかった。その2つを両天秤に掛けて、ツグミはようやく決心した。
「ヒナお姉ちゃん、この絵なんやけど……」
 ツグミはヒナを上目遣いにして、ポケットに入れていた絵を差し出した。
 絵はずっと2つ折りになっていたし、さらにポケットに入れたままだったので、すっかりヨレヨレになっていた。
 ヒナはツグミから絵を受け取って、そこに描かれているものを見詰めた。ヒナは眉間に皺を寄せて、厳しい顔をした。
 ツグミは、「笑われる」と思って、心の中で身構えた。
 が、ヒナは沈黙したままだった。
「ツグミ。これ、どうしたん?」
 ヒナはツグミに訊ねながら、光太に絵を手渡した。
 光太は絵を受け取って、ソファにもたれかかり、絵を目の位置より高い場所に掲げて見た。光太もなぜか神妙そうな顔をしていた。
「あの、それじゃ、岡山に行った話からするね……」
 ツグミは誰も笑わないのに、ホッとするような拍子抜けのような気持ちになりながら、話を始めた。

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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです

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■2016/05/25 (Wed)
第13章 王の末裔

前回を読む

 その翌日。城より南へ9リーグ。森林地帯を背景に、戦が始まっていた。
 オークとソフィー率いる軍団が、ダラス陣営と戦っていた。
 オーク達も奇襲をかけるつもりでいたが、ダラス陣営は襲撃者に対して準備を整えて待ち受けていた。ティーノ陣営を脱出した兵士が、前日に警告を送ったのだ。
 ダラス軍は、弓矢と騎馬の攻撃で、オーク軍を圧倒した。奇襲が失敗した今、オーク軍は劣勢どころか壊滅寸前だった。

オーク
「退け! 退くんだ! 退却!」

 敵の猛烈な攻撃が続いた。オークはやむなく撤退指示を出す。
 仲間達が戦いを諦めて逃げ始める。ダラス軍の騎士が追跡した。
 オークは仲間達を逃がすために、戦線に踏みとどまった。
 敵の騎兵が迫った。槍の攻撃がオークを狙う。オークは持っている剣で抵抗した。刃は弾いたが、勢いに負けた。オークは馬から転げ落ちる。
 敵がさらに迫った。司令官を倒そうと、オークに殺到する。まだ倒れたままのオークに、敵の刃が迫った。

ソフィー
「オーク様!」

 ソフィーが駆けつけようとしたが、遠すぎた。
 危機一髪。
 そこに、アステリクスが飛び込んだ。アステリクスは馬ごと敵に体当たりを喰らわせた。突然の攻撃に敵が落馬する。そこを、オークがとどめを刺した。

アステリクス
「急いでください」

 オークは頷いた。
 オークは馬に乗り込むと、周囲を見回した。仲間達の多くがすでに撤退した後だった。それを確かめると、オーク自身も森の中へ入った。
 森に入ると、走る仲間達と、それを追跡するダラス騎兵がいるのに気付いた。オークはダラス騎兵を背後から攻撃し、1人1人蹴散らしながら森の奥へと進む。
 しかし、行く手を恐るべきものが遮った。悪魔だ。クロースの神官たちに伴われて、悪魔がこちらを目指して進んでいた。
 背後からダラスの騎兵が次々にやってくる。前方には悪魔が立ち塞がっている。

ソフィー
「オーク様、戦ってください!」

 オークがまごついている横に、ソフィーがやって来る

オーク
「ソフィー?」
ソフィー
「戦う以外に、道はありません!」

 ソフィーが悪魔に立ち向かっていった。
 オークは了解して、剣を抜いた。悪魔へ挑戦する。
 クロースの神官達が光る杖の向きを変えた。悪魔が解き放たれる。向かう兵士達は、丸太のような太い腕をぶつけられ、薙ぎ払われた。
 オークは悪魔の最初の一撃をかわし、懐にとびこんだ。その脇腹に、刃の打撃を与える。
 悪魔は痛みに唸り声を上げた。だがそこに刃の傷はなかった。聖剣以外の攻撃は、無に等しい。
 だが悪魔は攻撃を受けて怒り狂った。オークを標的に定めて、追いすがる。
 ソフィーが横から飛び込んだ。杖の先に光を宿らせる。悪魔は目を眩ませて、その場に踏みとどまった。その間に、オークとソフィーは悪魔から離れた。
 周りを見ると、ダラス騎士団が完全にケルトの軍団を取り囲んでいた。あちこちで戦いが再開されていた。

ソフィー
「オーク様、あの杖を!」

 ソフィーが光る杖を持っている神官達を示した。
 オークは了解して、馬の腹を蹴った。近くにいた兵士達も、神官に狙いを定める。
 突然の襲撃に、神官達がまごついた。オークは神官たちが持っている杖を、剣で叩き折った。
 その様子を、悪魔が見ていた。自分を縛るものがなくなったのを察すると、悪魔の反逆が始まった。悪魔はクロースの神官たちに飛びつくと、次々と襲いかかった。
 まだ杖を持っていた神官が、悪魔に光を向ける。だがその光は、たった1つではいかにも弱かった。悪魔は光の前でたじろぐが、火の玉を飛ばし、神官を殺した。
 クロースの神官達が全滅し、悪魔が自由を得た。
 すると、オークに新たな策がひらめいた。

オーク
「進め! 私に続け! 敵陣に突っ込むぞ!」

 オークは号令を出しつつ、悪魔の目の前に飛び出した。
 思惑通り、悪魔はオークに狙いを定めた。オークは追いつかれないように馬を走らせた。
 悪魔を伴って走るオークに、ダラス騎士団は困惑した。悪魔はオークを追いかけながら、その途上で塞がる兵士を次々と掴み、殺した。
 優位に立っていたはずのダラス陣営は、突っ込んでくる悪魔に足並みを乱して、号令をかけるのも忘れて四散し始めた。
 形勢逆転。オーク達の軍団は勢いを取り戻してダラス陣営を切り崩し始めた。悪魔は修羅に飛び込んでいくと、敵味方構わず襲いかかった。悪魔の襲撃に、ダラス陣営はばらばらに分断され、一気に壊走寸前に陥った。

ダラス
「逃げろ! 逃げろ!」

 ダラス兵団が、蜘蛛の子を散らすように戦場から逃げ出していく。
 その中に、オークは聖剣ダーンウィンを持って逃げようとする騎士を見付けた。

オーク
「あれだ!」

 オークは馬の腹を蹴った。騎士を追跡する。
 騎士は熟練の乗り手だった。森の中を速度を緩めず疾走する。オークも手練れであった。距離は次第に縮まっていく。
 いよいよ追いつく――とその時、騎士はダーンウィンを放り投げた。
 ダーンウィンはオークの頭上を飛び越えて、別の騎士の手に渡った。
 オークは馬首を変えて、ダーンウィンを預かった騎士を追いかけた。
 が、さっきの騎士が剣を抜いてオークに斬りかかってくる。
 背後から炎の矢が飛びついた。炎が騎士の背中を貫く。振り向くと、ソフィーが馬に乗って駆けてくるところだった。
 オークは今度こそ方向を変えて、ダーンウィンを持った騎士に接近した。
 森が次第に深くなっていく。オークは木をかわしながら、騎士に近付く。
 だが騎士はオークが近付いたところでダーンウィンを投げた。
 歩兵がダーンウィンを受け取る。が、柄を握ってしまった。ダーンウィンは相応しからぬ持ち主を炎で焼き払った。
 持ち主を失ったダーウィンが、草むらに放り出される。
 オークも騎士も、慌てて馬を止めて方向転換した。
 そこに、別の騎士が現れた。騎士は素晴らしい馬術で鞍の上で体を捻り、草むらに落ちたダーンウィンを拾い上げた。
 オークは当然、この騎士を追いかけた。敵兵もオークを留めようと走る。ふと辺りを見回すと、オークは敵に取り囲まれていた。
 だがオークは怯まなかった。むしろ馬の速度を早める。ダーンウィンを持った騎士に、馬ごとぶつかった。
 2頭の馬がもつれ合いながら倒れる。巨体が吹っ飛び、地面に激突した。草むらが潰され、土砂が巻き上がる。乗り手も遠くまで吹っ飛ばされる。
 オークは一瞬気を失うが、すぐに目を覚ました。我が手を見ると、ダーンウィンがあった。ついにダーンウィンを取り戻したのだ。
 しかし辺りを巡らすと、味方の姿はなかった。敵の騎兵が迫ってくる。
 オークは、腰に手を伸ばした。だが、剣はなかった。

敵兵
「あいつは武器を持っていないぞ! ダーンウィンを奪い返せ!」

 敵の騎兵が一気に迫る。
 逃げ場はない。武器もない。あるのは手の中のダーンウィンだけ。
 オークはダーンウィンに目を落とした。なぜかオークは混乱や動揺を感じていなかった。他に選択肢がないという状況が、その行動へと導かせていた。
 オークはダーンウィンの柄を握った。

敵兵
「……馬鹿な」

 火は放たれなかった。ダーンウィンはオークを主と認めた。
 なぜかわからない。しかし考えている暇はなかった。オークはダーンウィンを抜刀した。
 騎兵が肉薄した。槍の穂先がオークを狙う。
 オークは槍を弾いた。さらに騎馬にダーンウィンの一撃を食らわせる。刃が火を放ち、騎士を焼き払った。
 敵に動揺が広がった。オークの仲間達が森の向こうから駆けつけてくる。敵兵はダーンウィンを諦めて、撤退した。

ソフィー
「オーク様! ご無事でしたか。――そ、その剣は……。ううん。今は乗ってください。急いで!」

 ソフィーはオークの手の中にある剣に驚きつつも、自身の馬に乗せて、森を去った。

 森を出ると、ダラスの陣営が悪魔と戦っていた。大きな勢力だったが、無敵の悪魔を相手にして壊滅寸前に陥っていた。もはや、誰もオーク達を気にかけなかった。
 オークはその様子を見届けて、仲間達を引き連れその場を去った。

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■2016/05/24 (Tue)
第6章 イコノロギア

前回を読む

14
 時計はもう深夜3時に近くなっている。しかしツグミは眠いとは思わなかった。むしろ時間が経つにつれて、気分が冴え渡るのを感じた。もっと川村について知りたかった。
「それで叔父さん。川村さんは、私のお父さんとどんなふうに出遭ったんですか」
 話がとりとめなくなりそうだったので、ヒナがうまい具合に軌道修正した。
「1999年だったな。春の終わり頃に、太一から電話があって。どうしても描いてほしい絵の仕事があるって。でもその時、俺は映画の仕事を抱えていて、暇がなかったんや。だから、代わりに川村を行かせたんや。『話を聞いたら、断ってすぐに戻って来い』って言ってな」
 光太にとっては、まだ笑顔で話せる思い出らしかった。ちなみにその仕事は、川村も関わったアニメ映画『完璧な青』の後の話だった。
「叔父さん、お父さんと仲が悪かったんですか?」
 ツグミは光太の言い草に、ふと気になるものを感じた。ツグミに指摘されて、光太は「しまった」という感じに顔を歪めた。
「うん、悪かった。あの頃、太一は物騒な連中を付き合って、犯罪まがいの何かをやっていると思っていたからな。あんなもん、美術家の生き方違うって。今にして思うと、美術の業界はバブルが弾けて以来、苦しんどったやろ。まともな商売で、食っていけるはずがなかったんや。あいつの場合、娘を3人も抱えていたから……」
 光太は言いながら、また「しまった」と顔を歪めた。
 ツグミとヒナが顔を見合わせた。ヒナの顔が悲しげだった。「自分のために、お父さんは……」という感じだった。
 ツグミも自分の父親の悪口なんて、聞きたくなかった。「娘のためだった」と注釈を加えられても、やはり嫌だった。
「その1年後ですよね。お父さんが誘拐されたの。川村さんとはどうなったんですか。会ったりしなかったんですか」
 ヒナは光太の失言についてはあえて指摘せず、話を進ませた。
 光太は一瞬、ホッとした顔になった。それから考えるふうにうつむいた。
「一度だけ、電話をくれたな。太一が誘拐された後や。俺は『何があったんだ』って聞いたんや。するとあいつは、『レンブラントの絵を、頼みます』って。それが、最後やったな。それきり行方不明や」
 光太は背を少し丸めるようにして、台詞の1つ1つを思い出すようにしながら、話した。
「『レンブラント』ですか? 『フェルメール』ではなくて?」
 ツグミは何か引っ掛かるような気がして、質問した。勘違いだろうか。
「うん、確かにあいつはレンブラントって言ったで。そんなん言われても、って感じやったけどな」
 しかし光太は、疑問点には気付かないようだった。

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■2016/05/23 (Mon)
第13章 王の末裔

前回を読む

 王城より西の湖に、クロースの僧侶達が新たな街の建設に取りかかっていた。地元の労働者を雇い、森を伐り開かれ、労働者用のテントがいくつも設営されている。職人達が石を運び入れ、教会建設のための礎石がいよいよ築かれようとしているところだった。
 そんな時に、敵襲の知らせがあった。

兵士
「敵襲! 王の残党がこちらに向かってきます!」

 この知らせに、クロース達は大混乱に陥る。敵はすでに排除されたと思い、誰も外部からの攻撃を想定していなかった。

ティーノ
「早くしろ! 何をしている! 遊びじゃないんだぞ!」

 ティーノがヒステリックに叫ぶ。兵士達は鎧すら身につけておらず、大慌てでいま兜を被っているところだった。
 そこに、伝令の兵士が駆け込んでくる。

兵士
「申し上げます! 敵の兵団は北の魔女が率いています!」
ティーノ
「なんだと……」

 ティーノが絶句する。茫然とした空気が、兵士達に広がった。

兵士
「……北の魔女。その者は現れる時に必ず死の予言を残していく……」
ティーノ
「馬鹿な。北の魔女なぞ実在しない! まやかしだ! ペテンに決まっている! 戦え! 戦ってペテン師を撃ち殺せ!」

 ティーノは再びヒステリックに叫ぶ。


 一方、イーヴォール達は丘の上から、足並みが揃わないクロースの陣営を眺めていた。戦の準備が整うには、まだだいぶ時間が掛かりそうな様子だった。

ゼイン
「イーヴォール殿。そなたと戦えて、光栄に思うぞ」
イーヴォール
「戦うことではなく、勝って家族の元へ帰る時にそう言え」
ゼイン
「――うむ!」
イーヴォール
「行くぞ!」

 イーヴォールが剣を抜いて、合図を出した。騎馬達が一斉に丘を駆け下りていく。
 しかしクロースの兵士達は、いまだに戦いの準備を整えていなかった。
 イーヴォール率いる軍団が、クロースの陣営に突っ込んでいく。騎士達は兵士を薙ぎ払い、テントに火を点け、積み上げはじめたばかりの礎石を突き崩した。
 ようやくクロースの兵士達が槍を手に駆けつけるが、イーヴォール達の勢いを留めることはできなかった。
 クロースの兵達は数という面では勝っていたが、イーヴォール達の奇襲攻撃の前に体勢をボロボロにして、立て直す暇もなく次々と崩されていった。


 クロースの兵士達は間もなく戦意をなくして、武器を捨てて逃走を始める。
 ティーノも立て直し不能の劣勢であると悟ると、仲間達を見捨てて財を荷物に積み込み始めた。そうして逃げだそうとしたが、ふと放り出したままになっていたエクスカリバーに気付いた。

ティーノ
「こいつは金になるかも知れん」

 ティーノはエクスカリバーを掴み、テントを飛び出した。
 その時、南の方角から何かがずんずんと足音を鳴らしながら迫ってくる気配がした。
 誰もがその気配に気付き、振り向く。戦の騒音が一瞬遠のいて、戦士達が南に目を向けた。
 そこに、驚くべき巨大な怪物がいた。悪魔である。悪魔は神官達の杖に導かれながら、ゆっくりと戦場に向かって歩いていた。

兵士
「ティーノ様! 来ました! 例の奴です!」
ティーノ
「……おお、素晴らしい。よくやった! よし反撃だ! 異教徒どもを踏みつぶせ!」

 ティーノは荷物を担ぎながら、悪魔の前まで進んだ。
 だが悪魔は、憤怒を浮かべてティーノに飛びつこうとした。ティーノはとっさに側にいた神官を盾にする。悪魔はその神官を掴み、放り投げた。
 悪魔を囲んでいた神官達が、慌てて光る杖を振りかざした。光が強く輝き、悪魔が引っ込む。

ティーノ
「な、なんだこいつ。ちゃんと調教できておらんのか」
神官
「申し訳ありません」
ティーノ
「何でもいい! 早くしろ。早くあいつらを片付けてしまえ!」

 神官達が隊列を変えた。悪魔を囲んでいた光が、ちょうど門が開くように一部だけ開放される。
 悪魔は少し周りを警戒したが、解放されたと知ると、勢いよく飛び出していった。混乱深まる戦場に飛びついていき、兵士達に次々と襲いかかる。
 しかし悪魔は、敵味方区別なく攻撃した。兵士達は突然襲いかかってくる悪魔に、悲鳴を上げて逃げ出していった。

ティーノ
「こら! 何をしている! 助っ人だぞ! 戦わんか!」

 ティーノが怒鳴る声など、兵士達は無視した。悪魔が飛び込んだことで、クロース軍はむしろ余計に統制を失って混乱した。


 悪魔の出現に、冷静に対処したのはイーヴォール達の軍団だった。恐怖に囚われず、勇猛果敢に立ち向かっていったのは、ケルトの戦士達であった。

イーヴォール
「おのれ、ジオーレめ! ついにやったな!」

 イーヴォールは悪魔に立ち向かっていった。
 悪魔は目の前に現れたイーヴォールを標的に定める。口に溜めた火球を吐き捨てた。
 イーヴォールの前に、魔法の盾が現れた。炎はその前に防がれ、四散した。

イーヴォール
「戦士達よ、悪魔に恐れるな! 人の力に屈しない魔などない!」

 イーヴォールの声に、戦士達が士気を奮い立たせて応えた。戦士達が悪魔を取り囲み、矢と槍の応酬を喰らわせた。
 イーヴォールはその間をすり抜けていく。悪魔が兵士達に気をとられている隙に、その足下を潜り抜けていった。右手の剣先が煌めき、イーヴォールが走り抜けた後に光の跡が残されていった。
 悪魔は群がり集まってくる戦士達に攻撃する。俊足で駆け回るイーヴォールを載せた馬を掴もうと、手を伸ばした。だがイーヴォールは悪魔の攻撃をすんででかわし、翻弄した。悪魔は何度も火球を放つが、イーヴォールはその度に魔法の盾を作って防いだ。
 イーヴォールは戦場を駆け回り、光る剣先で何かを描いていた。間もなくして、それが巨大な魔方陣の形を作り始めた。魔方陣の中心に、悪魔が立っている構図だった。
 魔方陣が完成すると、イーヴォールは兵士達に退却を命じた。悪魔が兵士達を追いかけようとする。だがイーヴォールは魔法の鞭を作り、悪魔を叩いた。さらにその腕を掴み、引き倒す。悪魔は不意を突かれて、その場にズシンと地面を揺らして倒れる。

イーヴォール
「爆ぜよ!」

 イーヴォールが魔方陣の中に剣を投げ入れた。
 瞬間、恐るべき爆炎が立ち上がった。炎の渦が悪魔取り囲む。悪魔は炎から逃れようとしたが、渦の勢いは凄まじく、その巨体を翻弄し、持ち上げてしまった。火柱は一瞬のうちに天空まで駆け上り、周囲の雲を散らしてしまった。激しい業火は、周囲に岩石のような火の礫を撒き散らした。だが魔法の炎は周囲に火を広げず、瞬く間に消えてしまった。
 間もなくして、炎が消えた。魔方陣の中にあった草むらも樹木も完全に消えて、真っ黒に焦げた土だけが残っていた。悪魔の姿がなかった。
 ――いや、空から何かが降ってきた。真っ黒に焦げた何かが降ってきて、どさっと落ちた。悪魔だ。全身が焼け焦げて、炭化していた。もはやどこが手で、どこが足なのかわからない有様だった。
 それでも悪魔の生命は失われず、のそのそと動いて立ち上がろうとしていた。
 イーヴォールがその前に立ちはだかった。悪魔が頭らしきものをイーヴォールに向ける。イーヴォールは剣で、その頭を切り落とした。
 巨大な炭が、ごろごろと転がっていった。悪魔はついに生命力を失って、倒れた。

イーヴォール
「悪魔を焼くには、地獄の業火こそ相応しい」

 一部始終を、ティーノはぽかんと見ていた。何が起きたかわからず、茫然とその様子を見ていた。
 はっと我に返って、辺りを見回す。気付けばクロースの兵達はみんな逃げた後だった。自分1人取り残されている状態だった。
 逃げだそうと立ち上がるが、その行く手を、ケルトの戦士達が阻んだ。イーヴォールもティーノ前にやってくる。

イーヴォール
「それを渡してもらおう」
ティーノ
「たたた、助けてくれ!」

 ティーノは荷物と一緒にエクスカリバーを放り出すと、戦士達を突き飛ばして逃げ出した。意外な俊足で、あっという間にどこかに走り去ってしまった。

ゼイン
「追いますか?」
イーヴォール
「放っておこう。時間の無駄だ。撤退するぞ。オーク達と合流だ。急いだほうがいい」

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