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■2015/10/30 (Fri)
創作小説■
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
前回を読む
「そりゃそうや。だって、この間、モデルになってもらったやろ? 俺もそろそろ挑戦してみようかなと思ってな。2人とも、ちょうどいい年頃やろ」
確信犯だ、とツグミは思った。光太は事あるごと、妻鳥三姉妹をシリーズで描きたいと公言していた。
実は以前訪問したとき、ツグミは光太に頼まれてモデルをやっていたのだ。といっても、簡単にポーズをつけてさらっとスケッチを取っただけだったけど。もちろん、着衣でだ。
いつか絵にされる時が来る。わかっていたけど、心の準備ができていなかった。ツグミは恥ずかしくて、熱くなった顔を隠そうと両掌で覆った。
「良かったなツグミ。ねっ、叔父さん、次は私?」
コルリはからかう感じではなく、素直に「良かったね」とツグミの背中を叩いた。
「そうやな。コルリも美人さんやからな。なに着せても似合いそうやし、ちょっと迷うなぁ」
光太はしげしげとコルリの全身を見ながら考えるふうにした。
「私、ヌードOKやで。割と自信ありやから!」
コルリは腰に手を当てて、ずいっと胸を前に差し出す。自信に満ちた表情だった。
「そうか! じゃあ後で……」
「うん」
光太は内緒話するように口元を隠す。コルリはちょっとだけ恥ずかしそうに、しかし躊躇いもなく頷いた。
ツグミはそれとなく2人の側から離れた。話題について行けそうになかった。
すると、ふと部屋の反対側の壁に作りつけられた書棚に、画板が1枚立てかけられているのに気付いた。ツグミは不思議なくらい心惹かれるものを感じて、絵の前に進んだ。
60号ほどの大きな絵だった。手前にアンティークな椅子が2脚、並べて置かれ、その後ろに2人の人物が立っている。男と女の形をしたデッサン人形だった。デッサン人形は案山子のような感じに、黒い衣装を着せられていた。
案山子のすぐ後ろに、大きな画中画が掲げられていた。丸と三角を組み合わせた、不思議な幾何学模様だった。
全体が淡いセピアのライトで浮かび上がり、ちょっと印象的だった。ただ一目で光太の絵ではないとわかった。サインがなく作者は不明だが、優れた感性と画力を感じさせる絵だった。
「叔父さん、この絵は何?」
ツグミは光太を振り向き、訊ねた。コルリも興味を持って、絵の前に進み、「ほう」と感心した声を上げた。
「それ、岡山の知り合いが持って来たんや。絵も悪くなかったし、値段も安かったから買い取ったんやけど。ようわからん絵やけど、何かええやろ? どこかに飾っとこうと思うんやけど」
光太の言葉に、絵に対する素直な尊敬が現れていた。
確かに、これはちょっと見逃せない絵だ。作者不明で、画題も意味深だ。だが、何か胸を打つものがある。ひょっとすると、歴史のどこかで忘れられた天才の作品かもしれない。
ツグミとコルリは、しばらく絵画の世界に身を委ねた。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
第4章 美術市場の闇
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5
光太は誇らしげな顔でツグミとコルリの後ろに立った。「そりゃそうや。だって、この間、モデルになってもらったやろ? 俺もそろそろ挑戦してみようかなと思ってな。2人とも、ちょうどいい年頃やろ」
確信犯だ、とツグミは思った。光太は事あるごと、妻鳥三姉妹をシリーズで描きたいと公言していた。
実は以前訪問したとき、ツグミは光太に頼まれてモデルをやっていたのだ。といっても、簡単にポーズをつけてさらっとスケッチを取っただけだったけど。もちろん、着衣でだ。
いつか絵にされる時が来る。わかっていたけど、心の準備ができていなかった。ツグミは恥ずかしくて、熱くなった顔を隠そうと両掌で覆った。
「良かったなツグミ。ねっ、叔父さん、次は私?」
コルリはからかう感じではなく、素直に「良かったね」とツグミの背中を叩いた。
「そうやな。コルリも美人さんやからな。なに着せても似合いそうやし、ちょっと迷うなぁ」
光太はしげしげとコルリの全身を見ながら考えるふうにした。
「私、ヌードOKやで。割と自信ありやから!」
コルリは腰に手を当てて、ずいっと胸を前に差し出す。自信に満ちた表情だった。
「そうか! じゃあ後で……」
「うん」
光太は内緒話するように口元を隠す。コルリはちょっとだけ恥ずかしそうに、しかし躊躇いもなく頷いた。
ツグミはそれとなく2人の側から離れた。話題について行けそうになかった。
すると、ふと部屋の反対側の壁に作りつけられた書棚に、画板が1枚立てかけられているのに気付いた。ツグミは不思議なくらい心惹かれるものを感じて、絵の前に進んだ。
60号ほどの大きな絵だった。手前にアンティークな椅子が2脚、並べて置かれ、その後ろに2人の人物が立っている。男と女の形をしたデッサン人形だった。デッサン人形は案山子のような感じに、黒い衣装を着せられていた。
案山子のすぐ後ろに、大きな画中画が掲げられていた。丸と三角を組み合わせた、不思議な幾何学模様だった。
全体が淡いセピアのライトで浮かび上がり、ちょっと印象的だった。ただ一目で光太の絵ではないとわかった。サインがなく作者は不明だが、優れた感性と画力を感じさせる絵だった。
「叔父さん、この絵は何?」
ツグミは光太を振り向き、訊ねた。コルリも興味を持って、絵の前に進み、「ほう」と感心した声を上げた。
「それ、岡山の知り合いが持って来たんや。絵も悪くなかったし、値段も安かったから買い取ったんやけど。ようわからん絵やけど、何かええやろ? どこかに飾っとこうと思うんやけど」
光太の言葉に、絵に対する素直な尊敬が現れていた。
確かに、これはちょっと見逃せない絵だ。作者不明で、画題も意味深だ。だが、何か胸を打つものがある。ひょっとすると、歴史のどこかで忘れられた天才の作品かもしれない。
ツグミとコルリは、しばらく絵画の世界に身を委ねた。
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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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