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■2015/11/02 (Mon)
創作小説■
第5章 蛮族の軍団
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14
間もなく日が暮れかけた。窓のない会議室は、夕暮れの時間に入ると、急速に影が深くなっていく。小姓らが気を利かせて、蝋燭を持って来てテーブルに並べるが、迫り来る闇を照らすには充分なものではなかった。
セシル
「今は下らん議論を続けている場合ではない。ここには国を守ろうという気概を持った者はおらんのか。侵略者が何者であれ、兵を集結してこれを叩く。それが異民族に対して、我らの意思を示すことにもなる」
貴族
「結局王子は、戦争がしたいだけでしょう。これだから戦争好きの為政者は困る。巻き添えになるのは、いつも罪なき民だ」
ラスリン
「ならばこうしましょう。交渉人を立てて、相手の要求を聞きましょう。それなら軍隊を出す必要もなくなるし、要求のものを差し出せば帰ってくれるかも知れないぞ」
貴族
「それはいい。賢明だ。余計な手間が全部省けるというもの。早速手配しましょう」
セシル
「貴様らは馬鹿か! 剣を抜いた相手に交渉などあるか!」
憤慨するセシルが声を張り上げた。
しかし貴族達がしらっとした目をセシルに向けた。
貴族
「口に気をつけたまえ。いくら温室育ちのお坊ちゃんといえど礼儀くらいわきまえてもらいたい。あなたの考えていることが何でも思い通りになるわけではないぞ」
ラスリン
「そなたは軍隊だ戦争だと気楽に言うが、それを動かす金は誰が出してくれる? この国か? 国庫も尽きようとしているこの城のどこにそれだけの財産がある。王子が旅行三昧の生活をやめれば、少しは楽になるかもしれないがの」
貴族
「ハハハッ! その通りだ」
セシル
「これは私の国だけの問題ではない。諸君らの国の問題でもあるのだぞ。いざというときに国を守れぬ者に、いったい誰が従いてくるというのか」
ラスリン
「その時にはただ王が変わるだけ。我らにも民にもなんら支障はないでしょう。民などは誰が治めようと命じれば税金を払うでしょう。政治の問題なんぞ、誰が気にかけましょうか。王子の言っているようなことは、正しく国の問題ではなく、そなたたち親子の小さな名誉の問題でしょう」
貴族らの間に哄笑が沸き起こる。
貴族
「いやいや、あなたもおかしなことを仰る。この国のどこに王などおります?」
貴族
「それは言えた。どこを見回してもどうやらおらんようだが……。ひょっとすると、この国には王などおらんのではないか」
貴族
「ははは! そうだそうだ! 王子よ、もし国だ国だというのであれば、それを治める王を出すがいい」
貴族
「そうだ王だ! 王だ!」
貴族
「王を出せ! 王を出せ!」
貴族達の「王を出せ」の大合唱が始まった。
セシルの怒りも頂点に達していた。顔を赤くして手を震わせ、殺気を漲らせていた。武人であれば、身の危険を感じずにいられない怒りである。しかし剣どころかナイフすら持った経験のない貴族連中には、セシルが顔を真っ赤にする姿が、道化の見世物のように楽しかったようだ。むしろ貴族たちは調子づいて、「王を出せ」と合唱した。
その時――。
王
「何を騒いでおるか! ここは我が寝床であるぞ! 静かにせんか!」
突然、ヴォーティガン王の一喝が会議室に轟いた。
貴族達の顔が一瞬にして凍り付いた。貴族達は椅子から転げ落ちて、床に這いつくばるように頭を下げた。
王は老いと病で足取りも危うかったが、その身から湧き出る堂々たる威光は、一同を黙らせるのに充分足りうるものであった。
王
「いったい何をしておるのか! 国の大事だというこの時に、我が民と我が領土を守れる者はおらんのか。この腰抜けどもめ。今すぐに軍隊を召集しろ! 従わぬ者は今この場で首を叩き落とし、一族郎党血祭りに上げてくれるわ! 行け者共よ。軍隊を集めよ!」
王の一喝が轟くと、生意気な貴族達は顔を青ざめて、「はい只今!」と大わらわになって会議室を飛び出していった。
セシルは王の前へ進み、膝を着いた。王はもう体力の限界に達したらしく、ふらふらと召使いの用意した椅子に座った。
王
「情けない息子め。手こずっておるな」
セシル
「申し訳ありません。私の人望がないゆえに」
王
「国は容易に動かせん。人1人が背負うにはあまりにも荷が重い。あの貴族連中の背には、国が見えておらん。――それよりも、わかっておるだろうな」
セシル
「はい。手引きをしている者が……裏切り者がおります」
王
「目星はついておるのだろうな」
セシル
「はい」
王
「ならば後は間者にでもやらせればいい。今はオークを救いに行け。あの者を死なせてはならん。あの者は他にないものを感じる。よいか、決してオークを死なせてはならんぞ」
セシル
「はっ!」
セシルは一礼して会議室を後にした。
中庭に出ると、気の早い星が空に瞬き始めていた。無駄に一日を費やしてしまった。
セシルは急いで城の前の大階段を降りていき、兵隊詰め所を覗き込んだ。城の兵士達は、すでに準備を終えて待っていた。
セシル
「今すぐ何人が出られる」
兵士
「ここにいる兵士なら50人。城下に降りれば、あと200人が待機しております」
セシル
「よし充分だ。私も砦へ行く。今すぐ馬を用意しろ」
セシルは鎧を着ける間も惜しんで、馬に跨がった。
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