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■2015/11/04 (Wed)
創作小説■
第5章 蛮族の軍団
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15
オーク達は蛮族達と刃を交えた後、森を通り抜けて逃げ出した。蛮族達の騎兵が追いかけてきた。だがオーク達の馬ほど優秀ではなく、やがて追跡を諦めたようだ。すでに夕空には星が輝き始めていた。オーク達は急いで長城を目指した。辿り着いた頃にはすでに日は落ちていた。ありがたいことに、蛮族の軍団はまだ長城に到達していなかった。
ゼイン
「オーク殿! 無事だったが」
長城の前にいたゼイン達が迎えた。
オーク
「あなたも無事で」
長城の通用口を潜ると、篝火の明かりがいくつも浮かんでいるのが見えた。戦闘準備は終えようとしているが、非戦闘民の避難が終わっていなかった。近くの村から動員されてきた者達も、まだここにいた。
オーク
「戦える者は武器を持て! 戦いの時は近いぞ! 戦えぬ者はここにとどまるな。戦いの時だ!」
オークが檄を飛ばす。兵士達が「おう!」と返事をした。
砦の空気に緊張感が現れ、村人達が砦を去る準備を始める。
オークは、そんな中にソフィーがいるのに気付いた。ソフィーも兵士達に混じって、戦闘準備を進めていた。
オーク
「ソフィー、あなたも城へ」
ソフィー
「いいえ。私も残って戦います」
オーク
「いけません。危険です」
ソフィー
「危険は承知です。私は戦えます」
オーク
「何度も言いません。城に行ってください」
ソフィー
「…………」
オークは話を打ち切って、ソフィーに背を向ける。
ソフィーの顔に落胆が浮かんだ。しかしすぐに従い、村人たちの列に加わると、先頭に立って人々を導いた。
村人達を見送り、オークは残った兵士達を振り返った。そこにいるのはわずか100人の兵士だけだった。それから、未完成の長城だった。
兵士
「敵本陣! 確認!」
そこに兵士の声が響いた。
オークは長城を登り、その向こうに目を向けた。夜の闇に沈もうとする平原に、無数の松明の明かりが現れ、揺れていた。
その全体は暗闇で見通せないが、どこまでも続く松明の明かりが、その軍団を凄まじい大軍団に錯覚させた。
暗闇を行く靴音に、地面が揺れる。星の瞬きのような松明が平原を満たした。圧倒的な戦力の差。兵士達に動揺が浮かんだ。
オーク
「ここで戦うのは長くても1日限りです。それ以降は砦を捨てて、王城に向かいます」
アステリクス
「それはなりません。ここを見捨てるのですか!」
オーク
「砦は未完成で、戦力は充分ではありません。この戦いは、王の軍隊が召集されるまでの時間稼ぎです」
アステリクス
「私は反対です。死んでもここを離れるわけにはいきません。死ぬ覚悟で戦います」
オーク
「死ぬ覚悟で生きてください。死ぬにはまだ早すぎます。あなたにはまだ多くの役目がありますから」
アステリクス
「…………」
アステリクスは応とも否ともつかないような迷いを顔に浮かべていた。
兵士
「戦闘準備整いました! いつでもいけます!」
オーク
「戦闘開始だ! 先手を打つぞ! 矢を放て!」
矢の応酬が始まった。矢の雨が蛮族達の頭の上に降り注ぐ。蛮族達も火矢で応じた。蛮族達の矢は、砦に雹のごとく降り注いだ。砦はあっという間に無数の矢で埋め尽くされ、あちこちで火が点いた。蛮族達の猛烈な矢の応酬は、とどまらず続いた。その間にも、敵の行列は前へ前へと進んでくる。
間もなく蛮族の先頭が長城に到達した。通用口はすでに塞いである。だが未完成の壁は、梯子を掛ける必要はなく、一部は勢いよく飛びつけば手の届く高さだった。
オーク達は向かってくる蛮族達を剣で押しのけた。壁を飛びつこうとする蛮族達を斬り付け、蹴り落とす。壊れた通用口を潜り抜けようとする蛮族には、ハンマーの一撃を喰らわせた。
蛮族達の攻撃は苛烈だったが、しかし深夜に入る頃になって、次第にその攻撃が弱くなり、やがて一時的な小休止に入った。
どうやら蛮族達も長征の疲れで休息が必要に感じたらしい。特に合図もなかったが、暗黙の了解で互いに休息を取ることにした。
オーク達はその間に大急ぎで次なる戦闘準備を整えた。火矢で燃えた砦の消火活動をはじめ、無傷で残った小屋をあえて崩し、その板材で矢除けの盾を急ごしらえで作らせた。
味方のもの敵のもの構わず矢を拾い集めさせ、鍛冶師に欠けた武器を修復させ、医師が負傷者の手当に奔走する。手の空いたものから、大急ぎで食べ物を口の中に放り込んだ。
やがて明け方に近い頃になって、蛮族達から雄叫びが上がった。戦闘再開の合図だ。花火の光が砦の全容を明るく浮かばせる。蛮族達が再び砦に向かってきた。矢の攻撃も再び始まる。
蛮族達の矢に、急ごしらえで作った盾が役に立った。雨のごとく降り注ぐ矢は、盾に防がれる。オーク達は砦の前に油を注ぎ、これに火を点けて蛮族達の進行をとどめさせた。
防壁はしばし業火に守られた。蛮族の攻撃は一時的に止まったが、その火力は弱く、暗いうちは炎の輝きは恐るべき防御に見えたが、太陽が昇り始めると、蛮族はその勢いの弱さに気付き、再び進撃を再開した。
夜明けの時を迎えて、砦の周囲は白く霞みつつ浮かび上がり始めた。そうすると、味方も敵もはじめて砦周辺の惨状を目の当たりにした。防壁のこちら側もむこう側も、敵味方区別なく死体が積み上がり、風がその血生臭い臭いを辺りに散らしていた。空には貪欲なカラスの群れが集まって、食事の時間が来るのを待ち構えていた。
砦はすでに壊滅寸前だった。立てたばかりの家や防壁には火が点き、今も炎で燃え上がっている。住居の跡は無残に消えてしまった。その中で慌ただしく走り回る兵士らに負傷していない者はなく、まるで無間地獄を体験しているかのような絶望が浮かんでいた。戦いが始まって数時間、すでに敗走は確定だった。
オーク
「動ける者はあと何人だ」
兵士
「40人ほどです」
オーク
「……そうか」
オークは絶句した。たった一晩で、兵士の過半数がやられていた。
オークはただちに戦闘不能になった兵士達を、後方の村まで運搬するように指示した。それであっても、どれだけの兵士の命が救われるかわからない。
兵士
「オーク様、王の召集は間に合いますか」
オーク
「間に合います。セシル様は信頼に値する指揮官です。今はできる限り耐えるのです」
蛮族達の攻撃は続いた。防壁は次第に限界を迎えた。敵兵が長城を突破し、砦内で白兵戦が始まった。そうなると長城を盾にした水際作戦はもう通用しなくなり、敵は津波のごとき勢いで乗り込んできた。
オークは向かってくる兵士達を矢で攻撃した。防壁の中で、みんなが戦っている。蛮族をとどめる障壁など、もはやあってないようなものだった。
蛮族達は長城に乗り込むと、通用口を塞ぐ扉を破壊した。蛮族の騎馬が次々と中へ入ってくる。そしてついに、長城に蛮族達の旗が揚がった。
旗が揚がるのを見て、蛮族達がおうおうと声を上げた。
オーク
「退却! 退却!」
アステリクス
「まだ1日過ぎていない! 砦を捨てるのか!」
オーク
「やむを得ない! 全員走れ! 村まで走れ!」
オーク達は撤退を始めた。ともに走っている兵士は、もはや20人しかいなかった。
逃げるオーク達を追跡して、蛮族達が追いかけてくる。まるで荒波に追われているようだった。
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