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■2015/11/09 (Mon)
創作小説■
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
前回を読む
コルリが疑問を呈した。それに、光太が答えた。
「第一に、世界の盗難のニュースなんて、日本では普通やらへん。日本人は盗まれた事実を知らないから、やりやすいんや。第二に税関の美術品のチェックの甘さ。欧米では必ず常駐の鑑定士がいて、それらしきものが見付かると、必ず封が解かれ、リストのチェックを受ける。日本には、そのシステムが存在せえへんのや」
まだある。日本の民法が『持ち主』より『買い手』を保護していることにある。
民法192条から194条の記述がそれに当たる。大雑把に要約すると、次のようになる。
当該美術品が盗難品だと知らずに購入した場合は、ただちに購入者に所有権が認められる。盗難品であると発覚した場合も、紛失から2年以上が経過していると、被害者は返還を請求できない。
これがフランスであると、同じ法律でも、被害者への保障が30年となる。イタリアでは10年だ。この差は非常に大きい。
「お父さん、本当に、そんな仕事、してたんですか?」
ツグミは信じたくなかった。指先も、掌のカップも冷たくなっていた。
光太は否定せず、頷いた。
ツグミは目線を落とした。ショックだった。確かに父がいた頃、回りはみんな大変だったのに、生活には困らなかった。よく旅行にも食事にも連れて行ってもらった。
優しかった影に、そんな後ろ暗い面があるなんて、想像できなかった。楽しかった子供時代の思い出が、一気にひっくり返される気分だった。
「でも、それって儲かるんですか? 依頼主の社長さんから、お金貰っとんですか?」
コルリは疑問に対して、積極的だった。
「いいや。基本的に社長さんは最後に手を出すだけや。そんなところでお金使ったら、税務署あたりに目ぇ付けられる。交換会に出すだけでいいんや。それだけで結構な儲けになる」
転売の差額が儲けになる、というわけだった。だから転売に協力した全ての画商が儲かる仕組みになっていた。
「それじゃ、お父さんがどんな絵に手を付けていたか、知らないんですか」
ツグミは顔を上げて、次なる疑問を投げかけた。
「それは全然わからへん。俺もアニメの仕事で忙しかったから、太一の仕事は知っていたけど、具体的にどんな絵を扱ってたかまでは知らんわ」
光太は手と首を左右に振った。
話は終わりだった。光太はちょっと気分を改めるように、明るい顔をした。
「これで話は終わりや。ごめんな。本当の話でも、知りたい話じゃなかったやろ」
ツグミとコルリは、揃って首を振った。
「そんなことないです。その、ありがとうございました。私ら、何も知らなかったから」
コルリの声に、らしからぬ暗い影が浮かんでいた。コルリも相当にショックなのだ。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
第4章 美術市場の闇
前回を読む
10
「何で日本に盗難美術がそんなに入ってくるん? 日本ってそんなに治安悪くないでしょう?」コルリが疑問を呈した。それに、光太が答えた。
「第一に、世界の盗難のニュースなんて、日本では普通やらへん。日本人は盗まれた事実を知らないから、やりやすいんや。第二に税関の美術品のチェックの甘さ。欧米では必ず常駐の鑑定士がいて、それらしきものが見付かると、必ず封が解かれ、リストのチェックを受ける。日本には、そのシステムが存在せえへんのや」
まだある。日本の民法が『持ち主』より『買い手』を保護していることにある。
民法192条から194条の記述がそれに当たる。大雑把に要約すると、次のようになる。
当該美術品が盗難品だと知らずに購入した場合は、ただちに購入者に所有権が認められる。盗難品であると発覚した場合も、紛失から2年以上が経過していると、被害者は返還を請求できない。
これがフランスであると、同じ法律でも、被害者への保障が30年となる。イタリアでは10年だ。この差は非常に大きい。
「お父さん、本当に、そんな仕事、してたんですか?」
ツグミは信じたくなかった。指先も、掌のカップも冷たくなっていた。
光太は否定せず、頷いた。
ツグミは目線を落とした。ショックだった。確かに父がいた頃、回りはみんな大変だったのに、生活には困らなかった。よく旅行にも食事にも連れて行ってもらった。
優しかった影に、そんな後ろ暗い面があるなんて、想像できなかった。楽しかった子供時代の思い出が、一気にひっくり返される気分だった。
「でも、それって儲かるんですか? 依頼主の社長さんから、お金貰っとんですか?」
コルリは疑問に対して、積極的だった。
「いいや。基本的に社長さんは最後に手を出すだけや。そんなところでお金使ったら、税務署あたりに目ぇ付けられる。交換会に出すだけでいいんや。それだけで結構な儲けになる」
転売の差額が儲けになる、というわけだった。だから転売に協力した全ての画商が儲かる仕組みになっていた。
「それじゃ、お父さんがどんな絵に手を付けていたか、知らないんですか」
ツグミは顔を上げて、次なる疑問を投げかけた。
「それは全然わからへん。俺もアニメの仕事で忙しかったから、太一の仕事は知っていたけど、具体的にどんな絵を扱ってたかまでは知らんわ」
光太は手と首を左右に振った。
話は終わりだった。光太はちょっと気分を改めるように、明るい顔をした。
「これで話は終わりや。ごめんな。本当の話でも、知りたい話じゃなかったやろ」
ツグミとコルリは、揃って首を振った。
「そんなことないです。その、ありがとうございました。私ら、何も知らなかったから」
コルリの声に、らしからぬ暗い影が浮かんでいた。コルリも相当にショックなのだ。
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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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