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■2015/11/11 (Wed)
創作小説■
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
前回を読む
アロマの香りを嗅いで、ツグミはほっと気持が落ち着くような気がした。
ふと窓の外を見ると、急に暗くなって、風が窓を叩き始めていた。雲行きが悪そうだ。雨が降るかもしれない。
「あ、そうだ。叔父さん、この人、知らないですか?『川村修治』さんっていう人で、昔、叔父さんと会ったことがあるみたいなんです」
ツグミはポケットから定期ケースに入れた写真を引っ張り出した。この頃、肌身離さず持ち歩いていた肖像写真だった。
そう切り出しながら、ツグミは見せる瞬間、ちょっと恥ずかしかった。
光太は写真を受け取り、神妙な顔をして覗き込んだ。
「これ、昔の人?」
冗談で言った感じではなかった。
「ああ、そうじゃなくて、Photoshopで加工したの。余計なの、色々写ってたから」
コルリが慌てて解説を加えた。
光太はやっと納得したように頷き、しかし、首を捻った。
「知らんなぁ。川村さんの知り合いは何人かおるけど、修治っていう男は知らんわ」
光太は考えるようにしながら、写真をツグミに返した。
ツグミとコルリは顔を見合わせた。ますます川村にまとわりつく謎が深まる気がした。
昼に入る前に、ツグミとコルリは暇を告げた。『雨合羽の少女』は箱に納められ、さらに紙袋に入れられてコルリが持った。
「もう帰るん? 泊まっていってもいいんやで」
光太は残念そうに2人を引き止めようとした。アニメの仕事で子供を作る機会を逃した経緯もあり、光太はツグミたちに特別な愛着を抱いているらしかった。
「帰って仕事もありますし、それに、今夜ヒナお姉ちゃん帰って来ますから。いろいろ用事があるんです」
ツグミは適当な言い訳を並べる。本当は、暗い話を聞いた後だったから、重い空気から逃げたかっただけだった。
ツグミとコルリは「ありがとうございました」とお礼を言って、光太の家を後にした。
その後は、会話もなく駅までの道を歩いた。ツグミの頭の中に、暗い思いがぐるぐると駆け巡っていた。父との思い出が、汚されてしまったような、そんな気持だった。
コルリも珍しく、暗い顔をしてうつむいて歩いていた。きっと、コルリも色々考えているのだろう。ツグミはコルリの気持ちを察して、何も声を掛けなかった。
西明石の駅に辿り着き、プラットホームで電車を待っていると、コルリのポケットが軽やかな音楽を奏でた。携帯電話だ。
「ちょっとごめんな」
コルリはツグミに断って、携帯電話を手にした。
コルリが背を向けて、知らない誰かと会話を始める。ツグミは、話を聞いちゃいけないと思って、コルリと距離を置いたけど、そうしているとひどく疎外された気分になってしまった。携帯電話の会話が楽しそうに聞こえると、余計突き放されたような寂しさを感じた。
しばらくして、コルリは会話を終えて携帯電話を切った。
「ごめん、ツグミ。私、用事ができて大阪に行くことになったわ。1人で帰れるやろ」
コルリは携帯電話をポケットにしまいつつ、ツグミに告げた。
「そんな、ルリお姉ちゃん……」
ツグミはいよいよ本当に寂しくなって、泣き出すような声で非難した。
「ごめん、ごめん。大事な用事なんや。兵庫駅までは一緒やから。な」
コルリはツグミを宥めるようにしつつ、微笑んだ。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
第4章 美術市場の闇
前回を読む
11
話が終わり、空気がすっと入れ替わる気がした。どこかで見ていたかのように、頼子が入ってきて、コーヒーのお代わりを淹れた。アロマの香りを嗅いで、ツグミはほっと気持が落ち着くような気がした。
ふと窓の外を見ると、急に暗くなって、風が窓を叩き始めていた。雲行きが悪そうだ。雨が降るかもしれない。
「あ、そうだ。叔父さん、この人、知らないですか?『川村修治』さんっていう人で、昔、叔父さんと会ったことがあるみたいなんです」
ツグミはポケットから定期ケースに入れた写真を引っ張り出した。この頃、肌身離さず持ち歩いていた肖像写真だった。
そう切り出しながら、ツグミは見せる瞬間、ちょっと恥ずかしかった。
光太は写真を受け取り、神妙な顔をして覗き込んだ。
「これ、昔の人?」
冗談で言った感じではなかった。
「ああ、そうじゃなくて、Photoshopで加工したの。余計なの、色々写ってたから」
コルリが慌てて解説を加えた。
光太はやっと納得したように頷き、しかし、首を捻った。
「知らんなぁ。川村さんの知り合いは何人かおるけど、修治っていう男は知らんわ」
光太は考えるようにしながら、写真をツグミに返した。
ツグミとコルリは顔を見合わせた。ますます川村にまとわりつく謎が深まる気がした。
昼に入る前に、ツグミとコルリは暇を告げた。『雨合羽の少女』は箱に納められ、さらに紙袋に入れられてコルリが持った。
「もう帰るん? 泊まっていってもいいんやで」
光太は残念そうに2人を引き止めようとした。アニメの仕事で子供を作る機会を逃した経緯もあり、光太はツグミたちに特別な愛着を抱いているらしかった。
「帰って仕事もありますし、それに、今夜ヒナお姉ちゃん帰って来ますから。いろいろ用事があるんです」
ツグミは適当な言い訳を並べる。本当は、暗い話を聞いた後だったから、重い空気から逃げたかっただけだった。
ツグミとコルリは「ありがとうございました」とお礼を言って、光太の家を後にした。
その後は、会話もなく駅までの道を歩いた。ツグミの頭の中に、暗い思いがぐるぐると駆け巡っていた。父との思い出が、汚されてしまったような、そんな気持だった。
コルリも珍しく、暗い顔をしてうつむいて歩いていた。きっと、コルリも色々考えているのだろう。ツグミはコルリの気持ちを察して、何も声を掛けなかった。
西明石の駅に辿り着き、プラットホームで電車を待っていると、コルリのポケットが軽やかな音楽を奏でた。携帯電話だ。
「ちょっとごめんな」
コルリはツグミに断って、携帯電話を手にした。
コルリが背を向けて、知らない誰かと会話を始める。ツグミは、話を聞いちゃいけないと思って、コルリと距離を置いたけど、そうしているとひどく疎外された気分になってしまった。携帯電話の会話が楽しそうに聞こえると、余計突き放されたような寂しさを感じた。
しばらくして、コルリは会話を終えて携帯電話を切った。
「ごめん、ツグミ。私、用事ができて大阪に行くことになったわ。1人で帰れるやろ」
コルリは携帯電話をポケットにしまいつつ、ツグミに告げた。
「そんな、ルリお姉ちゃん……」
ツグミはいよいよ本当に寂しくなって、泣き出すような声で非難した。
「ごめん、ごめん。大事な用事なんや。兵庫駅までは一緒やから。な」
コルリはツグミを宥めるようにしつつ、微笑んだ。
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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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