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■2015/11/14 (Sat)
第6章 キール・ブリシュトの悪魔

前回を読む
 王の書斎を出た後、オークはセシルに従って、地下に続く長い階段を降りていった。夜も深くなってくると、地下の暗さはより影を深め、案内人と召使いの明かりも、僅かに足下しか照らさなかった。

オーク
「バン・シーはこの城に出入りなされているのですか」
セシル
「ああ。あの者はこの国を訪ねては警告を残していく。父はああ言うが、私にはあの女が災いを運び込んでいるようにしか見えんのだ。それにな、あの者は父だけではなく、歴代の王とも顔を合わせておる。気味の悪い女だ。私があの女と初めて会ったのは、随分幼い頃だったが、その頃から姿を変えとらん」
オーク
「……不老不死? まるでケール・イズの物語に出てくる魔術師のようですね。魔術師の名は――」

 物語に出てくる魔術師の名前を挙げようと思ったが、オークはどうしても思い出せなかった。

セシル
「ますます信じられんだろう。しかし事実だ。どんな方法を使ったのか、あいつは不老不死だ。そんな人間が、何の野望を持たずただ無意味に長生きしているとは思えん。何か企んでいるはずだ。あの女を絶対に信用するな。――貴様はあの女とどこで出会った」
オーク
「洞窟の中。ネフィリムの住み処です」
セシル
「そういう奴だ。まともなところで出会う者はいない」
オーク
「しかし――命を救われました」

 するとセシルは嫌悪を込めて嘲笑した。

セシル
「ならばより気をつけるんだな。あんな女の手駒にされるのではないぞ」

 いつの時代に生まれ、どんな目的を持っているかすらわからない謎の魔術師。災いが迫る時、必ず現れ、助言を与える者。見方を変えると、凶報の主のように見える。その上に素性もわからない者に、セシルが嫌悪を抱くのもわからなくもない。
 しかしそんな人の生き死にを超越した魔術師が、オークを救ったのはどんな気まぐれだったのだろう……。
 間もなく階段を降りきると、案内人が足を止めて、王子とその下僕に頭を下げた。セシルはオークだけを連れて、さらにその先へ向かった。どんな召使いであれ、その先へ連れて行くのは許されていなかった。
 地下の廊下は青い炎が点々を浮かべられて、奥まで続いている。おそらく魔術の炎だろう。廊下の幅は2人きりで歩くにはやや広く、にわかに螺旋を描きながら、ゆっくり下へ下へと向かっていた。

セシル
「……オーク。この廊下はずっと下まで続いている。その先に秘密の扉があり、海に出ることができる」
オーク
「……はい?」

 突然言い出すのに、オークは何だろうと思って返事をした。

セシル
「いわば秘密の抜け道だ。知っている者は少ない。いつか役に立つ日が来るだろう。覚えておけ」

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