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■2015/11/18 (Wed)
創作小説■
第6章 キール・ブリシュトの悪魔
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6
翌日の少し遅い朝。城の前に、セシルとオークを含む14人の戦士が集結していた。いずれも屈強の戦士で、血筋も由緒正しい勇者達であった。戦士達の召使いが、旅の準備の最終点検に忙しく動き回っていた。そんな一同の前に、バン・シーが現れ、戦士達を一瞥した。
バン・シー
「15人と言ったはずだが」
セシル
「そうは言うがバン・シーよ。戦の後でみな消耗しきっておる。一晩で精鋭を集めるにしても、これが限界だ」
バン・シー
「この国も優れた英傑は絶えつつあるというわけか。――まあいい。時間が惜しい。行こう」
一同は馬に跨がり、城下を下りていった。
城下では戦の残滓があちこちに残されていた。医院に入りきれない負傷した兵士たちが、あちこちに群がって治療を受ける順番を待っていた。
街にはまだ賑やかさは戻らず、重い空気が漂っていた。街の人達は、遠征へ行くセシル達一行を冷ややかな目でちらと見て、それきり誰も相手にしなかった。
兵士達の治療をする医者の中に、ソフィーの姿があった。ソフィーはオークの姿を見付けると、走り寄る。
ソフィー
「オーク様。ご無事でしたか。あれ以来姿が見えなくて、私は……」
ソフィーは目に一杯の涙を浮かべて、頬は恋に燃える娘のように赤くしていた。
オークもソフィーを案じていたが、しかし今は困ったふうにセシルに目を向けた。
セシル
「手短にすませろ」
セシルはそれだけ言うと、仲間達を率いて先に行ってしまった。
オークは馬を下りて、ソフィーと向き合った。
ソフィー
「オーク様、どこへ行かれるのですか。新しい使命ですか」
オーク
「南で難事が起きました。これから鎮めに行くところです」
ソフィー
「ならば今度こそ私を連れて行ってください」
オーク
「いけません。あなたには大事な勤めがあるでしょう」
ソフィー
「はい。……でも私たちにできる仕事はもうほとんど終わってします。後は患者自身の治癒能力に委ねるだけです」
ソフィーはちらと負傷兵達を振り返った。確かに治療はすでに終えている。石畳の上に座り込んではいるものの、元気そうだった。
しかしオークは、決して首を縦に振らず、むしろ語気を強めて言った。
オーク
「だからこそ患者の側についていてあげてください。今こそ心の支えが必要な時です。あなたが危険を犯してまで旅をする必要はありません」
ソフィー
「危険は承知です。……どうか私を……」
オーク
「わがままを言わず、聞き分けてください。帰ってきたら、ゆっくり旅の話を聞かせてあげましょう。――では」
オークはそれで話を打ち切り、仲間達を追って、馬を走らせた。
ソフィーはオークを引き留めようと思ったが、ふさわしい言葉が見付からなかった。オークの姿はすぐに向こうの角に消えてしまった。
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