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■2015/11/23 (Mon)
創作小説■
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
前回を読む
ツグミはあっとなって、本を閉じて杖を手にした。しかし、コルリが少しもたついてしまった。Photoshopを中断してパソコンの電源落とす。
ツグミはしばしコルリを待った。その間に、ドアの向うで静かにロングコートが通り過ぎた。ヒナだ、と思うより先に、幽霊だ、と思った。
やっとパソコンの電源が消えた。コルリと一緒に廊下に出る。ちょうど、ヒナが自分の部屋に入るところで、ぱたんとドアが閉じた。
ツグミとコルリは部屋の前まで進み、まずノックした。
「ヒナお姉ちゃん、入っていい? 開けるよ?」
耳を澄ませて、返事を待つ。返事の代わりに、聞こえてきたのは呻き声だった。
ツグミとコルリが顔を見合わせる。今のは「いいよ」なのか「駄目」なのか。
「それじゃ、ヒナお姉ちゃん、入るからね」
断ってから、ツグミはそっとドアを開けた。
ドアを開けて右手に置かれているベッドで、ヒナがうつ伏せに倒れていた。コートを着たままの格好で、身動ぎもしなかった。
明かりはヘッドボードのスタンドだけで、部屋はひどく暗かった。トレンチコートのパステルカラーも何となく色を失って沈んでいる。
ベッドは両親が使っていたタブルベッドで、ヒナが1人で使っていると、少し広すぎるくらいに思えた。
「ヒナ姉、もう寝る? 明日にしようか?」
コルリがツグミの脇から部屋を覗きこんだ。
「ううん。今にする。ご飯、持って来て」
うつ伏せのままのヒナの言葉が、シーツに吸い込まれて消えそうだった。
ツグミとコルリは無言で役割分担をした。コルリは1階に降り、ツグミが部屋の中に入る。
ヒナの部屋は、もともと両親の部屋だ。ここにも壁一面の書棚があり、夫婦共用だった衣装棚が置かれている。今は全てヒナが1人で使っていた。
ひどく散らかっている部屋だった。そこら中にヒナが脱ぎ捨てたものや、仕事から持ち帰った書類、図版、ゴミを包んだ袋、メイク道具が散乱している。
一番奥の窓の前に、机が置かれているけど、そこまで行くにはちょっとした探検になりそうだった。その机も、物だらけで、使えそうにない。
ヒナは仕事が忙しく、片付けをしている暇なんてないから、ツグミとコルリが掃除と整理する仕事を請け負っていた。しかし汚れるスピードは圧倒的に速く、一晩目を離した隙に部屋は荒廃してしまう。ヒナには部屋を汚くする特別な才能があるらしかった。
ツグミは杖をつきながら、足元に散乱しているものを掻き分けて、ベッドの側に進む。
ヒナはごろん、と寝返り打った。見るからに苦しそうで、深く息をしていた。
「ヒナお姉ちゃん、大丈夫?」
ツグミはベッドの脇に腰を下ろしつつ、心配になって声を掛けた。ツグミの目には、ヒナが何かの病気をしているように思えた。
ヒナは苦しそうに声を漏らすだけで、返事をしなかった。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
第4章 美術市場の闇
前回を読む
17
12時を少し過ぎた頃、階段で物音がした。ツグミはあっとなって、本を閉じて杖を手にした。しかし、コルリが少しもたついてしまった。Photoshopを中断してパソコンの電源落とす。
ツグミはしばしコルリを待った。その間に、ドアの向うで静かにロングコートが通り過ぎた。ヒナだ、と思うより先に、幽霊だ、と思った。
やっとパソコンの電源が消えた。コルリと一緒に廊下に出る。ちょうど、ヒナが自分の部屋に入るところで、ぱたんとドアが閉じた。
ツグミとコルリは部屋の前まで進み、まずノックした。
「ヒナお姉ちゃん、入っていい? 開けるよ?」
耳を澄ませて、返事を待つ。返事の代わりに、聞こえてきたのは呻き声だった。
ツグミとコルリが顔を見合わせる。今のは「いいよ」なのか「駄目」なのか。
「それじゃ、ヒナお姉ちゃん、入るからね」
断ってから、ツグミはそっとドアを開けた。
ドアを開けて右手に置かれているベッドで、ヒナがうつ伏せに倒れていた。コートを着たままの格好で、身動ぎもしなかった。
明かりはヘッドボードのスタンドだけで、部屋はひどく暗かった。トレンチコートのパステルカラーも何となく色を失って沈んでいる。
ベッドは両親が使っていたタブルベッドで、ヒナが1人で使っていると、少し広すぎるくらいに思えた。
「ヒナ姉、もう寝る? 明日にしようか?」
コルリがツグミの脇から部屋を覗きこんだ。
「ううん。今にする。ご飯、持って来て」
うつ伏せのままのヒナの言葉が、シーツに吸い込まれて消えそうだった。
ツグミとコルリは無言で役割分担をした。コルリは1階に降り、ツグミが部屋の中に入る。
ヒナの部屋は、もともと両親の部屋だ。ここにも壁一面の書棚があり、夫婦共用だった衣装棚が置かれている。今は全てヒナが1人で使っていた。
ひどく散らかっている部屋だった。そこら中にヒナが脱ぎ捨てたものや、仕事から持ち帰った書類、図版、ゴミを包んだ袋、メイク道具が散乱している。
一番奥の窓の前に、机が置かれているけど、そこまで行くにはちょっとした探検になりそうだった。その机も、物だらけで、使えそうにない。
ヒナは仕事が忙しく、片付けをしている暇なんてないから、ツグミとコルリが掃除と整理する仕事を請け負っていた。しかし汚れるスピードは圧倒的に速く、一晩目を離した隙に部屋は荒廃してしまう。ヒナには部屋を汚くする特別な才能があるらしかった。
ツグミは杖をつきながら、足元に散乱しているものを掻き分けて、ベッドの側に進む。
ヒナはごろん、と寝返り打った。見るからに苦しそうで、深く息をしていた。
「ヒナお姉ちゃん、大丈夫?」
ツグミはベッドの脇に腰を下ろしつつ、心配になって声を掛けた。ツグミの目には、ヒナが何かの病気をしているように思えた。
ヒナは苦しそうに声を漏らすだけで、返事をしなかった。
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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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