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■2015/11/08 (Sun)
創作小説■
第6章 キール・ブリシュトの悪魔
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1
黄昏が平原を包んでいた。王城を手前にした平原に、累々たる屍が積み上げられていた。その中に、負傷して動く気力もない兵士が混じっている。怪我人の介抱に医者達が駆け回っている。僧侶達が敵味方の区別なく、霊の供養するためにお祈りを捧げている。兵士達が死体の中から仲間を探していた。
夜を前にして、戦場だった場所にぽつぽつと篝火が燃やされる。その光景が、なんとなく人魂が浮かんでいるように見え、この世ならざる修羅の風景を浄化しているように思えた。
そんな最中を、オークはうろうろと歩いていた。鎧は血まみれで、意識は戦闘の覚醒状態からまだ解放されない。目がぎらぎらしていて、眠くならなかった。
セシルも同じような様子で、死体が群がる中を歩き、なんとなくオークと落ち合った。
セシル
「お互い生き残れたな」
オーク
「王子が生き残って幸いです」
セシル
「言うな。多くの者が死んだ。私はまた友をなくした。今だけはただの一兵卒として扱ってくれ。本当に死んではならぬのは、死んでいった者達だ」
オーク
「しかしセシル様はよくあの戦いを生き延びました。援軍には感謝します」
セシル
「真に務めを果たしたのは死んだ者とお前だけだ。私は……貴族相手に間抜けな芝居を演じていただけだ。――オークよ、今度も守備に失敗したと考えているか」
オーク
「……わかりません。これだけの人が死んで、いったい何が勝利だったのか……。死んだ人間の数か、それとも蛮族の目的を挫いたことか……」
セシル
「勝利は勝利だ。よく生き延びた。私にとっては、貴様が生き延びてくれたことが幸いだ」
オーク
「勿体ない言葉でございます」
平原に陰鬱な空気が包んでいた。勝利した者達の中から、それに相応しい声を上げる者もいなかった。
黄昏は地平の向こうに消え、風景は青く沈み込もうとしていた。夜の冷たさが降り、いよいよ死霊の時間が訪れようとしていた。
そんなこの世ならざる風景の中に、悠然と歩を進める騎馬が一騎。――バン・シーである。
セシル
「バン・シーか。修羅にはぴったりの貴婦人だな」
セシルがその姿を見て毒づき、その行く手に立ちはだかった。
セシル
「何用だ、バン・シー」
バン・シー
「王に用事だ。……ミルディか。随分と久し振りだな。どうやら生き延びたと見える」
オーク
「幾多の幸運に恵まれました。今はオークと名乗っております」
バン・シー
「ほう」
セシル
「バン・シー。そなたの訪問が喜びを招いた試しはない。用件を言え」
バン・シー
「私は危難の時に現れ、助言を与えるだけだ。災いを持ち込んだ試しは一度としてない。即刻、王にお目通り願いたい。危急の用事だ」
セシル
「……貴様は凶兆の女神だ」
セシルはしばしバン・シーを睨み付けるが、間もなく臣下に伝令を与えた。ただ「バン・シーが来たぞ」とだけ。
バン・シー
「オークか?」
オーク
「はい。かつての名前は魔物に奪われました」
バン・シー
「…………」
バン・シーは考えるように押し黙った。
セシル
「バン・シーよ、どうした。危機が迫っておるのだろう。急がれよ」
バン・シー
「うむ。貴辺らも後で王の前まで来い。王から直接指示が下るだろう。
バン・シーは馬を走らせて、大門を潜った。
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