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■2015/10/23 (Fri)
創作小説■
第5章 蛮族の軍団
前回を読む
9
兵士「いたぞ! こっちだ!」
兵士が叫びながら茂みを示した。そこに、ネフィリムの一団が潜んでいた。
ネフィリムの一団は、発見されて逃げるどころか、むしろ闘争心を燃やして兵士たちに向かってきた。
地面がどどどと轟いた。斜面の向こう側から、騎馬の一群が現れた。ネフィリムたちはいくらか戸惑いを見せたが、やはり騎馬達に向かっていった。
薄闇を払う光が走る。ネフィリムたちは剣と槍に払われ、倒された。残ったネフィリムも、騎馬の後に続いた歩兵がとどめを刺した。
緊張の一瞬を終えて、騎馬の先頭にいたオークが戻ってきた。
オーク
「終わりか」
戻ると草むらの中に不浄の者の死体がいくつも転がっているのが見えた。何匹かはまだ息があるらしく、呻き声を上げていた。
ゆるく雨が降っていた。木々はまばらだが、その辺りの草は背丈が高い。窪地に入っていくと、大人ですらその姿が隠れてしまう。雲はようやく晴れようとして、向こうの方に光が射し込むのが見えた。
アステリクス
「これで全部です。もし残ったとしても、光が射せば、奴らの影は消えるでしょう」
オーク
「しかしこのところひどく多い。以前ならこのくらいの空の下に現れることもなかった。いったい何が……」
長城の修復は28日が過ぎていた。修復はそれなりに進み、周辺の森もドルイド僧が丹念に邪気を祓った上で伐採され、その木材が復旧に使用されていた。
そんなネフィリムに対する防備は万全という状況下で、ネフィリムがおよそ出現しそうにない時刻をついて、突然の襲撃が始まったのだ。
アステリクス
「近くにネフィリムのねぐらがあるのかも知れません。探して潰したほうがいいでしょう」
オーク
「そうですね」
ゼイン
「ネフィリムを根絶やしにしてやる!」
オーク達は南の方角に目を向けた。その方向には、緩やかな丘が続き、強い風に草がざわざわと揺れ、散りかけた雲が影を落としていた。
その草むらの中に、点のような影が動いているのに気付いた。どうやら騎馬らしい。ひどくゆるやかな様子で、草むらの中を進んでいた。
あれは――?
と一同が見ている前で、馬上の人がぐらりと傾いで、草の中に落ちた。
オーク
「行ってみましょう!」
オークは仲間達を引き連れて走った。
近くまで行くと、馬が草むらに落ちた主を気遣って、うろうろとしていた。側の草を掻き分けると、そこに兵士が1人倒れていた。
抱き起こしてみると、兵士は満身創痍で、両目が潰されていた。真っ赤な血で両頬を濡らしていた。
オーク
「なんと酷い! すぐに砦に連れて行き、手当を」
オークは負傷兵を馬に乗せようとした。
しかし負傷兵はその手に抗い、オークに縋り付こうとした。
負傷兵
「その声は、その声は……セシル殿下ですか」
オーク
「いいえ。しかし殿下に仕える者です」
負傷兵
「良かった。伝えることがあります」
オーク
「後で聞きます。今は治療を受けてください」
オークは負傷兵を配下の者に引き渡そうとする。やはり負傷兵は抗ってオークに縋り付いた。
負傷兵
「一刻を争うのです。ゼーラ族が軍団を作って迫ってきているのです。ピクト人やヴァイキングも……。指揮者が誰なのかわかりません。共に行った仲間は全員殺されてしまいました。どうか……セシル様、兵を、兵を出してください」
アステリクス
「何と言うことだ。今までどこに軍隊を隠していた」
オーク
「王とて土地の全てを知っているわけではありません。こんなまとまりのない国では特にそうでしょう。――さあ、この人を連れて行って。ご苦労でした。あなたの言葉は一語も欠けさせず王子の元まで運びます」
ようやく負傷兵を馬に乗せたが、すでに気を失っていた。だが、まだ息絶えたわけではなかった。
※ ピクト人 実際には、スコットランド周辺に住んでいた人達を指す。
次回を読む
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