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■2016/05/16 (Mon)
創作小説■
第6章 イコノロギア
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10
高速道路の防音壁の切れ間に、光が瞬くのが見えた。煌びやかなイルミネーションが、街の形を描いていた。神戸の夜景だった。ツグミは、夜景を見ようと、頭を上げた。ようやく、神戸の街に戻ってきたのだ。
「ツグミ。悪いけど、家には、戻らへんで。その携帯で、光太叔父さんのところに電話して」
ヒナは左手を伸ばして、バッグの中の携帯電話を指した。ツグミは指をさされて、初めて目の前に携帯電話があることに気付いた。
「うん。でも、何て?」
ツグミはファイルをバッグの中に戻して、今度は携帯電話を引っ張り出した。スライドタイプの、赤い携帯電話だ。
携帯電話をスライドさせると、ディスプレイに光が宿り、メニュー画面が映し出された。
「川村さんの情報、知っとお人って、光太叔父さんしかおらんやろ。身近な手がかりから当たるんや」
ヒナの言葉に、これまでとは違う熱っぽさが加わった。ヒナは待ったなしで、宮川を追い詰めるつもりだ。
ツグミは高速道路の案内表示板を見上げた。『西明石』の文字が案内表示板に出ていた。ダイハツ・ムーブはすでに光太の家に向かっていた。
「うん、わかった」
ツグミは頷いて、携帯電話のボタンを押した。
ツグミは今さら、コルリが誘拐される直前を思い出していた。コルリは川村の人物像を聞こうと、光太に電話を掛けようとしていたのだった。
すぐに入力が終わって、携帯電話を耳に当てた。携帯電話から呼び出し音が聞こえてきた。
ツグミは、ダッシュボードの上に置かれている、時計に目を向けた。すでに、11時を過ぎていた。
光太はまだ眠ってはいないだろうが、迷惑な電話には違いなかった。
携帯電話の呼び出し音は、しばらく続いた。やっと電話に応答があった。
「はい、妻鳥です」
光太の声だった。声が事務的で、ツグミは「やっぱり迷惑だったかも」と思った。
「叔父さん、私です。ツグミです。ごめんなさい、こんな時間に」
ツグミは、少し丁寧に切り出した。
「おお、ツグミか。どうしたんや」
光太は、「ツグミ」と聞くと、一転して声が機嫌良くなった。
「あの、これからそっちに行きます。緊急な用事で……」
「こんな時間にか?」
光太の声が、戸惑う感じになった。いきなりだから無理もない。
「うん。川村鴒爾の件で。すぐにでも知りたい話があるんです。川村鴒爾さん。叔父さん、知っているでしょ。8年前、叔父さんと一緒にアニメの背景描いていた人」
ツグミは懇願する調子で、それでいて「川村鴒爾」の名前を強調した。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです
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