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■2016/05/20 (Fri)
創作小説■
第6章 イコノロギア
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12
ツグミは、廊下の途中に絵画が掛けられているのに気付いた。以前アトリエで見かけた、カラヴァッジョ風の絵画だ。デッサン人形が、黒い衣装を着せられて立っている。廊下には明かりがないから、アトリエから漏れ落ちた光で、ひっそりとした輝きを放っていた。ツグミは妙に引っ掛かるような気がして、ほんの少し絵の前で足を止めそうになったが、今はそれどころではないので、考えを中断してアトリエに入った。
アトリエに入ると、光太は来客用ソファに座った。ツグミとヒナは、光太と向かい合う席に並んで座った。
「俺から話すか? そっちからか」
光太はいつもにはない真面目な顔をして、話を切り出した。
「私からお話します。叔父さんは、まだコルリの誘拐事件も、知らないんですよね」
ヒナはコルリが誘拐されてから、2日の間に起きた全ての事件を説明した。
出来事をかいつまんで話すようだったが、性急さはなく、ツグミが横で聞いていても説明が不足に感じるところはなかった。必要な部分だけを、きっちり理解させるふうだった。
光太は静かに話を聞いていた。ヒナが話しやすいように、時々相槌を打つだけだった。
ヒナの話がようやく終わる頃、深夜1時半になった。タイミングを見て、奥さんの頼子がコーヒーを運んできた。
頼子がコーヒーを並べている間、一同はしばし黙った。みんなでコーヒーを啜って、自然と小休止になった。
ツグミはその場の気分でブラックに挑戦しようとしたが、一口飲んで首を引っ込めてしまった。やっぱり苦い。角砂糖を5個放り込んで、マドラーでガリガリと砕く。
「そうか。それで、川村を捜しとおわけか。ツグミ、川村の写真持っとったやろ。もういっぺん見せてくれるか」
光太はコーヒーカップをテーブルに置いて、ツグミを振り返った。
ツグミはちょっと腰を上げて、ジーンズのポケットに手を突っ込んだ。川村の写真を引っ張り出して、光太に差し出した。
光太はしばらくじっと川村の写真を眺めていた。やがて、重くため息をついた。
「あれから10年か……。こいつも随分オッサンになったな。あの頃はまだ子供やと思ったのに」
光太は感慨深く呟いて、ツグミに川村の写真を返した。
「叔父さん、やっぱり川村鴒爾さん、知っとったん?」
ツグミは川村の写真を受け取って、声を興奮させた。
「この間は、川村修治って言われたから、違う人かな? って思ったんや。でも、鴒爾って言えば、あいつのことやなって思うわ。付き合いは短かったけど、忘れられん奴やったで」
光太は眼鏡を額にあげて、目蓋を撫でた。
「叔父さん話してください。私たちとにかく手掛かりが欲しいんです」
ヒナも興奮している様子で、身を乗り出させた。
「うん。でも、ちょっと長くなる話やで」
光太は、眼鏡を戻して、話す準備に入った。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです
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