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■2016/05/17 (Tue)
第12章 魔王覚醒

前回を読む

 城下町にルテニーがいた。街の住人達に混じって、生活していた。
 城下町に慌ただしい動きが起き始めていた。大門が開いて兵士達が方々に散っていったかと思うと、3日後に今度は大軍を引き連れて戻ってきた。だがその装備は粗末で、いかにも鎧を着慣れていない烏合の衆だった。
 男が1人、ルテニーに近付いてきた。平民の格好だが、体つきは明らかに兵士だ。


「王が徴兵をかけた。各地で起きた反乱を鎮圧させるつもりだ。隠里の調査も始まったぞ。戦の準備をしろ」

 ルテニーは頷くと、その場を去った。馬に乗り、大門を目指す。大門の見張りの兵士は、ルテニーを見ると、黙って通用口を開けた。
 ルテニーは大門の外へ出て、隠里を目指した。




 オークとソフィーが再会した4日後、一行は隠里に到着した。人知れぬ里だったが、イーヴォールはやはりその存在を知っていて、周辺の地理にも詳しかった。
 隠里の静かな様子は一変していて、兵士達が行き交う慌ただしい雰囲気に変わっていた。森が伐られて、兵達の住居や防壁を作る準備が始まっていた。

イーヴォール
「セシルはどこだ。案内しろ」

 一同は馬を下りると、村人の案内の下、王のいる民家へと導かれた。
 その家は貧しい村の中にあって、それなりに立派な造りだった。寝室のベッドは、最も上等なものが使われていた。
 だが両目が塞がれ、死んだように眠っているセシルの姿に、イーヴォールは驚愕する。

イーヴォール
「これは……これはどういうことだオーク! お前がついていながら、何をしていた!」

 問答無用にその胸ぐらを掴み、驚くべき腕力で偉丈夫の体を持ち上げた。

オーク
「……やむを得なかった」
ソフィー
「やめてください、イーヴォール様」

 ソフィーが止めに入ろうとしたが、魔術の力で反対側の壁まで吹っ飛ばされた。

イーヴォール
「言い訳など聞きたくない! 聖剣を握る者をなくして、どうやって悪魔を倒す? どうやってケルトを守る? 1000年に及ぶ私の苦労を無にしおって! どう責任を取ってくれる!」
オーク
「…………」

 オークは首を締め上げられ、言葉を発することができなかった。
 セシルが何かを言おうと、ふるふると手を上げた。

医者
「イーヴォール様、陛下が何かを……」

 それを訊いて、イーヴォールはオークを放り出して、セシルの側に飛びついた。

イーヴォール
「セシル! まだ生きているのか?」
セシル
「やめろ……オークに……責任は……ない。はかられ……た……のは……私の……責任……だ」
イーヴォール
「セシル。私はどうすればいい? お前だけが頼りだったのに……」

 イーヴォールは感情を剥き出しにして、セシルの掌を握った。

セシル
「……すまない……」
イーヴォール
「…………」
セシル
「……イーヴォール……? ……そなたの……本当の……名……か?」
イーヴォール
「そうだ」
イーヴォール
「そうか……。真…理を……持つ……者。……ついに……見付けた…か」
イーヴォール
「側にいた。ソフィーがその人だ」
セシル
「そうか……。ソフィー。皆の……ち……か…ら…に……なって……くれ」
ソフィー
「はい」

 ソフィーは目に涙を浮かべながら答えた。

セシル
「……イー…ヴォール。……オークを……せめては……ならん……ぞ。この国は……もう……どうなるのか……。王は……失わ…れ……権威…も……失わ…れ……た。南の……異教…徒……が……すべてを……滅ぼそうと……している。……ケルトの……民は……もう……死んだ。……父よ……あなたは……すべて……正し…かった。……どうか……どうか……お許し……を……」

 セシルの体が、がくりと崩れた。
 すぐにソフィーが飛びついて、呼吸と脈拍を診た。

ソフィー
「眠ったようです」

 その一言に、一同はほっと胸をなで下ろす。
 その言葉通り、セシルは今にも消え入りそうな息で、寝息を立てていた。
 ソフィーはセシルに祝福をかける。

ソフィー
「……こんな少しの言葉だけで尽きてしまわれるなんて。これほどの強者が……」

 ソフィーが顔を覆って、咽び泣いた。
 ひどく湿った空気が部屋を漂った。イーヴォールが立ち上がる。

イーヴォール
「オーク。さっきはすまなかった。取り乱してしまった」
オーク
「いえ」

 イーヴォールは、これまでにない落胆した様子だった。オークも何かやりきれない気持ちになってしまう。
 イーヴォールが部屋を出て行くと、他の者も順々に部屋を出て行った。ソフィーは留まってセシルの看病をしようとしたが、自身もまだ治療が必要な身だった。ソフィーは別の部屋に連れて行かれて、ベッドで休んだ。

 夜はそれぞればらばらに過ごした。誰も眠らなかった。誰も話さなかった。
 イーヴォールは一人きりで月を眺めていた。
 オークは戦に備えて、剣を研いでいた。
 ソフィーはベッドに横たわりながら、しかし眠る気にならなかった。

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