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■2016/03/25 (Fri)
創作小説■
第6章 フェイク
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24
左手に少し開けた脇道が出た。やはり脇道だったが、さっきの場所よりはるかに広い路地だった。その路地に、白いワゴン車が1台、停まっていた。こちらに背を向けて、観音開きの後部ハッチを開けたままにしていた。
白いワゴン車の側に、男が立っていた。白い作業着を着ていて誰だろうと思ったけど、モップ頭の青年だった。岡田書店でレジ打ちをやっているバイトの人だ。
モップ頭が、ツグミを振り向いて手招きをした。
ツグミは少し戸惑うが、小さく頷いてワゴン車に向かおうとした。しかし視線を感じて振り返る。
まさか、とツグミは振り返った。路地裏の入口に高田が立っていて、覗き込もうとしていた。あの強烈な三白眼が魔力を帯びて、ツグミを振り向かせたのだ。ツグミが振り向いたせいで、目が合ってしまった。高田が「あっ!」という顔をした。
「ツグミさん、待ちなさい!」
高田は怒鳴りながら、路地裏に飛び込んできた。
ツグミは高田を無視して、白いワゴン車を目指して杖を突いた。
モップ頭の青年がツグミを待っていられず、向かってきた。モップ頭の青年はツグミの体を抱き上げて、丁寧とはいえないやり方でツグミをワゴン車の中に放り込んだ。
ツグミは投げ込まれた勢いで、車の奥へ転がった。体のどこかをすりむいて、ヒリヒリした。モップ頭の青年が後部ハッチを閉めた。バタンッという音が、耳の奥につんっときた。
すぐに車がスタートした。走り始めてから、モップ頭の青年が助手席に飛び込む。
揺れが激しかった。ツグミは振り飛ばされないように、地面に這いつくばった。
ワゴン車はすぐに停まった。ツグミは頭を上げて、運転席側を見た。
ワゴン車は後部座席が取り払われて、空きスペースになっていた。黒いゴムのようなシートが貼られていて、隅に雑誌がいくつか束になって置かれていた。何の雑誌なのかはあえて見なかった。
ワゴン車は路地を出ようとするところだった。アーケードが左手にあり、右手に車道があった。通行人に遮られて、なかなか進み出せない状態だった。
ツグミは後部ハッチの窓を覗き込んだ。高田が細い路地を潜り抜けたところだった。あのパリッとしたグレーのスーツが、あちこち泥で黒くしていた。
高田はワゴン車が停まっているのを見て、走り出した。
「停まりなさい! 停まりなさい!」
高田が叫びながら走る。俊足だった。もの凄い速さで、ワゴン車に接近する。
ツグミは焦った。運転席を振り返った。
運転手がクラクションを鳴らす。ようやく人に途切れ目ができて、車が進み出した。
ツグミはもう一度、後部ハッチを振り返る。
高田がハッチを掴もうと、手を伸ばしていた。
一瞬早く、車が加速した。
あとちょっとの差で、高田の指先はハッチに届かなかった。高田は飛びつこうとした勢いで、転んでしまった。
「高田さん、ごめんなさぁい!」
ツグミは思い切り、声を張り上げた。
ワゴン車が方向を変えた。ツグミは自分の体を支えきれず、振り回されてしまった。車の壁に頭をぶつける。結構痛くて、しばらくうずくまってしまった。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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