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■2016/03/26 (Sat)
第10章 クロースの軍団

前回を読む
15
 会議室に、伝令の兵士が飛び込んだ。

兵士
「申し上げます。セルタの砦に6万の異教徒の軍団が迫っております。現在、オーク様を中心とする部隊が戦っております。夷狄の軍団は我らの国を欲しています。セルタの砦が全力で進行を阻止しておりますが、多勢に無勢。至急、軍団の召集を」

 だが貴族達は、ぴくりとも反応を見せなかった。

セシル
「お聞きの通りだ。いま事実として戦争は起きている。戦士達が命がけで戦っている。今すぐに貴辺らが抱えている兵団を召集してもらおう。この国を守るために」
ラスリン
「しかしセシル殿、やはりあの伝令は聞き届けられませんな」
セシル
「何?」
貴族
「そうとも。第1にあの報告は本物か? 本当に戦闘の様子を見てきた者の報告かどうか、我々にはちょっと判断できかねますな。それにあの伝令……もしや王が用意した偽物ではないかね。本物はもうちょっともっともらしいと思うのですがねぇ」
貴族
「そうだ。王が戦争したいがために、嘘の報告を用意した可能性だって捨てきれない」
セシル
「おのれ貴様ら。この期に及んでたわけたことを……。今は事実かどうかを議論している場合ではないわ」
ラスリン
「王よ、勘違いなさっては困る。我々は民の命こそ第一に考えておるのです。私たちは、本当に民を愛しているのです。それを、戦争好きの王の妄想で、むざむざ危険にさらすのはおかしいと言っておるのです。それこそ、執政の役目に反するものでございます。王のしようとしていることは、結局は国内に混乱を持ち込み、徒に民の命を弄んでいるだけ。これを暴君の所行といわず、なんと言いましょうか」
セシル
「どいつもこいつも、この腰抜けどもめ……そこまで戦争から目を背けたいか。貴様らは国の危機に対して、下らん詮議を続け、徒に事態を悪化させたいのか!」
貴族
「貴公こそ愚か者の執政だ。その考えが、民を破滅に導いているというのがなぜわからんか」
セシル
「現状を見よ。現実を見よ。今どこで何が起きているのか。今まさにセルタの砦で戦が起きているのだ。間もなくこの城にも侵略者の手が及ぶだろう。こんな時に話し合いなどしておる場合か!」
貴族
「だからそれが王の妄想の産物だと言っておるのだ。王は早々に医師の診断を受けるべきですな。ドルイドのインチキまじないではなくな」
貴族
「この無能の王め! この国から出て行け! この国は我々のものだ! 無能の王は出て行け!」
セシル
「おのれ……」

 セシルに抑えがたい怒りが襲った。セシルは暴言を吐いた貴族を掴み、ナイフでその首を掻き切った。
 会議室が騒然とした。切られた貴族は、テーブルの上に倒れのたうった。喉と口から血を吐きながら、最後に空気を求めるように手を伸ばし、絶命した。

貴族
「狂ってる! 狂っているぞこの王は!」
貴族
「暴君め、本性を見せたな!」

 貴族達が大騒ぎではやしたてる。セシルは茫然と、罵声を浴びていた。
 沈黙を守っていたウァシオが席を立った。貴族達が自然に声を抑えた。

ウァシオ
「ついにやったな。裁判を受ける覚悟はできておるだろうな」
セシル
「罰なら謹んで受けよう。だが私は王だ。私の命に従え! 従わぬ者は順番に殺す。行け! 行って兵を集めよ!」

 しかし貴族の誰も応じなかった。

ウァシオ
「セシル王よ、そんなに戦がやりたいか。ならば王の妄想に従ってやろうではないか。なあ、みんな。余興だ。軍団を集めてやろうじゃないか。もしかしたら、本当に侵略者とやらが来ているかもしれんからな」

 貴族達が笑った。笑って、会議室を退出していった。

ウァシオ
「セシル王は休養でも取るんだな。貧相な顔がより暗くなっておるぞ。さて、私も仕事があるから、失礼するよ」

 ウァシオが会議室を去って行った。
 セシルは深く深呼吸をして、気分を鎮めた。血の付いたナイフを、腰に戻す。1つだけ備えられた窓を見上げた。いよいよ白く霞みはじめていた。夜明けだ。

兵士
「セシル様」
セシル
「軍団の召集には早くても2日かかる。私も行かねば……」

 セシルは会議室を退出した。

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