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■2016/06/13 (Mon)
第7章 Art Loss Register

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「……ツグミ……ツグミ」
 ゆるやかに揺さぶられる感覚があった。ヒナの心配そうな声が、遠くから聞こえた。
 ツグミは目を覚ました。目を開き、体の中に堪った空気を吐き出すようにした。まるで水の中から這い上がるみたいだった。
 ツグミは混乱した思いで辺りを見回した。ここはどこだろう? 今は何時だろう?
 いつの間にかヒナの膝の上に頭を載せて、眠っていたみたいだった。体にダッフルコートが被せられていた。ヒナの顔とテーブルとソファしか見えなかったけど、まだ船の中だ、と了解した。
「大丈夫?」
 ヒナは心配そうな顔を寄せて、囁くように訊ねた。
「……うん」 
 ツグミは夢の中の不穏さをまだ引き摺りながら、こくっと頷いた。
 ヒナに助けられながら、ツグミはゆっくり体を起こす。まだ体に違和感が残っていた。まだ心が半分夢の中にいるみたいだった。頭の中に夢で見た光景がこびりついていて、ついヒナの体をしげしげと見てしまった。ちゃんと首は繋がっている。
 服の中が汗まみれになって、肌に貼り付いていた。その感覚が気持ち悪くて、ツグミは服をパタパタとさせて、体に空気を送り込んだ。
 ツグミは辺りを見回した。いつ眠ったのか、どれほど眠ったのかよくわからなかった。窓の外を見ると、島の形はくっきりと、近いところに浮かんで見えた。ただ、島全体が灰色の霧に覆われ、不穏な空気はより深く感じられた。
「もう少しゆっくりする?」
 ヒナはまだツグミを気遣うようにした。
「ううん。大丈夫やから」
 ツグミはヒナにダッフルコートを返した。本当に大変なのはヒナなのに、負担を掛けさせたらいけないと思った。
 ツグミとヒナはしばらく客席でくつろいだ後、車両デッキに降りていった。
 車両デッキの風景に変化はなかった。5台の車が2列になって並んでいた。まだ人が降りてくる気配はない。ツグミたちは少し早かったみたいだった。
 もっとも、密閉された船の中だから動きようがない。警戒しすぎだろう、とツグミは思った。
 が、なんだろう。ツグミは辺りを見回した。違和感……だろうか。違和感にしてはあまりにもささやかだったけど、何となく辺りに不穏な気配が漂っているのを感じた。
 といっても、辺りを見回したところで何かあるわけではない。ツグミは首を捻って、考えを打ち捨てた。
 ヒナが車に乗り込み、助手席のロックを開ける。ツグミは車の中に入った。
 ツグミはシートベルトをしようと後ろを振り返る。すると左斜め後ろに、ダーク・ブルーのトヨタ・ブレイドが駐めてあるのが見えた。
 ツグミはトヨタ・ブレイドをしばらく眺めた。目を凝らしたけど、中に誰かが入っているわけではない。車両デッキに駐まっている、他の車と何ら変わりがない。しかしツグミは、何か感じるような気がしてトヨタ・ブレイドを見ていた。

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目次

※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです

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