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■2016/01/27 (Wed)
創作小説■
第5章 Art Crime
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31
しばらく経って、再び階段を降りてくる音がした。ツグミはあっと首を伸ばして、コルリが廊下から顔を出すのを待った。コルリが画廊に姿を現し、靴を履いた。
「ルリお姉ちゃん、何やったん?」
ツグミは改めて、何をしてきたのか訊ねた。
「これこれ」
コルリは靴の踵を踏んで立ち上がりながら、手に持ったものを見せた。
コルリが持っていたのは、両掌よりちょっと大きいくらいの、小さな箱だった。その上に、DVDジャケットが一つ置かれていた。
ツグミはすぐに、ポータブルDVDレコーダーだと気付いた。その上に置かれているのはDVDソフトだった。
ポータブルDVDプレイヤーは随分前に光太からプレゼントされたものだったが、狭い妻鳥家では置く場所がなく、結局物置にしまいこんでしまったのだ。未だに古いブラウン管テレビやビデオが主流の家庭で、新しい機種が入る余地がなかったのも、妻鳥家でDVDが流行らなかった理由だった。
しかし、どうして今、ポータブルDVDプレイヤーなのだろう。
コルリがテーブルにソフトを置き、ポータブルDVDプレイヤーを入れた箱をあけた。ほとんど新品状態で袋に包まれている本体を引っ張り出し、電源コードを繋いだ。
ツグミはDVDソフトを手に取り、タイトルを確かめた。『完璧な青(※)』だった。ツグミはそのタイトルを見て、うぅ、と憂鬱を感じた。
「今からこれ見るん? 何で?」
ツグミは消極的なものを滲ませながら、訊ねた。
ツグミの嫌いな作品、とまでは行かないまでも、苦手な作品だった。前半は問題なく見られるのだが、主人公の裸が出てくるところから先は、恥ずかしくなるので未だに最後まで見ていなかった。だから映画の結末もよく知らない。
「ちょっとな。見ながら説明するわ」
コルリがプラグをコンセントに差し込みながら説明した。コンセントは電話棚の横で、テーブルから落ちたケーブルが、波打ちながら床を横切った。
※1 完璧な青 架空のアニメーション映画。実在しない。1998年2月26日公開。アイドルだった少女が、女優として成長していく物語。緻密に作られたリアルな描写が特徴。今井敏監督(※2)。
※2 今井敏 架空の人物。実在しない。『完璧な青』でデビューを飾り、『シティー・ファーザーズ』『フォーエバー・アクトレス』などアニメーション映画の傑作を制作した。緻密な描写、トリッキーなイメージの合成は今井敏監督ならではの個性であり、世界的な評価も極めて高い。これからが期待される監督だったが、膵臓癌のために2010年死去。享年46歳。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです
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