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■2016/01/23 (Sat)
創作小説■
第5章 Art Crime
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29
30分ほど過ぎて、やっと涙も治まった頃、コルリが何も言わず席を立ち、台所のほうに向った。画廊を覆う影は少しずつ深くなっていく。ガラス戸に差し込んでくる光が弱くなり、斜めに細く切り取られていた。そろそろ日が沈む時間だった。
ツグミは、リュックのサイドポケットを開き、手鏡を引っ張り出した。
どんな顔になっているのだろう、と恐る恐る鏡に自分の顔を映してみる。
ツグミの肌は、白く、薄い。あまり外に出ないし、運動もしないから、同じ年頃の女の子より、さらにきめ細かく繊細な肌をしていた。今は泣いた後で、顔全体がほんのりと赤味を帯びている。
その顔の左半分が、大きく膨れ上がって、紫色に変わっていた。腫れたところが左目を圧迫していて、顔つきまで変わっていた。
間もなくして、コルリが戻ってきた。手に濡れたタオルを持っていた。
ツグミはまずいものを見られた気分で、慌てて手鏡を引っ込めた。
コルリは、何だろう、首を傾げるだけだった。コルリは上り口で靴を履いて、ツグミの側にやってくる。
「大丈夫。すぐ治るから」
コルリは椅子に座り、持っていたタオルをツグミの左顔面に当てようとした。
ツグミは「うん」とコルリを心配させすぎないように、と思い微笑を浮かべようとした。しかし、タオルが顔に触れて、「ひぃぃ」と悲鳴を漏らした。タオルに、氷が挟んであったのだ。
コルリは、クックッと笑いを飲み込もうとした。ツグミはちょっとムスッとなって、自分でタオルを押さえた。
冷たいタオルも、慣れてくると心地よかった。熱を持った左顔面を、ゆるやかに冷ましてくれる感じだった。
「明日は学校、休む?」
コルリがまた気遣わしげな顔をした。
「ううん。大丈夫。そこまでじゃないから」
ツグミはコルリを心配させすぎている、と思って笑顔を作った。
しかし、すぐに思い直した。
「やっぱり、休みます」
こんな「お岩さん」の顔で学校に行ったら、周りにどんな目で見られるか。きっと好奇の注目を浴び、何人は指をさしてよからぬ推測と噂を囁きあうだろう。そんな様子を想像した。
「うん。それがいいよ。明日の朝、私が電話入れとくから、ツグミはゆっくり眠っとき」
コルリは優しく微笑みかけてくれた。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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