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■2016/03/05 (Sat)
創作小説■
第6章 フェイク
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14
岡田書店の中は相変わらず汚かった。書棚は下品な表紙の本ばかりで埋め尽くされている。相変わらず薄暗く、酸味のある不快な臭いがまとわりついてきた。まだ昼過ぎの時間だったから、客の数はたったの2人だけだった。それでも、女性だけで入っていくと視線が集まる。高田が睨んで返すと、ツグミたちに向けられた視線は、さっと遠ざかっていった。
ツグミは奥のカウンターまで進んだ。店の奥に、モップ頭のバイト青年が立っている。いつもの人だ。
「岡田さんに用事があるんだけど」
ツグミはモップ頭の青年を見上げながら訊ねた。ここに来ると、どうしても言葉が不機嫌になる。
モップ頭の青年は、無言で、カウンターの後ろを親指で示した。
出かけていなくて良かった。ツグミは杖を突いて、カウンター後ろの暖簾をくぐろうとした。
高田がツグミに続こうとした。ツグミは足を止めて、高田を振り向いた。
「すみません。ここで遠慮してくれませんか。中には高級な絵がたくさんありますし、それに、彼、知らない人が来ると緊張してしまうので……」
ツグミは大事な忠告をする調子で、高田に訴えた。この場所に女性を1人で残しておく……という非情さは充分理解しているつもりだけど、ここは譲れない。
「わかりました。では、これを持っていってください」
高田は了解して、ポケットから何かを引っ張り出した。携帯電話だ。
「なんですか?」
ツグミは何となく予感していたが、一応訊ねた。
「GPSが入っているので、持っていると居場所を特定できます。必ず通話状態にしておいてください」
「わかりました」
ツグミは携帯電話を通話状態にして、スカートのポケットに入れた。
ツグミは杖を突いて、暖簾をくぐった。
暖簾をくぐると美術倉庫に出た。以前来た時と、何も変わっていない。絵画が無造作に放り出されている。埃っぽいし、光もほとんど入らない。長くいると体の具合を悪くしそうな場所だった。
「岡田さん、いますか」
ツグミは呼びかけながら、奥に向かった。慎重に杖を突かないと、足下に転がった絵画を踏みつけそうだった。
すぐに、奥の棚の陰から岡田が顔を出した。
「おう、嬢ちゃんやないか。どうしたんや、今日は。デートにでも誘ってくれるんか」
岡田はツグミの顔を見ると、とても嬉しそうだった。ツグミは今日だけは岡田の下品な冗談を、黙って聞き流そうと思った。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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