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■2016/03/10 (Thu)
創作小説■
第10章 クロースの軍団
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7
オークは泥まみれの旅装束を着替える暇を惜しんで、城の廊下を歩いた。あまりにもみすぼらしいオークの格好に、兵士達が驚いて見送っていった。城の様子は以前より閑散とした寂しさが漂っていた。兵の数はより少なくなり、風と雨の音がくっきりと際立っていた。あちこちで雨漏りをしている。城の老朽化が目立ち始めていた。
廊下を歩いていると、思わぬ人物が目の前に現れた。ウァシオだ。
ウァシオ
「オ、オーク! いったいなぜ……。い、いや、オーク殿、そなたは確か北方の砦を任されていたはず。任務を放棄してなぜこんなところにいらっしゃる」
オーク
「その理由はよくご存知でしょう」
オークは言い捨てて、ウァシオの横を通り抜けていった。
ウァシオは茫然とした顔でオークを見送った。
ウァシオ
「なぜだ! なぜ生きている!」
ウァシオは密かな声で毒づいた。
オークは廊下を急いで通り抜け、セシルのいる部屋へと入っていった。
セシルは僅かな臣下と共に、机で仕事をしていた。オークが立ち入っていくと、セシルは臣下たちに書斎を退出するように命じた。
部屋に2人きりになると、セシルは重く溜め息を吐いた。
セシル
「随分早かったじゃないか。お前の任期は3年だったはず。何があった」
オーク
「砦は崩壊しました。裏切りがありました。各地に放たれた遠征隊も、同じく壊滅しました。伝令を送ったはずですが……」
セシル
「報告は何も届いておらん」
オーク
「戦が迫っております。南から見慣れぬ姿の軍団が1万。王城を目指して北上中です。城内で手引きをしている者がおります。ただちに兵の準備を」
セシル
「戦か……。なあオークよ。私は王に相応しいか。この若者の面が王に見えるか」
オーク
「セシル様。今はそんな話をしている時では……」
セシル
「民の心は国から離れる一方だ。先日、盗賊が城の宝物庫に忍び込んだ。毒味役が1人倒れ、その後、国が充分に保証してくれなかったと訴訟を起こすつもりだ。兵士は王の命令を聞かない。民の心が離れていくのを、日々感じている」
オーク
「王ならば、国の危難に対して、然るべき備えをするべきでしょう。ただちに命令を与えて、兵士達を動かしてください。王の命令と、国が危機を前にしていると知れば、みんな従うでしょう」
セシル
「国の危機か……。そんなものに気付いている者が、果たしてどれだけいるだろうか。みんな目の前の政治に振り回されてばかりだ。民も、貴族共も、この私も。危機だと? そんなものは知っている。幼い子供だって気付いている。だが何もしない。知っているだけで何もしない。目の前の不満を訴えて、憂さ晴らしの代わりに喚くだけで、結局なにもしない。時間だけが失われていく」
オーク
「なればこそ命じてください! 今こそ王が立場を示す時です」
セシル
「わかっているとも! だがどうしろと言うのだ! この城を見よ! 城を牛耳っているのは腹黒い連中ばかりだ。誰も王などなんとも思ってはおらん。みんな腹の底で嘲笑っておるわ! 貴族も民も、奴隷すらも、王を尊敬しておらん!」
セシルは突然怒りを爆発させて、机を蹴り、その上のものをぶちまけた。挙げ句、無気力になって椅子に腰を下ろした。
セシル
「……すまぬ。どうかしているのはわかっている」
オーク
「命令を。騎士ならば王のために動きます」
セシル
「この間、貴族達との会議で取り決めが行われた。城にはもうわずかな財産しかなく、兵団を維持できない。それで多くの兵士が解雇された。城下町に貧しいあぶれ者が増えたのは、そのためだ。私が命じても、充分な兵は集められない」
オーク
「そんなまさか……」
セシル
「貴族達に押し切られて、決めてしまった。結果として、貴族の権限を拡大させる結果になってしまった。これも、作戦のひとつだったのかも知れんな。……戦か。まるで遠い話のようだ。戦のことも、ネフィリムのことも。毎日に追われていて、何が国の危機なのか、私にはもうわからない」
オーク
「…………」
オークは何も言わず背を向けた。
セシル
「どこへ行く」
オーク
「戦場へ行きます。私は私が動かせるだけの兵を連れて、セルタの砦へ向かいます。王も戦ってください。父君はあんな連中に国を食いつぶされるところなど望んではいないはずです」
オークはセシルの部屋を立ち去った。
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