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■2016/06/05 (Sun)
創作小説■
第6章 イコノロギア
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20
ヒナは玄関扉を開けたところで、ツグミを待っていてくれた。ツグミはヒナの許まで急いで進み、ヒナと手を握った。ヒナはもう一度そっと光太に頭を下げると、丁寧に玄関ドアを閉めた。
外に出ると、急に空気の冷たさを感じた。まだ夜明けが遠い。ツグミは夜の闇がいつもより深く冷たいのを感じて、心細くなった。辺りを包む静寂が、冷たさを伴って突き刺さってくるように思えた。
ツグミは早く車の中に逃げ込みたくて、早足になった。ヒナも、ツグミに合わせて早足になった。
ツグミとヒナは、家の前に駐めていたダイハツ・ムーブに乗り込んだ。ヒナはエンジン・キーを回して、まずヒーターを点けた。
「ツグミ。しばらく寝とき。つらいやろ」
出発前に、ヒナがツグミを振り返った。
「そんな。ヒナお姉ちゃんだってつらいやろ。私、ずっと起きとくで」
ツグミはゆるく抗議した。
「大丈夫。私、夜型だから。ツグミは寝なさい」
ヒナは冗談を言う時みたいに笑ってみせた。ツグミはヒナが自分を安心させようとしているのだな、とすぐに察した。
しかし運転を代わってあげられるわけではないし、2人で起きていてもあまり意味がない。ツグミは納得しなかったが、了解した。
ツグミは座席を倒して、トレンチコートを脱ぎ、それを毛布代わりに体に被せた。座席の上で少しもぞもぞとして、頭の位置をヘッドレストに合わせる。
ヒナが助手席のシートベルトを締めてくれた。といっても寝ている状態だから、固定される場所はほとんどない。
ヒナはツグミの頭をちょっと上げさせて、乱れた髪を整えた。もぞもぞしている間に、ツグミの後ろの髪が崩れてしまっていたのだ。
「おやすみなさい。ツグミ」
ヒナはそう挨拶をすると、正面を向き、ハンドルを握った。
ゆっくりとダイハツ・ムーブがスタートする。
「おやすみなさい」
ツグミは目を閉じた。ダイハツ・ムーブがゆったりとツグミの体を揺らす。どこか、ゆりかごみたいな感じだった。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです
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