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■2009/09/26 (Sat)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
8
暖かなまどろみから、急に突き落とされてしまった。
「日塔さん、いつまで寝ているの。お布団片付けられないでしょ。」
目覚まし時計より強烈な千里の怒鳴り声だった。
もう少し、と言いたかったけど、私は布団から転げ落ちてしまった。誰かが布団をひっくり返したのだ。
目を開けると、眩しい昼の光が飛び込んできた。けたたましいセミの声が聞こえる。身を起こしながら目をこする。辺りを見回すと、女の子たちはみんな普段着に着替えて、それぞれで活動を始めていた。
「みんなおはよう~」
「あれ? 先生は?」
私は今の状況がつかめず、きょとんとして千里に訊ねた。
「もう、行っちゃったわよ。一人で行っちゃった。」
「え?」
千里は布団をたたみながら私に説明した。その言葉が少し寂しげに聞こえた。私は余計に混乱を感じて、思わず聞き返していた。
千里が私を振り返った。何となく気遣わしげな表情に思えた。
「とにかく、早く起きなさい。朝ご飯の用意できてるから。シャワー浴びてきなさい。」
千里は布団を抱えて、いそいそと押入れに向かって歩き始めた。
私は、いろんな物から置き去りにされた気分だった。私の体内から、大切なものが滑り落ちてしまった感じだった。
私は浴室へ行き、シャワーを浴びて、寝ている間にかいた汗を流した。普段着に着替えて卓袱台に着くと、一人きりで朝食をとった。朝食はご飯と味噌汁。それからたくあんが添えられていた。
私はご飯を口に入れながら、周りを見回した。時計を見ると、すでに11時だった。あれから私は熟睡したらしかった。
私の手前で、藤吉が片膝を立てながら物凄い勢いで紙に絵を描いていた。どうやら新しい漫画らしい。霧は音量を絞ったテレビの前で、姿勢を崩して座っている。あびるは退屈そうに縁側に座り、足を投げ出して庭を眺めていた。千里が腕組をして、落ち着きなく家の中をうろうろと歩いていた。
「先生が出て行って、どれくらい経つの?」
私は歩き回っている千里に声をかけた。
「3時間くらい前かしらね。一緒に行くって言ったけど、でも私たちを危険に遭わせるわけには行かないって……。あんなに厳しい先生、初めてだった。」
千里は私の側で、ちょっと足を止めた。言葉も表情も寂しそうだった。
私は、「そう」と返して、味噌汁をずずずと啜った。
ふと、目の前で漫画を描いている藤吉を振り向いた。藤吉は夢中になっているらしく、あたりに紙が散乱していた。絵はまだ大雑把なラフ画の段階だった。
「ねえ、皆はもう、夏休みの宿題終った?」
私は藤吉の描いている姿に、なんとなく連想をして皆に訊ねた。
「はあ? 日塔さん、まだ終らせてなかったの?」
再び歩き始めた千里が、私を振り返って呆れたような声をあげた。
「ええ、もしかして皆……?」
私は焦りを感じて、みんなを振り返った。
「夏休みの宿題というのは、毎日決められた枚数を、計画的にきちんと進めるものです。だいたい終ってるわよ。」
千里は胸をそらして、なんだか小言みたいだった。
「私はぜんぶ終ってるよ。暇で他にすることがないから」
霧が私を振り返って、かすれるような声で報告した。
「私は三日で」
あびるが体をそらして私を振り向き、クールな声で告げた。
「私も終らせてるよ。コミケに響くから」
藤吉は漫画に集中しながら私に答えた。
「そんな。もしかして私だけ? まだ大丈夫だと思ったのに」
私は愕然として視線を落とした。
「見せてあげてもいいわよ」
「ありがとう、あびるちゃん!」
あびるがクールに助け舟を出した。私は感激して、あびるに拝むように両掌を合わせた。
千里が何かに気付いたように、藤吉の描いている漫画を覗き込んだ。
「……て、こんな時に、お前は何を描いている!」
「え、だって、思いついたから……」
千里は唐突に怒鳴り声を上げて、藤吉から紙を取り上げた。千里の突然の没収に、藤吉も驚いた様子だった。
「だからって、本当にネタにする奴があるか!」
「返してよ、千里! 私の生きがいを返して!」
「生きがいって、お前、年いくつだ!」
藤吉が奪い返そうと千里にすがりついて手を伸ばす。しかし千里は、藤吉を押しのけて、卓袱台の周囲に散った紙を拾い集めはじめた。
私はなんだろう、と紙の一つを手に取った。ああ、なるほど、と思った。あえて描写はすまい。
次回 P068 第6章 異端の少女9 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P067 第6章 異端の少女
8
暖かなまどろみから、急に突き落とされてしまった。
「日塔さん、いつまで寝ているの。お布団片付けられないでしょ。」
目覚まし時計より強烈な千里の怒鳴り声だった。
もう少し、と言いたかったけど、私は布団から転げ落ちてしまった。誰かが布団をひっくり返したのだ。
目を開けると、眩しい昼の光が飛び込んできた。けたたましいセミの声が聞こえる。身を起こしながら目をこする。辺りを見回すと、女の子たちはみんな普段着に着替えて、それぞれで活動を始めていた。
「みんなおはよう~」
「あれ? 先生は?」
私は今の状況がつかめず、きょとんとして千里に訊ねた。
「もう、行っちゃったわよ。一人で行っちゃった。」
「え?」
千里は布団をたたみながら私に説明した。その言葉が少し寂しげに聞こえた。私は余計に混乱を感じて、思わず聞き返していた。
千里が私を振り返った。何となく気遣わしげな表情に思えた。
「とにかく、早く起きなさい。朝ご飯の用意できてるから。シャワー浴びてきなさい。」
千里は布団を抱えて、いそいそと押入れに向かって歩き始めた。
私は、いろんな物から置き去りにされた気分だった。私の体内から、大切なものが滑り落ちてしまった感じだった。
私は浴室へ行き、シャワーを浴びて、寝ている間にかいた汗を流した。普段着に着替えて卓袱台に着くと、一人きりで朝食をとった。朝食はご飯と味噌汁。それからたくあんが添えられていた。
私はご飯を口に入れながら、周りを見回した。時計を見ると、すでに11時だった。あれから私は熟睡したらしかった。
私の手前で、藤吉が片膝を立てながら物凄い勢いで紙に絵を描いていた。どうやら新しい漫画らしい。霧は音量を絞ったテレビの前で、姿勢を崩して座っている。あびるは退屈そうに縁側に座り、足を投げ出して庭を眺めていた。千里が腕組をして、落ち着きなく家の中をうろうろと歩いていた。
「先生が出て行って、どれくらい経つの?」
私は歩き回っている千里に声をかけた。
「3時間くらい前かしらね。一緒に行くって言ったけど、でも私たちを危険に遭わせるわけには行かないって……。あんなに厳しい先生、初めてだった。」
千里は私の側で、ちょっと足を止めた。言葉も表情も寂しそうだった。
私は、「そう」と返して、味噌汁をずずずと啜った。
ふと、目の前で漫画を描いている藤吉を振り向いた。藤吉は夢中になっているらしく、あたりに紙が散乱していた。絵はまだ大雑把なラフ画の段階だった。
「ねえ、皆はもう、夏休みの宿題終った?」
私は藤吉の描いている姿に、なんとなく連想をして皆に訊ねた。
「はあ? 日塔さん、まだ終らせてなかったの?」
再び歩き始めた千里が、私を振り返って呆れたような声をあげた。
「ええ、もしかして皆……?」
私は焦りを感じて、みんなを振り返った。
「夏休みの宿題というのは、毎日決められた枚数を、計画的にきちんと進めるものです。だいたい終ってるわよ。」
千里は胸をそらして、なんだか小言みたいだった。
「私はぜんぶ終ってるよ。暇で他にすることがないから」
霧が私を振り返って、かすれるような声で報告した。
「私は三日で」
あびるが体をそらして私を振り向き、クールな声で告げた。
「私も終らせてるよ。コミケに響くから」
藤吉は漫画に集中しながら私に答えた。
「そんな。もしかして私だけ? まだ大丈夫だと思ったのに」
私は愕然として視線を落とした。
「見せてあげてもいいわよ」
「ありがとう、あびるちゃん!」
あびるがクールに助け舟を出した。私は感激して、あびるに拝むように両掌を合わせた。
千里が何かに気付いたように、藤吉の描いている漫画を覗き込んだ。
「……て、こんな時に、お前は何を描いている!」
「え、だって、思いついたから……」
千里は唐突に怒鳴り声を上げて、藤吉から紙を取り上げた。千里の突然の没収に、藤吉も驚いた様子だった。
「だからって、本当にネタにする奴があるか!」
「返してよ、千里! 私の生きがいを返して!」
「生きがいって、お前、年いくつだ!」
藤吉が奪い返そうと千里にすがりついて手を伸ばす。しかし千里は、藤吉を押しのけて、卓袱台の周囲に散った紙を拾い集めはじめた。
私はなんだろう、と紙の一つを手に取った。ああ、なるほど、と思った。あえて描写はすまい。
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