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■2015/12/04 (Fri)
第7章 王国炎上

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 一行はキールブリシュトを去った後、北西の方角を真っ直ぐ進み、荒れた土地を横切ってわずか2日で長城まで辿り着いた。馬が力尽きて倒れてしまったために、そこで駐在している兵士らに、馬を新しく用意してもらい、王城までの道のりを一気に進めた。
 大門を潜ると、城下町はすでに厳戒態勢下にあり、城壁近くの住居は軒並み兵士らに摂取され、戦いの準備が慌ただしく始められていた。そこで旅の一行は一度解散となり、セシルは戦士たちを連れて、伝令の兵士とともに王城へと去った。
 オークはセシルの指示に従って、大門にとどまり、戦の準備を手伝った。ソフィーもそれに伴った。バン・シーはいつの間にか姿を消していた。
 オーク達は兵士達の仕事に加わると、旅の装束を脱ぎ捨てて、戦闘用の鎧に着替えた。着替える作業を、ソフィーが手伝った。

オーク
「ソフィー、ここまでです。あなたは住民とともに避難してください」
ソフィー
「私も戦います」
オーク
「いけません。避難するのです」
ソフィー
「どうしてです。私も戦えると、もう証明してみせたではありませんか。なぜ……」
オーク
「あの戦いでみな死にました。生き残れたのはただの偶然です。同じ幸運が続くとは限りません。私は、あなたを失いたくないのです」
ソフィー
「幸運なら何度でも起こしてみせます。だから……」
オーク
「ソフィー。これはお伽話ではないのです。行ってください」
ソフィー
「……あなたはもっと情の深い方だと思っていました」
オーク
「――ソフィー?」

 ソフィーの顔に、落胆が浮かんでいた。ソフィーの思いもしない失望した顔に、オークが戸惑いを浮かべていたが、今度はソフィーがオークを避けるようにその場を去って行った。
 立ち去っていくソフィーと入れ違うように、兵士達の歓声が沸き起こった。セシルを先頭に、王国の最も強力な騎士団が到着したのだ。騎士団は列を作って堂々たる風格を湛えながら、喝采の中を練り歩いた。
 セシルは兵士達の中からオークを見付けると、列に加わるように指示した。

セシル
「先ほど報告が入った。地下牢からゼーラ族の囚人が脱走した。覚えているか。お前が秘密の里で戦っていた時に捕らえた奴だ」
オーク
「城に手引きした者が?」
セシル
「驚くに当たらん。城は疑わしい連中ばかりだ」
オーク
「目星は?」
セシル
「こちらも何人か間者を放っておるが、中心人物はウァシオだろう。だがあいつもこちらの間者に気付いておる。なかなか尻尾をださん。おかげで間者同士の馬鹿し合いをやっておるよ。ウァシオめ……この城で何をするつもりだ」
オーク
「無理やり捕らえて証言を求めては?」
セシル
「そういうわけにはいかんよ。見よ」

 セシルが騎士団を振り返った。オークも振り返る。最後尾に、鎧姿のウァシオがいた。
 兵士達がウァシオの姿を見ると「ウァシオ様だ!」と喝采を上げた。

セシル
「あんな奴だが、兵士や民からの信頼は厚い。あやつはゼーラ一族との戦いを何度も勝利に導いた歴戦の勇者だからな。無理に投獄すれば我々が民から信頼を失う。あいつが戦場に姿を現すと、ゼーラ一族はどんな戦いでも即座に陣を退けるのだ」
オーク
「ゼーラ一族と示し合わせているのではないですか?」
セシル
「人々は信じやすいからな。ウァシオには特別な闘気をまとっていて、ゼーラ一族はそれに恐れをなして逃げ出すのだと、民は信じている。兵士達の中にも、神通力の持ち主だと信じている者も多い。王の立場とはいえ、迂闊に手を出せんのだよ」
オーク
「…………」

 オークはウァシオをもう一度振り向く。ウァシオはニヤリと笑って、オークを見ていた。
 号令が再び飛び交い、城壁の銃眼に兵士達が配置される。騎士団は大門の外に出て整列すると、来るべき敵を待った。
 空は昼とは思えない暗さでどんよりとくぐもり、粉のような雨が散っていた。
 監視塔の兵が声を上げた。地平の向こうから、黒山の群れが現れた。ネフィリムたちだ。ネフィリムの数は桁外れに多く、南の地平線を見渡す限り端から端まで埋め尽くし、全部でどれくらいの数になるのか想像も付かなかった。
 地平の向こうから、まるで邪悪な黒波が押し寄せるように見え、その足音に大地が揺れる。最強と謳われる騎士団ですら、恐れを抱かずにいられなかった。

セシル
「奴らはこの時のために準備をしておった。我々はそれを知りつつ、放置しておったのだ……。もし人間が下らん小競り合いなどせず、よき指導の下、本当の脅威に対して向き合えるようになれば、どうであったと思う?」
オーク
「そんな時代を目指しましょう。人間が本当の正義の下、悪と向き合える日を。今は目の前の敵と戦う時です」

 セシルは無言で頷いた。
 セシルが剣を抜いた。騎士団に合図を送る。兵士達が「おお!」と鬨の声を上げた。城壁は戦の活気に満ちた。しかし邪悪なる者達の足音は、それを容易に飲み込んでしまった。

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