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■2016/07/22 (Fri)
第14章 最後の戦い

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18
 しかしそこで再びオークの体が崩れた。石の上に倒れる。全身から溢れ出た血が、石の床に広がった。それまで麻痺していた感覚が急に蘇って、指先が冷たく痺れた。
 いよいよ死が近い。自分の体の中で、命の糸が千切れようとするのを感じた。この数日間、休息も食事も一切とっていない。身体の衰弱が、死期を早めていた。
 オークはそれでも剣を杖に立ち上がった。目の前がかすんで、はっきりと見えない。思考も定かではなかった。行く先もわからなかったが、とりあえず進んだ。
 やがて回廊の前後に、キィキィと不愉快な声を上げた何かが迫ってきた。本能的に敵だと判断して剣を振り上げた。
 何も見えていなかった。しかし武士としての勘が、正確に群がり集まるネフィリムを斬っていた。気付けば体中が切り刻まれていた。全身から血が噴き出していた。だが痛みは感じなかった。いや五感の全てがはっきりしなかった。ただ本能のままに剣を振るい、敵を斬り続けた。
 いつの間にか辺りに敵はいなくなっていた。オークは1人きりで、いるはずのない敵をめがけて、剣を振り上げたままの格好で止まっていた。
 ふと我に返って辺りを見ると、死体の山が築かれ、黒い不浄の血が床を浸していた。
 オークはふらりと壁にもたれかかった。

オーク
「……ソフィー」

 なぜか忘れかけていた女性の名が浮かんだ。
 目の前にいるはずのない幻の蝶が飛んでいた。何もかもが遠くに思えた。知らない間に、涙が頬を濡らしていた。
 眠っていたのだろうか。オークは意識を取り戻し、目を開けた。全身に力が戻っていた。
 オークは剣を杖にして、その向こうに進んだ。膝が震えていたが、まだまだ戦えるという気がした。
 回廊の向こうに、深い暗闇が見えた。その向こうに悪魔の王がいる。オークはそう確信して、トンネルの向こうへと歩いた。
 そこに待ち受けていたのは1体の悪魔だった。見回すと、中庭を取り囲むように、ネフィリムの大軍が集結していた。オークを待っていたのだ。オークは自らその中に飛び込んでしまったのだ。
 どうせ通らねばならない道。
 オークは覚悟を決めて、魔の軍団に対して剣を身構えた。
 その時だった。
 ずっと後ろほうで、獣の声がした。するとそれに応えるように、目の前の獣も顔を上げて遠吠えを上げた。ネフィリム達も後ろを振り返り、顔に緊張を浮かべた。
 ――何かが起こった。
 悪魔がネフィリム達を連れて、移動を開始した。オークは警戒して剣を身構えるが、ネフィリムはオークなど構わずに、その横を通り抜けて通路の向こうへと消えてしまった。
 気付けば、魔の者の気配は完全に消えていた。オークは1人きりだった。
 何が起きたのかわからない。だがオークにとって幸いだった。オークは何の障壁もなく、悪魔の王が待ち受ける居城へと入っていった。

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