■ 最新記事
(08/15)
(08/14)
(08/13)
(08/12)
(08/11)
(08/10)
(08/09)
(08/08)
(08/07)
(08/06)
■ カテゴリー
お探し記事は【記事一覧 索引】が便利です。
■2016/07/23 (Sat)
創作小説■
第7章 Art Loss Register
前回を読む
24
宮川は、指をパチンと鳴らした。するとどこかで物音がした。重い鉄扉が開くような音だった。暗闇で動きがあった。男たちが動く気配と、ゆるく反抗する気配。
ツグミは「まさか」と思って、胸を押さえた。心の準備ができなくて、全身の血がどっと逆流するようだった。
男が照明の中に入ってきた。男は大きなものを地面に引き摺っていた。――ヒナだった。
男はヒナを地面に投げ出した。ヒナは何の抵抗もなく、地面に転がった。両手を縛られ、目隠しをされ、猿轡を噛まされていた。
「お姉ちゃん!」
ツグミは悲鳴と一緒に声を上げた。
ヒナがツグミの声に反応して、顔を上げた。ヒナは髪も着ている服もボロボロだった。寒いらしく、小さく震えていた。
ヒナの横顔に、照明の光が当たった。ヒナの顔は痣だらけで膨れあがっていた。暗い照明のせいで、顔に歪な影を作っていた。
宮川はジャケットの懐に手を入れた。ツグミははっと宮川を振り返った。宮川が懐から取り出したのは、銃だった。
「1つ、テストをしよう。高校生だから、テストには慣れっこだろ。ここには銃が1つある。だが頭は3つだ。さて問題。どの頭に銃を向けると、ツグミは人の命令を聞けるようになるのかな。おっと、もう1つ、この倉庫の周辺には数百メートルにわたり、人はいない。叫んでも無駄だよ」
宮川はニヤニヤと笑いながら、銃の先に筒状の何かを取り付けた。サイレンサーと呼ばれるやつだ。映画でよく使われるから、ツグミでも知っていた。
ツグミは腰から下が、ガタガタと震えた。本物の銃を見るのは初めてだった。銃は映画で見るようなものと違っていて、本物は異様に大きくてごつごつとしていて、恐ろしい物体のように思えた。
「やはり、ツグミの頭かな。我が命が一番だ。そうだよな」
宮川がツグミの頭に、銃口を向けた。宮川は今までで一番愉快そうだった。
銃口がツグミの眉間に当てられた。ツグミは目の前がわからなくなった。呼吸ができなくなった。
「パンッ」
宮川がふざけて言った。
ツグミは悲鳴を上げて、尻を付いてしまった。恐怖で一瞬、全身から力が失った。ツグミは倒れた後も震えが止まらず、立ち上がれなかった。
「これはいかん。多少は冷静になってもらわないとな。君の初恋の相手では、どうかな。いや、赤の他人では緊迫感に欠ける。やはり、お姉さんが一番だな。せっかく出てきてもらったのだから、お姉さんの頭を的にしよう」
宮川はツグミから銃口を外した。銃口はふらふらと宙を彷徨い、ヒナが倒れているところに定まった。
シュッ!
ヒナの頭の後ろの地面がえぐれた。撃ったのだ。音はなかったが、ヒナの頭の後ろに着弾した。
ツグミは一瞬にして、血の気がひいていくのを感じた。
「おっとっと、手が滑った。こいつは引き金が緩いんだ。ちゃんとしないといけないな。しかし、あまりにも聞き分けがないと、また手が滑ってしまいそうだな」
宮川はおどけるように言いながらも、しかしはっきりと脅しの色を込めていた。
「わかりました。……やります。……鑑定を……やらせてください」
ツグミは、胸の中の炎が消えてしまうのを感じた。もうどう頑張っても、勇気が戻りそうな気配はなかった。
「よろしい」
宮川が勝利宣言をするように笑った。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
PR