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■2016/07/19 (Tue)
創作小説■
第7章 Art Loss Register
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22
そこは廃ビルなのか、それとも廃倉庫なのか。空間がだだっ広く、ずっと向こうに窓の形が見えた。遠くない場所から、波の音が聞こえてくる。窓から暗い光が射し込み、さらに深い闇を照らしていた。窓の光がなければ、暗闇がどこまでも続いているように錯覚を起こしそうだった。
ツグミは混乱する思いで、4枚並んだ『合奏』を見た。頭がぼんやりしていたが、「川村さんが描いた『合奏』だ」と何とか考えるに至った。
ふと暗闇の中で気配が動いた。階段の下から、何人か登ってくる音がした。
3人の男が照明の中に入ってきた。男たちはそれぞれキャンバスを持っていた。
「川村の作業部屋から発見しました。『合奏』が新たに3つ。そのうち、描きかけが1つ」
「描きかけはいらない。除外しろ。邪魔だ」
男の1人が報告し、宮川がすぐに指示を返した。
男たちは指示を予想していたみたいに、2枚の『合奏』をイーゼルに掛けた。描きかけの1枚は暗闇に投げ捨てられた。
絵を運んできた3人に続いて、もう1組、明かりの中に入ってきた。長髪の男と川村だった。川村は手を縄で縛られていた。
長髪の男は、照明の光が辛うじて当たる場所に川村を連れて来た。長髪の男は、川村に膝をつかせた。
宮川が川村の前に進んだ。長髪の男は「宮川にすべて委ねる」という態度で、暗闇の中に下がった。
宮川と川村が向き合った。川村が顔を上げて、宮川に挨拶のように軽く微笑みかけた。
宮川はいきなり川村の顔面を蹴った。川村の体が地面に崩れた。
「やめて! やめて!」
ツグミは悲鳴を上げた。飛びつこうとしたけど、左脚で踏み出そうとしてしまって、転んでしまった。
宮川は何度も川村を蹴った。川村は悲鳴を上げず、攻撃を防ごうともしなかった。あえて抵抗しないみたいに、蹴られるがままだった。
ツグミは見ていられなくて、目を背けた。宮川の靴が川村に当たるのを聞くたびに、自分の体が蹴られたみたいな気分になった。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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