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■2016/02/03 (Wed)
第9章 暗転

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 森を横切る小道を、オーク達の小隊が列を作って進んでいた。まだ昼の時刻だが、辺りは暗く影を落としている。冷たい風がざわざわと音を立てていた。
 ソフィーはそっと、背後を振り返る。灰色の森の一角が、何か潜んでいるようにざわざわと揺れていた。
 ――何かいる。
 ソフィーはその方向をじっと見詰めた。すると暗い枝の影から、ぬっと何かが現れた。それは真っ黒で、虚ろに影を定めなかった。

兵士
「どうかなされましたか、ソフィー様」
ソフィー
「……い、いえ。何でもありません」

 ソフィーはごまかすように言うと、視線を前に定めて馬を進めた。




 夜。
 オーク達の一行は、テントを作って野営を始める。風が冷たく、囁くような声を上げている。焚き火の炎も、風の強さに斜めを向いていた。
 オークはテントにランプを吊し、テーブルに地図を広げて部下たちと打ち合わせをしていた。

オーク
「予想されていたネフィリムの襲撃はなく、旅は順調に進んでいます」
兵士
「このまま行けば、1日早く北方の砦に到着しますが、しかし油断してはなりません。これまで通り用心するべきでしょう」
オーク
「兵士達には緊張してもらわなければなりませんね……」

 側で、ソフィーが話を聞きながら、うつらうつらとしはじめる。

オーク
「ソフィー、もう眠りなさい」
ソフィー
「あ、はい。……でも」
オーク
「大丈夫。今夜はもうドルイドの助言は必要ありません。あなたは先に休んでください」
ソフィー
「そうですか。……では」

 ソフィーは一同に丁寧な挨拶をしてテントから離れていく。

兵士
「オーク殿。お節介を申し上げるようだが、彼女とはまだ……」
オーク
「こんな暗い時代です。祝福されるべきではありません」
兵士
「いや、しかしですな……」
オーク
「個人的な問題です。議論するつもりはありません。話を続けましょう。東に村があるはずですが……」




 ソフィーは自分用に用意されたテントに入る。

侍女
「おやすみなさい、ソフィー様」

 先に寝ていた侍女の少女が、ちょっと目を覚ましてソフィーに挨拶をする。

ソフィー
「ええ、おやすみなさい」

 ソフィー自身も布団に潜って、眠りについた。


 ――しばらくして。
 テントの外を風が絶えず流れている。まるで何かを一定速度で引き摺っているように、ざわめく草の音が変わらなかった。
 そんな音に、何かが混じる。何か軽いものが、草を踏んでいる。布状の何かを引き摺っている。兵士の靴音ではない。
 ソフィーは目を閉じながら、音の行方を追った。静寂が、音の存在を、くっきりと浮かび上がらせていた。音はテントの側に近付き、何か探るようにうろうろと同じ場所を巡り始めた。
 ソフィーは密かに杖を握った。
 音は、さらりさらりと草を撫でながら、ゆっくりとテントから遠ざかっていった。

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