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■2015/12/10 (Thu)
創作小説■
第7章 王国炎上
前回を読む
4
バン・シーはソフィーを連れ立って屋敷を後にした。町並みはひどく静かで、往来する者はいない。一般市民は外出禁止になっている。伝令の兵士が時々通り過ぎるくらいで、大門の戦の物音は、はるか向こうだった。バン・シー
「そなたは戦に加わぬのか」
ソフィー
「戦は殿方の務めです。女は例え戦える力が認められても、戦場に立つのは許されません。そんなあなたこそ、どうしたのです。そんな暗い顔をなさって……」
バン・シー
「お前は人に笑顔を与える。見よ、人々の顔を。なのにお前はなんて顔をしている」
さっきまでいた屋敷に目を向ける。先まで沈んでいた様子とは一転して、人々に笑顔が浮かんでいた。
ソフィー
「話しづらいことです……」
ソフィーは暗い顔でうつむいた。それとなくバン・シーは察する。
バン・シー
「男とはそういうものだ。頑固で意地ばかり押し通そうとする」
ソフィー
「あなたにも経験があるのですか? ……いえ、失礼しました。聞くべきではありませんよね」
バン・シー
「構わんよ。私にだって人並みに誰かを愛することもある」
ソフィー
「まさか。あなたほど優れた方が?」
バン・シー
「それはそなたも同じだ。そなたにも、どうやら人にはない力が備わっているようだ。年はいくつだ」
ソフィー
「17です。まだまだ子供ですよね」
バン・シー
「……17か?」
ソフィー
「ええ」
バン・シー
「…………」
バン・シーが神妙な顔をして考え込み始めた。ソフィーが怪訝な顔をしてバン・シーを覗き込む。
ソフィー
「どうなさいました?」
バン・シー
「いや、なんでもない。――ちょっと気晴らしをしよう。従いてくるがいい」
バン・シーは強引に話を打ち切り、ソフィーを連れて再び城に向かった。ソフィーが城を訪ねるのは、老師から免許皆伝を受けた時以来だった。バン・シーに連れられているとは言え、ソフィーはやや緊張した顔を浮かべる。
バン・シーはソフィーを城の地下へと案内した。
ソフィー
「あの、どちらへ……」
ソフィーは不安そうに訊ねた。
バン・シー
「黙ってついてくるがいい」
バン・シーはそれだけしか言わなかった。先ほどの会話とは打って変わって、事務的で冷たいものだった。
やがて地下回廊に入ると、管理人の案内を先頭に、ある部屋へと通された。部屋は明かりが少なく、全体は掴めないものの、決して広くはない。いくつもの棚が並んでいて、古い紙の束や、石版が収められていた。
ソフィーは石版の1つを覗き込む。
ソフィー
「まあ、オガム文字ですね」
バン・シー
「そうだが……。読めるのか?」
ソフィー
「いいえ。少し習いましたが、私には……」
バン・シー
「そなたに見せたいものは、こっちだ。来たまえ」
ソフィー
「はい」
部屋の奥へと進むと、開けた一角があり、その中央の台座が、四隅に配された青い光に浮かんでいた。台座には、石版が1つ置かれていた。石版は中央にひびが走り、分かれていたものを繋ぎ止めた跡があった。
ソフィー
「これは……なんですか?」
バン・シー
「わからぬか?」
ソフィー
「どうしですか?」
バン・シー
「……そうか。はじめに明かしておこう。これにはネフィリムの召還の技が記されている」
ソフィー
「え!」
ソフィーの顔に怯えが浮かんだ。
バン・シー
「まあ慌てるな。これには多分、ネフィリムの召還と封印の方法が記されている……と考えている」
ソフィー
「どういう意味でしょうか?」
バン・シー
「私にはこれが読めぬのだ。――おそらく秘術を伝えた最後の者が、何かを残そうと思い、この石に書き残したのだろう。しかしここに刻まれている文字はどんな文字にも似ておらん。つまり、この文字を考え出したのは、これを書いた者自身。これを読める者も書いた者だけだ」
ソフィー
「バン・シー様が以前お話になられた『封印』というのは……」
バン・シーが頷いた。
バン・シー
「そうだ。ここに記されている。そしてこれを読む能力を持つ唯一の者が、『真理』を持つ者だ」
ソフィー
「……『真理』」
バン・シー
「そうだ。しかしかの者は常に1人でしか生まれない。だから私は長年探し続けている」
ソフィー
「…………」
ソフィーは何も言わず、うつむいた。
バン・シー
「どうした?」
ソフィー
「強すぎる力など、ないほうがいいのです。特別な力は、人を孤独にさせるだけですから」
ソフィーは独白のように言った。
バン・シー
「しかしわけもなく力を持って生まれてくる者はいない」
ソフィー
「運命など何になるのです。全ては結果です。愚かな魔術師の思いつきで、悪の力は日々強力になるばかりです。今やそれを抑える術すら見付からない……ならば、そんな力、はじめからいらないわ!」
バン・シー
「ソフィー。力は使うものだ。特別な力を持って生まれたのなら、その力を使うのが義務だ」
ソフィー
「……私は」
バン・シー
「行こう。男達を見返してやろうではないか」
ソフィー
「はい」
ソフィーは力強く頷いた。
※ オガム文字 ドルイドが秘技を行う時に使用した文字。
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