■ 最新記事
(08/15)
(08/14)
(08/13)
(08/12)
(08/11)
(08/10)
(08/09)
(08/08)
(08/07)
(08/06)
■ カテゴリー
お探し記事は【記事一覧 索引】が便利です。
■2015/12/06 (Sun)
創作小説■
第7章 王国炎上
前回を読む
2
地下宝物庫に、バン・シーの姿があった。管理人の老人ともに廊下を進み、あの鉄の大扉を開けて、その中へと入っていく。大広間には3人の英雄の石像が置かれている。台座にはそれぞれの聖剣。ダーンウィンだけはまだセシルが持ち出したままになっていた。
バン・シーはまっすぐエクスカリバーの前まで進み、その柄を握った。
王
「――エクスカリバーだ」
バン・シーが振り向くと、老いた王がそこに立っていた。
バン・シー
「ついに見付けたか」
王
「生涯のほとんどをそれに費やした。我が民の宝だ」
さすがのバン・シーにも声に感動と期待が込められていた。
しかしその鞘を払った瞬間、感動は一転して失望へと叩き落とされ、隠しようもない溜め息が漏れた。
王
「《カムランの戦い》から千年、ドーズマリー・プール湖の底で眠っていたのだ。伝説はもはや、過去の遺物だ」
《カムランの戦い》――。クロース教の語る「正史」には決して記されないアーサー王とモルドレッドとの最期の戦い。アーサーは敗れ、エクスカリバーはドーズマリー・プール湖に葬られた。以後千年にわたり、所在の知れなかった剣。例え神の鍛えし剣といえど、千年は長すぎる風雪であった。
バン・シー
「もっと早く見付けるべきだった。いや、もっと早く探すべきだった」
バン・シーはエクスカリバーを台座に戻した。
王
「この戦いが終わったら、国中の鍛冶師を集めさせよう」
バン・シー
「いや、おそらく人間にはこれを直せまい。神が創りし剣を修復できるのは神だけだ」
王
「神などどこにおる。信仰を失ったこの時代に。神はすでにこの世を去った」
バン・シー
「確かに。だが私に1人だけ心当たりがある。この戦いが終わったら、剣を私に預けさせてくれないか」
王
「何者だ?」
バン・シー
「グリシャの神……だった男だ。グリシャの信仰もすでに崩壊しているが、山中でまだ生存している神に会ったことがある。その者ならば、もしかすると……」
王
「いいだろう。エクスカリバーはそなたに預けよう。そんなもの、民に見られたくとも知られたくもない。アーサーはクロースに殺された王だ」
バン・シー
「自棄になるな。希望は探せば見付かる」
王
「希望を望むほど若くないんでな。――それで、かの者は見付けたのであろうな」
バン・シー
「チベットの後は東の草原へ行き、ラマ廟を訪ねた。しかし一足違いだった。かの者は17年前に死んだ、と。ここでかの者の足跡は完全に途絶えた。もしも次の者が生まれていて健康に育っているとしたら、17歳の女だ」
王
「なぜ女とわかる」
バン・シー
「簡単な法則だ。男の次は女が生まれ、女の次は男が生まれる。だから、次の者は女だ」
王
「女か……。だがどの国へ行っても女の立場は弱い。自身の能力に気付いていても、軽んじられている可能性が高い。自身の力が、何のために与えられたのかわかっていない場合もある」
バン・シー
「かの者の使命はひとつとは限らん。私にとっては用事は1つきりだが、かの者の運命は無数にあるのだろう。――世界中の物語の中を歩いてきた。あともう少しだ……」
王
「そうだな」
王が溜め息を漏らした。
それから、バン・シーは思い出したように言った。
バン・シー
「ところで、オークに名を与えた者が誰であるか、知っているか?」
王
「いや。旅のドルイドであるとしか。やはりそなたも気になったか。しかし単なる偶然だ。都合のいい奇跡を信じるほど、わしも若くない。かの者のかつての名前はミルディであったそうだ」
バン・シー
「……そうか」
バン・シーは何かを考えるふうにしたが、しかし頭を振り、そこを後にした。
※ ドーズマリー・プール湖 アーサー王伝説が残るコーンウォールの湖。
次回を読む
目次
PR