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■2015/11/30 (Mon)
創作小説■
第6章 キール・ブリシュトの悪魔
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12
通路の向こうから、冷たい風がひゅうひゅうと音を立てて流れ込んできた。通路はそこで突然終わっていた。通路が途切れ、その下に円形劇場があった。客席に、空中回廊の残骸が砕けて落ちていた。
かつて舞台であったところに、それはいた。ちょっと見たところ、巨大な黒い塊に見えた。しかしそれは1つの生物であり、恐ろしく巨大な身体に、四肢と尻尾を丸めて眠っているのだ。その者こそ「悪魔」だった。
悪魔は戦士達の気配に気付いたらしく、目を覚ました。辺りを巡らし、空中回廊にいる戦士達を見上げた。その目が薄闇の中で赤く輝き、口や鼻から息吹の代わりに炎を溜めていた。
バン・シー
「紹介したほうがいいかね」
セシル
「いや結構だ!」
セシルが空中回廊から飛び出した。客席に着地する。戦士達がセシルに続いて空中回廊へと飛び降りていく。
悪魔は全身の毛を逆立てて、怒りの咆哮を上げた。いきなり飛びついてくる。人間なら百歩も必要な距離を、悪魔は一度のジャンプで飛びついてきた。その着地の凄まじさに、振動が辺りに散って、客席の一角にひびが走った。
戦士達は武器を剣から弓矢に切り替えて、次々と放った。矢は暗黒そのもののような黒い身体に突き刺ささる。悪魔は痛みに身もだえして、反逆に炎の息を戦士たちに浴びせかけた。炎は石の上に塊となって落ち、激しく火の粉を散らした。
バン・シー
「これは運がいい。聖剣以外の武器も通じるぞ!」
セシル
「ならばダーンウィンは無駄であったな!」
バン・シー
「いや、奨励しよう。聖剣以外に悪魔に致命傷を与えられる武器はない」
しかし、そもそも悪魔に近付き、剣の一撃をくわえるのは困難な仕事だった。悪魔は巨大ばかりではなく、その動きも極めて俊敏であった。戦士らは悪魔に一歩も近付けず、矢を放ち続けた。だが矢の打撃はあまりにも弱々しく、悪魔は突き刺さった矢を、トゲでも刺さったかのようにさっと払い落としてしまった。
悪魔は戦士達に狙いを定めると、素早く迫り、鋭い爪で捕まえようとした。その力は圧倒的で、拳の力で石造りの床や壁が一撃の下に粉砕された。恐るべき尻尾は、鞭のような鋭さで空を切り、おそらく同族のものであろう石像を真っ二つに砕いた。
炎の攻撃に、戦士の1人が焼かれ、尻尾の攻撃に2人が臓物を散らして弾け飛んだ。また1人は、虫けらのように掴まれて、叩きつけられて死んだ。
それでも戦士達は、恐れを乗り越えて果敢に戦った。矢の攻撃がほとんど意味がないとわかると、1人、また1人とその背に飛びつき、剣の一撃をくわえた。剣の攻撃は弓矢より効果はあったものの、それ以上の打撃は与えず、むしろ悪魔に振り落とされ、次なる拳か、あるいは炎の一撃で、戦士は命を落としてしまった。
そんななか、効果的だったのはソフィーとバン・シーの魔術だった。2人の放った雷と火炎は、どんな剣以上に決定的に悪魔を怯ませた。
セシルもついに悪魔の背にとりついた。悪魔はセシルを振り払おうとしたが、セシルは悪魔の身体にしっかりしがみついた。仲間達は援護に回って次々に矢を放った。
ダーウィンの一撃が悪魔の後ろ頭に振り落とされた。聖剣の一撃は、どの刃よりも深く突き刺ささった。傷口から炎が噴き上がった。マグマが――いや恐ろしく熱い血液がどろりと溢れ出した。
その一撃でも充分ではなかった。セシルは悪魔に振り落とされ、叩きつけられた。そのまま昏倒してしまう。
悪魔の怒りの拳が、セシルに迫る。オークがとっさに飛びつき、セシルを救った。
意識を取り戻したセシルは、再び悪魔と向き合った。今度は正面から立ち向かう。その目にこれまでにない勇気が漲り、全身に力が溢れる。
悪魔もセシルを殺そうと飛びついてきた。戦士達が矢を放って援護する。オークが悪魔の背中にとりついた。
悪魔はオークを振り払おうと、腹を見せた。
セシルがその懐に飛びつき、悪魔の腹に一閃、聖剣の一撃をくわえた。
腹からごう、と炎が溢れ出した。マグマとともに臓物がセシルに飛びかかった。セシルは間一髪、これを避けた。臓物は外気に触れると、激しく燃えさかり、悪魔自身の体毛に火をつけた。
決定的な打撃と灼熱に、悪魔は苦しみもがいた。絶叫をあげながら、その体が焼けて、皮膚が溶け、その下の骨と臓物を剥き出しにした。それでも悪魔は絶命に至らなかった。おそるべき生命力で、全身に炎を宿しながら、セシルに飛びついてきた。
セシルはむしろ悪魔の懐に飛びつき、その心臓に一突き、聖剣の一撃をくわえた。
悪魔が断末魔の絶叫をあげた。四肢が燃えて、バラバラに散っていく。そうして、劇場の向こうの奈落へと落ちていった。
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