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■2015/11/03 (Tue)
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

第4章 美術市場の闇

前回を読む

 コーヒーを無言で啜りながら、話に節目ができた、という気がした。
「それで、神戸西洋美術館での事件を聞きたいんやけど」
 光太がいよいよ本題、と切り出してきた。
「あれだけテレビでうるさくやってたのに、突然ぱったりと情報が途絶えたやろう? 何があったんや」
 光太は返事を求めて、ツグミとコルリを交互に見る。
 確かに、散々なくらいテレビで大騒ぎしたのに、宮川と会った直後、ぱたりと報道は途絶えてしまった。その後、事件について取り上げた報道機関はどこもなく、投げっぱなしもいいところだった。
 ツグミとコルリは顔を見合わせた。ツグミは無言で、コルリに返事をお願いして、自分はうつむいてしまった。
「今、問題になっている絵は、研究所で鑑定を受けています。ヒナ姉が帰ってくるまで、結果はわからないです。今日の夜、ヒナ姉が帰ってくることになってます。そのときに、ちゃんとした報告があると思うんだけど……」
 とコルリは説明し、ツグミに促すような目を向けた。
 ツグミは5個目の角砂糖をコーヒーの中に入れるところだった。顔を上げると、コルリと光太がツグミを注目していた。
「あれは本物です。間違いありません」
 ツグミはきっぱりと断言して、マドラーで角砂糖をコーヒーの中で砕き始めた。
 それを聞いて、光太がホッとした様子で、ソファの上でふんぞり返った。
「そうやろ。ヒナの目利きが間違うわけないやんか。失礼な奴らやわ」
 安心したせいか、声も大きくなっていた。
 それからツグミは、コルリと顔を見合わせた。無言で、どっちが話を切り出すか、譲り合った。
 結局、ツグミはうつむいてしまって、コルリに切り出すのを押し付けてしまった。
「あの、叔父さん。訊きたいことがあるんやけど、いいですか?」
 コルリは少し身を乗り出して、ちょっと言い出しにくい感じに切り出した。
「おう、何や。何でも聞き」
 光太はふんぞり返ったまま、答えた。
 コルリは一度、気遣わしげにツグミに目を向けた。ツグミは「気にしなくていい」の意味を込めて、頷いた。
「お父さんのこと、知りたいんです。8年前、父さんが連れさらわれた、あの時、何があったか知りたいんです」
 慎重に、重大さを込めて話を始めた。
 光太は「その話か」という感じで、顔を歪めた。
「そっか、あの時の事件か。ツグミは辛い思いしたからな。気になるのはわかるけど、あの事件、警察もほとんど手ぇ出さんかった事件やろ。俺の知っとおことなんて、たかが知れとるし、知りたいような話、ちゃうと思うで」
 光太は膝に両肘を置き、2人を交互に見ながら言った。どちらかといえば、ツグミを気遣っているように聞こえた。

次回を読む

目次

※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

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