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■2010/04/09 (Fri)
シリーズアニメ■
第1話 迷い猫、駆けた
「こら起きなさい巧!」
まだ夢の中にいる僕を、強引な声が呼び起こそうとする。芹沢文乃の声だ。
僕はぼんやりした調子で言い返した。
「ったく、いつもは異常に早起きなのに、どうしたのよ、今日に限って」
文乃は僕の腕を掴み、強引に体を起こした。僕は無理にでも意識を覚醒させて目を開けた。
「……青……白……
目の前にあるものの正体を確かめるように、青白の縞模様を目で追った。
「――2回死ね!」
激烈な膝蹴りが顔面に落ちた。文乃の縞パンティだった。
「もう先行くからね! 絶対待っててあげないんだから!」
ちょうどいいから説明しておくと、今の縞々の女の子、芹沢文乃は素直じゃない。とにかく徹頭徹尾素直じゃない。
「どうせ巧のことだか
というと、宿題を見せてくれる。
「絶対に食べさせてあげないだからね」
というと期待していいという意味だ。
「2回死ね、馬鹿巧!」
「巧君の馬鹿!」
というと……何だろう?
早い話が、思っているのと逆のことをいう。右といえば左。コーヒーは飲みたくないといえば本当は飲みたくて、洋食が食べたいといえば和食が牛丼。天邪鬼か狼少女か秋月雪姫か。とにかく感情的に言った言葉はいつも逆だと思ったほうがいい。
朝の支度を済ませてドアを開ける。すると側の電柱に、文乃がもたれかかっていて僕を待っていた。
ご立派な釈明だ。意訳すると、「待って
道の角から菊池家康が飛び出してきた。家康は何か文乃に言ったらしい。その成果として、顔面に一発パンチを喰らった。はいご苦労さん。
「ははは! ご名答!」
こいつ。菊池家康は舌禍が服を着て歩いているような奴だ。いつも自分の口が災いとなって不幸に遭うが、一切反省しない困った男だ。ちなみに、文乃との相性は最悪。
「おはよう」
「よう」
と現れたのは幸谷大吾郎。僕のもう一人の悪友。幸谷流柔術……とかいう、古武術道場の跡取り息子として育ったせいか、やや一挙一動が古臭い。
眠ってしまう前に説明すると、『努力』『友情』『勝利』という週刊少年ジャンプなモットーが掲げられた、ここ、私立梅ノ森学園は中高一貫教育制で、俺と文乃はここの高等部に属している。こともあろうに学
いきなりスクール水着の小さな女の子が教室にやってきた。
違う。この子のお陰ではない。
この小柄な美少女は梅ノ森千世。理事長の孫娘。学園内をまるで自分の家のように闊歩するお嬢様。でも、なんで水着?
「佐藤」
「はい」
メイドの佐藤がタオルを千世に渡す。
「はい」
ぱちんと指を鳴らす。
千世の小さな体が筒状のタオルに隠れた。メイドの鈴木がその中へ入っていく。
千世が僕を指さし、尊大に言い放った。
「は、どういうこと?」
「こういうことでしょ!」
「何で?」
「何でこうなるのよ!」
文乃が武力介入してきた。
「出たわね芹沢文乃! ちょうどいいからあんたはサヤカやりなさい」
「知らないの? この子よ!」
千世が再び雑誌を示した。
「で?」
文乃は雑誌を手にしてぶるぶる震える。危険信号だ。2歩下がった
「都築巧はカイザーであんたはサヤカやらせてあげるわ。しょうがないから、衣装は私んところで作ってあげるから。二人とも、放課後家に来るように」
「ように?」
文乃が千世に雑誌を投げつけた。これはゴングと捉えていい。
「いい加減にしなさいよチビッ子腐女子!」
「ちび?」
「思ってるわよ!」
千世が言い返す。文乃は机の上に足を乗せた。
「ふーん! 馬鹿は2回死んで中等部からやり直しなさい! あんたみたいのなのが高校生やってたら、文部省もびっくりするほどの全人類の恥だっ
「あたしは恥ずかしくないもん!」
という返し方がムキになった子供そのものだった。
「だいたいあんたがこんなの身につけたら、一歩あるくたびに服がずり落ちて胸も尻もすっぽんっぽんだっての!」
「はあ! どういうこと、それ!」
「まあまあ」
そろそろ止めたほうがいいだろう、と僕は一歩前に進み出る。
「うっさわね! 巧も聞いたでしょ? 今の命令口調! 今日と
千世は言葉を失ってひくひくと顔を青くさせていた。
とそこに、なぜかタオルがはらりと千世から落ちた。現れた裸は、紛れもない幼児そのもので――。
「いやああああぁぁぁぁーーー!」
でも悲鳴はご立派だった。
◇
アニメにおいて個性が与えられるのは女性であり、男性はしばしば影法師のようにぼんやりとした印象で描かれる。『迷い猫オーバーラン』においてはその特徴が徹底されている。
それに対して、女性キャラクターたちは自由にイメージを膨らませて描かれている。キャラクターのビジュアルイメージだけではなく、人物
物語はアニメファンを徹底して意識され、アニメファンに迎合した作りになっている。登場人物のほとんどがアニメを詳しく
物語が描く風景も、アニメファンにとってはおなじみの構図と展開を繰り返し、そこから外部世界には一切目を向けられていない。作品が新しいビジュアルイメージや物語の形態を提示することもないだろう。既視感を飛び越える驚きは期待できない。
それだけに、キャラクターは作品の中でしっかり構築されている。キャラクターの線は丸みのある柔らかな線だけで構築され、ぬくもりのある印象がある。キャラクターのシルエットはシンプルだが洗練された
キャラクターの顔へ行くほど線の密度が増えていく。瞳は象徴的に様式化され、艶やかに輝いているかどこを向いているのか不明だ。まるで視線を定めない人形と接しているような印象にさせてくれる。
この種のキャラクターは「ただ線の密度が高いだけ」という印象になり
構図の作りは見たいものを中心に引き寄せている。キャラクターの顔や、少女たちの身体、太股。その一つ一つがキャラクターたちの楽しげな魅力を的確に捉え、作品を盛り上げている。
男性キャラクターは物語に介在する付属物に過ぎないが、情緒ばかり暴走させる女性キャラクターたちの宥め役であり、物語の司会進行
愛らしい少女たちとの夢をただようような戯れの一時を過ごしたいならば、この作品だ。
迷い猫オーバーラン! 公式ホームページ
作品データ
監督:毎週交代 原作:松智洋
シリーズ構成:松智洋 メインライター:木村暢 キャラクターデザイン:中本尚
美術監督:前田実 色彩設計:鈴木寿枝 撮影監督:石黒晴嗣
編集:廣瀬清志 音響監督:明田川仁 音楽:高木隆次
監督・脚本・絵コンテ・演出:板垣伸 作画監督:石川雅一
アニメーション制作:AIC
出演:岡本信彦 伊藤かな恵 井口裕香 竹達彩奈
〇 佐藤聡美 吉野裕行 間島淳司 堀江由衣
〇 寿美菜子 佐藤利奈 新井里美 宮坂俊蔵
〇 田村陸心 金光宣明 関山美沙紀
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